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曲目 A.Dvorak: セレナーデ Op.22(作曲者自編の連弾版)
           セレナーデ Op.44(作曲者自編の連弾版)
   P.I.Tchaikovsky: セレナーデ Op.48(作曲者自編の連弾版)
演奏 Prague Piano Duo
CD番号 Praga Digital s 250 217


弦楽だけの曲をピヤノで演奏したらどうなるか? 弦は理論上無限に音は延ばせるし、一度出した音の強弱を連続して変えることができます。ちょっと乱暴な見方だけれど、数学的にみれば、連続系の楽器ですね。

一方のピヤノはどうでしょう。一度出した音は減衰するだけ。強弱を変えることはできません。特殊な奏法を使えば音色に変化をつけることはできるでしょうけれど。それでも一度出した音は減衰するだけです。弦楽器などに対してみると、ある意味で離散系の楽器と言っても良いかも知れません。

誤解のないように言えば、ここで言う「連続系」や「離散系」は、「一度出した音」に着目しての観点です。

さて、「弦楽のためのセレナーデ」といえば、さまざまな曲がありますが、もっとも有名なのはP.I.TchaikovskyとA.Dvorakのそれではないでしょうか。それを弦楽ならぬ連弾でやってしまったCDが登場しました。さまざまな「編曲物」を手掛けて成果を上げている、「Prague Piano Duo」の演奏です。

そう、連続系の楽器のために書かれた曲を、離散系楽器で演奏しているのです。

このデュオのことなので…と期待を込めて聴いたのですが、ズバリ、この曲に新しい生命を吹き込んだ、それは素敵な演奏でした。

聴いていて、違和感が全然ないのです。最初から連弾曲であったかのようにきこえて。もちろん原曲は何度も耳にしています。でもそれを連弾で聴いたら、こんなに新鮮に聞こえるなんて! 正直言って驚きました。

Tchaikovskyは楽譜も参照してみたのですが、凝ったことは何もやっていません。原曲のパートを適切に振り分け、さらに連弾なりに効果の上がる編曲をしています。その結果、原曲の構造が極めて適切に把握できるだけでなく、連弾曲としても大変に高度なものになっています。これは面白いですよ。Dvorakは楽譜が入手できなかったので、耳で判断した限りですが、これもTchaikovskyとまったく同じ傾向。連弾版が、これほど楽しく効果的で、美しく響くとは思いませんでした。

もちろん原曲は連続系用、編曲は離散系用なので、全然違ったイメージがあります。あえて表現すれば、連弾版の方が、煌びやかでかっちりした演奏に聞こえます。その分、原曲の持つ「柔らかなふくよかさ」はないかも知れません。それでも、この連弾演奏は、いつも耳にする名曲の、また違った姿を示している点で、大変に評価できます。これを聴いたら、「わたしたちもやってみたい」と思われる方、きっと大勢いらっしゃると思います。

編曲も選曲も良いけれど、やはりPrague Piano Duoの表現は素晴らしいでしょう。編曲が良くても、ここまで素晴らしいものとして聴かせるには、相応のテクニックと表現力が必要です。その意味で、大変に貴重な録音と言えましょう。Prague Piano Duoには、またもこちらで拍手です。

Dvorakの曲は絶版で、ほとんど入手不可能ですが、Tchaikovskyなら現役で容易に楽譜の入手が可能です。是非、大勢の方にこの演奏を聴いていただき、そして、この曲を演奏していただきたいものですね。

楽譜ですが、TchaikovskyはKalmusから出ていて現役。ずばり「これ」です。Dvorakは残念ながら全然見当たりません。このCDも2005年6月4日時点で現役。オンラインですと「amazon.de」で購入できます。ずばり「これ」。ちなみに松永晴紀先生がこのCDの日本語解説を執筆なさっていらしたので、国内盤も近々出るかも知れません。

いずれにしても、絶対聴いておいて損はないCDです。
(2005年7月4日記)



曲目 W.A.Mozart: 連弾のためのソナタ 変ロ長調 Kv.358
             アンダンテと変奏 Kv.501
             連弾のためのソナタ ヘ長調 Kv.497
             フーガ ト短調 Kv.401
             幻想曲 ヘ短調 Kv.608
演奏 Yaara Tal & Andreas Groethuysen
CD番号 Sony SK93868

新時代のMozartです。

数々の名演を記録してきた「Tal & Groethuysen」が、新たなプロジェクトを始めました。正確な情報はつかんでおりませんが、どうやらMozartのピヤノ・デュオを、すべて録音する模様。このCDは、その第1弾です。

Tal & Groethuysenは、これまでのすべての録音で、連弾演奏の新しい姿を提示してきました。この姿勢は、このMozartでも変わりません。斬新で、スピード感があって、切れの良いMozart。現代のグランドピヤノで表現できる限界を突いたMozartです。

例によって、音色はやや硬めで輝かしく、そしてしっかりした芯のあるMozart。もちろんアンサンブルは完璧です。表現はごく自然なのですが、その中に劇的な何かを感じさせます。

評者は古いPeters版の楽譜を参照しながら聴いたのですが、楽譜にはない装飾音が続出。リピートがあれば、最初にはなかった装飾音やダイナミクスの変化が。演奏を面白くしようと思ったら、ちょっと考えれば誰にでもある程度までできること。でもTal & Groethuysen、そんな単純な“お芝居”などしません。繰り返して聴けば聴くほどに、計算し尽くされたMozartの表現美が伝わってきます。

リピートも適宜省略し、表現上で必要最小限に抑え、冗長的になることを避けています。こうした演奏者の緻密な工夫が功を奏して、実に鮮やかなMozartが形成されているのです。

初めて聴くと、ドキリとする面はあるのですが、繰り返して聴くと、「うん、やっぱり、こうでなければいけないね」と、納得するところが数多くあります。

とりわけ、Kv.497の第1楽章は、恐ろしくドラマティックで素晴らしい! これは聴く者には感動を与えるでしょうし、弾く人にとっては、「何とかこれを超える演奏をやってみたい」という、競争心を煽る演奏でしょう。Kv.501の「アンダンテと変奏」にも同じことが言えます。このKv.501、現在ではArgerich & Rabinovitchと並びうる、壮絶な演奏と言えましょう。

何はともあれ、Tal & Groethuysenは、斬新なMozart像を築きつつあることには間違いありません。この演奏が、今後の演奏にとって、ひとつの規範となることでしょう。

もっとも、そこまで難しく考えなくてもいいのです。ただ聴くだけでも、本当に素晴らしい演奏ですよ。

このCDに収録されている楽譜は、あちこちから出ているので省略。CDも2005年6月20日時点で現役。amazon.deで入手できます。ずばり「これ」です。(2005年6月20日記)

曲目 F.Busoni:対位法的幻想曲
           バッハのコラール“幸なるかな”による即興曲
           “愛しのアウグスティン”によるフーガ
           2つのフィンランド民謡
    W.A.Mozart:自動オルガンのための幻想曲 Kv.608(Busoni編曲)
演奏 Joseph Banowetz & Ronald Stevenson
CD番号 Altarus AIR-CD-9044

シャープでダイナミックな中にも、濃厚なロマン性を秘めたBusoniの演奏。収録されたすべての曲で、複雑な対位法がとても見事に処理されていて、それを聴くだけでも面白いです。2人とも初めて聴くピヤニストですが、音色がとても明るくてクリア。だからこそ、複雑にからみついた声部が明瞭に出ているのかも知れません。Busoniというと、評者自身、どうしても取っつきにくい印象があるのですが、この演奏はそうした考えを改めるのに十分でした。

冒頭に収録されている「対位法的幻想曲」。これまでは、恐ろしい曲、という印象だったのですが、この演奏は表情の変化に富んでいて、とても楽しく聴くことができました。元々この曲はバロック的、ロマン派的、そして近代といったさまざまな側面を持っているのですが、そうした曲想を鮮やかなコントラスト付けで提示しているのです。この曲作りは実に見事ですね。30分を超す大曲を、何の抵抗もなくすんなり受け入れることができました。しかも曲の構造がしっかり見えるような演奏なので、非常に面白い。こうした演奏でしたら、ライヴで聴いても素敵でしょう。2台ピアノの掛け合いも見事で、この編成でなければ表現できない効果を、とてもよく発揮しています。

同じく“重厚長大”系の「バッハのコラール“幸なるかな”による即興曲」も、目の覚めるような演奏。これも一気に聴き通せました。メリハリのついた演奏で、音色もクリアな点が、この複雑な曲をとても分かりやすくしているのです。これを聴かれたら、「2台ピヤノの演奏会で、プログラムに混ぜてみようかな」と思われる方もいらっしゃることでしょう。主題は曲の真ん中くらいに現れますが、その部分、ゾッとするほど美しい。そしてラストの清純さは、言葉で言い表すのが難しいくらいです。この演奏も2台ピヤノの良さが、とてもよく出ています。この曲、こんなに素敵だったかしら?

ほか2曲のオリジナルは連弾。「“愛しのアウグスティン”によるフーガ」、可愛い主題が巨大に膨張する過程が、それは見事に描かれています。「2つのフィンランド民謡」は、この曲の持つ叙情性を極限まで追求した演奏。良い意味での模範と言えましょう。

1曲だけ編曲物が。W.A.Mozartの「自動オルガンのための幻想曲 Kv.608」をBusoniが2台ピヤノに編曲した版。この演奏、大変にスケールが大きくて、激烈です。曲本来が備える悲劇性をBusoniが拡張し、この演奏はさらにそれを強調しています。まるでF.Lisztの曲のようにMozartを弾いて。大変な名曲・名編曲ですが、なかなか演奏される機会はありません。是非とも、このCDのような目の覚める演奏をライヴで聴きたいものです。

このCD、Busoniファンはもちろん、「Busoniなんて難しそうで聴いたり弾いたりしなかったよ」とおっしゃる方々に、是非とも聴いて頂きたい演奏です。

楽譜は全て現役。「フィンランド民謡」のみC.F.Petersから、その他はBreitkopf & Haertelから出ています。CDも立派に現役。オンラインですと「amazon.com」で入手できます。ずばり「これ」。

Buzoni、おっかなくないですよ。(2005年5月1日記)

曲目 P.A.Grainger: カントリー・ガーデンズ(2台版)
             “ポーギーとベス”による幻想曲(2台オリジナル)
             シェパーズ・ヘイ(2台版)
             渚のモーリー(2台版)
             スプーン・リヴァー(2台版)
             緑の草原で楽しく踊ろう(連弾)
             イングリッシュ・ワルツ(2台版)
   G.Gershwin: キューバ序曲(連弾・作曲者自編)
           抱きしめたくなる、あなた(連弾・Grainger編曲)
演奏 Richard & John Contiguglia
CD番号 Gemini CD Classics CG102

“大人の魅力”に溢れたGraingerとGershwinです。演奏は往年の名手・Richard & John Contiguglia。しっとりとした叙情性を備えながらも、切れの良いテクニックで非常に新鮮な演奏を聴かせてくれます。Graingerの演奏としては、良い意味での「規範」になるでしょう。「規範」といっても教科書的な堅苦しい演奏、ということではありません。作品の魅力を極限までに出し切って提示したと言う意味で。もちろんアンサンブルは抜群です。

収録してあるどの演奏も優れたものですが、ここで聴くべきは、やはりこのデュオにとって2回目の録音となる「“ポーギーとベス”による幻想曲」です。アレンジメントとトランスクリプションの極地にあるようなこの曲を、実にスケールの大きな演奏で聴き手の耳に届けます。この曲、ともすればGershwinの名旋律のメドレーのように弾かれてしまうこともあります。実際そうした演奏は多いのですが、Contigugliaはそうしたアプローチとは無縁。全体の構成を綿密に分析し、ガッチリと再構築しています。その結果、演奏にメリハリがつき、聴かせどころを非常に的確に押さえた結果となっているのです。

ところどころで楽譜を改変して演奏していますが、これが上品なユーモアになっている点が素晴らしい! 耳に馴染んだ曲を聴いていて、思わず「はっ」っとさせられるのです。Labequeによる同じ曲の演奏も改変を含んでいますが(含んでいるというより、改変だらけ。ある意味、破壊的です)、Contigugliaの場合はそれほど極端ではありません。時折「あれ? ここは確か・・・」と思わせる程度です。それでもとても新鮮に感じるのです。40年以上にわたってデュオを組んできたベテランが、ちょっとしたいたずらを仕掛けたような感じ。それがとても素敵に聞こえます。

誤解のないように言えば、Labequeの演奏は、これはこれで大変高度な表現であるし、作品に新しい生命を吹き込んだという意味で重要な演奏だと、評者は考えています。それにLabequeの演奏、とても好きですよ。

ともかくContiguglia、この曲の演奏に新たな名演を加えたと言えましょう。これは聴いておいて損はありません。

その他の曲も、秀演のオンパレード。Graingerのピアノ・デュオが、これほどまでに優れた存在であるのか、と気付かされる方も多いのではないでしょうか?

CDの最後にGershwinの歌曲「抱きしめたくなる、あなた(Embraceable you)」をGraingerが連弾に編曲した佳品が。この演奏の本当にお洒落なこと!編曲も素晴らしいのですが、それをさらに上回る素敵な演奏になっています。これは絶品。

なお、このCDには大変に珍しい録音が。Contigugliaは、ずっとデュオで活動してきました。ソロの録音はありません。ところがここで、RichardとJohnが、それぞれ1曲づつ、Gershwinの歌曲をGraingerがピヤノ・ソロに編曲した作品を演奏しているのです。ごれがまた魅力的でした。

楽譜ですが、デュオに関してはすべて現役。「ポーギーとベス」はChappell=Warner Bros.から、「キューバ序曲」はWarner Bors.から、「抱きしめたくなる、あなた」はBardicから、「緑の草原で楽しく踊ろう」はFaberから、その他の2台曲はすべてSchottから出ています。ソロに関しては、済みませんが調べがつきませんでした。後日ご報告です。

このCDも2005年4月11日時点で現役。オンラインでは「amazon.com」で入手できます。ずばり「これ」です。(2005年4月11日記)


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(c) Yumiko & Kazumi 2003