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曲目 A.Dorak:交響曲第9番「新世界から」 Op.95 (作曲者自身による編曲)
    B.Smetana:モルダウ(作曲者自身による編曲)
演奏 Duo Crommelynck (Taeko Kuwata & Patrick Crommelynck
CD番号 Claves CD 50-9316

悲劇的な最後を遂げることになってしまった、この素晴らしいデュオの最末期の録音。彼らの録音の中では、最も劇的で異常なまでの“高み”にまで達した演奏です。極度の緊迫感と集中力、そしてふっと息をつかせる安息の瞬間。この異様とも言える演奏を繰り返し聴くと、感動すると同時に背筋に冷たいものが走ります。まるで、この録音から1年半後に両方の自殺というかたちでデュオとしての生涯を閉じてしまったことを暗示させるかのようです。ある意味で、連弾演奏の究極のかたちを示した録音と言えましょう。

A.Dvorakの交響曲第9番「新世界」。この耳に馴染んだ超有名曲が、1台のピヤノで演奏されることで、新たな命を吹き込まれています。作曲者自身によるこの編曲を、Duo Crommelynckは、あたかも最初から連弾曲であったかのように処理しているのです。このデュオはいくつもの「管弦楽曲の連弾版」を演奏しておりますが、どれも「元曲」を意識させない、連弾ならではの表現をしています。凡庸なデュオならば「単なる管弦楽の代用」と思わせてしまうところですが、聴き手に「元曲」を意識させないまでに「連弾曲」として作品を昇華させてしまうところが、Crommelynckの凄いところでしょう。中でもこの「新世界」は、連弾だからこそ出せる表現を徹底的に追及し、あたかも最初から連弾曲だったかのように聴かせてしまいます。

もちろん、作曲者による編曲そのものも、ピヤノで連弾することを意識して持続やアーティクレーションなどを考慮した、完全な「連弾曲」になっています。でも、これだけの有名曲となると、凡庸な演奏ですと、どうしてもフルオーケストラの響きを頭の中で蘇らせてしまいます。ところが、この演奏にはそうした側面が全くありません。あくまでも純粋なピヤノ曲として聴くことができるのです。それも、恐ろしいまでの迫力を備えた連弾曲として。

同時に収録されている、B.Smetanaの作曲者自身による「モルダウ」の連弾編曲演奏も秀逸です。

連弾愛好者はもとより、ピヤノがお好きな方で、この演奏を聴いていないとしたら、恐ろしい「損」をしているでしょう。是非ともお手元に置いていただき、繰り返してお聴き頂きたい演奏です。

CDは2001年10月8日時点で現役。「Claves」のWebサイトで発注ができます。クレジットカード番号を伝えるためにファクシミリを併用することが必須となります。サイトの注意書きを良くお読みになって発注して下さい。

一方、楽譜は「新世界」「モルダウ」ともに絶版。入手は限りなく不可能に近いです。わたしたちの手元に「新世界」の楽譜があるのが奇跡なくらいです。幸いなことにこの楽譜、わたしたちのサイトの読者の方がPDFファイル化して下さいました。そこで近日中にサイトからダウンロードできるようにいたします。「モルダウ」に関しては、申し訳ありませんが、当分の間、入手を諦めて下さい。もっとも、欧州の中古楽譜店を丹念に回れば、見つかる可能性も無きにしもあらずですが・・・。
(2001年10月8日記)

曲目 B.A.Zimmermann:モノローグ(1963/64)
               遠近法(1955/56)
               その他、ディアローグ、フォトプトシスを収録
演奏 Andreas Grau & Gotz Schumacher
CD番号 col legno WWE 1CD 20002

20世紀作曲界の「異才」、Bernd Alois Zimmermannの2台ピヤノ曲を集めた1枚です。大変に優れた演奏ですが、曲そのものの好き・嫌いで、大きく評価の分かれてしまうCDでしょう。ちなみに筆者は非常に興味深く聴けました。作品の持つ魅力を最大限に提示した演奏と言えましょう。録音も秀逸です。しかし作品の性格上、「どなたにもお勧め」というCDではありません。ポスト・ウエーベルン系の作品がお好きな方には、是非とも聴いて頂きたいCDです。作品目録によれば、Zimmermannが作曲した2台ピヤノ用作品は2曲。その2曲とも、このCDに収録されております。

そのうち1曲は、「モノローグ」。ポスト・ウエーベルン系の細かい音の流れの中に出現する突然のトーン・クラスタ。そして、それらの音群の中をぬって、まるで亡霊のように現れるJ.S.Bachの「目覚めよと呼ぶ声す」の旋律。さらにそこに、レースの掛け物のように被さるO.Messianの一節。曲のあちこちで断片的に聞こえる、L.V.Beethoven、W.A.Mozart、C.Debussyの作品群。それらが無調の音列、あるいはトーン・クラスタの中に、波間に見える幻影のように浮かんでは消えて行きます。ある種の「コラージュ音楽」とも言えますが、その魅力をGrau & Schumacherの二人が、存分に伝えてくれているのです。非常に鮮烈で彫りの深い演奏です。一つ一つの音の粒立ちが実に美しい。「2台ピヤノの演奏効果」が鮮やかに出ている演奏。とても感動的です。

もう1曲の「遠近法」は、完全にポスト・ウエーベルンの作品。音の流れは美しいのですが、作品そのものが「モノローグ」と比べて、あまり面白い物ではありません(この曲がお好きな方には申し訳ありませんが、これは筆者の感想です)。その「あまり面白くない作品」を、何とか最後までメリハリをつけて聴かせようと、かなり頑張ってる、ある意味で涙ぐましい努力が滲み出てくる演奏です。Grau & Schumacherのお二方、まことにご苦労様であります。

同時に収録されている2台のピヤノと大管弦楽のための「ディアローグ」は、大変に秀逸な演奏。折角この曲までこんな素敵な演奏で収録するのであれば、同じ作曲者による聴いて非常に楽しい名曲「ユブ王の夜会のための音楽〜2台ピヤノと管弦楽のための」も一緒に入れてくれれば、さらに良かったと感じる筆者でありました。

結局の所、このCDの「聴き所」は、「モノローグ」と「ディアローグ」です。

「モノローグ」と「遠近法」の楽譜は現役で、「Schott」から出ております。このCDも現役。「amazon.com」で入手できます。(2001年10月1日記)

曲目 W.A.Mozart:2台のピヤノのためのソナタ ニ長調 Kv.448
    F.Schubert:幻想曲〜ピヤノ連弾のための D.940(Op.103)
演奏 Guher & Suher Pekinel
CD番号 Teldec 4509-97480-2

実に鮮やかなMozartとSchubert。弾けるような躍動感を持った音色と、完璧なアンサンブル。ともれば平坦に弾かれ、退屈に聞こえてしまう曲に、新たな命を吹き込んだような演奏です。切れ味抜群。明と安、静と動が、非常にくっきりと前面に押し出している点が、何と言っても秀逸。筆者にとって、これまで持っていた両曲の印象を、完全に覆してくれた、それは素敵な1枚です。

見慣れた街並みを歩いていたら、ちょっとしたことを発見。あの家には、あんな窓はあったかしら。この庭には、こんな樹があって、お花を咲かせていたっけ。今まで何で気付かなかったのだろう・・・。・・・そんな日常の中での新たな発見。見飽きてしまった風景が、ちいさな発見により、とても新鮮に見える。この録音を聴いて、こんな印象を持ちました。

まずはMozart。非常にダイナミック・レンジの広い演奏。快活で鋭利。劇的な盛り上がりと、ふっと息を抜く瞬間の交錯。下手に擬古典的にならず、現代のグランド・ピヤノが持つ能力を最大限に引き出した、明るい推進力に溢れた演奏です。それでいて、微妙な陰影づけをしており、聴き手を最後まで飽きさせません。

第1楽章と第3楽章は、やや早めのテンポを、第2楽章はやや遅めのテンポをとっています。早めだからといって、決して粗野にはならず、遅めだからと言って“たるんだり”はしていません。微妙なバランスを保ちながら、聴き手をグイグイと曲に引き込みます。とりわけ平板になりがちな第一楽章の変化の付け方は本当に素晴らしい。第二楽章では、それは楽しい2台ピヤノの「会話」が聞こえます。終楽章のロンド。Pekinelは一気に疾走。全曲の中で明確な短調がここだけで聞こえますが、それをうまく利用して作品から「色彩」を引き出しています。疾走しながらも、がっちりとした構成力で、散々耳にしたこの曲に、見事な色づけをしているのです。

SchubertもMozartと同様。さらにMozart以上に明暗の差をくっきりつけた演奏です。広いダイナミック・レンジ。流れるような音の連続。約20分が非常に短く感じられます。特に終楽章における対位法の処理は秀逸。全体として、やや遅めのテンポを取っていますが、それがかえって作品の“深堀り”をしている結果となっています。音色は一定に保ちながら、ほんのちょっとした表情の変化で、表現に大きな抑揚を付けているのです。それがとってもチャーミング。これもMozartと同様、現代のコンサート・グランドの能力を最大限に生かした演奏になっています。キラキラ輝く音像は、時折聴く者をぞっとさせるくらいです。とにかく、どこまでも澄み切った音色、そして躍動感。聴き手を最後まで飽きさせません。

このCD、2001年9月23日現在で現役。「amazon.de」で入手可能です。楽譜に関しては方々で出版しているので、あえて言及いたしません。(2001年9月24日記)

CDタイトル:New Music for Two Pianos
曲目:(1)W.Bolcom:Recuerdos(想い出)
    (2)J.Corigliano:Chiarascuro(明暗)
    (3)M.Gould:Two Pianos(2台のピヤノ)
    (4)N.Rorem:6 Variations for 2 Pianos(2台ピヤノのための6つの変奏曲)
    (5)P.Schoenfield:Taschyag
演奏: (1)Maxim & Irina Jeleznov
    (2)Duo Turgeon
    (3)Dominique Morel & Douglas Nemish
    (4)Mark Clinton & Nicole Narboni
    (5)Irina & Julia Elkina
CD番号: Vanguard Classics USA : SVC-106 HD

米国現代作曲界の“大御所”たちが作曲した2台ピヤノ曲をまとめて聴くことができる興味深いCD。いずれも「ゲンダイオンガク」に違いありませんが、どの曲も非常に楽しく聴くことができます。いずれもピヤニスティックでかつ、2台ピヤノという演奏形態の特徴を充分に生かした曲たちです。特にBolcomの「Recuerdos」などは、これが現代音楽かと思わせるような楽しさに満ちあふれております。何故か知りませんが、現代音楽は聴衆から「聴かず嫌い」の扱いを受けることも多いのが現状です。どうかこれをお読みの皆さん、このCDをお聴きになって「聴かず嫌い」を払拭して下さいませ。

演奏者は、全員、マレイ・ドラノフ国際ピヤノ・デュオコンクール(The Marray Dranoff International Two Piano Competition)の優勝者たち。このCDに収められているのは1991年から1997年までに優勝したうちの5組です(注:コンクールの実況録音ではなく、優勝後のスタジオ録音です)。どの演奏も安定している上とても生き生きしていて、そして非常に優秀。録音も非常に鮮明で、演奏者の息づかいや楽譜をめくる音まで、生々しく収録されております。ピヤノの響きがとても美しく採れていることは言うまでもありません。

なお、Coriglianoの「Chiarascuro」のみは、片方のピヤノのピッチを4分の1音低く調律しています。両ピヤノの音の微妙なズレが、非常に面白く響きます。この作品に関する詳細は「こちら」をご覧下さい。ちなみにこの曲を日本初演した際には、ピッチの違うピヤノを用意できず、非常に残念なことながら2台とも同一ピッチのピヤノを使いました。

Schoenfieldの「Taschyag」に関しては、タイトルの意味がついに分かりませんでした。どなたかお分かりの方がいらしたら、ご教授下さい。

さて、これらの楽譜ですが、出版が確認できたのは、Bolcomの「Recuerdos」がHal Leonardから、Corigliano「Chiarascuro」とGould「Two Pianos」が、いずれもG.Schirmerから、Roremの「6 Variations」がBoosey and Hawkesから・・・ということでした。Schoenfieldの作品に関しては、出版元すら分かりませんでした。これも、ご存じの方がいらっしゃいましたら、是非お教え下さい。
このCD、2001年9月16日現在で現役。「amazon.com」で入手できます。(2001年9月16日記。9月17日追記)

CDタイトル:Piano Music for Four Hands, Vol III
曲目:F.Schubert:
          ソナタ ハ長調 D.812 「大ソナタ(グラン・デュオ)
          大葬送行進曲 D.859
          英雄的大行進曲 D.885
          自作主題による変奏曲 変イ長調 D.813
          ソナタ 変ロ長調 D.617
          3つの軍隊行進曲 D.733
          2つの性格的行進曲 D.886 (D.968b)
演奏: Yaara Tal & Andreas Groethuysen
CD番号: SONY : S2K 68240

いま、我々が最も注目している常設デュオの1組による、素晴らしくスマートなSchubert。ちょっと大げさに言えば、従来からあるSchubertの連弾曲像をひっくり返すくらいの衝撃を与えてくれる演奏です。Schubert連弾曲特有の「アンサンブルの愉悦」を保持しながらも、それだけにとらわれることなく、スピード感と敏捷な反応、そして一つ一つの音が輝き、かつ流れるような要素を全て包含しているのです。どの演奏も、まるで雪解け水が谷川で勢い良く流れるような清冽さと、そこに陽光の反射が弾けるような輝きを備えております。それでいながら作品の持つ深淵を、鋭くえぐり出している点も、この演奏が大変に高く評価できる点でしょう。こうした演奏が「従来型Schubert好き」に受け入れられるかどうかは疑問です。これを聴いて反発する向きも当然にあるでしょう。しかし筆者にとって、ようやく理想的なSchubertを聴くことができた、というのが実感です。

このディスクには、比較的有名な7曲の連弾曲が収録されております。どの演奏も大変に感動的なのですが、とりわけ素晴らしいのは、「ソナタ 変ロ長調 D.617」。1818年の作品です。大変な名曲であるにも関わらず、“兄弟分”の「大ソナタ ハ長調 D.812」(1842年)に比べると、圧倒的に録音数と演奏回数が少ない、不運な曲です。その不運な曲を、「何故、みなさん、この曲をもっと弾いてくれないの」というメッセージを込めたような熱演です。

プリモの独奏による3小節の出だし。この煌めくようなパッセージを聴くだけで、この演奏に一気に引き込まれてしまいます。適度な緊張感を保ちながら、要所要所で、一瞬聴き手を緊張感から解放。そこで生じる、心が宙に浮くような、ふわっとした感覚。そして再び緊張ある楽曲展開へと引きずり込む・・・。一見(一聴)すると流れるように弾き進められている楽曲が、神経を集中して聴くと、1音1音説得力を持って、曲の持つ深部を鋭敏に露出させているのです。しかも、決して神経質にならずに。最後にたどり着くのは“安堵感”。聴く者を幸せにさせるSchubertです。

変ロ長調ソナタに関しては以上の通りですが、このディスクに収録された各曲とも、ほぼ同様の表現方法を持って、Schubertの連弾像に新たな光を当てております。普段、演奏会などで聴いて、特有の“ダラダラ感”で途中から飽きてしまうような「ハ長調ソナタ」ですら、一気に楽しく聴くことができます。耳になじみすぎてしまった感のある「軍隊行進曲」ですら、新鮮な驚きを持って聴かせてくれます。何はともあれ、Schubertの連弾演奏として、注目すべき1枚であることは、間違いありません。

このディスクは2枚組。このデュオによるSchubert連弾曲全曲演奏の第3巻目になります。現在まで、2枚組のディスクが7巻、計14枚まで出ております。他のディスクも聴いてみたいのですが、予算が・・・。でも、これまでのこのデュオの演奏から推測すると、きっと素敵な演奏に違いありません。

ちなみに筆者らは、このデュオの演奏をライヴで聴いたことがあります。それはこれまでいくつものCDで聴かせてくれた演奏を、さらに上回る素晴らしい出来でした。ライヴを聴いて、このデュオの実力は本物、CD以上である、と実感した次第です。次回来日した際は、これをお読みの皆様も、是非とも聴きに行って頂きたいデュオであります。

なお、このCDを含め、Yaara Tal & Andreas Groethuysenの「Schubert : Piano Music for Four Hands」は、2001年9月9日現在で7巻全部が現役。インターネットですと「amazon.de」で入手可能です。

楽譜に関しては、あちこちの出版社から出されており、どれも比較的容易に入手可能なので、こちらではあえて言及いたしません。(2001年9月9日記)

曲目:I.Stravinsky:
          「春の祭典」(1947年版) ピヤノ4手のための
          「ペトルーシュカ」(1947年版) ピヤノ4手のための
演奏: Cristioan Ivaldi & Noel Lee
CD番号: Arion ARN 68041

もう25年以上前、「春の祭典」(2台版)の録音が---このCDではありませんが---出たとき、「レコード芸術」その他音楽雑誌に寄せられた批評家たちのコメントは、今思い出しても頭に来るものばかりでした。演奏云々ではなく、2台用編曲そのもの、そしてそれを録音した行為に対して「キワモノ」「無価値」「管弦楽の代用以下」・・・と、それは酷い批評ばかりが並んでおりました。それらの雑誌類を処分してしまったので、どなたがこうした批評をお書きになったのか失念しましたが、それは酷い代物でした。どうやら批評家センセイ方は、この手の「編曲物」を軽視していらっしゃったのでしょうね。この曲の素晴らしい録音が幾つも出ている現在、同じ事を書いたら、きっと物笑いの種でしょう。今回取り上げたCristioan IvaldiとNoel Leeによる演奏も、ピヤノ・デュオによる「春の祭典」と「ペトルーシュカ」が、いかに素晴らしいピヤノ曲であるかを思い知らされる名演です。

このCDに収録された演奏は、2曲とも、非常にスマートかつ鋭い感覚を備えております。そしてとてもピヤニスティック。管弦楽版を熟知した耳にも、それとはまったく別の存在の、秀逸な「2台ピヤノ曲」として響くことでしょう。アンサンブルも実に緻密で、この「デュオ版:春の祭典+ペトルーシュカ」の魅力を、余すところなく聴き手に伝えます。曲と編曲の詳細に関しては「こちら」をご参照下さい。

両曲とも、2つの版が存在します。「春の祭典」では1914年にEdition russe de musiqueから出版された1913年版(原典版)と、1947年版をベースにしたBoosey & Hawkesから出ている楽譜。「ペトルーシュカ」は1911年版(原典版)ベースのEdition russe de musique刊と、1947年版ベースのBoosey & Hawkes刊。いずれの曲も、原典版ベースの編曲と1947年版ベースの編曲では音の「作り方」や両奏者間での音の配分が、いささか異なっております。このCDの演奏は、いずれも1947年版ベースの楽譜を使用しております。

両曲の両編曲とも、一応、1台のピヤノで連弾できるようには書かれております。しかし、両奏者の手の接近や交差が並大抵ではないため、2台のピヤノで演奏することが慣例となっております。連弾研究者の松永晴紀先生も「2台のピヤノで演奏するのが理想的」とご指摘していらっしゃいます。このCDの演奏も2台です。ちなみに「ペトルーシュカ」では、連弾譜に予備的に記載された若干の打楽器を伴っての演奏となっておりました。何はともあれ、聴いて損はない名演です。この演奏の他に「春の祭典」に関しては、もう1つの名演があるのですが、それは別の機会にご紹介することと致しましょう。

このCDで使われてる楽譜は、Boosey & Hawkesから出ていて、容易に入手可能。同社のオンラインショップでも販売しております。なおCDの解説には、「春の祭典」の使用楽譜に関して「Belwin Mills刊」としてありますが、これはBoosey & Hawkes版と(恐らく)同一のものです。

ちなみに、このCDは2001年9月2日時点で現役。「amazon.fr」で入手可能です。
(2001年9月2日記)

CDタイトル: Alkan : Etude, Fantaisies, Preludes, Marches
曲目:C.V.Alkan:3つの行進曲 作品40 (ピヤノ連弾のための)
           他に「3つの小さな幻想曲 作品41」など独奏曲を収録
演奏: Huseyin Sermet & Jean-Claude Penneier
CD番号: Valois V-4808

超絶技巧系のピヤノ曲を数多く残したAlkanの連弾曲を収めた1枚です。独奏曲こそたくさんありますが、Alkanの連弾曲はここに収録された「3つの行進曲」のほかは、2〜3曲が知られている程度。それだけにヴィルトゥオーゾ・ピヤニストだったAlkanが、「連弾」という演奏形態をどのように捉えていたかを伺い知る上で、貴重な録音です。「3つの行進曲」は幸いにして複数種の録音が出ております。その全部を比較したわけではありませんが、わたくしたちの手元にあるHuseyin SermetとJean-Claude Penneierの演奏が、この曲の魅力を十分に伝えてるものと判断し、取り上げた次第です。

この演奏から聴かれるAlkanの作品は、重厚さと、どこかちょっとひねくれた軽妙さを感じさせる、とても楽しい連弾曲です。3曲で性格が違っていて、なかなか愉快な作品です。この演奏からは、いわゆる超絶技巧性はあまり感じられませんが、実際に弾いてみるとかなり難しい。特に第2番は、連弾曲として最も難しい部類に入るのではないでしょうか。また第3曲ではプリモ/セコンダの接近に加え、プリモ自身の手が交差する箇所もあり、なかなか厄介な代物です。こうした作品を、いかにも楽々と弾いて、「ほら、楽しいよ」と聴かせているのが、この演奏の特徴でしょう。なかなか聴き応えのある演奏ですよ。

一般にはちょっと取っつきにくい感のあるAlkanですが、この演奏を聴いて認識を新たにされる方も、きっといらっしゃることでしょう。そしてAlkanが独奏曲ばかりでなく、連弾の特性を生かした名作を残していることを、改めて知ることができます。もっともっと知られて、もっともっと弾かれても良い曲でしょう。逆に言えば、あまり広くは知られていないだけに、演奏会や発表会の「隠し球」として活用できるかも知れません。

楽譜はいずれも現役です。出版は仏Gerard Billaudot。第1曲〜第3曲が、各曲別売の楽譜となっております。ちなみに「4分休符」が「変な格好」をしているので、見たところ奇異に感じる箇所があります。なお、このCDも2001年8月26日現在で現役。「amazon.com」あるいは「amazon.fr」で入手可能です。(2001年8月26日記)

CDタイトル: Max Reger : Works for two pianos
曲目:M.Reger
   ベートーヴェンの主題による変奏曲とフーガ 作品86
   序奏、パッサカリアとフーガ 作品96
   モーツアルトの主題による変奏曲とフーガ 作品132a
演奏: Evelinde Trenkner & Sontraud Speidel
CD番号: Musikproduktion Dabringhaus und Grimm MDG 330 0756-2

非常な名曲であっても、なかなか演奏/録音されなかったり、録音があったとしてもろくでもない出来だったりする「不幸な曲」は、世の中にたくさんあります。ことピヤノ・デュオとなると、そうした傾向が多分にあります。今回取り上げたRegerの2台ピヤノ曲も、そうした曲の仲間です。充実した名曲であり、楽譜も容易に入手できるというのに、耳に聴こえてくるのは、邪悪系の演奏ばかり。2年ほど前にようやく出会った「曲の魅力を過不足なく上手に伝えている」のが、このCDです。

聴き手としてはやや不満な面もありますが、これだけ立派な演奏であれば、同じ曲の録音が少ない中で、満足しなければならないのかも知れません。ちなみに実演では、2001年6月1日、東京にて中井恒仁氏&武田美和子氏の組み合わせが、「ベートーヴェンの主題による変奏曲とフーガ」を、このCDを凌ぐ鮮やかな演奏で聴かせてくれました。

このCD演奏、個々のパートの表現力が素晴らしいことに加えて、アンサンブルも抜群です。楽譜の細部まで見通せるような緻密な演奏にも関わらず、決して流動性を失っておりません。Regerの複雑な対位法が、がっちりとした構築性を保ちながらも、曲全体は清冽なせせらぎのように鮮やかに流れます。これらの難曲で「構築性」と「流動性」の両面を兼ね備えているのは、非常に立派で評価できる点でしょう。最初に「聴き手としては、やや不満」としたのは、(弾けもしないくせに)「自分だったら、もっとこうしたい」という、作品解釈上の不満です。

ここで取り上げた3曲、いずれも譜面(ふづら)を見ると、いかにもRegerらしい「ぬらぬらした」楽譜です。楽譜を見ただけで、一歩退いてしまう方もいらっしゃることでしょう。アンサンブルとしても難しく、曲全体を綺麗に纏めることが至難なことも事実です。しかし、この演奏を聴いたなら「自分たちでも弾いてみようかしら」と思われるデュオが、きっといらっしゃるでしょう。それだけRegerが身近に感じられる、素敵な演奏です。「Regerで素敵なのは管弦楽曲だけではないのだな」と、気付かされることでしょう。

ただし個人的には、さすがにこの3曲を連続して聴くと少々草臥れます。これだけ流麗な演奏でも、曲に没頭してしまうと聴いた後に疲労感を覚えてしまいます。楽譜を参照しながらアルコールを摂取しつつ聴きますと、聴いているうちは、まったくアルコールに酔いません。しかし聴き終わった後、酔いがどっと襲って参ります。飲酒なさりながらこのCDを聴かれる方は、どうぞご注意下さい。加えて言えば、余程のReger崇拝者でない限り、聴いて「癒し」にはなりません。これらは演奏ではなく、曲そのものの問題ですが・・・。

ちなみに楽譜は3曲とも現役。「ベートーヴェンの主題による変奏曲とフーガ」と「序奏、パッサカリアとフーガ」はBote & Bockから、「モーツアルトの主題による変奏曲とフーガ」はPetersから、それぞれ出ております。

なお、ここで演奏しているEvelinde TrenknerとSontraud Speidelという方は、J.S.Bach作曲=M.Reger編曲の「ブランデンブルク協奏曲」(連弾版)や、A.Bruckner作曲=G.Mahler編曲の「交響曲第3番」(連弾版)など、かなり「凝った」曲目ばかりを録音している女性デュオです。

このCD、2001年8月19日現在で現役。「amazon.de」で入手できます。(2001年8月19日記)

CDタイトル: Gyorgy Ligetu Edition 6 , Keyboard Works
曲目:G.Ligeti
   4手連弾のための5つの小品
   記念碑・自画像・運動---2台のピヤノのための3つの小品
    その他、鍵盤用作品を収録
演奏: Iaina Kataeva & Rierre-Laurent Aimard
CD番号: SONY SK 62307

Ligetiの鍵盤作品を一挙にまとめた1枚。いずれの演奏も実に鮮やかです。作品の本質を徹底的に掘り下げた上で、“聴いて楽しい”演奏に仕上げております。ここには2つのピヤノ・デュオ用作品---厳密に言うと、連弾5曲、2台用1曲になるのですが---が収録されております。そのうち連弾5曲は、世界初録音。2台用作品にしても、録音は多くありません。こうした普段、なかなか触れることの出来ない作品が、目の覚めるような演奏で聴くことができるのは、とても幸せなことです。作曲者も、作品も、きっと喜んでいることでしょう。ちなみにLigetiは1923年生まれの「現代」の人ですが、音楽は少しも難解ではありません。非常にピヤニスティックで素敵です。

「4手連弾のための5つの小品」は、Ligeti初期の作品。いずれも調性を持ち、親しみやすい曲ばかり。このCDも楽譜も「5つの小品」となっていますが、一塊りの楽曲として成立しているわけではありません。独立した5曲で構成しています。楽曲の詳細は「こちら」をご参照下さい。これらの魅惑的な作品を、思わず自分たちでも弾きたくなってしまいそうな気持ちにさせるのが、このCDの演奏です。「連弾の楽しさ」を存分に味わうことができます。楽譜は「Funf Stucke」のタイトルでSchottから出ており、容易に入手可能です。

もう1曲は、「記念碑・自画像・運動---2台のピヤノのための3つの小品」。以前、この曲の楽譜を入手したとき、ちょっとでいいから弾いてみようと譜読みを始めたのですが、完全に“万歳”しました。手書きスコアをそのまま出版しているので読みにくいったらありません。手書き楽譜のファクシミリ出版譜は、大抵が読みにくいものですが、この楽譜に関して言えば、読んでいて気が滅入ってきました。本当に草臥れます。このCD、そんな楽譜から、これほど素晴らしい音楽が沸き上がるのか・・・と思わず感動させられる演奏です。非常に精緻でありながら、決して冷たくならず、2台ピヤノ演奏の面白さを聴き手に対して強烈に訴えかけてきます。楽譜を見ながら聴いていると、よくぞここまで素敵な曲としてまとめているな、と唖然とする程の出来映えです。ある程度の演奏能力と合奏力があれば、一応弾きこなすことはできるでしょう。しかし、これ程までに聴き手を感動させる演奏を聴かせてくれるケースは稀ですね。この曲、本当に良い演奏者の手にかかったものです。ちなみにこの曲は、Aloys & Alfons Kontarskyのために書かれております。Kontarskyの演奏でも是非聴いてみたい曲であります。楽譜はSchottから出ており、容易に入手可能。ただし読譜には、相当の根気がいることを申し添えておきます。

このCD、2001年8月12日現在で現役。「amazon.com」で簡単に入手できます。
(2001年8月12日記)

曲目:J.S.Bach=M.Reger編曲
   管弦楽組曲 第1番〜第4番 BWV1066〜1089 (連弾版)
演奏: Hector Moreno & Noberto Capelli
CD番号: FRAME FR9932-2

実に爽快なBachです。あの管弦楽組曲がピヤノで、これほどまでに爽やかで、かつ表現力豊かに演奏されていることに、まず驚かされます。この連弾譜をご覧になったことのない方には、新鮮な驚きをもって迎えられることでしょう。そして、この楽譜を1度でも詳細にご覧になった方には、「よくも、まあ、あんな複雑な連弾譜を、ここまで爽快に演奏できるものだ」と、唸らさせられることでしょう。そう、あの「恐怖の“ブランデンブルク協奏曲”」程ではありませんが、このRegerによる管弦楽組曲の連弾編曲は、相手との接近・交差だけでなく、「自分で自分の手をひっぱたく」ような、恐ろしい編曲であるからです。その「恐怖の編曲」を、イタリヤ出身のデュオが、とても楽しく爽やかに纏めているのがこのCDです。

キレの良い演奏は、聴き手を飽きさせません。それでいて、作品、そして編曲の真意を、相当に深く掘り下げている名演です。この演奏では繰り返しの箇所を、極力省いて---もちろん楽曲構成上不可欠な繰り返しは加えておりますが---おり、聴き手を最後までグイグイと引き付けようという工夫に溢れております。そして、あたかもこの曲が最初から連弾曲であったかのように聴かせてしまいます。編曲そのものに関しては「こちら」をご参照下さい。この演奏からは考えられないような難曲です。もちろんある程度の腕があれば弾くことは可能でしょう。しかしこの演奏のように流麗にやろうとすると、かなり困難なものがあります。それだけに、一聴の価値があるCDと言えましょう。

ちなみにこの編曲、Bachの原曲を完全に連弾により1台のピヤノにより表現しようとしております。結果、楽曲の構造が手に取るように分かる点が秀逸です。そしてその編曲を流れるように弾いているこの演奏を聴くと、楽曲の構造が目に見えるように聞こえてきます。

この連弾用編曲の楽譜は現役。PetersとKalmus=Warner Bros.から出ております。両者の楽譜は同一です。これらは簡単に入手できます。わたくしたちの手元にあるのは、International Music版ですが、これも前2者と同一です。International版が現役かどうかは不明。

このCD、2001年8月5日時点で現役。「amazon.com」で容易に入手できます。また日本では「キングインターナショナル」が直輸入版を出しているので、日本国内のショップでも容易に入手可能です。(2001年8月5日記)

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(c) Yumiko & Kazumi 2001