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曲目 D.E.Inghelbrecht: 子供部屋(連弾:全6巻36曲)
演奏 Daniel Blumenthal & Robert Groslot
CD番号 ETCETERA KTC 1157

D.E.Inghelbrechtというと、オールドファンにはDebussyの「ペレアスとメリザンデ」の名演奏を残した指揮者としてご記憶にあることと思います。Inghelbrechtは、指揮者としての活動だけでなく、作曲の分野でも素晴らしい作品を残しています。残念ながらその大半は、今となっては忘れられてしまいました。でも少数ながら、彼の傑作を楽譜として目にすること、そして音を耳にすることができるのです。そのひとつが、このCDです。

ここに収録された連弾のための「子供部屋」は、全6巻36曲で構成する小宇宙。いずれも素材としているのはフランスの民謡や童謡ですが、それをまるで宝石のような連弾曲にしています。それは単なる連弾用編曲の域を超え、素敵にピヤニスティックなパラフレーズとなっています。「こんな単純な旋律が、こんなにも華麗に響かせているのか」と、びっくりするほど。

各奏者に要求されている技術レベルはソナタアルバム終了程度か、もうほんのちょっと高度といった程度なので、譜面(ふづら)も単純で、いかにも簡単に弾けそうです。ところがどっこい、そう甘くはありません。オリジナルのモティーフを綺麗に浮かび上がらせながら軽快に、あるいは細やかに演奏しようとしたら、相当に大変です。合奏の技術も比較的高度なものが要求されます。わたしたちも、この中の何曲かをレパートリにしていますが、仕上げるまでにそれは大変でした。

で、そうした曲たちを、いかにも軽々と、そして面白く楽しそうに弾いているのが、この録音。36曲全部を続けて弾くと50分以上かかるのですが、Daniel BlumenthalとRobert Groslotの2人は、聴き手をまったく飽きさせず、一気に全部の曲を聴かせてしまいます。それだけではありません。この録音を聴くと「わたしたちも、やってみたいな」と思う気持ちにさせられてしまいます。この“惹きつけ方”は、並大抵のものではありません。

例えば、日本でも親しまれている「アビニヨンの橋で」という童謡がありますね。この旋律をモティーフにした曲が第3巻に含まれているのですが、この演奏で聴くと素晴らしいコンサート・ピース! あの素朴な旋律が、まるで薄化粧をした佳人のようになって、聴く者の前に立ち現れるのです。もう、絶品。これを、聴いたわたしたち、「やらねばならぬ、弾かねばならぬ!」と頑張ったのですが、当然ながらこの演奏の足下にも及びませんでした。

ま、それは一例として、この素敵な小宇宙を目の覚めるような表現で聴かせてくれるのが、この録音です。連弾奏者、愛好家の方には、絶対一度は聴いて頂きたいCDと言えましょう。

楽譜は、第3巻を除く30曲が全音楽譜出版社から2分冊で、第3巻を除く5巻が各巻別売りでSalabertから、3巻のみがLeducから出ています。ただし第3巻は、2004年3月現在、版元で品切れ状態です。Salaber版には若干のミスプリントがあるのですが、全音版では、それが修正されています。ただし、全音版では、いちばん有名な「アビニヨンの橋で」が含まれていない上に、この第3巻がなぜ収録されていないかに関してまったく言及していないので、とても不親切です。

このCDは2004年3月8日時点で現役。オンラインですと「amazon.de」で入手できます。ずばり「これ」です。(2004年3月8日記)

CDタイトル Piano Four Hands/Two Pianos in The XX Century
曲目 G.Kurtag:: ピヤノのための遊び から(連弾)
    G.Ligeti: 記念碑・自画像・運動(2台)
    L.Berio: リネア
    A.Scriabin: 幻想曲
    W.Lutoslawski: パガニーニの主題による変奏曲
演奏 Paola Bionadi & Debora Brumialti
CD番号 DYNAMIC CDS 439

CDタイトルには「20世紀の…」とありますが、1曲だけ19世紀の作品が入っています。まあ、それは置いておきまして、全体の感想ですが、非常に繊細で叙情的な演奏です。緻密さはあるのですが、どこかピヤノ・デュオの持つアットホームな一面がすべての演奏に表れています。

例えば、Lutoslawskyの「パガニーニの主題による変奏曲」。とても線の細い演奏で、力でグイグイ引っ張るものと対称にあります。ひとつひとつのフレーズを、とても綺麗に歌っているのですね。この曲の演奏としては、珍しい部類に入るのではないでしょうか。これだけ穏やかなLutoslawskyとなると、賛否両論があるでしょう。評者としてはArgerichさまとFreireによる圧倒的な演奏が空前絶後と考えているので、なかなかそれ以外の演奏は認めづらいのですが、こうしたスタイルの演奏があっても良いかな…と思う次第です。一方で、スピード感を重視される方には欲求不満が残る演奏かも知れません。

まったく同じことがLigetiの「記念碑・自画像・運動」にも言えます。細部に渡るまで、凝りに凝った演奏。そして線がとても細い。でも、これはこれで、この曲の新しい解釈ではないかと感じました。言葉で表現するのは難しいのですが「尖ったところ」というか鋭角的な表現がない演奏…というのが妥当でしょう。曲全体はがっしりと構築しているのですが、どこかに安らぎを感じさせます。特に「自画像」が面白い。このLigetiも賛否両論でしょう。評者は面白いと感じました。

このデュオの良い面が最も出ているのが、Berioの「リネア」。2台のピアノとマリンバ、ヴィブラフォンのための作品です。表情の変化がとても面白い。もっとも、こうした作品に対する好き好きはあるでしょうけれど。意外にあっさり弾いているのがScriabinの「幻想曲」。1893年の、まだ明確な調性による曲を書いていた時期の、それは浪漫的な作品です。それを「ここまでさっぱりと弾いていいのかな」と思うくらい、冷徹に弾ききっています。もちろん、フレーズの歌い方はとても丁寧なのですが、どこか醒めたところのある演奏。同じ曲で言えばLabequeの演奏の対局にあります。2台のピヤノの対話はとても面白いのですが、浪漫性をあえて排除したかのような演奏です。これもやはり賛否両論でしょうね。でも、なかなか面白いですよ。

このCDの前半に収められているKurtagの「ピアノのための遊び」。これはまったく面白くない作品です。聴いていて疲れるだけでした。よくもまあ、こんなつまらない作品を作った人もいるし、このデュオもこれだけつまらない作品をCDにしたものです。タイトルは「遊び」ですが、遊んでいるのは作曲者だけ。聴く方はちっとも遊べません。

以上、賛否両論ばかりの評ですが、20世紀のピヤノ・デュオを纏めた…という意味では、一聴に値するCDでしょう。

さて楽譜ですが、Ligetiは「Schott」から、Berioは「Univresal」から、Lutoslawskyは「Chester」から、Scriabinは「Belaieff」から、それぞれ現役で出ています。Kurtagは出版社不明です。

このCDも2004年3月1日時点で現役。オンラインですと「amazon.de」で入手できます。ずばり「これ」です。(2004年3月1日記)

曲目 W.A.Mozart: 魔笛・序曲(F.Busoni編曲の2台版)
    F.Liszt: ドン・ジョバンニの回想(2台版)
    S.V.Rachmaninoff:2台のピヤノのための組曲第1番「幻想」
    M.Infante:アンダルシア舞曲.
演奏 Uwe Berkemer & Hatem Nadim
CD番号 Anmitus amb 97 983

Busouni編曲のMozart:魔笛序曲・2台版のCDはないかしら」。…と探して見つけたのが、今回の1枚。このBusoni編曲、その存在はかなり有名で、2台ピヤノの演奏会でも取り上げられる機会が多い1曲です。原曲に忠実ですが、大変に華やかで演奏効果も上がる編曲。2台ピヤノの醍醐味が味わえる名編曲と言えましょう。それなのに録音の方はほとんどありません。いろいろ探してやっと見つけたのが、このUwe Berkemer & Hatem Nadimの演奏です。

これは期待通りでした。この曲って、原曲を聴いても「ワクワク感」がありますでしょう? それがこの演奏では一層募るのです。ゆったりとした序奏で「うん、これは何かあるな」と思わせて、アレグロの主部に移ると、そこでは華麗なフーガの展開。この表情の付け方、絶妙な演奏です。特にフーガの処理が見事。そして全体を通じて、とてもスケールの大きな演奏になっているのも素晴らしい。2台のピヤノの対話が実に面白い演奏です。

続くLisztの「ドン・ジョバンニの回想」も優れた表現。この曲、大変な難曲であるにも関わらず、それを全く感じさせないのが、この演奏の素晴らしいところ。安心して楽しく聴くことができます。ひとつひとつのフレーズの「息」を大きく取った、ゆったり感のある演奏。だけどすこしも「だらけ感」はありません。演奏時間も16分43秒と、ほぼ標準タイムです。この曲の1つの模範と言っても良いのではないでしょうか。

ただ、Rachmaninoffの「組曲第1番」になると、好き嫌いがはっきり別れる演奏でしょう。演奏の方向性は先に挙げたMozartやLisztと同じなのですが、それがRachmaninoffに良い効果を上げているのか、賛否が別れると思います。確かにどっしりと構えた演奏で、繊細さも兼ね備えています。これはこれで立派なのですが、評者にはどこか物足りなく感じました。この曲にはある種のスピード感とバッサリ感(うーん、これを文字にするのは難しい)が欲しいのですが、この演奏にはそれらが感じられません。強烈な個性もないですし。まあ、優れた演奏の1つ、とだけ申しておきましょう。

同じ事がInfanteの「アンダルシア舞曲」にも言えます。大変に安定した演奏で、曲の細部にまで神経が行き届いています。これはこれで立派な演奏なのですが、評者にとってはテンポ設定からして不満です。もっとビシバシと叩き付けるような演奏であっても良いと思うのですが。もうここまで来ると、単純に好き嫌いの領域ですね。評者は決してOKとは言えないけれど、こうした演奏が好きな方も、きっといらっしゃることでしょう。演奏自体は、まことにしっかりして堂々たるものなので。

楽譜ですが、幸いにしてすべて現役。Mozart=BusoniはInternationalから、LisztはEdito Musica Budapestから、RachmaninoffはBoosey & Hawksから、InfanteはSalabertから、それぞれ出ています。このCDも2004年2月16日時点で現役。オンラインですと「amazon.de」で入手できます。「これ」です。(2004年2月16日記)

曲目 C.Debussy: 海(A.Caplet編曲による2台版)
             管弦楽のための「映像」(同上)
演奏 Francoise Thinat & Jacques Bernier
CD番号 Arion ARN 68021

今週取り上げるのは、C.Debussyの管弦楽曲を2台ピヤノに編曲した作品を集めた1枚です。編曲者は作曲者の友人で、未完のままに置かれたバレエ音楽「おもちゃ箱」や「管弦楽のための映像」の第3曲「春のロンド」などのオーケストレーションを完成させたA.Caplet。CapletはDebussyと親しく交際するだけでなく、Debussyのピヤノ、そして管弦楽の書法をがっちりと身につけた人でもあります。そのため、例えば「管弦楽のための映像」では、Debussyがオーケストレーションした「ジーグ」と「イベリア」、Capletが編曲した「春のロンド」との間で、何の違和感もないの仕上がりです。またCapletは「子供の領分」を管弦楽に編曲したりしていますが、これもまるでDebussy自らが編曲したような出来映えになっています。

さて、このようにDebussyと密接な関係にあったCapletが編曲した管弦楽曲の2台ピヤノ版。

まず「」に関して言えば、Debussy自身による連弾版と比べて、より一層ピヤニスティックでスケールも大きい。もっとも連弾と2台を比べることはナンセンスなのですが、編曲の書法から見たら、Capletの個性が存分に発揮されていると見ることができます。Capletはこの編曲で「2台のピヤノでなければできない表現」をしているのです。これは楽譜を見れば(そして弾いて見れば)一目瞭然。大変に優れた編曲です。連弾版に比べて、より一層ピヤニスティックですね。

このCDに収録されたFrancoise Thinat & Jacques Bernierという2人のフランス人ピヤニストによる演奏、Caplet編曲の繊細で流麗、美的なところを全面に押し出した演奏になっています。線の細い、そしてやや硬めの音ですが、ひとつひとつのフレーズを、くっきりと描いていて。ある意味でCaplet編曲の模範演奏と言えるでしょう。もっとも、テンポを微妙に揺らしたり、上品な表情付けをしている点、なかなかお洒落で、単なる模範演奏の域をはるかに超えています。大変に充実した演奏でしょう。それに2台のピヤノによる会話がとても面白い!

ただ、迫力という点からは、Dag Achatz & 永井幸枝のBIS盤が一歩抜きん出ていると感じます。もっともこれも好き好きでしょう。

この編曲はDrandから楽譜が出ており、現役で入手可能です。1組購入すれば、2人分の楽譜が付いてきますので、2セット購入する必要はありません。

もう1曲。「管弦楽のための映像」が収録されています。これもとても優れた演奏で、一気に聴くことができます。これまた大変にピヤニスティックな編曲で、元から2台ピヤノ曲であったかのような編曲。それをThinat & Bernieは、とても色彩的に演奏しています。この編曲の演奏としてはお薦めでしょう。

で、この編曲なのですが録音を聴く前は、Capletによる連弾用編曲を2台で弾いているものだとばかり思っていました。この「管弦楽のための映像」の連弾編曲は手の接近や交差が多く、2台で弾いても何の不思議もないと思っていたからです。

ところが手元の連弾用楽譜を見ながら演奏を聴いてみたら、連弾用とはまったく別の編曲。音の配分が全然違うのです。評者はこのCDを聴くまで知らなかったのですが、「管弦楽のための映像」には同じCapletの編曲で連弾用と2台用がある模様。この2台用編曲に関してはM.Hinsonの「Music for More than One Piano」にも記載がありません。CDの解説によればDrandから出ているはずですが、過去のカタログにも現在のデータベースにも2台用の楽譜は見当たりません。ずいぶんと調べてみましたが、結局詳しいことは分かりませんでした。

この件に関して御存知の方がいらっしゃいましたら、ご教授願いたい次第です。

CDは2004年2月9日時点で現役。オンラインですと「amazon.de」で入手できます。「これ」です。フランスのCDなのに「amazon.fr」では見つかりませんでした。(2004年2月9日記)

曲目 G.Gershwin: キューバ序曲(G.Stone編曲の2台版)
             ラプソディ・イン・ブルー(Walachwski編曲の2台版)
             3つの前奏曲(G.Stone編曲の2台版)
             ラプソディ第2番(作曲者自編の2台版)
    P.A.Grainger: ポーギーとベスの主題による幻想曲
演奏 Anna & Ines Walachwski
CD番号 Berlin Classics 0017642BC

とても瑞々しいGershwinとGrainger。シャープなタッチが全体を支配する録音です。Gershwin特有の「物憂げさ」は微塵も感じられません。でも、決してクールではなく、どの曲も、かなり彫りの深い演奏を聴かせております。

このディスクでいちばんの聴き物は、「キューバ序曲」でしょう。この曲の2台用編曲は比較的有名ながら、これまであまり録音はありませんでした。評者もこのディスクで初めて耳にした次第です。ルンバのリズムが全体を支配する曲で、Anna & Ines Walachwskiというポーランド出身の姉妹デュオは、このリズムを強調して大変に明瞭な演奏をしています。ただ、この曲特有の熱気や物憂げな雰囲気は感じられず、クールでスピーディ。とても現代感覚に溢れた演奏です。

こうした演奏がGershwinの作品として面白いかそうでないかは議論の分かれるところでしょう。ここまでGershwinをスマートに処理してしまった良いのか…という点で。ただ、評者としては、大変に好感を持った次第です(だからこそ、こちらで紹介したのですが)。

まったく同じことが、「ラプソディ・イン・ブルー」「3つのプレリュード」「ラプソディ第2番」にも言えます。これらにはLabequeが弾いた名演がありますが、それをもっともっとクールにしたのが、この演奏です。鋭く作品に切り込むという面では、Labequeと共通するところがありますが。

ちなみに「ラプソディ・イン・ブルー」は、通常の作曲者によるWarner版ではなく、このデュオが独自に編曲したとの記述があります。ただ、よく聴いてみると、第一/第二を交代させたり、ちょっと音の配分を変えたりしている程度で、核ミサイルをぶち込まれたような斬新さはありません。もちろん、とても高度な演奏なので、これはこれとして楽しめますが、「独自編曲」として見るとちょっと弱い気がします。これと比べるとLabequeの方がかなりハチャメチャですね。どちらも別々の魅力がある演奏なので、単純にどちらが良い。ということは言えません。

最後に収録されているGrainger「ポーギーとベスによる幻想曲」も大変に秀逸な演奏。Gershwinと同様に大変クールなのですが、鋭いタッチで描かれています。この曲はいくつも素晴らしい演奏がありますが、ここでまた新たに素敵な演奏が加わりました。一聴に値する演奏です。

楽譜はすべて「Warner Bros.」から出ており現役。このCDも出たばかりで現役です。オンラインですと「amazon.de」で入手できます。ずばり「これ」。まだ来日したことのない若いデュオですが、是非ともライヴで聴いてみたいですね。(2004年2月2日記)

曲目 J.S.Bach: 管弦楽組曲 BWV 1066-1069
            パッサカリア BWV 582
            トッカータとフーガ BWV 565
            プレリュードとフーガ BWV 552
                   いずれもM.Reger編曲による連弾版
演奏 Sontraud Speidel & Evelinde Trenkner
CD番号 MDG 330 1006-2

演奏困難な管弦楽の連弾用編曲に挑戦し続ける、Sontraud Speidel & Evelinde Trenkner。今回ご紹介するのは、彼女たちが演奏したJ.S.Bach=M.Reger編曲の「ブランデンブルグ協奏曲」に続く1枚。

同じJ.S.Bachの「管弦楽組曲」などをM.Regerが連弾用に編曲したものばかりを集めたものです。この「管弦楽組曲」の連弾用編曲、「ブランデンブルグ」と同様に、「全パートを完全に連弾用に編曲した上で、連弾ならではの演奏効果を得る」という、演奏する上で非常に至難な編曲です。

両奏者の手の接近や交差はもとより、自分自身の手をひっぱたいてしまうような難所が、そこここに。「ブランデンブルグ」と並んで、連弾として最難曲の1つに挙げられるでしょう。それをものの見事に演奏しているのが、このディスク。

聴いているだけですと、その難しさはそれほど感じません。しかし実際に楽譜を目の前にして弾いて見た方ならお分かりかと思いますが、それは凄まじい難曲です。それをいかにも「さらり」と聴かせてしまうのがこの演奏。これだけ聴いてしまうと、いかに演奏困難な曲なのかは、全然分かりません。

しかも、ただ弾くだけではありません。とてもスピーディで爽やか。スマートにまとめた演奏です。もちろん曲の「ツボ」は押さえているので、素晴らしく華やかに響きます。現代的で明るく輝かしいBach。このReger編曲の素晴らしさを再認識させられる演奏と言えます。それにしても、このアンサンブルと音の粒立ちは目の覚めるよう!楽譜を見ながら聴くと「よくぞ、ここまで弾けたなぁ」と思わずため息をついてしまいます。

なお、この演奏では、楽譜の指定にあるリピートを全て実行しています。

同時に収録されている、J.S.Bachのオルガン曲の連弾用編曲も素晴らしい。Bachのオルガン曲を連弾用に編曲したものがあるのは知っていましたが、Reger編曲があるのを知ったのはこのディスクのおかげ。本当に素晴らしい編曲、そして演奏に感服です。

さて楽譜ですが、「管弦楽組曲」はC.F.PetersとInternationalから出ており、両者は同一です。これは容易に入手できます。オルガン曲の編曲はたぶんC.F.Petersから出ていたと推測できるのですが、現在絶版で入手は極めて困難です。

このCDは2004年1月26日時点で現役。「amazon.de」で入手できます。ずばり「これ」です。(2004年1月26日記)

CDタイトル Reger Music for Four Hands
曲目 M.Reger: 6つのブルレスケ Op.58
           序奏とパッサカリア(作曲者自編)
           12のワルツ・カプリース Op.9
           モーツアルトの主題による変奏曲とフーガ Op.132a
                      (作曲者自編)
演奏 Yaara Tal & Andreas Groethuysen
CD番号 SK 47671

Max Regerの連弾曲ばかりを集めた1枚。Regerというと「複雑な対位法を耳にするのが辛い」と仰る方もいらっしゃるでしょう。でも、ここに集められた曲は、比較的親しみ易いものばかりです。Regerの曲って良ーく聴くと、世間が言うほど難解なものではありません。楽しく弾いたり、聴いたりできる曲がたくさんあるのですよ。ここに収められた曲は、とりつきやすいものばかりです。

Regerと言う人は連弾がとても好きだったようで、オリジナルの連弾曲を6曲のほか、自身の管弦楽曲やオルガン曲を連弾に編曲しています。しかしその多くは、録音がありません。そうした意味で、大変に高度で充実した演奏を収録したこのCDは貴重と言えましょう。

このCDでは、Regerの連弾曲として大変に有名なもの2曲と、無名に等しいもの2曲を演奏しているのが面白い点です。まず、有名なのは、管弦楽曲を原曲とする「モーツアルトの主題による変奏曲とフーガ」でしょう。この曲はRegerを語る上で問題なく代表作です。Regerは、これを連弾と2台ピヤノ用に編曲しています。Yaara Tal & Andreas Groethuysenは連弾用編曲を実に多彩な表情を見せながら演奏しています。ひとつひとつの変奏にそれぞれの性格を持たせるように。きりりと締まった演奏ながら、浪漫性もたっぷりです。この曲の代表的な録音として、長く残ることでしょう。

もう1つ「有名どころ」では、「6つのブルレスケ」があります。複雑な対位法を駆使した、この重厚な音楽をTal & Groethuysenは「ほら、こんなに素敵なんだよ!」って聴かせてくれます。この曲は、ある意味で連弾の限界を突いている曲なのですが、彼らの手にかかると、まるで魔法のように爽やかに聞こえます。逆に言えば、これだけ流麗に演奏をするのは極めて困難だということです。

無名なところでは、「オルガンのための序奏とパッサカリア」を連弾に編曲したものが筆頭でしょう。作品番号もついていないし、ドイツの「Max Reger Institute」が出している「Reger全集」(連弾曲は第13巻)にも収録されていない秘曲。原曲の作曲は1899年、編曲は1914年です。さすがの「C.MaCgraw:Piano Duet Repertoire」にも、この曲の記載はありません。題名からすると、とっても難解そうな曲ですが、以外にも親しみやすいのです。J.S.Bachを浪漫的にした感じ、というのがいちばん適切な表現でしょう。これ、なかなか行けますよ。

一応作品番号はついているけど無名度(?)が高い、作品9の「12のワルツ・カプリース」。1892年、作曲者19歳の作品です。これを聴くと、Regerが作曲家としてどのような方向に行こうかと模索している姿が目に浮かびます。その意味でなかなか面白い作品でしょう。

いずれの作品もTal & Groethuysenが高度な演奏で聴かせてくれます。Regerにはこれ以外にも連弾曲はたくさんあるので、是非この人たちに他の作品も弾いて頂きたいと願っている評者です。そして、Regerが好きな方はもちろんのこと、連弾曲のレパートリを広げようとなさっていらっしゃる方たちにも是非1度、聴いて頂きたい録音です。

楽譜ですが、「モーツアルトの主題による変奏曲とフーガ」と「6つのブルレスケ」はC.F.Petersから出ており現役。容易に入手できます。「序奏とパッサカリア」は、どこから出ていたのか不明。入手は困難です。諦めましょう。「12のワルツ・カプリース」はSchottから出ていましたが現在絶版。同社にコピー譜作成依頼をすれば、楽譜の入手は可能でしょう。

このCDも現役。オンラインですと「amazon.de」で入手できます。ずばり「これ」です。これまで品切れでしたが、Sonyが再発売しました。(2004年1月19日記)

CDタイトル Music of the Americas
曲目 N.Dello Joio: アリアとトッカータ(2台)
    C.Guastavino: 2台ピヤノのための3つのロマンス
              バイレシト(2台)
              ガト(2台)
    R.Cordero: デュオ 1954(2台)
    A.Benjamin: ジャマイカン・ルンバ(2台)
             2つのジャマイカの街の歌(2台)
    A.Copland: キューバ舞曲(2台)
    J.Aguirre: ヒュエラ
演奏 Noel Lester & Nancy Roldan
CD番号 Centaur CRC 2171

名曲で、比較的広く知られている。そして何度も聴きたいし、自分のライブラリには是非とも揃えておきたい。こうした曲はいろいろありますが、有名な曲なのにほとんど録音がない、といったケースも稀ではありません。

「あれ、どうしてこの曲の録音がないのだろう」。たくさんの曲と接していると、往々にしてこうしたことに出会います。楽譜が絶版なら仕方ありません。しかし楽譜が容易に入手可能でありながら、何故か録音に恵まれない曲も。

このCDを入手したのも、録音に恵まれない曲を聴くためです。その曲とは、A.Benjaminの「ジャマイカン・ルンバ」と「2つのジャマイカの街の歌」。いずれもピヤノ・デュオの名曲です。ちょっとでもデュオに関わった方なら、曲名くらいは耳にしたことがあるでしょう。時折、日本のステージでも演奏されますね。楽譜も「Boosey & Hawkes」から出ており現役です。

ところがこの曲、ほとんど録音がないのです。ちょっと信じがたいこと。あちこちのサイトで探したのですが、まったくといっていいほど見つからない。こんな有名な曲ならば少なくとも2〜3種類の録音があってもいいのに。過去にはいくつかあったようですが、みんな廃盤です。その中で、ようやく探し得たのが、この1枚。

演奏はごくごく平均水準で、強烈な個性はありません。どちらかというと、「ジャマイカン・ルンバ」にしても「2つのジャマイカの街の歌」にしても、曲の親しみやすさやピヤニスティックなところを全面に出した穏やかな演奏です。確かにそれはそれで楽しめるのですが、もう少しアクが強くても良いのでは…と感じた評者です。でも、仕方ないのです。現在入手可能な演奏は、これだけですから。しかも、10年以上前に出たディスクなので確実に入手できるかどうかは保証の限りではありません。「amazon.com」でも一応入手可能なようですが、入荷は確定していません。

なお、ここに収録されている曲は、いずれも北米および南米関係の2台ピヤノ曲。作曲時期的には「ゲンダイオンガク」ですが、親しみやすいものばかりです。聴いていて、とても楽しいですよ。ただし、A.Coplandの「キューバ舞曲」(Boosey & Hawkes刊)を除いて、楽譜がどこから出ているのか、そして現役かどうかも判明できませんでした。御存知の方がいらしたらご一報下さい。

このCD、上記のように「amazon.com」で販売しています。「これ」です。評者も手元に届くまでずいぶんと待たされました。(2004年1月12日記)

曲目 A.Bruckner: 交響曲第3番ニ短調
            (1877年版:G.Mahler/R.Kryzanowski編曲の連弾版)
演奏 Evelonde Trenkner & Sontraud Speidel
CD番号 MDG 330 0591-2

Brucknerの交響曲の連弾用編曲。Brucknerの交響曲というと、ピヤノからかなり“遠い”ところにあるように感じますが、意外と連弾用編曲は多いのです。全曲--といっても通常の第1番〜第9番までですが--としては、C.F.Petersから出ていたO.Singerの編曲が有名です。これは3分冊で出ていましたが、残念ながら現在は絶版です。編曲の出来としては、ごく水準と言えましょう。

実は、このほかにも“単品”で、連弾用編曲はあるのです。具体的に編曲者を挙げることはできないのですが、少なくとも3番、4番、5番、7番は、それぞれ複数の連弾用編曲が確認できています。評者の手元にも4番と7番は「編曲者不明」の連弾用があります。蛇足ながら5番と7番に関しては2台ピヤノ用編曲も、中古楽譜店の書架で見たことがあります。ちなみに5番のソロ用編曲なら手元にあります。慌てていたので中古書店で間違えて買ってしまったのです。

このようにBrucknerの交響曲は、意外とピヤノ・デュオ用の編曲が残されています。しかし今回取り上げるディスクは異色でしょう。編曲者は、あのG.Mahlerですから。Mahlerの交響曲も全曲が連弾用に編曲されているのですが、編曲者はB.Walter、J.V.v.Woess、A.v.Zemlinsky、A.Casella、A.bergなどいずれも他人。自分では自分の交響曲を1つも連弾用にしていないのですね。せいぜい第5番の一部をソロ用に編曲するなどしているくらい。ピヤノとの関わりといえば、最初期のピヤノ4重奏やヴァイオリン・ソナタ、それから歌曲のピヤノ・パートくらい。Brucknerと負けず劣らずのピヤノから遠い作曲家です。

それなのに、Brucknerのようにオリジナル連弾曲もなく、自分の作品すらピヤノ用に編曲していないというのに、Mahlerは他人の交響曲を連弾用に編曲していたのです。ただ、編曲の経緯が分からないのですが、第1〜第3楽章をMahlerが、第4楽章をR.Kryzanowskiという人が手がけています。編曲の手法自体はかなりオーソドックスなためか、第1〜第3楽章と第4楽章の間に、大きな違いは見られません。楽譜を分析すればいろいろな違いが出て来るのでしょうが、音で聴く分には編曲者が異なることに関する違いは、ほとんど聴き取れません。ただ、ピヤノ曲として楽しめる水準にある編曲…ということは、はっきり申し上げられます。

もっとも、聴いて楽しいのは演奏者であるEvelonde Trenkner & Sontraud Speidelの力によるところが大きいかも知れません。このデュオはたびたび本欄でも取り上げて来ていますが、連弾用編曲物を実に面白く弾いて聴かせるのです。そこがこのディスクの優秀で価値ある点なのですが、(楽譜を見ていないので分かりませんが)ただ楽譜通りに弾いただけでは、これほど面白いものかどうかは何とも分かりません。

なお申し訳ありませんが評者は原曲をほとんど存じ上げません。そのためこのディスクの評価は、あくまで純粋な連弾曲の演奏として「面白く聴くことができる」としました。ピヤノ・デュオ愛好者は聴いて損はないでしょう。

ちなみにBrucknerの交響曲は、各曲とも異なるヴァージョンが出ているので有名ですね。このディスクに録音されているヴァージョンは、現在最も耳にする機会の多い1888〜1889年版ではなく、1877年のヴァージョンを底本にしています。

この楽譜は現在絶版…というかどこから出ていたのかも分かりません。図書館のデータベースや中古市場でも、1度も見たことがありません。御存知の方がいらっしゃいましたらご一報下さい。

CDは2004年1月5日時点で現役。オンラインですと「amazon.de」で入手できます。ずばり「これ」です。amazonのタイトルで編曲者が「Zemlinsky」となっていますがこれは大ウソ。間違いです。(2004年1月5日記)

CDタイトル Piano Music for Four Hands
曲目 A.Dvorak: ボヘミヤの森より Op.68
    A.Rubinstein: 性格的な6つの小品 Op.50
    S.Rachmaninoff: 6つの小品 Op.11
演奏 Yaara Tal & Andreas Groethuysen
CD番号 SONY SK 47199

Sonyレーベルから数々の名演をリリースしてきたYaara Tal & Andreas Groethuysenによる名盤。10年以上前に出た録音ですが、最近また容易に入手できるようになったこともあり、取り上げることにしました。

評者にとって、このCDはTal & Groethuysenと出会った衝撃的なものでした。LabequeやPekinelと最初に出会ったときも脳天直撃物でしたが、このCDもそれらに負けず劣らずのショックを評者に与えてくれました。

強烈な推進力を持った鮮やかな音楽づくり。しかも楽曲全体をしっかりと把握し、強固な構築力で聴衆に向かって提示する。その目眩く演奏は、筆者の脳天に強烈な一撃を与えました。このCDの後、Tal & Groethuysenの演奏は録音でもライヴでも何度も聴くことになるのですが、何を弾いても曲が新鮮に感じることは、ずっと変わりません。富山や金沢あたりの言葉で言えば、彼らの手にかかると曲が「きときと」になるのですね。

このCDには3曲が収録されていますが、そのいずれもが各曲にとって、現時点における最良の姿を示しているのです。ここまで完成度の高い演奏は、ちょっと見当たりません。中でもDovrakとRachmaninoffは数多くの演奏が世にありながらも、これが現在耳にできる究極点と言っても差し支えないでしょう。演奏のお手本になるかどうかは別として。とりわけRachmaninoffにおけるテクニックの切れ味とアンサンブルの妙味は、この曲の演奏としてずば抜けた出来映えです。冴え渡る個々の奏者のテクニックはもちろん、絶妙とも言える連弾能力が、聴き慣れたこの曲に新しい生命を吹き込んでいます。

一緒に収録されている、Rubinsteinも素敵な演奏。冴えた中にも、安堵する暖かさを秘めています。本当に浪漫的で素敵な連弾曲ながら、なかなか紹介されることのないこの曲を、こうした高度な演奏で世の中に知らしめたのは、大変な功績だと言えましょう。タイトルにあるように、6つの小品の「性格」を見事に弾き分けております。この弾き分け、大変に素晴らしい。まるで6人の違った人物に向かい合っているかのような感を持ちます。

評者らにとって懐かしいCDで、きっとこれをお読みの多くの方がお聴きになっていらっしゃると思います。でも、もしまだの方がいらしたら、是非お聴きになって下さい。決して損はしませんよ。

楽譜ですが、「ボヘミヤの森より」は、BarenreiterおよにMasters(Supraphoneのレプリント)から出ています。「6つの性格的小品」はAugenerから出ていましたが現在は絶版。入手は極めて困難です。「6つの小品」はBoosey & HawkesおよびBelwin/Warner Bros.から出ており現役。Belwin/Warner Bros.は「Works for One Piano/Four Hands」(ISBN 0-7692-3980-3)というアルバムに収録されています。このアルバム、実に便利で、「6つの小品」のほかに「イアタリアン・ポルカ」、6手のための「ワルツ」と「ロマンス」も同時収録されていて価格は9ドル95セントです。

このCD、冒頭で申し上げましたように現役。オンラインですと「amazon.de」(「これ」です)や、国内盤が「amazon.co.jp」(「これ」です)で入手できます。(2003年12月30日記)


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(c) Yumiko & Kazumi 2003