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曲目 J.W.Kalliwoda: 交響曲第1番 ヘ長調 Op.7(C.Czerny編曲による連弾版)
              連弾のためのディヴェルティスマン Op.28
              3つの大行進曲 Op.26
              連弾のためのグランド・ソナタ Op.135
演奏 Duo Takezawa-Sischaka (竹沢絵里子+Christoph Sichka)
CD番号 Ars Produktion FCD 368 408

Johann Wenzel Kalliwodaを御存知ですか? 1801年にPragueで生まれ、ドイツを中心に活躍し、1866年にCarlsruheで没した、前期浪漫派の作曲家です。生前には多数の作品を残し、その多くが演奏されてきましたが、今ではすっかり忘れられた作曲家になってしまいました。評者も不勉強なところもあるのですが、このCDに出会うまで、Kalliwodaの名前も作品も存じ上げませんでした。

評者は、「バックナンバー Vol.7」でご紹介した、「Duo Takezawa-Sischaka」の演奏を聴いて感銘し、「このデュオ、他にもCDを出していないのかしら?」と探したところ、出会ったのがKalliwodaの連弾曲を集めた、このCDでした。初めて出会ったKalliwoda。新鮮でしたね。連弾曲として、非常に優れており、聴き応えもあります。ただ、強烈な個性がないところが欠点といえば欠点なのでしょう。音楽史の中で、忘れられたような存在になってしまっているのも、このあたりに原因があるのかも知れません。

でも、聴いていて、とても楽しいですよ。爽やかで、妙な湿り気がなくて。楽譜を参照していないので何とも言えませんが、弾いてもなかなか楽しめると思います。

ここに収録された中では、「グランド・ソナタ」が出色でした。ほのかな憂愁を含んだ第一楽章の出だし。なかなかイケます。そこから展開される4楽章の堂々としたソナタ。終楽章の輝かしい音の流れは、非常に心地よいものを感じさせます。とてもピヤニスティックですし、プリモとセコンダの一体感もなかなかのものです。そして各楽章の構成もかなりしっかりしており、その点でも作品として優れていると言えましょう。

Kalliwodaと言う人は、ピヤノ曲ばかりでなく、交響曲をはじめとする様々なジャンルの作品を残しています。このCDで最初に収録している「交響曲第1番」もその一端です。もちろんここで収録してあるのは連弾用編曲ですが、編曲者が凄い。何と、あのCarl Czernyです。Czernyクラスの人が連弾編曲を手がけるなんて、当時はこの曲、余程注目されていたのでしょう。以前にもこのコラムで書いたことがありますが、Czernyは連弾作曲家としても、抜群の腕を持っていました。この編曲でも、その編曲技巧を存分に発揮しています。「編曲物ですよ」と知らせずに聴かせたら、連弾オリジナルと思ってしまうくらいの出来映えです。明るく流れるような旋律は聴いていて心地よいし、プリモとセコンダの掛け合いも楽しく聴けます。惜しむらくは、やはり強烈な個性がないのですね。でも、曲は曲として、楽しめます。

もっとも、これだけ楽しく聴くことができるのも、演奏者であるDuo Takezawa-Sischakaの実力があるからかも知れません。大変にメリハリのついた、スピード感のある輝かしい演奏です。こうした、スマートで精鋭的な演奏だからこそ、この曲も生き生きと聞こえてくるのでしょう。凡庸なデュオがやったら、やっぱり面白くないかも知れません。曲の方で、演奏の不徹底を助けてくれるような雰囲気はありませんから。まだCD録音などは少ないですが、Duo Takezawa-Sischakaは、かなりの力を備えたデュオと見ていいでしょう。同時に収録している「ディヴェルティスマン」や「3つの大行進曲」も、大変に優れた演奏です。評者から見ると、もっともっと意欲的に録音に取り組んで、多くの演奏記録を残して頂きたいデュオですね。

ちなみに楽譜ですが、「交響曲」はPetersから、その他はBreitkoph und Hartelから出ていましたが、現在は全て絶版。中古市場にも出てなくて、入手は極めて困難と思われます。

なお、このCDは2003年9月8日時点で現役。オンラインですと「amazon.de」で入手できます。連弾好きの方、「ああ、こんな曲もあるのだな」と、一度は聴いて損はないディスクです。
(2003年9月8日記)

曲目 G.Mahler: 交響曲第1番 ニ長調 「巨人」 (B.Walter編曲による連弾版)
演奏 Prague Piano Duo(Zdenka & Martin Hrsel)
CD番号 Plaga Degitals PRD/DSD 250 197

久々に「脳天直撃的」な新譜が出ました。以前、評者が「楽曲解説」で、それこそボロクソに酷評した、「Mahler:交響曲第一番」(連弾版)のCDです。編曲は、あの指揮者のB.Walter。まさか、この編曲の録音が出るとは、思ってもみませんでした。

演奏を手がけているのは、チェコ出身の「Prague Piano Duo」(Zdenka & Martin Hrsel)。このデュオは、著名なピヤノ・デュオ曲に加え、しばしば「世界初録音」のような珍しいレパートリをCDに収録しています。今回のMahlerもその一環なのかも知れません。しかし曲は、評者が「いわゆる邪悪系編曲」とし、今まで誰も省みなかったB.Walter編曲の「巨人」です。さて、どうなることやら。期待半分、コワイモノ見たさ半分で聴いてみました。ちなみに録音関係者の話では「極力楽譜に手を加えず、そのまま弾いて欲しい」との要望を出したのだそうです。

感想をひとことで言ってしまうと、「まるで墨絵のような、モノトーンのMahler」。しかも、意外と連弾曲としてイケています。ちゃんとしたピヤノ曲になっているのですね。「それでは、お前の楽曲分析はインチキではなかったのか」というご意見も出ることでしょう。いえいえ、決してインチキではありません。「極力楽譜に手を加えていない」との話だったのですが、実は、第一楽章の冒頭から思い切り手を入れて、「ピヤノ曲として不適切なところ」を上手に回避しているのです。

例えば、第一楽章冒頭。楽譜ではプリモ右手が「ピアニシモ、かつ、白い音符」の連続になっています。この録音では「白い音符」をオクターヴのトレモロに置き換えて、響きがきれいに持続するように楽譜を改変して弾いているのです。ここに限らず、音を置き換えたりアーティクレーションを変えたりしているところが続出。やはり「生の楽譜」のままでは、どうにもならなかった代物なのでしょう。それを必要最小限度で改変し、自然な響きのピヤノ曲として成立させているところ、Prague Piano Duoはさすがです。どの楽章も、平均的な管弦楽による演奏よりもかなり早めのテンポで弾いて、演奏がだらけないように、さらに聴き手が飽きないように工夫しています。どのくらい早いかと言うと、全曲を43分で弾いている、と言えばおおよそのことはご想像いただけるでしょう。

何はともあれ、およそピヤノ向きでないMahlerの「巨人」が、これほどまでに美しく響くとは、予想外でした。ただ、同じMahlerの交響曲の編曲でも、A.v.Zemlinslyが手がけた第6番のように、華麗なピヤニズムに溢れた編曲ではありません。そのためどうしても表現の幅に制限が出てきてしまいます。その結果、先ほど申し上げたように「まるで墨絵のような、モノトーン」になったのだと解しております。

ただ、こうしたMahlerが万人向きかというと、疑問があります。原曲は多くの方が耳にしている有名曲ですし、その響きが頭の中に残っていると、どうしてもピヤノだけによる演奏に不満を持たれる方も出ることでしょう。先述の通り、この編曲自体は、あまり凝ったトランスクリプションではありませんので。ですから、この演奏に賛否両論があっても当然のことと思います。しかしながら、「ああ、こうしたMahlerもあるのか」と、ピヤノ、特にデュオ愛好家の方に、一度は聴いて頂きたい録音です。

この編曲楽譜は、現役。「Kalmus/Warner Bros.」から出ております。ずばり「これ」。この楽譜には編曲者名など何の記載もありませんが、評者が調査したところ、B.Walter編曲に間違いありません。元々はUniversalから出ていたものですが、そのリプリントです。評者の調査だけでなく、国内外の識者の方からも、ご指摘・ご教授がありました。

このCDは、出たばかりで、まだ各国の「amazon」系列では出ておりません。ただ日本国内の皆さんは、「HMV」のWebサイトで購入することができます。ずばり「これ」。早く、世界各国の方が簡単に入手できるようになれば、いいですね。(2003年8月25日記)

CDタイトル: Aubade and other music -- George Lloyd
曲目 G.Lloyd: オーバード (2台のピヤノのための)
           夕暮れ(同上)
           サマルカンドを抜ける道(同上)
演奏 Anthony Goldstone & Caroline Clemmow
CD番号 Albany TROY 248

George Lloydという作曲家を御存知ですか?」、という質問を差し上げると、ほとんどの方は「それって、どこぞのどなたですか?」と、お答えになるでしょう。「はぁいっ、知ってますっ!」と元気に手を挙げる方は、余程の英国音楽好きか、あるいは音楽史の専門家か、はたまたこの作曲家に偶然出会った方ではないでしょうか? かく言う評者の1人である不肖かずみも、十数年前、偶然に1枚のCDを入手しなければ、この作曲家の存在を知らずにいたことでしょう。

その時、入手したCDは、Lloydの「ピヤノ協奏曲第4番」とピヤノ独奏の小品集が収まったものでした。何気なく「面白そうだな」と購入したCDでしたが、これが「当たり」。一遍で、この協奏曲が好きになってしまいました。そして、一緒に収録してあるピヤノ曲も。Lloydは現代に生きる人ですが、作風はかなり浪漫的。多少は「ゲンタイオンガク」っぽいところもありますが、渋い浪漫性と若干のユーモアに満ちた旋律は、なかなか素敵です。

この人、英国で言えばBenjamin Brittenと同じ1913年生まれ。早くから、その才能を発揮してきました。ところがBrittenが現代音楽史の中で重要視されているにも関わらず、1970年代後半までLloydの存在は音楽史の中で埋没しておりました。その原因は、第二次大戦に参加したことによる「戦争後遺症」によるものです。詳しくは別の解説書などに譲るとして、要は世間に出てこられなくなってしまったのです。で、何をやっていたかというと、お花屋さん。正確に言えば、カーネーション栽培の農家をやっていたのです。ただその間も作曲を続けました。そして1977年に「交響曲第8番」で奇跡的な復活を遂げ、現在では作曲の他、自作の指揮などをして多数の録音を残しています。

評者らはLloyd作品の全貌を存じ上げませんが、あちこちのオンラインCD屋さんを彷徨っていたところ、これまた偶然にこのCDを見つけたのです。それまでLloydがピヤノ・デュオ作品を作っていたなんて、まったくの予想外でした。早速取り寄せて聴いてみたのですが、これがなかなかイケるのです。しばらくハマって、何日も繰り返して聴きました。そうなんです。この作曲家、一度ハマると、滅茶苦茶ハマってしまうのです。

このCDに収録されている3曲は、いずれもピヤノ・デュオ作品の完成度としては、かなり高い方ですし、旋律も和声も比較的親しみやすいので、楽しんで聴くことができました。「オーバード」は8つの小品で構成する曲---といっても全曲演奏すると、38分にも達するのですが---で、異なる性格の小品が次々と現れます。特に「愛のデュエット」と「ワルツ」における、2台のピヤノの対話処理が非常に面白い。同時収録の「夕暮れ」は素晴らしく浪漫的なデュオ曲ですし、「サマルカンドを抜ける道」も、楽しく聴けます。特に、「夕暮れ」など2台ピヤノの演奏会で取り上げたら、大受けするでしょうね。

こうしたピヤノ・デュオとしては「ウルトラ・マイナー系」の曲を、この欄でもたびたび紹介している「Anthony Goldstone & Caroline Clemmow」の2人組が弾いています。そのデュオ、巧いですね。マイナー曲に巧いデュオを使うなんて、このAlbanyというレーベル、なかなかです(このレーベル自体がマイナーですが)。

この曲は、是非多くの方に聴いていただきたいし、弾いていただきたい。…のですが、楽譜がどうしても見つからない。現代作曲家でよくあることなのですが、コピーライト・コントロールがかかっていて楽譜が出ないのかも知れません。あるいは、ただ未出版なだけなのでしょうか? いずれにしても楽譜のことはCDの解説書にもなく、インターネット上で散々探したのですが、遂に分かりませんでした。この楽譜に関して情報をお持ちの方、是非ご一報下さい。本当に素敵な曲たちなので、このCDをお聴きになって「弾きたい!」とおっしゃるデュオもきっといらっしゃるでしょうから。評者らも、この曲の楽譜を、是非とも参照してみたいです。

このCDは2003年8月19日時点で現役。オンラインですと「amazon.de」あるいは「amazon.co.uk」で入手できます。ただ英国のCDであるにも関わらず、最初に何故か「uk」に注文したら全然入荷せずしびれを切らしてキャンセル。「de」に発注したら、1週間で到着しました。どうなっているのでしょう??? (2003年8月19日記)

CDタイトル: American Works for Piano Duet
曲目 V.Persichetti: 2台のピヤノのためのソナタ Op.13
    S.Barber: 「思い出」 Op.28(連弾によるオリジナル版)
    V.Persichetti: ピヤノ連弾のための協奏曲 Op.56
    D.Diamond: 2台のソロピヤノのための協奏曲
    J.Fennimore: クリスタル・スタイルズ
演奏 Georgia & Louise Mangos
CD番号 Cicago Classical Recording Foundation CDR 90000 069

去年の暮れ、たまたま知った「Cicago Classical Recording Foundation」という団体。米国の若手演奏家を面白い録音に起用したり、米国作品ばかりを集めたCDを出したりと、大変に意欲的な活動をしています。そのレーベル(?)で、コツコツとピヤノ・デュオCDを出しているのが、今回取り上げたGeorgia & Louise Mangosという姉妹デュオ。このコーナーでも過去2回取り上げましたが、録音を重ねるごとに、演奏…曲作りといった方が良いかも知れません…が、めきめき上達していっています。とても楽しみな姉妹デュオ。このCDは、今年の5月に出たものです。普段まとめて聴くことのできない、米国の作曲家の作品ばかりを集めています。

このCDの何が素晴らしいって? 何と言ってもS.Barberの「思い出」が、大変に高度な演奏で収録されている点。この曲、これまでも何種類かの録音を聴きましたが、評者にとって納得できるものは、ありませんでした。それがどうでしょう。この録音に出会って、やっと「ああ、やはりこんな素敵な曲だったのだね」と実感することができました。

Berberは、現代にありながら、浪漫的な作品をたくさん書いた人です。現代感覚に溢れながらも、「聴いて楽しい」作品を残しました。この「思い出」も、その1つです。数はありませんが、これまでもいくつかの録音はありました。だけど、どうも「腑抜け」だったり、曲の纏め方が甘いものばかり。楽譜を見ながら「こんな曲じゃ、ないはずなのになぁ」って、いつも思っていました。ところが、この録音は、そうした不満を一気に解消してくれました。

湿り気のない、明るい音の流れ。旋律を上手に歌わせながらも、全体が引き締まっている。そして曲想に合わせて、鮮やかに表情を変えて。繰り返し聴いても飽きない、それは素敵な演奏です。この曲の、良い意味での模範演奏(決して教育的な意味でなく)ではないかしら。評者は、そのように感じました。個々の曲作りはもちろんですが、小品の集まり全体をガッチリした構築感を持って纏めているところなど、感服した次第です。これは、もう、絶対のお薦め。なお、ここで弾いているのは、Berberオリジナルの連弾版。楽譜はSchirmerから出ており現役です。楽譜を購入する際には、他人による2台版もあるので、気を付けて下さいね。

D.Diamondの「2台のソロピヤノのための協奏曲」(Peer Internationalから出版。現在は絶版らしい)と、J.Fennimoreの「クリスタル・スタイルズ」(出版社不明。現役かどうかも不明)も、現代アメリカらしい、楽しい作品です。初めて聴きましたが、とても楽しめます。このCDを聴いてみて「お、弾きたいな」と思われる方もいらっしゃるかも知れません。この曲の楽譜に関する情報がありましたら、是非ともお寄せ下さい。

で、とてもつまらなかったのはV.Persichettiの2つの作品。特に「連弾のための協奏曲」は、聴いていて苦痛を感じました。「現代アメリカの傑出した連弾曲」と仰るかたもいるようですが、これを書くに当たって素面で3回聴いたのですが、拷問状態。1日で聴くことはできず、3日に分けて聴きました。それでも3回目には頭痛がしてきた次第です。「演奏が凄い」ということは分かるのですが、作品自体が実につまりませんでした。ほとんど無調の音列が、延々20分も続くのです。この曲がお好きな方には誠に申し訳ありませんが、もう聴きたくありません。そんな作品なのに、Theodore Presserというところから出ていて、現役なのですね。15ドルで買えます。

同じ作曲者の「2台のピヤノのためのソナタ」は、もう少しましでした。4楽章で構成するのですが、第3楽章と第4楽章は、非情な浪漫性が漂っていて、それなりの魅力はあります。これは聴く側、弾く側の好みが、相当に出ることでしょう。評者からすると、あまりお薦めの曲ではありません。それなのに、やはりTheodore Presserから現役で楽譜が出ています。これは10ドル。まあ、2台ピヤノのレパートリを増やそうとされる方は、聴いて損ではないとは思いますが。

このCDは、先ほど申し上げた通り、出たばかりで現役。「Cicago Classical Recording Foundation」のWebサイトから、オンラインで購入できます。(2003年8月11日記)

曲目 J.Brahms: 愛の歌 Op.52
           新・愛の歌 Op.65
演奏 Karl Engel & Wolfgang Sawallisch (Pf. duo)
    Edith Mathis (Sop)
    Brigitte Fassbaender (Alt)
    Peter Schreier (Ten)
    Dietrich Fischer-Dieskau (Br)
CD番号 Deutsche Grammophon 423 133-2

声楽をやっていらっしゃる方はともかく、ピヤノがご専門の方、あるいはピヤノ愛好家の方には、ちょっと馴染みの薄い曲です。…と言うと、ちょっと語弊がありますね。ピヤノ・デュオの分野では、この曲の声楽部分をピヤノ・デュオのパートに組み込んだ編曲作品として親しいかも知れません。本欄でも「Duo Crommelynck」による、その素晴らしい演奏をご紹介しました(「バックナンバー Vol.9」ご参照)。今回ご紹介するのは、その原曲となった、連弾+声楽4重唱の録音です。

この「愛の歌」と「新・愛の歌」。「優れた声楽曲」とみなす意見がある反面、「声楽パートにはそれほどの音楽的価値は認められない」とする意見もあります。評者の意見は、どちらかというと後者に近いものがあります。まあ聴いていて楽しいのですが、これといってインパクトがありません。どちらかというと、原曲を連弾用に編曲した版の方が、面白く聴くことができます。

「では、こちらで紹介する意義はないのではないか」というご意見も出るかも知れません。確かにその通りなのですが、こんな録音があるということを、ピヤノ・デュオ愛好家の皆さんにお知らせしておきたかったのです。

先ほど述べた、この曲に対する「後者の意見」が強いためか、なかなかこの曲を聴く機会に恵まれません。曲自体は大変に有名なのですが、意外と録音も少ないのです。そうした中で、評者が「これは面白そうだ」と入手したのが、この1枚。演奏者をご覧になって頂けるとお分かりになるでしょうけれど、声楽の超豪華陣で録音がなされています。さすがにこの面子が揃うと、平凡なこの曲でも、実に鮮やかで強烈な印象を持って受け止められるのです。曲の善し悪しは別として、かなり衝撃的です。

ただ、非常に残念なことに、声楽を全面に出した録音なので、連弾パートが端っこの方に追いやられております。しかも、実直というか地味というか堅実というか、まことに面白くない連弾演奏です。まあ、この連弾面子じゃ、こうなっても仕方がないかな…とは思いますが。はっきり言って、この録音での連弾は、刺身のツマみたいな扱いです。

これで連弾パートが光っていたら、ものすごく面白くなっていたことでしょう。例えばLabequeを、この声楽陣にぶつけてやるとかね。これはレーベルが違うから、まず無理でしょうけれど、同じレーベル(録音当時)だったらPekinelあたりを登用して、連弾パートをもっともっとクローズアップし、声楽と同等に扱ったら、それは素晴らしい録音になったことでしょう。ちょっと醒めた演奏になるかも知れないけれど、Kontarskyでも面白かったかも知れません。もっとも、この頭の固いレーベルには「面白い録音を作ろう」という斬新な発想などないので、それを望むのは無理かも知れませんが。

何はともあれ、現在入手できるこの曲の録音として、(連弾パートは別ですが)面白く聴ける…という意味で紹介してみました。

楽譜はC.F.Petersから出ており現役。「愛の歌」と「新・愛の歌」が1冊に合本になっています。出版番号は「3912」。このCDも2003年7月28日時点で現役。オンラインですと「amazon.com」または「amazon.de」で入手できます。(2003年7月28日記)

CDタイトル:Antonin Dvorak Klaviermusik zu vier Handen
曲目 A.Dvorak: スケルツオ・カプリチオーソ Op.66
            ポロネーズ 変ホ長調
            シルエット Op.8
            メヌエット Op.28
            祝典行進曲 Op.54
            スラヴ狂詩曲 Op.45-2(以上、すべて連弾用自編)
演奏 Koelner Klavier Duo
    (Elazita Kalcelage & Michael Krucker)
CD番号 Berlin Classics 0017402BC

Dvorakの連弾用編曲作品ばかりを集めた、大変に珍しい1枚です。御存知のようにDvorakは、いくつもの優れたオリジナル連弾曲を残しています。これらは現在でも連弾演奏会やCD録音における重要なレパートリとなっています。それとは別に、Dvorakは多くの連弾用編曲を残しているのですが、こちらはほとんど知られておりません。評者らが知っていたのは、交響曲第7番、8番、9番の連弾用編曲、ポロネーズ(1879、原曲は管弦楽曲)、バガテルOp.47(1878、原曲は室内楽曲)くらいなものでした。

ところがDvorakという作曲家はBrahmsと同じくらい連弾好きだったようです。管弦楽曲やピヤノ独奏曲からの連弾用編曲作品が、かなりの数、あるようなのです。そのあたり、Brahmsととてもよく似てますね。Brahmsも自分の管弦楽曲などの多くを自分で連弾用に編曲しています。余談ですが、編曲物ではありませんが連弾と声のためのオリジナル作品として「3つの男声合唱曲Op.43」のような作品もあります。余程の連弾好きだったのでしょう。そうでなければ、こうした作品は、まず残しませんから。

閑話休題。評者らもこのCDを入手するまで、Dvorakに相当数の連弾用編曲がある、ということを知りませんでした。このCDで収録している「シルエット Op.8」も連弾曲として存在していることは知っていましたが、この原曲がピヤノ独奏曲ということは全く分かりませんでした。と言うより、C.McGrawの「Piano Duet Repertoire」には「連弾曲」として掲出されているのですが、「The New Grove(第2版)」や他の資料には「ピヤノ独奏曲」として紹介されているのです。McGrawの資料には「このオリジナルは独奏曲である」という記述は何もありません。こうなると何がオリジナルなのか、もう素人の手には負えなくなってきてしまいます。

そんなとき出会ったのが、このCD。解説を読んで(といっても、ごく簡単なものですが)長年の疑問が氷解したと同時に、Dvorakにはたくさんの連弾用編曲があるのを知った次第です。このCDで収録している曲のうち、「スケルツオ・カプリチオーソ」、「ポロネーズ」、「祝典行進曲」および「スラヴ狂詩曲」が管弦楽曲からの編曲、「シルエット」と「メヌエット」がピヤノ独奏曲からの編曲です。いずれも作曲者自身の手で、連弾用に編曲されております。

評者の不勉強から、これらの原曲を聴いたことがない…ということもありますが、解説をしっかり読む前に、まずこれらの曲を聴いたところ「Dvorakには、まだ知らない連弾曲がたくさんあるのだ」と感じました。そう、編曲物であることを知らなければ、元からの連弾曲だったかのように聞こえてしまう曲なのです。楽譜を参照していないので正確なことは言えませんが、連弾用編曲として相当に優れたものであると言えましょう。

演奏も水準以上の出来。個別の曲に関する感想は省略しますが、どれも明るい音色で、しかもやや鋭いタッチで作品の輪郭をくっきりと浮かび上がらせるような演奏を展開しています。アンサンブルとしても、かなり高度です。ただ、Dvorak特有の泥臭さはありません。どちらかというと、とてもスマートな演奏。これは、Dvorakの演奏として、評価が別れるところでしょう。でも、評者にしてみれば、これまで一般にあまり知られていなかったDvorakの連弾用編曲作品を、これだけ立派に演奏し紹介する…という点で、大変に評価できるCDと考えました。

これらの編曲作品、楽譜を是非とも参照し、皆様にご紹介したいのですが、殆どが絶版。しかも出版元も散々調べたのですが分かりませんでした。わずかに分かっているのは、「ポロネーズ」がC.F.Petersから現役で出ていることだけ。他の曲については、ほとんど何も分かりませんでした。ごめんなさい。これだけ素敵な編曲ならば、連弾コンサートでもっともっと弾かれて良いと思うのですが、楽譜の入手は困難なようです。非常に残念ですね。このあたりもBrahmsとよく似ています。「この楽譜、今はここから出ているよ」「この図書館にありますよ」といった情報があれば、是非ともお寄せ下さい。

このCD、2003年7月22日時点で現役。オンラインですと「amazon.de」で入手できます。ちなみにこのデュオは、珍しい連弾作品をいくつも録音しています。どれもかなりの高水準の演奏で。
(2003年7月23日記)

CDタイトル:Take Bach
曲目 J.S.Bach: 3台のピヤノのための協奏曲 BWV 1063
           2台のピアノのための協奏曲 BWV 1060
           2台のピヤノのための協奏曲 BWV 1061
             (以上Jacques Loussier編曲)
           主よ、人の望みの喜びよ(2台:編曲者不明)
演奏 Guher & Suher Pekinel
    Jacques Loussier Trio
CD番号 TELDEC 8573-80823-2

とてもエレガントなJ.S.Bach。Bachの曲をヂャズにアレンジした例は多いのですが、今回取り上げるアレンジ、非常に完成度が高い。そして演奏も相当なハイレヴェル。Guher & Suher Pekinelらしい、輝かしタッチと抜群のアンサンブルが光っています。

曲をアレンジしたのは、最後の1曲(これはヂャズではありません)を除いて、Jacques Loussierというフランス人ヂャズ・ピヤニスト。本当にお洒落なアレンジです。1曲目に収録されている「3台のピヤノのための協奏曲」(BWV 1063)では、Loussierも演奏に加わり、Pekinelと一緒に、それは素晴らしい3重奏を聴かせてくれます。厳密にいうと、これにドラムスとベースが加わるのですが。3台のピヤノの「お喋り」がとても楽しい! そしてドラムス+ベースとのコラボレーションも素敵。

原曲はそれほど好きでもなく、ほとんど聴いたことのない評者ですが、この演奏は何度も何度も繰り返し聴きました。そして何度聴いても飽きません。第1および第3楽章も素敵ですが、目を見張るのは第2楽章。それはロマンティックな夢見るような旋律に、はっとさせられます。晩秋の西欧の街の夜の雰囲気。あるいは、ほの暗い、ぽつんと明かりが灯った静かな部屋で交わされる、愛し合う2人の会話。「原曲、こんなに素敵だったかしら?」と思わずうなってしまうアレンジであり、演奏です。

2曲目(2台のピヤノのための協奏曲・BWV 1060)と3曲目(同・BWV 1061)は、アンサンブルからLoussierが抜けて、Pekinelのデュオとドラムス+ベースになります。今度は2台のピヤノによる会話が始まります。これが実に生き生きとしている。スピーディでリズム感も抜群。アレンジの方向性は1曲目同様ですが、ピヤノがPekinelだけになったことで、より“鋭さ”が増したようなイメージになります。Bachの曲が、こうした形で現代に蘇るなんて---百聞は一見にしかず・・・おっと一聴ですね・・・ということばが、ぴったりと当てはまる、それは素敵なアレンジと演奏です。

残念ながら、楽譜は出版されていません。この録音のためだけにアレンジされたもののようです。こうしたケースでは(Labequeの録音でもよくありますね)、まず楽譜を入手することは困難です。1度で良いから、譜面を参照してみたいのですが。Loussierという人、ピヤノ同士のアンサンブル効果について、かなり良く把握しているようです。

最後に収録してあるのは、有名な「主よ、人の望みの喜びよ」の2台用編曲です。M.Hessの編曲みたいな気はするのですが、いくつか音が違っているので、確実なことは言えません。CDの解説書には編曲者名が出ていないので。これは、原曲を2台のピヤノに振り分けた合理的な編曲。アレンジやトランスクリプションの類は施してありません。Pekinelは、それをとても爽やかに演奏しています。ほんのりと暖かさを感じさせながらも、どこまでも透明感のある音。変に凝った演出はしていません。とても“素直”。そしてどこか、ほっとさせられるようなものを感じる演奏です。

このCDは2003年7月14日時点で現役。オンラインですと「amazon.de」で入手できます。是非、大勢の方に聴いていただきたい。この素敵な演奏を。(2003年7月14日記)

CDタイトル:Works for Piano 4 hands Vol.1
曲目 A.Dvorak: 伝説 Op.59
            ボヘミアの森より Op.68
            ポロネーズ
演奏 Duo Crommelynck
CD番号 Claves CD 50-9106

ここに収録された3曲。現在入手できるCDの中で、最良の演奏と評価できます。泥臭さのまったくない、非常に洗練されたDvorak。そして、曲の細部にまで、演奏者の冷徹な目が光っています。かといって、冷たくそっけない演奏ではありません。むしろその逆。連弾の楽しさを聴き手に思い切って迫っているのです。

以前に紹介したとの同じく(「バックナンバー Vol.9」ご参照)、このデュオの最盛期の演奏です。作品を徹底的に分析しながら、それを再構築し、2人が寄り添って1つの音楽を作り上げていく…。その壮絶さとほほえましさの両方を感じさせる。そんな演奏です。例によってアンサンブルは抜群。そして、単なるアンサンブルの良さだけでなく、本当に「心を寄せ合って」弾いているのが、まるで目に見えるよう。それ程までに、暖かい“何か”が伝わってくる演奏です。もっとも、このデュオにとって最後の録音となった、同じ作曲者の「交響曲第9番」(「バックナンバー Vol.2」ご参照)のような、緊迫感はありません。もっとも曲自体が、そうしたものを要求していませんが。ただし、輝かしくて芯のある音は、ここでもとても魅力的。

伝説」は、爽やかながら、非常に陰影の効いた演奏。2分強〜4分程度の小品が10曲集まった曲集ですが、その各曲において、彫りの深い演奏を聴かせてくれます。そして10曲全部を聴き通しても、まるでそれが、ひとつの大きな塊になって聞こえてくる。単なる小品の寄せ集めではなく、全体でひとつの曲として楽しめるように、演奏しているのですね。この設計は、実に見事です。

ボヘミアの森より」も、「伝説」と同様の傾向が見られます。より一層、陰影の深さを感じさせる演奏です。どの曲も、旋律を伸びやかに歌っているところが、とても魅力的。第1曲の「糸紡ぎ」など、とても楽しい演奏です。で、旋律の歌わせ方から言ったら、「暗い湖のほとりで」と「森の静けさ」が絶品。演歌調にならず、変な小細工もしていません。ストレートに、本当の意味で“きれい”に旋律を歌っていますね。やぼったいデュオがやると、ただの演歌になってしまうところを、上手に処理しています。

最後に収録されていてる「ポロネーズ」は、ともするとただの「馬鹿騒ぎ」になってしまうところですが、さすがこのデュオ。上品に処理しています。もちろん、この曲の持つ健康的な明るさと楽しさを失うことなく。この曲の演奏の、一種の理想型と言えましょう。

楽譜は全て現役。「伝説」は音楽之友社やSupraphonから、「ボヘミアの森より」もSupraphonから、「ポロネーズ」はC.F.Petersから、それぞれ出ています。このCDも2003年7月7日時点で現役。オンラインですと「amazon.de」で入手できます。(2003年7月7日記)

CDタイトル:こどもたちへ〜アルゲリッチ&伊藤京子 友情のデュオ
曲目 S.Prokofiev:交響曲第1番 ニ長調「古典」(寺嶋陸也編曲)
    C.Debussy:小組曲
    F.F.Chopin:ムーアの民謡風な歌による変奏曲 ニ長調
演奏 Martha Argerichi & 伊藤京子
CD番号 東芝EMI TOCE-55180

Argerichiさまの意外な(?)一面を聴くことのできる、楽しいCD。Argerichiさまと言うと、その演奏には独特の「凄味」があって、共演者もそれに巻き込んでしまう…という特性があります。Argerichさまご本尊の演奏を、ピヤノ・デュオのほか、ヴァイオリンやチェロとのデュオ、ピヤノ・トリオなどで何度も実際に聴いていますが、CDでの演奏も含めて、一様にその特性が見られます。例えばW.A.Mozartの「アンダンテと変奏 Kv.501」みたいな、とても可愛い小品をやったとしても、例外ではありません。それが評者にとって、Argerichさまの魅力でもあります。

ところが、このCDでは、そうした「凄味」は殆ど感じさせず、「ほら、デュオって、こんなに楽しいんだよ」というメッセージが聞こえてくるのです。かといって、平凡な演奏ではありません。「ああ、Argerichiさまも、このような演奏をなさるのか」と、強烈に納得させられてしまうのです。そして、聴き終わったあと、とても温かで、かつ爽やかな印象が残ります。正直言って、評者には意外でした。逆に言うと「強烈な個性のArgerichiさま」をお求めの方には、不向きな録音かも知れません。

この演奏、相当に融合したデュオ。繰り返して聴きましたが、どちらがArgerichiさまで、どちらが伊藤京子さんか、とうとう判別できませんでした。どなたかこのCDをお聴きになって、お判りになった方、いらしたら是非とも教えて下さい。

Prokofiefの「交響曲第1番 ニ長調:古典交響曲」は、日本人の寺嶋陸也さんと言う方の手による編曲。楽譜は拝見したことありませんが、この録音を聴く限り、かなり合理的な編曲と感じました。2台のピヤノに、管弦楽のパートを上手に振り分けて、それなりの演奏効果が出るようにしてあります。評者の感覚では、元々があまりピヤノ向きの曲ではないと思ったのですが、その点をうまく編曲でカヴァーして、楽しく聴けるように工夫されているようです。もっとも、編曲としてはあまり凝ったことをせず、管弦楽の動きをかなりストレートにピヤノに移しています。そのためでしょうか、それぞれの声部が、かなりくっきりと浮かび上がります。そして、何だか2人とも、この編曲を楽しんで演奏しているみたい。残念ながら楽譜は未出版の模様。是非一度拝見して見たいですね、この楽譜。

Debussyの「小組曲」Chopinの「ムーアの民謡風な歌による変奏曲」。どちらも、とてもアットホームな演奏です。ただ、要所要所で「山葵が利いて」いるので、演奏全体としては、きりりとした印象。とても透明感があります。そしてスマート。「ぼんやり感」をDebussyに、ポーランドの土臭さをChopinに、それぞれ求められる方には、あまりお薦めではありません。評者はとても気に入りましたが---何だ、お前は、Argerichiさまなら何でも良いのか、と仰る方もいらっしゃるかも。でも決してそうではありません。過去の「バックナンバー」をご参照下さい---。何はともあれ、まだお聴きでない方、お耳に入れたい演奏ですよ。

Debussyの楽譜はあちこちから出ているので、出版元は省略します。Chopinの方は、Pwm Editionと言うところから出ており現役です。

このCDも2003年6月30日時点で現役。オンラインですと「amazon.co.jp」で購入できます。日本国外からの注文も可能。このCD、日本でしか出ていないので、海外の方が購入されるとしたら、このルートがいちばんです。(2003年6月30日記)

曲目 J.Brahms: ハンガリー舞曲集(21曲)
           ワルツ集 Op.39M.Clementi:
演奏 Yaara Tal & Andreas Groethuysen
CD番号 SONY SK 53285

現時点で入手できる「ハンガリー舞曲集」で、この曲をもっともエキサイティングに聴かせるのが、これ。名演奏はたくさんあるこの曲ですが、スマートでスピード感溢れるもの…といったら、まずこの演奏でしょう。

もちろん、評者自身でも、好きな演奏はあります。Labequeによる、まるで熱にうなされたかのような名演(残念ながら、廃盤になって入手不能になってしまいました。ここで、紹介できないではありませんか。Philipsの、ばか)。知的な雰囲気をみなぎらせたKontarsky。そのほか、個性たっぷりの演奏は、たくさん。でも、廃盤になっていなくて、一押し…なのが、Yaara Tal & Andreas Groethuysenによる演奏なのです。

緩急のメリハリがついて、その表情付けが非常に面白いのも、この演奏の特徴です。あまり旋律やメリハリを強調しすぎると「ド演歌」になってしまい、非常に泥臭くなるのですが、この演奏はそうした印象をまったく感じさせません。とてもバランス感覚に冴えた演奏と言えましょう。…と書くと、まるで教科書的演奏を想像してしまう方もいらっしゃるかも知れません。しかし、その心配はご無用。このデュオならではの特徴が存分に出ています。現代的でシャープでありながら、「生きたデュオの息づかい」が聞こえます。

そう、「連弾」としても面白さを味わう上では、入門者から上級者まで、みんなで楽しめる演奏でしょう。もちろんアンサンブルは抜群。21曲を一気に聴くことができるのです。ただ、「ロマ族風味」を全く排しているような演奏なので、こうした趣味の方には合わないかも知れません。

同時収録の「ワルツ集」も、大変に優れた演奏。知的で明るく、音は爽やかに流れます。この曲の演奏で、しばしば強調されがちな「暖かさ」や「柔らかさ」は、やや薄目。どちらかというと、「きりり」として毅然としたワルツ集です。こうしたBrahmsがあっても良いのではないでしょうか? Brahms好きの方にはもちろん、「Brahmsは、ちょっと苦手」と仰る方にも、是非とも聴いて頂きたい演奏です。そして、これからこの曲を演奏しようとしていらっしゃる方にも。

楽譜は、あちこちから出ており、現役で容易に入手できるので、出版元については省略します。でも、もしお選びになるのであれば、評者は「ハンガリー舞曲集」「ワルツ集」ともに様々な理由からHenle版をお薦めします。

このCDも2003年6月23日時点で現役。オンラインですと「amazon.com」および「amazon.de」で入手できます。(2003年6月23日記)


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(c) Yumiko & Kazumi 2003