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CDタイトル:Rhapsody in Blue for Tow at One Piano
曲目 G.Gershwin: ラプソディ・イン・ブルー(H.Levineによる連弾版)
    E.Grieg: ワルツ・カプリース Op.37
    F.Liszt: ハンガリー狂詩曲第2番 (編曲者不詳:連弾版)
    N.Rubinstein: タランテラ ト短調 Op.14
    F.Schubert: 幻想曲ヘ短調 D.940
演奏 Marianne and Tony Lenti
CD番号 ACA Digital Recording CM 20037

この欄で取り上げるかどうか、「当落線上」にある1枚。録音としては貴重なのだけれど、メインとなる曲の演奏が、評者にはいまひとつピンとこない。どうしようか散々迷いましたが、「こんな演奏もあるよ」という意味で取り上げてみることにしました。

このCDのメインとなっているのは、Gershwinの「Rhapsody in Blue」。この曲だけだったら、それほど珍しくないでしょう。ところがこの演奏で使用しているのは、Henry Levineによる連弾用編曲。この編曲のCDには、初めてお目にかかりました。おそらくこれを執筆時点では、他にCD演奏は出ていないでしょう。普段、ピヤノ・ソロと管弦楽、あるいはヂャズ・バンド、さらに、わたしたちに親しいところでは2台のピヤノによる演奏がありますね。それを1台4手の連弾でやったらどうなるでしょう? それを具現化したのが、この演奏です。

演奏を聴くと、確かに連弾でも決して曲の魅力が失われることがない---ということが分かります。これはこれで面白い編曲です。しかし演奏がいまひとつ。これは聴く人の好みによるのかも知れませんが、この演奏の解釈には、まったく賛同できませんでした。とにかく、とろい。よく言えばブルースの側面を強調しているのかも知れません。しかし、ここまでテンポをゆったり取った演奏には、評者はついていけません。作曲者自身の演奏は13分41秒。これはかなりの速さです。ここまで速い演奏を評者は他に聴いたことはありません。でも、評者はこのテンポが大変に気に入っています。比較的ゆったりで、評者にとっては「これ以上テンポを遅く取ったら聴いていられない」のが、BernsteinがLA Philharmonicを弾き振りしたライヴ録音。ここまでが我慢の限度です。ところがこのCD、Marianne and Tony Lentiの演奏は、何と19分7秒もかけています。これはちょっとやりすぎ。確かに丁寧な音づくりで、アンサンブルも水準を行っています。しかし、ここまで遅いと、聴いていて歯がゆくなりますね。作曲者自身の演奏と比べると6分半も長い。そりゃMahlerの交響曲第9番で6分の差・・・といったら、「解釈」の範疇になるでしょう。しかし10数分の曲で6分の差といったら、ものすごいことになりますよ。コワイモノ見たさの方、聴かれてみては如何でしょう?

ちなみにこのデュオ、どの曲も比較的テンポをゆったり取るのが特徴のようで、Griegの「ワルツ・カプリース」Lisztの「ハンガリー狂詩曲第2番」でも、ゆったりめの演奏です。でも、これならまだ「解釈」として許せる範囲・・・と評者は思った次第です。なお、「ハンガリー狂詩曲第2番」は、どなたの編曲を使っているのか、全く分かりませんでした。以前、この欄でご紹介したGeorgia & Louise Mangosが弾いたLiszt自身の編曲とも異なりますし、現在一般に知られているWindspergerの編曲とも違います。評者の手元にある資料では判断できませんでした。Schubertの幻想曲は、ごくごく標準的な演奏です。

面白いのは、N.Rubinsteinの「タランテラ ト短調」。これは初めて聴く曲でしたが、なかなか楽しめました。連弾演奏会のアンコールに、もってこいの1曲です。それを、このデュオは、とても楽しそうに演奏していますよ。楽譜はどこから出ているのか分かりませんでした。御存知の方、どうぞご一報下さい。

・・・と言うわけで、今回は「資料的価値はあるけれど」という演奏でした。このCDは2003年3月24日時点で現役。オンラインですと「amazon.com」で入手できます。(2003年3月24日記)

曲目 C.Czerny: 軍隊的で輝かしいソナタ Op.119
            センティメンタルなソナタ Op.120
            田園的なソナタ Op.121
演奏 Diane Andersen & Daniel Bulmenthal
CD番号 Classic Talent, DOM 2910 62

以前ご紹介した「Duo Takezawa-Sischaka」によるCzernyの連弾ソナタ(「今週の1枚・バックナンバー Vol.7 ご参照)に感銘した評者。「もっと他にもないかしら」とネット・サーフィンをしていて見つけたのが、今回の1枚。今回のはCzernyの連弾ソナタばかりを集めたCDです。

ここで取り上げられているのは、1820年代の中盤から後半にかけて、連続して作曲された一連の作品です。そのため、作風がとても似ている。形式は、かなりがっちりした古典派。第一楽章はソナタ形式、第二楽章は3部形式、第三楽章はロンド形式・・・といった具合。しかも全部の楽章の主調が長調で、伸びやかな明るい作品群となっています。構成は古典派ですが、旋律と和声は、前期ロマン派のもの。古典派との丁度境界領域にあるような感じです。

ただ、個性、あるいは同じ作曲者の「グランド・ソナタ ヘ短調 Op.178」のような悲劇的なロマンティシズムに欠ける側面はあります。また同時代の作曲家であるF.Schubertに見られるような歌謡性に関しても、それほど強烈ではありません。そうした強烈な個性が見られないため、音楽史の中で埋もれてしまっているのかも知れません。でも、埋もれさせておくにはもったいない。聴いてはもちろん、(おそらく)弾いても楽しい作品です。

そんな曲たちを、「ほら、こんなに面白いんだよ」と、言わんばかりに楽しげに弾いているのが、Diane AndersenとDaniel Bulmenthalの2人組。非常に精緻なアンサンブルと、各奏者の明瞭なタッチとテクニックが、これらの曲に内在する魅力を全面に押し出してくれています。聴いていて、思わず楽しくなってしまうアンサンブルです。Daniel Bulmenthal、この人は、ときとしてかなり荒い演奏をしたり、アンサンブルに気を使わないことがあるようです。わたしが聴いた、何種類かのピヤノ・デュオで、それが明らかに感じられました。しかし、この演奏では、そうしたことは全く感じさせません。とても伸びやかで、丁寧な演奏。しかもスピード感を失わず、きらめくようなピヤニズムが展開されます。何はともあれ、聴いて損はない演奏と言えましょう。

さて、楽譜。大昔は3曲ともドイツのCranzという出版社から出ていたのですが、この出版社自体が現在ありません。他の出版社に版権が引き継がれているかどうか確認したのですが、分かりませんでした。つまるところ現在絶版です。中古楽譜市場でも見かけたことはありません。この曲の楽譜に関する情報をお持ちの方、是非ご一報下さい。

このCDは2003年3月17日時点で現役。オンラインですと「amazon.com」で入手可能です。
(2003年3月17日記)

曲目 A.Glaznov: 交響曲第6番 ハ短調 Op.58(S.Rachmaninoff編曲)
    S.Rachmaninoff: 幻想曲「岩」 (作曲者自編)
    A.Scriabin: 交響曲第4番「法悦の詩」 Op.54 (L.Conus編曲)
演奏 Dag Achatz & 永井幸枝
CD番号 BIS CD-746

もっと早く紹介しよう・・・と思いつつ、つい後回しになってしまっているCDが何枚もあります。そうしているうちに廃盤になってしまい、こちらで紹介できなくなってしまったものもいくつかあります。そうした“偶然、後回し”になってしまった1枚が今週紹介する、Dag Achatzと永井幸枝によるロシヤもののデュオ。何度聴いても飽きない1枚です。

このデュオの凄いところは、どんな編曲物でも最初からオリジナルのデュオであったかのように聴かせてしまう点。CDではもちろんのこと、ライヴがとても素晴らしい。しかし、ある事情からこのデュオのCDが当面は今後出なくなってしまったのです。本当に残念。ですから、せめて、今ある録音だけでもご紹介することにいたしましょう。

Achatzと永井は、2台ピヤノ・オリジナルはもちろんのこと、連弾用の---特に編曲作品を---2台ピヤノで演奏するスタイルを取っています。どうやら、編曲物の場合、手の交差やペダリングといった連弾上での障害を2台のピヤノに振り分けることで回避している、さらに2台ピヤノによる音の広がりをうまく使いこなすため、こうした演奏スタイルを採用しているようです。ご本人は明言されていませんでしたが、管弦楽曲の連弾用編曲の場合、多少音を加えたりするなど、楽譜に手を入れているため、あえて2台ピヤノでお弾きになっているのかも知れません。このCDでもGlazunovとRachmaninoffは本来連弾用の編曲であるのに、2台ピヤノで弾いております。Glazunovは楽譜が手元にないので分かりませんが、Rachmaninoffの第2ピヤノ(連弾版でのセコンダ:Achatzが弾いている)は、かなり手が加わっています。

さて、演奏。Glazunovの交響曲第6番は、Rachamninoffによる編曲。40分近い大曲ですが、これが飽きずに聴けるのですね。それほど素晴らしい編曲であると同時に、極度に求心的な演奏になっています。ここまで来ると、単なる編曲物の演奏でなく、原曲を意識せず純粋なピヤノ・デュオの演奏として楽しむことができます。むしろ、原曲とは全然別物として聴いた方が、より一層楽しめるでしょう。それほどまでに充実した演奏です。楽譜はBelyayevから出ていましたが現在絶版。評者も所有していません。原本はモスクワのレーニン図書館にありますので、ご入り用の方は、そちらにお問い合わせ下さい。

Rachmaninoffの「幻想曲・岩」もGrazunovと同様の演奏。この作曲者自編による連弾版は、評者も手がけたことがあり、Rachmaninoffの曲としては難易度は低いです(注:合奏の難易度は別ですよ。あくまで個々の奏者の難易度です)。楽譜も比較的単純。それなのに素晴らしい演奏効果を発揮する曲です。評者はかつて、「お手本になるような演奏はないかしら」とずいぶん探して見あたらず、やっと出会えたのがこの録音です。わくわくして聴いたこのCD、評者の期待を裏切りませんでした。Rachmaninoffが構築した、巨大な音の絵が、聴く者の耳に飛び込んでくる、それは優れた演奏。楽譜を見ながら聴くと、「これが、ここまで大きなスケールで表現することができるのか」との印象を持つような演奏です。幸い評者は、彼らのライヴでこの曲の演奏を聴くことができました。CDの出来を遙かに超える演奏で、ペダリングをはじめとする彼らのアプローチを見て、「何故、2台のピヤノの弾いているのか」が良く理解できました。楽譜はForbergから出ており現役で、比較的入手が容易です。

最後に収録されているScriabin。L.Conusによる2台用編曲ですが、これは壮絶な演奏。4管編成に打楽器群、オルガンまで動員した膨大な編成による大交響曲を、見事に2台のピヤノだけで演奏しています。原曲の持つ官能性を、ある意味で極端にまで引き出した演奏です。2台のピヤノによる音の紡ぎ合い。そこに現れるのは、鍵盤上で燃える官能の嵐。ここまで幅広い表現は、編曲も良いのでしょうけれど、演奏者の力量に負うところも大きいと言えます。胸が熱くなるような名演。これを聴いたら、「是非とも弾いてみたい」と思われる方も多いでしょう。残念ながらBelyayevおよびMuzykaから出ていた楽譜は現在絶版。入手は極めて困難です。これは中古市場で見つけるしかないですね。

このCDは2003年3月10日時点で現役。オンラインですと「amazon.de」で入手できます。(2003年3月10日記=旧・陸軍記念日、そしてあの悲惨だった東京大空襲から58年目の日に)

曲目 W.A.Mozart: 連弾のためのソナタ ヘ長調 Kv.497
              アンダンテと変奏 ト長調 Kv.501
              連弾のためのソナタ ハ長調 Kv.521
演奏 Guher & Suher Pekinel
CD番号 TELDEC 3984-21244-2

実に鮮やかな音運びのMozart。音楽は淀みなく流れ、爽快さを感じさせてくれます。どこまでも健康、そしてやや硬質な音の連続。かと言って表現は表面的にならず、非常に彫りの深い表情豊かな演奏。雪解け水が軽やかな音を立てて流れ、それに早春の日差しが反射して輝く・・・そんな印象を受けるMozart。しかもこぢんまりと曲を纏めるのではなく、呼吸を大きく取ってスケール感も抜群。曲作りもアンサンブルも完璧で、ある意味で究極のMozart連弾の姿を具現化した演奏と言って差し支えないでしょう。

以前「脳天直撃コンビ」のMozartをご紹介しました。表現は全く異なっておりますが、「名演」という意味では、十分それに対抗できる演奏と言えます。そして、このデュオ、「脳天直撃コンビ」と同様に、「現代のフルコンサートグランド」の機能を存分に使って、現代ピヤノでなければできない演奏を展開しています。過去の柵を全く振り切り、「この音楽は、今、ここで生きているんだよ」と言わんばかりの伸びやかな演奏。これは一聴の価値があります。「古典派には興味がないよ」と仰る方にも、是非とも聴いて頂きたい演奏です。ただし、古くさいタイプの演奏がお好みの方で、それ以外を受け入れられないタイプの方は、この演奏を聴くのは止めましょう。どうせ批判するに決まっていますから。

3曲どれも目の覚めるような演奏です。中でも出色なのが「ソナタ ヘ長調 Kv.497」の第2楽章。「これでもかっ」と言わんばかりに十分に旋律を歌わせながら、決して湿らない音楽。ピヤノの音の輝かしい粒立ち。そして、プリモとセコンダの絶妙な対話。アンサンブルはもちろんですが、装飾音の使い方、そしてペダルの処理が実に巧い! もちろん、その前後の楽章も素敵。古典派の連弾曲としては、非常に高度な技巧と合奏力を要求される作品ですが、そうしたピヤニストへの挑戦を楽々とこなし、むしろその困難なアンサンブルを纏めるのを楽しんでいるような雰囲気さえ感じさせます。なお、この演奏では第1楽章のリピートを省略しています。

評者が最も好きなMozartの連弾曲である「アンダンテと変奏 Kv.501」も目の覚めるような演奏。テンポはかなり早め。スピード感いっぱいです。もちろん弾き飛ばしているわけではありません。むしろ音づくりは丁寧すぎるくらい。主題の歌わせ方は、とても端正。そして各変奏で見せる(聴かせる)アーティクレーションの付け方は、完全に現代ピヤノの性能を存分に生かしたもの。これだけ前進気勢の強い演奏であるにも関わらず一本調子にならず、それぞれの変奏の表情を豊かに変える・・・というのは演奏者の実力以外の何物でもありません。なまじの演奏で、このテンポで弾いてしまったら、単なる「のっぺらぼう」の音楽になってしまいます。とにかく音楽の「凝縮力」が凄い・7分強の演奏ですが、聴いた感覚では3分くらいにしか感じられません。

最後に収録されている「ソナタ ハ長調 Kv.521」も、上記2つの演奏と同じ特徴を持ちます。特に魅力的なのは、曲を徹底的に掘り下げ、この曲の持つ「憂い」の表現を絶妙に表している点でしょう。とりわけ、第2楽章におけるトリオの処理は素晴らしい。Mozartの音楽の「暗部」を実に鮮やかに表現しています。終楽章の華やかさは、ちょっと言葉でたとえるのは難しいでしょう。この演奏でも第1楽章のリピートを省略しています。

何はともあれ、爽やかで健康的、そして現代的なMozartをお好みの方には、お薦めの1枚です。

楽譜はいろいろな出版社から出ており、容易に入手できるので、解説は省略。このCDは2003年3月3日時点で現役。オンラインですと「amazon.de」で入手できます。(2003年3月3日記)

曲目 G.Holst: 「惑星」(作曲者自編による2台版)
    E.Elgar: 弦楽のためのセレナーデ(作曲者自編による連弾版)
    F.Bury: プレリュードとフーガ(2台オリジナル)
    E.Bainton: ミニアチュール組曲(連弾オリジナル)
    G.Holst: 「エレジー」(作曲者自編による2台版)
演奏 Anthony Goldstone & Caroline Clemmow
CD番号 Olympia OCD 683

編曲・オリジナルを取り混ぜて、英国のピヤノ・デュオを集めた注目すべき1枚。「英国音楽」というと「渋〜い」と思われる方もいらっしゃるでしょう。しかしこの演奏はピヤニスティックな魅力が全面に押し出されており、デュオ愛好家のみならずピヤノ好き、特に後期ロマン派がお好きな方には、うってつけのCDです。

まず聴いて驚かされるのが、Holstの「惑星」。この大曲を、たった45分で弾いています。どの曲もかなりの快速テンポで、グイグイと聴き手を引っ張って行くのです。「火星」など演奏時間は6分12秒。標準的な管弦楽の演奏よりも1分以上短い! その他の曲もいずれも早めのテンポ設定をしています。だからといって弾き飛ばしているかと思えば、さにあらず。表情の付け方が実に豊かで面白い。相当にメリハリを効かせた演奏ですね。減速・加速など、時には大げさとも感じられるくらい、ダイナミックに処理しています。しかもテクニックとアンサンブルは抜群。とても良い演奏---2台のピヤノでなければできない表現を十分に発揮しています。この「惑星」は、お薦め。

ここで演奏しているのは、作曲者自身による編曲です。出版社はJ.Curwen。楽譜は現役で出ています。実はSchirmerからも「惑星」の2台用編曲がでておりますが、ここで演奏している作曲者自編のものとは別物の可能性が高いです。まだ実際に参照してはいないのですが---何せ、95ドルもするので、ちょっと買えません---カタログやWebによると、Curwenという人の編曲となっております。ただ、編曲者の名前がHolst自編楽譜の出版社と同じなのが、何とも気になります。楽譜を購入なさる際には、ちょっと注意して下さい。ちなみにJ.Curwen版の楽譜で演奏する際には、2冊購入することが必要です。なお、作曲者自編の楽譜は、以前にFaberから出ていましたが、こちらは絶版。でも両者は(当たり前ですが)同一のものです。

これも編曲物ですが、Elgarの「弦楽のためのセレナーデ」の連弾用編曲も素敵。わたしたちもちょこちょこ弾いてみて「素敵な曲だね」と感じていたのですが、他人の演奏(!?)を聴いて、その感を新たにしました。「編曲物だよ」と言われなければ、オリジナルの連弾曲と思いこんでしまうくらい、見事な編曲です。曲そのものは、後期ロマン派のセレナーデ以外の何物でもありません。流れるような旋律、心を和ませる和声。この素敵な曲に、これほど素晴らしい連弾用編曲があったことを、つい最近まで知らなかったわたしたちです。その魅力を、GoldstoneとClemmowの2人が、実に見事に聴き手へ伝えてくれます。わたしたちの手元にある楽譜はBreitkopf & Hartel版ですが、これは絶版。このCDの録音で使われたのはRobertonという出版社の物です。いろいろ調べたのですが、現役かどうか確認できませんでした。

「これは見つけ物だな」と思ったのは、Buryの「プレリュードとフーガ」Baintonの「ミニアチュール組曲」。Buryは第2次大戦のノルマンディー作戦のとき34歳で戦死した悲劇の作曲家です。「プレリュードとフーガ」は2台用のオリジナル作品です。プレリュードの冒頭でひそやかに歌われる浪漫的な主題が、荘厳な響きに発展する過程は、とても感動します。そしてフーガの部分における2台のピヤノの対話が実に面白い。対話をしながら、がっちりとしたフーガを構成していきます。これもElgarと同じくRoberton版を使って録音していますが、楽譜が現役かどうか、とうとう確認できずです。

Baintonの作品は、「メヌエット」「舟歌」「イングリッシュ・ダンス」の3曲で構成しながら、4分半という短い佳品。どの曲も、とてもチャーミング。このCDを聴いて、是非とも弾いてみたくなりました。・・・・が、この曲も楽譜が現役かどうか全然確認できませんでした。使用楽譜はFaber版ということは分かっているのですが・・・。とにかく英国の出版事情が日本の一般人では全然つかめないのが現状です。欧州(大陸側)や米国のサイトでは、英国の出版社の楽譜は、ほとんど扱っていませんし、情報も少ないのです。かといって英国に充実したサイトがあるかといえば、一部の出版社の自社サイトを除けば、楽譜に関しての情報は皆無に等しいのが現状です。英国にも、いくつか楽譜販売サイトはありますが、内容はかなり貧弱。何とかならないものでしょうか。

最後に収録してあるHolstの「エレジー」は、「コッツワールド交響曲」からの編曲。とっても暗い曲です・・・が、その「暗さ」に何とも言えぬ魅力を感じる作品です。CD録音に使った楽譜はFaber版ですが、これも現役かどうか、とうとう確認できませんでした。

何はともあれ、既知・未知の曲を合わせて、これだけ楽しいCDを作ったGoldstoneとClemmowは見事と言えましょう。このCDは2003年2月24日時点で現役。オンラインですと「amazon.co.uk」または「amazon.de」で購入出来ます。(2003年2月24日記、2003年2月25日改訂)

CDタイトル Music for Two Pianos Grainger & Bolcom
曲目 P.A.Grainger: リンカンシャーの花束
              丘の歌 第1番
              子供の行進曲
    W.Bolcom: 想い出
            蛇のキス
            エデンの門をくぐって
演奏 Richard & John Contiguglia
CD番号 Helicon Classic HE 1004

Richard & John Contigugliaによる、大変に魅力的な1枚。とても素敵なGraingerとBolcomのカップリングです。「Contiguglia」と聞いて「ああ、懐かしい」と思われた方。あなたは、筋金入りのピヤノ・デュオ愛好家です。今から30年以上前、このデュオの名を世界に広めたのは、L.v.Beethovenの交響曲第9番をF.Lisztが2台ピヤノに編曲した版を録音したLPでした。もちろん、それ以前からかなり活発なデュオ活動をしておりましたけれど、飛び抜けて有名になったのは、この録音がきっかけでしょう。評者もこのLPを聴き、「何て面白いんだ!」と、交響曲のピヤノ用編曲、そしてピヤノ・デュオに心を惹かれたものでした。そのContiguglia、今でも盛んに演奏をしており、CDも何枚も出しております。今回ご紹介するのは、その中の1枚です。

収録してあるいずれの曲も、非常に安定したテクニックとアンサンブル、そして彼ら独自の解釈を織り交ぜた、実に素敵な演奏です。とりわけ、アンサンブルの力には脱帽。その上で彼らは、「ほら、こんなに素敵な曲なんだよ」と、押しつけがましくなく、ごく自然に曲たちの魅力を聴き手に受け渡してくれるのです。

まず、P.A.Grainger。実に安定し、曲の全貌を的確に捉えた演奏です。それもそのはず。Contigugliaは、子供の時からGraingerにとても可愛がられ、彼の作品を積極的に演奏しているのです。いわば十八番と言えましょう。ちなみにこのCDの解説文のわきに、Contigugliaに挟まれたGraingerが、仲良く楽譜を見ている写真まで掲載されております。

そして渋い英国風の音楽が、華やかなピヤノ・デュオとして展開されるているのです。

ここで演奏しているのは、「リンカンシャーの花束」「丘の歌 第1番」「子供の行進曲」の3曲。いずれもGraingerが楽譜に記したアーティクレーションとダイナミクスの指示を非常に厳格に守って、それでいて流麗な演奏を聴かせてくれています。楽譜を参照するとよく分かるのですが、Graingerの指示は非常に綿密で詳細。「作曲者が、ここまでやるか?」と思われるくらい、細かく指示を出しています。もっともO.MessiaenやP.Boulesなど、もっともっと細かいですが、この作品の作曲当時としては、異例の部類に入るでしょう。Contigugliaは、生真面目すぎるくらいそれらの指示に厳密に従って弾き進めているのです。そう、作曲者が意図したであろう通りに。その上で彼ら独自の解釈を加え、Graingerの音楽を受け手に楽しく聴かせてくれます。これは並大抵のものではありません。

さらにGraingerは、「リンカンシャーの花束」と「丘の歌」で、「4分の1と2分の1拍子」のような変てこな拍使い---現代音楽では別に珍しくも何ともありませんが---がたくさん出てきますが、Contigugliaはこれら変拍子の処理も実に自然。楽譜を参照して聴かなければ、すーっと聴き流してしまう。それをはじめとして、聴いていると何と言うことはないのですが、Graingerの曲はアンサンブルが非常に難しいのに、それもごく自然に聴かせてしまうのも、この演奏の魅力でしょう。「子供の行進曲」は、無条件で楽しめます。

以上の楽譜はすべて現役。いずれもSchottの「Grainger Music for Two Pianos」のシリーズに収められています。そのうち「リンカンシャーの花束」はVol.2(出版番号はED 12580)、「丘の歌」はVol.3(ED 12581)、「子供の行進曲」はVol.5(ED 12583)に収録。いずれも1部購入すると2冊ついてくるので、2台ピヤノですが2組発注する必要はありません。

Graingerと同じくらい面白いのがBolcomの作品。このうち「想い出」は、1991年の第3回マレイ・ドラノフ国際2台ピヤノ・コンペティションの課題曲として作曲されたものですが、「コンクールの課題曲」という領域を遙かに超えた、素晴らしい曲。この曲に関しては「今週の1枚 バックナンバー Vol.2」でも紹介していますが、Contigugliaの演奏も大変に優れたものです。この曲の持つ歌謡性を全面に押し出した演奏です。前回紹介したMaxim & Irina Jeleznovは、かなりシャープな演奏でしたが、Contigugliaの方は叙情性たっぷり。まるでロマン派のピヤノ曲のようなノリで弾いています。かといって、この曲の持つ現代性が失われることはありません。「締めるところは締める」といった、メリハリのついた演奏で、とても楽しく聴くことができます。全曲通じて素敵な演奏ですが、とりわけ、第2曲のトリオの歌わせ方が見事です。とにかく、旋律の歌わせ方が非常に素晴らしい! 是非、多くの方に聴いて頂きたい録音です。

そして、この録音をお聴きになった方、是非ともご自身でお弾きになって頂きたいと思います。2台ピヤノのレパートリとして、とても素敵ですよ。楽譜は現役。Hal Leonardから出ています。ちょっと入手しにくいのですが、「Sheet Music Plus」で購入するのが手軽。15ドルで買えます。ただデータベースへの登録方法が悪く、普通に検索したのでは引っかかってきません。ずばり「こちらにアクセスすると一発で購入できます。この楽譜も1部購入すれば2冊ついてきます。

同じBolcomの「蛇のキス」「エデンの門をくぐって」は、ピヤノ独奏組曲「エデンの園」を、この録音のために作曲者自身が2台ピヤノ曲に編曲し、Contigugliaに献呈してものです。「蛇のキス」は、楽しいラグタイム。単に20本の指で鍵盤を弾くだけでなく、ピヤノのボディーを叩いたり、床を踏みならしたり、舌打ちをしてリズムを取ったりと、いろんな奏法(?)が出てきます。それをContigugliaは実に楽しそうに演奏しています。「エデンの門をくぐって」は、ケークウオークのスタイルによる叙情的な作品。これも、とってもすてきな演奏です。「エデンの園」の原曲はHal Leonardから出ていますが、この2台用編曲は未出版です。ぜひHal Leonardあたりから出版されるとよいのですが、その兆しは残念ながらありません。

このCDは2003年2月17日時点で現役。オンラインですと「amazon.com」で入手できます。是非多くの方に聴いて頂きたいCDです。ちなみに、このCDの解説は、演奏者のContiguglia自身が書いており、それがとても秀逸です。(2003年2月17日記)

CDタイトル Forgotten Piano Duets Vol .2
曲目 F.X.Dusek: ソナタ 変ホ長調 Sykora 26
    F.Liszt: 華麗な大ワルツ Op.6
    E.Grieg: 交響的小品 Op.14
    G.Onslow: ソナタ ホ短調 Op.7
    A.Bird: イントロダクションとフーガ Op.16
演奏 Tony & Mary Ann Lenti
CD番号 ACA Digiatl Recording CM 20017-17

先週に引き続き、Tony & Mary Ann Lentiによる「Fogotten Piano Duets」の第2弾。Vol.1と比較すると、取り上げている曲の「忘られ度」は、こちらの方がはるかに高い。比較的知られている曲といえば、Griegの「交響的小品」のみ。後は相当マイナーで、知る人ぞ知る存在の作品です。それでも、さすがですね、C.McGrawの「Piano Duet Repertoire」(Indiana University Press)、ちゃんと全部紹介されていました。評者は、このCDを聴くまで知っていたのは、Griegのみ。その他は、このCDで初めて知りました。ほとんどが聴き応えのある作品です。もっとも、Griegは別として、どれも「忘れられちゃっても仕方ないかな」と、何となく思えるところがまた微妙なのですが。

そんな作品たちをTony & Mary Ann Lentiは、とても楽しく聴かせてくれています。Vol.1よりも、こちらの演奏の方が(Vol.1も決して悪い演奏ではありませんが)生き生きしています。ひょっとしたら録音のせいかも知れませんが。音楽史の“闇”に隠れてしまった曲たちを取り上げ「ほら、こんなに素敵な作品があるんだよ」というようなメッセージを聴き手に送ってくれています。なかなか優れたCDですね。

印象に残った順に記述すると・・・まず面白かったのは、最後に収録されているBirdの「イントロダクションとフーガ」。これほど真っ暗けの曲に新しく出会ったのは久しぶりのこと。根暗で浪漫的かつ強烈な悲壮感を持ったテーマが、堂々と展開されます。曲の大半が短調ベース。そして実にピヤニスティック。とても素敵なデュオです。フーガはかなりガッチリした古典的な構造。特殊なことは何も施していません。魅力は、やはり旋律と和声にあります。とても良い曲ですが、印象的なのはイントロダクションおよびフーガの結尾。あれほど悲壮感を持って強烈に流れていた音楽が、長調に転じてふわりと終わるのです。何とも言えない安堵感。思い切りぶちのめされ続けていて、最後に救われる音楽です。あまりに面白かったので譜面を参照しようと思ったら、現在絶版。かつてはHainauerおよびSchirmerから出ておりました。

思わぬ“拾い物”(この曲が好きな方、失礼しました)は、Onslowの「ソナタ ホ短調」。前期ロマン派の標本みたいな音楽です。息の長い浪漫的な旋律が歌われる、3楽章形式の立派なソナタです。形式は完全な古典派のソナタなのですが、旋律と和声は前期ロマン派ならではのもの。とても素敵なのですが、強烈な個性はありません。だから現代ではちょっと忘れられた存在になってしまっているのでしょう。このCDを聴いたら、思わず弾きたくなってしまう方もいらっしゃるかも知れません。大丈夫。楽譜は現役です。Walter Wollenweberという出版社から出ています。個々の旋律はとても魅力的ですし、両端の楽章に挟まれた「ロマンス」は、とても可愛いですよ。

Lisztは自分の書いたピヤノ独奏曲をいくつも連弾曲に編曲していますが、ここで取り上げられた「華麗な大ワルツ」もそのひとつ。この作曲者のかなり早い時期の作品が原曲らしく、いわゆる「超絶技巧」のオンパレード・・・といった曲です。原曲は存じ上げませんが、連弾曲として聴いても楽しめます。ただ、Liszt特有の強烈な浪漫性は、この曲には表れておりません。聴いて「ああ、Lisztの曲だなぁ」と感じたのが、正直なところです。楽譜はSchuberthという出版社から出ていましたが、現在では絶版です。

申し訳ありませんが、Dusekの作品は、あまり面白くありませんでした。典型的な古典派ソナタで、これといって特徴らしいものはありません。3楽章形式の、ごくごく平凡なソナタです。それでも興味を持たれた方がいらっしゃいましたら、楽譜はKunzelmannから現役で出ておりますので、ご参照になって下さい。なお「Dusek」の表記のほかに「Duschek」との表記がありますが、両者は同一です。ドイツや米国の出版社では、後者の表記が使われることが多いようです。

Grieg。これは名曲で著名な曲なので詳細は割愛させていただきます。が、ひとこと。この曲はGriegの若い頃の作品ですが、このCDの演奏は、そんな作曲者の“若さ”を非常に良い意味で捉えている、優れたものと言えましょう。泥臭さが全くない、瑞々しい演奏ですよ。楽譜はPetersから出ており現役です。

このCDは2003年2月10日時点で現役。オンラインでは「amazon.com」で入手できます。
(2003年2月10日記)

CDタイトル Forgotten Piano Duets Vol .1
曲目 H.Goetz: ソナタ ト短調 Op17
    A.Casella: 戦争の記録 Op.25
          フォックス・トロット
    F.Bsoni:フィンランド民謡 op.27
    O.Respighi : 6つの小品
演奏 Tony & Mary Ann Lenti
CD番号 ACA Digiatl Recording CM 20009-9

Respighiの「連弾のための6つの小品」の“音”はないかしら---とあちこち探しているうちに見つけたのが、このCDです。CDのタイトルは「Forgotten Piano Duets」とありますが、曲目を見るととりわけ“忘れられた曲”を集めているわけではありません。むしろ業界(?)としては比較的名前の知られた曲ばかり。しかも全部の楽譜が現役で簡単に入手できます。

さて、演奏。全体を通じて、きびきびしてメリハリのある、若々しい演奏です。ただ、個人的には録音がややデッドなのが残念。折角生き生きとした演奏だから、もっと残響を多く取ってライヴ感を出した方が聴いていて楽しいかな・・・と感じた次第。まあ、これは好き好きでしょう。

Goetzの「ソナタ ト短調」は、以前この欄で紹介したAnthony Goldstone & Caroline Clemmow(バックナンバー Vol.1参照)と比べると、浪漫性を控えめにした演奏。前者が“甘口”なら、こちらは“やや辛口”といったところでしょうか。別の見方をすると、かなり淡々と弾いており、曲の持つ“作曲者の暗澹たる末路の暗示”がやや薄められた格好です。それでも聴いて、なかなか楽しめました。これはこれで良い演奏です。

Casellaの「戦争の記録」と「フォックス・トロット」、それにBusoniの「フィンランド民謡」は、やはりこの欄で紹介したDana Muller & Gary SteigerwaltのCD(バックナンバー Vol.7参照)にも収められています。それと比較すると、Lenti組の演奏の方が圧倒的に面白い。「戦争の記録」では、静と動、明と暗の対比が素晴らしく、聴き手を飽きさせずに引っ張って行きます。「フォックス・トロット」の軽快性もこちらが上。また「フィンランド民謡」における迫力もなかなかのものです。

そして評者らが探していたRespighiの「6つの小品」は、とても爽やかな演奏。この曲、連弾曲としては比較的易しく、特にプリモはとても易しくピヤノの初心者でも気軽にアプローチできるような曲です。そんな易しい曲なのに、まるで大曲を聴かせるかのような堂々とした演奏で、非常に聴き応えがあります。旋律の大半はプリモが弾くのですが、このCDのプリモ、とてもたっぷりと旋律を歌い込んでいますね。でも所謂“ベタベタ感”がなく爽やかです。これは是非、大勢の方に聴いて頂きたい演奏ですね。そう、初心者の生徒さんを抱えたピヤノの先生の皆さん、この曲は先生と初心者の生徒という組み合わせで弾くには、とても良い曲ですよ。生徒さんを連弾の世界に導くには、恰好の材料でしょう。もちろん先生はセコンダですよ。

各曲の楽譜。冒頭で申し上げたように全部現役。GoetzとBusoniはC.F.Petersから、Casellaのうち「戦争の記録」はRicordi、「フォックス・トロット」はUniversalから、RespighiはEliteから、それぞれ出ています。このCDも2003年2月2日時点で現役。オンラインですと「amazon.com」などで入手できます。(2003年2月4日記)

CDタイトル Complete Original Works for Piano 4 Hands Vol.2
曲目 J.Brahms: 愛の歌 Op.52a
            ロシアの思い出 Op.151
            新・愛の歌 Op.65a
            シューマンの主題による変奏曲 Op.23
演奏 Duo Crommelynck (Taeko & Patrick Crommelynck)
CD番号 Claves CD 50-8711


このデュオ、最盛期の名演。素敵な幸福感に包まれながらも、鋭利な視点で作品を分析し、がっちりと曲を構築している点が、とても素晴らしい。生き生きとして輝くようなタッチと緊密に寄り添うアンサンブルは、連弾の持つ「美しさ」という側面を如実に伝えてくれます。ここで収録された作品の録音としては、第一級のものと評価することができるでしょう。

まずは「愛の歌 Op.52a」。御存知のように、本来は声楽4重唱(S,A,T,B:混声合唱で歌われるケースもある)と連弾のための作品(Op.52)。この声楽の部分を連弾パートに組み込んで再構築したのがOp.52aです。確かに、原曲の声楽+連弾は素晴らしい作品ですが、声楽を除去した連弾のみの作品もとても充実していて、弾いても聴いても---聴く場合には、それが素晴らしい演奏ならば---楽しむことができます。声楽版を知っている耳にも、物足りなさはまったく感じられません。評者もこの演奏を聴いて、物足りなさを感じなかったばかりか、声楽版とは違った魅力を受けました。

曲が曲だけに、ともすれば幸福な雰囲気に流されて、上っ面だけになってしまうこの曲。しかしDuo Crommelynckは雰囲気に流されることなく、しっかりと地に足の着いた演奏を聴かせてくれています。時折、何とも言えぬ陰影を微妙に織り交ぜながら。

まったく同じことが、「新・愛の歌 Op.65a」の演奏にも言うことができます。この曲では、陰影の彫り込み方が、さらに深くなっていて、表情の変化の幅が、より大きく感じられます。

「シューマンの主題による変奏曲 Op.23」は、これまた名演。ひとつひとつの変奏で、絶妙に表情を変えるのです。こうした曲の作り方は実に見事。特に第5変奏から第9変奏までの盛り上げ方は素晴らしい。最後の第10変奏における各変奏の回顧の処理も注目できましょう。

もう1曲、「ロシアの思い出 Op.151」は、作品番号こそ100番台ですが、作曲者10代の作品。評者はこの演奏を聴くまで、それほど良い作品とは思いませんでしたが、これを聴いて評価は一変。なかなか味わいのある楽しい作品・・・との印象を受けました。

総じて言えば、聴いて楽しめるだけでなく、これらの曲の演奏に関して、良い意味でのお手本になる演奏と評すことができましょう。ちなみに名演であっても、即座にはお手本にならないものも、たくさんあります。あまりにも個性が強すぎる、などの理由で。

楽譜はすべて現役。「愛の歌」と「新・愛の歌」はBreitkopf & HaertelC.F.Petersなどから(Petersは「愛の歌」と「新・愛の歌」が1冊に合本)、「シューマンの主題による変奏曲」はBreitkopf & HaertelC. F. Petersなどから、「ロシアの思い出」はJ. Schuberthなどから出ています。このCDも2003年1月27日時点で現役。オンラインですと「amazon.de」で入手できます。(2003年1月27日記)

CDタイトル Liszt for Two
曲目 F.Liszt: ハンガリー狂詩曲 第1番〜第6番(作曲者自編による連弾版)
          メフィスト・ワルツ 第1番(作曲者自編による2台版)
演奏 Georgia & Louise Mangos
CD番号 Cedille Records CDR 90000 052


今回のテーマはLisztです。それも作曲者自編による連弾曲と2台ピヤノ曲。2台の方は結構有名で、録音もいくつか出ています。「メフィスト・ワルツ第1番」。かつてDurandから出ていましたが(他からも出ていたかも知れません)現在絶版。編曲としてはかなり知られている部類でしょう。この演奏は、非常に素直で「とても綺麗にまとめた」という印象です。あくの強い---例えばLabequeのような---演奏をお好みの方には、ちょっと物足りないかも知れません。評者は、これはこれで楽しめましたが。

このCDのハイライトは、何と言っても作曲者自編による「ハンガリー狂詩曲」の連弾版でしょう。Lisztは自身のピヤノ独奏曲を、いくつか連弾用に編曲しています。有名どころですと、現在も楽譜が容易に入手可能な「クリスマスツリー」(Edito Musica Budapestから出版)が、比較的知られておりますね。そのほか、「巡礼の年」などの連弾版があることが、「New Grove」などの文献に紹介されております。ほとんどが絶版で、出版社すら分かりませんが。古本市場にも、殆ど姿を現さないし、録音もかなり限られているので、その実態に触れることは、現在となってはなかなか困難です。

評者も、「ハンガリー狂詩曲」を作曲者自身が連弾用に編曲しているなど、このCDを入手するまで知りませんでした。Lisztの独奏曲は、いろいろな他人が連弾や2台ピヤノ用に編曲しているのも多く---中では「愛の夢・第3番」の2台用編曲まであります。この楽譜は現役。Bosworthから出ています。どんな編曲だかは定かでありませんが---、「ハンガリー狂詩曲」も、第2番が連弾版としてはL.Windspergerが、2台用にはR.Kleinmichelが編曲しており、連弾版はSchottから、2台版はSchirmerから現役で出ています。これらはとても有名ですが、Liszt自身の手による連弾版があったなんて! これはちょっと予想外でした。

編曲作法としては、原曲の良さをそのまま残し、音を少し厚くして、ダイナミクス・レンジを広げた感じです。聴いていて、大変に面白く、是非とも楽譜が参照したくなってしまいました。このCDの演奏自体も、アンサンブルはバッチリですし、個々のテクニックも優れているので、満足して聴くことができました。ちょっと録音がデッドなのが残念ですが。

さて、この編曲。曲順が原曲(ソロ)と異なっています。原曲との対照は以下の通り。

連弾版 原曲(ソロ)
第1番 ヘ短調 第14番 ヘ短調
第2番 嬰ハ短調 第12番 嬰ハ短調
第3番 ニ長調 第6番 変ニ長調
第4番 ニ短調 第2番 嬰ハ短調
第5番 ホ短調 第5番 ホ短調
第6番 変ホ短調 第9番 変ホ短調

原曲を聴き慣れた耳には、連弾版の第3番と第4番は、ちょっと異様に響くかも知れません。何故、連弾版の編曲にあたって、この2曲を半音上げたのかは分かりません。ただ、管弦楽版も、この2曲は原曲を半音上げてあるので、もしかしたら、それと関係があるのかも知れません。

何はともあれ、Lisztが連弾曲をどのように捉えていたのかを知る上で、ピヤノ・デュオ関係の方や愛好者の皆様には是非とも聴いて頂きたい1枚です。ここで演奏している、Georgia & Louise Mangosという姉妹デュオは、同じレーヴェルからLisztの交響詩の2台用編曲の全曲CDも出しております。

ちなみに、連弾版・ハンガリー舞曲(作曲者自編)の出版元は現在調査中。分かり次第、こちらで報告いたします。もし御存知の方がいらっしゃいましたら、どうぞご一報下さい。

このCDは、2003年1月20日時点で現役。オンラインですと「amazon.com」で入手できるほか、このCDのレーヴェル「Cedille Records」のWebサイトでも購入できます。(2003年1月20日記)

今週の1枚 バックナンバー Vol.1
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(c) Yumiko & Kazumi 2003