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CDタイトル Chabrier Complete works for piano duet and two pianos
曲目 E.Chabrier: 狂詩曲 スペイン(2台・作曲者自編)
             3つのロマンティックなワルツ(2台・オリジナル)
             道化た行進(連弾オリジナル)
             幻想的ブーレ(連弾・作曲者自編)
             前奏曲とフランス行進曲(連弾オリジナル)
             ミュンヘンの思い出(連弾オリジナル)
演奏 Pinuccia Giarmana & Alessandro Lucchetti
CD番号 GALLO CD-818


極めて繊細で冷静、そしてスピーディなChabrier。ここまであっさりやられると、曲目によっては、「あれっ???」と思われる方がいらっしゃるかも知れません。評者も、曲ごとに評価が分かれました。「これは、面白い!」というものと、「ちょっと物足りない」、そしてその中間。誤解のないように最初に申し上げておきますと、演奏そのものは、いずれも非常に高度な水準に達しており、大変に優れております。アンサンブルは素晴らしいし、一つ一つの音の作り方も、とても丁寧です。ある意味で、とても上品と言えましょう。

まず、面白いものからご紹介すると、「3つのロマンティックなワルツ」が挙げられます。過度にロマンティックな方向へ走らず、冷徹な目で作品を分析しながら流れるワルツ。この曲の演奏ではCasadesus夫妻の演奏が、ひとつの模範で、ピヤノ・デュオの楽しさをいっぱいに含んだものですが、この演奏はそれと正反対。評者自身は愉悦感溢れるCasadesus夫妻の演奏も好きですが、その対局にあるこの演奏も妙に気に入りました。ここまで冷静にやられると、かえって面白く感じます。しかも繊細さが非常に良い方向に出ています。これはこれで、「ワルツ」のひとつの表現方法ではないでしょうか。同じ傾向が、「ファンタジックなブーレ」と「前奏曲とフランス行進曲」にも言えます。

一方、ちょっと物足りなく感じたのは、「狂詩曲・スペイン」。あまりに、きれいに弾いているので、この曲が持つ噎せ返るような熱気が、あまり感じられません。確かにアンサンブルも完璧で、個々の音は非常に綺麗なのですが、あまりにも繊細かつ冷静にやりすぎてしまっています。これは録音のせいもあるのかも知れません。ピヤノがやや遠目にとらえられており、残響もそれほど長くありません(といって、デッドと言うほどではないのですが)。結果、評者には物足りなく感じたようです。こうした演奏がお好きな方もいらっしゃるかも知れないので、これ以上のコメントは差し控えます。

その中間にあるのが、「道化た行進」と「ミュンヘンの思い出」。確かに優れた、ある意味で模範的な演奏なのですが、評者は完全には感情移入ができませんでした。そう、聴いていて、はっとする瞬間が何度も訪れるのですが。「道化た行進」。もっと開放的な明るさと色彩感、そして華やかさがあってもよいのではないでしょうか。「ミュンヘンの思い出」にも同じことが言えます。この曲の、模範となる演奏ですが、聴く人によって評価が大きく分かれる演奏でしょう。もっとも評者も、Christian IvaldiとNoel Leeが1980年代前半に録音したこれらの曲の演奏を聴いていなければ、この演奏に二重丸をあげたところです。その演奏---未だに現役だということが分かったので、後日こちらでご紹介することにします---があまりに強烈であったため、他の演奏を受け付けなくなっているのかも知れません。そんな訳で、この演奏が決して凡庸でないことは、改めて申し上げておきます。後は、聴く方の判断にお任せいたしましょう。

何はともあれ、Chabrierのピヤノ・デュオ全曲を、高水準の演奏で聴くことができるという点で、デュオ好き、特にフランスものがお好きな方には、是非一度、耳にしていただきたい録音です。

楽譜の出版状況は以下の通り。「スペイン」はEnochから出ており現役。2台版だけでなく連弾版もあるので、購入のときはご注意下さい。「3つのロマンティックなワルツ」は同じくEnochおよびInternationalから出ており、これも現役。Kalmus/Warnerから出ているのは、連弾用の編曲なので、これも注意して下さい。「道化た行進」はGerard Billaudot、「ミュンヘンの思い出」はTransatlantiques、「前奏曲とフランス行進曲」は全音楽譜出版社から出ており、それぞれ現役です。「幻想的なブーレ」はEnochから出ていましたが、現役かどうか確認できませんでした。

このCDは2003年1月13日時点で現役。オンラインですと「amazon.com」で入手できます。
(2003年1月13日記)

CDタイトル Musique Americaine pour deux pianos
曲目 A.Copland : キューバ舞曲(2台オリジナル)
             青年の踊り(作曲者自編)
             エル サロン メヒコ(L.Bernstein編曲)
    G.Gershwin: 「アイ・ゴット・リスム」変奏曲(作曲者自編)
              セカンド・ラプソディ(作曲者自編)
    S.Barber: 思い出(2台による演奏)
    N.Lee: 2重のモザイク(2台ピヤノと打楽器群のための)
演奏 Christian Ivaldi & Noel Lee
CD番号 ARION ARN 68375


米国製ピヤノ・デュオの魅力いっぱいの楽しい1枚。ピヤノ・デュオとして著名ながら、あまり録音に恵まれないA.Coplandの作品を含んでいるところなど注目です。

演奏しているのは、それぞれ活発なソロ活動を続けながらも、長年にわたってデュオを組んできているChristian IvaldiとNoel Leeの2人組。彼らのデュオ演奏は、どれも透明で鋭いタッチと、曲の輪郭をくっきりと描く点が特徴です。このCDでも彼らのこうした特徴の良い面が出ています。そして、アンサンブルもばっちり。

Coplandの3曲。2台ピヤノ・オリジナルの「キューバ舞曲」、管弦楽からの編曲である「青年の踊り」「エル サロン メヒコ」、いずれも非常に優れた演奏。2流のデュオですと、これらの曲に特有なラテン・アメリカのノリで、それとなく曲をまとめてしまうところですが、さすがこのデュオ、これらの曲の持つリズミックな楽しさを全面に押し出しながらも、かなり冷徹な弾き方をしています。それだけに、曲の輪郭が非常によく把握できるだけでなく、曲の細部にまでくっきりと、その構造が浮かび上がってきています。特に「エル サロン メヒコ」の出来は素晴らしい! この3曲、これらの曲の、良い意味での模範演奏といってよいかも知れません。ちなみに「青年の踊り」は作曲者自編、「エル サロン メヒコ」はあのL.Bernsteinの編曲です。

同じことがGershwinBarberの曲にも言えます。Gershwinですと、適度なヂャズ感覚を盛り込みながらも、曲に感情を全面移入することなく、一歩下がった目で、冷徹に曲に向かっています。でも決して“醒めた”演奏ではありません。とても楽しく聴くことができますよ。それに、2台のピヤノの“お喋り”が、実に楽しい。佳人が薄化粧したような、それは素敵な演奏です。

Barberですが、これは元々連弾曲。それを2台で弾いているのですが、手元に楽譜がなくて、連弾曲を2台に分けて弾いているのか、それともA.Gold+R.Fizsaleによる2台版を使っているのか判明できませんでした。オリジナルも2台版も、使っている音には、大きな差はないため、耳だけでそれを判断するのは結構厄介です。しかし、いずれの版を使っていたとしても、演奏自体はとても面白い。これも情に流されることなく、冷徹に弾いています。

もう1曲、Noel Leeの自作曲が入っていて、これは2台ピヤノと打楽器群のための愉快な作品です。ただ、この手の作品は好き嫌いが出るかも知れません。万人にはお勧め出来かねる作品です。評者は楽しめましたけれどね。

さて楽譜。Coplandの作品は「Boosey & Hawkes」から、Greshwinのは「Worner Brothers」から、Barberは「G.Schirmer」から出ており、いずれも現役。Leeの作品は未出版。

このCDは2003年1月6日時点で現役。オンラインですと「amazon.de」で入手できます。
(2003年1月6日記)

曲目 J.Brahms: 悲劇的序曲 Op.81(作曲者自身による連弾用編曲)
           ピヤノ協奏曲第1番 ニ短調 Op.15 (同上)
演奏 Lilya Zilberstein & Cord Garben
CD番号 Hanssler Classic CD93.075


今回は曲目面から見て「脳天直撃物」の1枚。この曲の連弾版は、さすがに珍しいです。ただし、CDの解説には「世界初録音」とありますが、これは誤り。演奏者の名前は失念してしまいましたが以前にも録音はあります。しかし、それでも、こうしたものを真面目に取り上げるなど、敬服してしまいます。

曲は、Brahmsのピヤノ協奏曲第1番。そう、あの重厚な、演奏時間が40分を超える巨大な協奏曲です。誤解のないように申し上げておきますと、ここで演奏しているのは連弾版。管弦楽のパートを第2ピヤノで弾いたものではありません。作曲者本人が、曲を完全に再構成し、1台4手で演奏できるようにした珍品なのです。

原曲を聞き慣れた耳には、かなり異様に響きます。何せ、あの重厚な管弦楽の響きが、まったくないのですから。思わず拒絶感を持ってしまう方もいらっしゃるかも知れません。でも評者は繰り返して聴いたところ、まるで上質の鯣のように味わいのある編曲である、との感を持ちました。味わいがあるどころではありません。楽譜を見ながら聴くと、実に面白い連弾曲になっていることが分かります。まさに「脳天直撃物」。

ただ、曲が曲だけに、演奏が相当にしっかりしていないと、単なるキワモノになってしまいます。ところが、Lilya ZilbersteinとCord Garbenの2人は、45分という演奏時間の長さを全く感じさせない、実に充実した演奏を繰り広げています。曲の構築性は、なかなかのもの。評者は、とても面白く聴くことができました。でも、これを面白く聴かせるなんて、この2人はただ者ではありません。何せ、連弾だけで45分間ですからね。それも原曲は有名なピヤノ協奏曲。それをこんなに素敵な曲として聴かせるなんて! タッチは極めて明瞭、アンサンブルも高度です。

そもそも、CDを購入した際、ジャケットにZilbersteinの名が記載されているので、まず驚きました。この手の曲を演奏しているとなると、評者の知らない演奏者かな・・・と思ってよく見ると、デュオの片方は、あのZilberstein。ロシア出身の技巧派ピヤニストです。ソロでガンガン弾いているのか・・・と思っていたら、いつの間にか連弾業界にも進出していたのですね。もう片方のGarbenという人は、初めて聴いた演奏でした。

それにしても巧いなぁ、この2人。とても面白く仕上がっています。連弾好きな方には、聴いて損なしの演奏です。同時に収録している「悲劇的序曲」の作曲者自身による連弾版の演奏も、堂々たる出来。連弾用としても、とても自然な編曲で、この演奏も素敵です。

ピヤノ協奏曲の楽譜、この演奏ではJ.Riter-Biedermannの譜面を使っています。これは絶版ですが、このレプリントが貧者の味方・Doverから出ており、容易に入手可能。ちなみに評者は聴きに行きませんでしたが、日本でもあるデュオが、この曲を演奏したことがありました。どんな結果になったかは存じ上げませんが。もう1曲の「悲劇的序曲」はUniversalから出ていましたが、残念ながら現在は絶版です。同社に依頼すれば、コピー譜の発注が可能です。

このCD、2002年12月30日時点で現役。オンラインですと「amazon.com」や「amazon.de」などで入手できます。お聴きになる際には、くれぐれも原曲のことは忘れ、あくまでも「連弾曲」として聴いて下さい。そうでないと楽しめませんよ。(2002年12月30日記)

CDタイトル: Fernce Liszt Inspirations
曲目 F.Liszt:
            (1)ラコツッィー行進曲 R310,S.608(2台:作曲者自編)
            (2)Schubertによる4つの行進曲 R354 S.632(連弾:Liszt編曲)
            (3)Mendelssohnの無言歌による大コンツエルトシュテュック
              R355,S257(2台)
演奏 Duo Egri & Pertis(Monika Egri & Attila Pertis)
CD番号 HUNGAROTON HCD 32054


このコラムを書き始めて、今回が最も情けない「今週の1枚」です。情けない・・・と言うのは演奏ではなくて評者の方。まずは、お読み下さいな。

今回取り上げたのは、Duo Egri & Pertis(Monika Egri & Attila Pertis)によるF.Lisztのデュオ集。普段はなかなか聴くことができない、珍しい曲を、高度かつ華やかな演奏で聴かせてくれる、大変充実した1枚です。これまで、いくつものCDで彼らの演奏を聴いて来ましたが、録音を経るたびにアンサンブルとタッチが研ぎ澄まされ、聴く者の心をうつような演奏になってきました。このコーナーでも何種類かの演奏をご紹介しました。いずれも素晴らしい演奏ですが、このLiszt集ではさらに磨きが掛かり、最良の結果を生みだしています。隠れた名曲を、このような演奏で聴くことができるのは、デュオ愛好家として至福です。

まず、最初に収録されている、「ラコツッィー行進曲」で、聴く者を一気にリストの超絶世界に引きずり込みます。もともとこの曲は、「ハンガリー狂詩曲第15番」(第1版)が原曲。それを作曲者自身が2台ピヤノ用に編曲したのが、ここに収録された作品です。で、情けないのは、ここから。ハンガリーのEdito Musica Budapest(EMB)から、「ラコツッィー」のLiszt編曲の2台用楽譜が出版されています。これは、ピヤノ・ソロの原曲を管弦楽曲に編曲し、さらにそれを2台用に改めた版です。実は、今回資料をずいぶんと漁ったのですが、ここで演奏している「ラコツッィー」とEMBから出ている「ラコツッィー」が同一のものか、とうとう同定できませんでした。素晴らしく華やかで重厚な演奏なので、これを聴いてレパートリになさりたい方もいらっしゃるかも知れません。そこでいろいろ調べたのですが、どの楽譜を使っているのかが、まったく分かりませんでした。浪漫派のピヤノ・デュオがお好きな方、是非このCDを入手されて、おわかりになったことをご一報頂ければ幸いです。

さらに情けないのは、続けて収録されている「Schubertによる4つの行進曲」です。これは、F.Schubertが作曲した連弾のための行進曲を、Lisztが同じく連弾用に編曲しなおしたものです。Schubertの愉悦感を残しながらも、Lisztの超絶技巧が散りばめられた、それは素敵な編曲物です。Duo Egri & Pertisは、Schubertの原曲が備える(備えているであろう)「連弾の楽しさ」を十分に感じさせながらも、冴えたテクニックとアンサンブルで、この曲を素敵に聴かせてくれています。そう、連弾の楽しさと超絶技巧が同時に楽しめる優れた演奏です。で、この曲の原曲をご紹介した上で編曲の特徴をコメントしたかったのですが、どの曲が原曲なのか、とうとう分かりませんでした。CDの解説でも触れられていません。ずいぶん調べたのですが、これもお手上げになってしまいました。ああ、情けない。ちなみに収録されているのは、(1)ロ短調で演奏時間が約10分のもの、(2)変ホ短調で演奏時間が約17分の大曲、(3)ハ長調で演奏時間約8分の作品、(4)ハ短調で演奏時間約6分の小品---の4曲です。原曲も分からず、出版社も分かりませんでした。御存知の方、どうぞご教授下さい。

最後に収録されているのはMendelssohnの「無言歌」を素材に使った、「Mendelssohnの無言歌による大コンツエルトシュテュック」です。2台のピヤノの対話が、実に面白く、前期浪漫派の極致とも言えるMendelssohnの旋律が、華麗に展開されます。20分を越える大曲ですが、それをあっという間に聴かせてしまうDuo Egri & Pertisの実力は、並々ならぬ物があります。で、情けないのは、「無言歌」の何を素材にしたのかが、よく分からなかったこと。どうやら第1集(作品19)をネタにしているらしいのですが、申し訳ないことに評者はその曲を知らず、楽譜も手元にありません。おかげで、何を、どのように料理しているのかが全く分かりませんでした。おまけに出版元も。これらを御存知の方、是非ご一報下さい。

なお、このCDは2002年12月24日時点で現役。オンラインですと「amazon.com」で入手できます。(2002年12月24日記)

CDタイトル: Second Rhapsody
曲目 G.Gershwin:
            (1)セカンド・ラプソディ(作曲者自編)
            (2)アイ・ゴット・リスム変奏曲(作曲者自編)
            (3)2つのワルツ(I.Kostal編曲)
            (4)ブルー・マンディ(F.Jeanneau編曲)
            (5)我が恋はここに(F.Jeanneeau編曲)
            (6)抱きしめたくなる、あなた(F.Jeanneau編曲)
演奏 Katia & Marielle Labeque
CD番号 EMI CDC 7 49752 2 (旧番号。現在のレーベルと番号は本文末尾をご参照)


実とてもお洒落なGershwin。ここまでやると、ちょっと洗練されすぎている、との批判も出そうな演奏です。確かに曲によっては、編曲があまりにも原曲からかけ離れてしまっているものもあり、全面的に“お薦め”の編曲ばかりではありません。でも、聴いているぶんには、とても楽しい演奏なので取り上げてみました。

(1)の「セカンド・ラプソディ」は、元々ピヤノと管弦楽のための曲。編曲物としてピヤノ・ソロなどいくつかの版がありますが、こちらで演奏しているのは、作曲者自身による2台ピヤノ版です。他の版を聴いたことがないので何とも言えませんが、この演奏では2台のピヤノの対話が実に面白い。Labequeの演奏は、この「対話性」を全面に打ち出しています。このデュオならではの息の合った・・・そう、独特の雰囲気がありますね・・・演奏は、聴く者をデュオの深淵に引きずり込みます。このCD全体に言えることなのですが、残響をかなり拾った録音で、実質以上にゴージャスに聞こえるところも聴き所ではないでしょうか。とにかく楽しさに溢れた演奏です。聴いて損なし。これをお聴きになって、「自分たちでも弾いてみたいな」と思われる方も多いかと存じます。

続く(2)の「アイ・ゴット・リズム変奏曲」も出色。Gershwinの名作ミュージカル「ガール・クレイジー」中の名曲「アイ・ゴット・リスム」をピヤノ独奏と管弦楽のための変奏曲に編み直し、さらにそれを2台ピヤノ用に仕立てたのがこの版。各変奏は1〜2分程度の短い物で、全部で5つあります。大変にピヤニスティックで、変奏ごとに曲の表情ががらりと変わるのが、とても魅力的。Labequeの演奏は、その刻々と変化する表情付けが実に見事です。先に挙げた「セカンド・ラプソディ」ともども、もっと演奏されて良い曲だと思います。少なくとも、この3年ほどは日本で演奏されたという噂は、評者の耳に入って来ませんでした。この演奏をお聴きになって興味を持たれた方、是非とも演奏会に持ち出しては如何でしょう? 両方とも、楽譜はWarner Brothersから出ており現役です。

さて、(3)以降は、“他人”による編曲です。(3)の「2つのワルツ」は、原曲はピヤノ独奏曲らしいです。2台のピヤノを効果的に使った編曲で、美しいことは美しいのですが、ちょっと平凡。ちょっと聞き流してしまいそう。

恐らく、編曲として賛否両論になりそうなのが、F.Jeanneauによる(4)(5)(6)。(4)の「ブルー・マンディ」は歌劇「1922年のジョージ・ホワイトのスキャンダル」から、(5)と(6)は著名なヂャズ・ナンバーです(正確に言うと、(6)はミュージカル「ガール・クレイジー」の中の1曲)。確かに楽しくて、しっとりと浸れる演奏です。聴いていて、気持ちよくなりますね。ただ、あまりに洗練されたお洒落な編曲なので、原曲を聞き慣れた耳には、かなりの違和感があります。原曲の持つ良い意味でのあくの強さと何とも言えない生命感が、そのままそっくり濾過されてなくなってしまったような感想を持ちました。特に(5)と(6)は、ちょっとやりすぎ。もちろんLabequeの演奏は素敵なのですが、この編曲には、さすがの評者も「うーん・・・」。もっとも、人それぞれ好き好きがありますから、「これで最高!」とおっしゃる方もいらっしゃるかも知れません。さあ、あなたはこの編曲、そしてこの演奏を、どのように評価なさいますか?

ちなみに(3)〜(6)は、この録音のために書き下ろされた編曲なので、楽譜は市販されておりません。

このCDは、長らく廃盤状態でした。ところが最近になって、Angel Classicsというレーベルから再版されました。CD番号は「74729」です。「amazon.com」や「amazon.co.uk」で入手できます。ジャケットは左に掲載したものとは異なっております。この古いジャケットはハドソン川から見たNYの夜景ですが、いちばん左に、今は亡き、あの悲劇の舞台となったツインタワー(WTC)が写っています。(2002年12月16日記)

CDタイトル: A quatre mains Francaises
曲目 D.Milhaud: 屋根の上の牛(作曲者自編の連弾版)
    M.Ravel: 亡き王女のためのパヴァーヌ(J.Jemain編の連弾版)
           「子供と魔法」から(L.Garban編の連弾版)
    J.Ibert: 白い驢馬(作曲者自編の連弾版)
    C.Saint-Saens: 動物の謝肉祭(L.Garban編の連弾版)
演奏 Leo van Doeselaar & Wyneke Jordans
CD番号 CHALLENGE CLASSICS CC72104


実に愉快で楽しい連弾CDの登場。演奏からは、連弾独特の面白さに加え、生き生きした表現が伝わってきます。しっかりとした連弾テクニックに支えられながら、自由奔放に伸び伸びと明るいタッチで弾きまくります。「連弾って、こんなに面白いんだよっ!」というメッセージを放ちながら。

取り上げているのはCDのタイトルにあるように、フランスの連弾曲ばかり。まず最初に収録されているのは、Milhaudの「屋根の上の牛」。この曲は一応連弾で弾けるように書いてはありますが、1台で演奏すると両者の手の交差や接近があって、とても不自由。そこで、現在ではRavelの「スペイン狂詩曲」などと同様に、2台のピヤノで演奏するのが一般的になっています。

ところがこの演奏は、どうやら真正直に1台でやっているみたい。1つの鍵盤を2人の奏者が自由自在に扱っている様は、とても面白い! ちょっとクセのある演奏ですが、そこに何とも言えない愉悦感を覚えます。弾けるリズムと明るい歌。この曲はいくつかの演奏を聴いていますが、その中でも飛び抜けて素晴らしい演奏です。

続いて収録されているRavelIbertも素敵な演奏ですが、聴き物は最後のSaint-Saens「動物の謝肉祭」。連弾用編曲としてはかなり有名な部類に入るのですが、何故か連弾録音がほとんどない、不思議な代物です。「録音物」として接したのは、評者としては、これが2枚目といった具合です。その演奏たるや、愉快愉快! もちろん真面目に---しかも、かなり高度なテクニックで---演奏している上で、楽しさ爆発。原曲で面白くない平板な演奏を聴くくらいでしたら、こちらを聴いた方が1000倍楽しめます。一つ一つの音から、フレーズの作り方、全体の雰囲気に至るまで、「愉快」の一言です。

「真面目」と申しましたが、あの「ピヤニスト」のシーンでは、もうハチャメチャ。Labequeの演奏も、その底抜けぶりが話題になりましたが、こちらはさらに上を行きます。ライヴはともかく、録音物で、ここまでやった例は、原曲の演奏も含めて存在しないのではないでしょうか。続く「化石」は精密なアンサンブルに戻り、「白鳥」は意外とさらりと弾いています。「終曲」に至っては、1台4手の制限を感じさせないような、非常に表現の幅の大きい素晴らしく爽快な演奏。これは、お薦めですね。この「動物の謝肉祭」を越えるような演奏をするのは、ちょっと難しいかも知れません。

とにかく、最初から最後まで、聴き手を飽きさせないCDです。聴いて損はありません!

ここで弾かれている楽譜は全て現役。MilhaudはEschigおよび貧者の味方Doverから(両者は同一です)、IbertはLeducから、Ravelの「亡き王女のためのパヴァーヌ」はEschigから、その他はDurandから出ております。このCDも2003年12月9日時点で現役。オンラインですと「amazon.com」で入手出来ます。(2003年12月9日記)

曲目 B.Bartok : 2台のピヤノと打楽器のためのソナタ
    J.Brahms : ハイドンの主題による変奏曲 Op.56b
演奏 Murray Perahia & Sir Georg Solti
CD番号 Sony Classical MK 42625


かなり以前購入した物なので、とっくに廃盤になってしまっているかと思ったのですが、ところがどっこい生きていた。そこで今回は、棚の奥から引っぱり出してきた1枚です。非常にスケール感の大きいBartokとBrahms。どちらも非常に安定した名演です。

ピヤノの片方を弾いているのは、あの大指揮者・Georg Solti。Soltiはピヤノも上手、とは聞いていたのですが、これほど鮮烈な演奏をするとは思ってもみませんでした。当初、このCDを購入したときは、半分コワイモノ見たさだったのですが、どうしてどうして。非常にしっかりとしたテクニックで堂々と弾ききっています。なまじの若手ピヤニストなんか、足下にも及ばない。それにとても味のある語り具合。購入当初は、あまりの面白さに、幾度となく繰り返し聴きました。いま、改めて聴いてみても、非常に質の高い演奏であることが分かります。

Soltiのお相手をしているPerahiaも好演。Perahiaというと、どうしても“お優しい”イメージがつきまといますが、この演奏ではそうした姿は何処へやら。Soltiとがっぷり4つに組んで、鮮やかなBartokとBrahmsを聴かせてくれています。

そう、アンサンブルがとても素晴らしい。実際はどうだか分かりませんが、2人のピヤニストがアンサンブルを楽しみながら、弾いている光景が目に浮かびます。そして両奏者とも、ピヤノの音の粒立ちがとても綺麗。

Bartok。深い味わいを持った、構築性の高い演奏。スマートながら、Bartokの故郷、ハンガリーの“歌”が随所に聞こえます。くっきりと旋律を浮かびあらせながら、思い切りピヤノを歌わせて。そして、思いの外の爽やかさと明るさを感じさせる、とても健康的な演奏。何度繰り返し聴いても、飽きたり疲れたりするとはありません。この曲の、本当に良い意味での模範演奏と言えましょう。

同じことがBrahmsにも言えます。以前この欄でご紹介したMartha Argerich & Alexandre Rabinovitchの「脳天直撃コンビ」による同じ曲の演奏が現れるまで、評者にとってこの曲の最良の演奏でした。今は、どちらを聴いても、別の満足感が得られます。やや遅めのテンポで始まる主題の提示。脳天直撃コンビが1分46秒で弾いているところを2分25秒もかけて、しっとりと弾いています。その後に展開される変奏曲の表情付けが見事。明と暗、静と動をくっきりと描いています。その変化がとても面白い。非常にダイナミック・レンジの広い演奏ですが、決して粗野にはなりません。いつでも流麗に旋律を歌わせます。そしてBartokと同様、爽やかさを失うことはありません。そしてがっちりと変奏曲を構成し、輝かしいフィナーレを堂々と歌わせます。とりわけ第7変奏とフィナーレのパッサカリアは秀逸。こちらも、この曲の模範的な名演奏でしょう。余談ですが、評者にとって、このBrahmsの「ハイドンの主題による変奏曲」は、想い出のあるピヤノ・デュオのひとつ。これがこうした輝かしい演奏で聴くことができるのは、非常な幸せと言って良いでしょう。

このCD、ピヤノ・デュオ愛好家の皆様には、是非とも聴いていただきたい1枚です。

楽譜。BartokはBoosey & Hawkesから出ており現役。BrahmsはPetersやInternationalなど、あちこちから出ており現役。いずれも容易に入手可能です。このCDも冒頭に記載したように、2002年12月2日時点で現役。オンラインですと「amazon.com」などで入手できます。
(2002年12月2日記)

CDタイトル Tal & Groethuysen play Gouvy
曲目 L.T. Gouvy: 連弾のためのソナタ ニ短調 Op.36
             連弾のためのソナタ ハ短調 Op.49
             連弾のためのソナタ ヘ長調 Op.51
             6つの小品 Op.51-1および2
             間奏曲 Op.83-5
             スケルツオ Op.77-1
             オーバード Op.77-2
演奏 Yaara Tal & Andreas Groethuysen
CD番号 Sony Classical SMK 89797


先週に続いて、今週も「音楽史の中に埋もれてしまった作曲家」の1枚です。今回は、Louis Theodore Gouvy(1819〜1898)。フランス生まれでベルリンに学んだ作曲家です。7曲の交響曲をはじめとして、歌劇や様々な作品を大量に残しながらも、今や、ほとんど忘れ去られてしまっています。

そんなGouvyに再び光を当てたのが、10年前の1992年に録音されたこのCD。卓越したデュオであるYaara Tal & Andreas Groethuysenが、Gouvyを闇の中から日の当たる場所へと引っぱり出しました。このCDを聴くと、何故これほどまでの秀作が、長いこと日陰者になっていたのか、疑問を持ってしまいます。ただ、先週ご紹介したRoentgen同様に、強烈な個性がないので、余程優れた演奏でないと曲が死んでしまい、そのまま忘れ去られてしまった・・・という可能性はあります。ここで、Tal & Groethuysenという素晴らしいデュオが手がけたことは、Gouvyにとって、大変に幸せなことと言えましょう。このデュオの表現力があったからこそ、この曲たちは再び日の目を見ることができた、といっても過言ではありません。

Gouvyの作風を一言で表現すると、「一世代後のSchubert」。もっともSchubertよりは楽曲の構成力はありそうですが。どの曲も「声で歌えるような」旋律が魅力的です。ある意味で「癒し系作曲家」と言えるかも知れません。

小品も面白いのですが、このCDでの聴き所は、やはり3曲の連弾ソナタでしょう。この3曲が作られたのは、1862年〜1868年の間。Wagnerも全盛期に入りつつあり、Lisztがそろそろ機能和声を放棄し始める兆候が出てきた頃です。彼らに比べるとGouvyは、旋律も和声も構成も、はるかに保守的。本当にSchubertの延長線上にある、といった感じです。それだから、埋もれてしまったのでしょうか? でも、旋律はどれも本当に美しいですよ。そしてop.36とop.49は4楽章の、op.51は3楽章の、堂々たるソナタ。なかなか聴き応えがあります。その魅力を十分に伝えてくれているのが、このCDです。

楽譜ですが、現在ではソナタニ短調(op.36)とソナタハ短調(op.49)が出ているのみ。ただしこの楽譜、Groethuysen校訂による大変にしっかりした楽譜です。出版社はKunzelmann。ソナタヘ長調(op.51)は以前Richaultから出ていましたが現在は絶版。その他の小品は、どこから出ていたのかも分かりません。もちろん全部絶版。出版社を御存知の方がいらっしゃいましたらご一報下さい。

このCDも2002年11月25日現在で現役。初出は1993年ですが、2001年に再版が出ました。現在入手できるのは再版です。オンラインですと「amazon.de」で入手できます。
(2002年11月25日記)

CDタイトル Jurilus Roentgen: Klavierwerkse zu vier Haenden
曲目 : 幼き日々より Op.4
      序奏、スケルツオ、間奏曲そして終曲 Op.16
      主題と変奏 Op.17
      ワルツ集
演奏 Kolner Klavier-Duo(Michael Krucker & Elzbieta Kalvelage)
CD番号 KOCH SCHWANN 3-1841-2


Julius Roentgen(ファミリー・ネームの“oe”の原表記は“oウムラウト”:1856〜1932)は、生前に21曲の交響曲、7曲のピヤノ協奏曲、ヴァイオリン協奏曲とチェロ協奏曲を2曲づつ、その他かなりの作品を残しながら、現在では、ほとんど忘れられてしまっている作曲家です。評者も、このCDを入手するまで、その存在をまったく知りませんでした。音楽史という大きな渦の中に巻き込まれ、ほぼ埋没してしまった存在と言えましょう。あの「The New Grove」(第2版)ですら、わずか68行、それもごくごく簡単な紹介しか記載されておりません。そんな作曲家にも、素敵な連弾曲がありました。それをとりまとめたのが、このCDです。

どの曲も、流麗でピヤニスティック。聴いていて疲れない音楽です。弾いてみると、きっととっても楽しいでしょうね。ただ、強烈な個性といったものが感じられません。それが音楽史の中で忘れ去られたような存在になってしまった、いちばんの理由かも知れません。

それでも聴いていて、はっとさせられる一瞬はあります。まず最初に収録してある「幼き日より Op.4」の第1曲目。「これでもかっ」というような浪漫的な旋律が朗々と歌われ、ピヤニスティックな煌めきが、天を目掛けて駆け上がる。和声は長調と短調の間を微妙に揺れ動きます。その揺らめきの中に、絶妙の陰影が・・・。この曲は後期浪漫派の連弾曲の中でも、再度注目してしかるべき1曲でしょう。Op.4は全部で14の小品で構成していますが、最初の1曲が最も素晴らしい! この曲があまりにも突出しているので、後がちょっと・・・ですが・・・。正直言って、このCD全部を通じて、最初にあったこの曲が、評者にとって最良でした。約2分のこの小品を知っただけでも、CDを購入した甲斐があったと思っています。ただ、聴く方によっては、当然別の感想を持たれるかも知れませんね。「ほかの曲の方がいいよ」と言うような。

続いて収録されている、「序奏、スケルツオ、間奏曲そして終曲 Op.16」は、全曲が約28という大曲。なかなか魅力的な連弾曲ですが、聴き所は「終曲」。一種の性格変奏になっており、演奏時間で見ると全曲の約半分を占めます。その表情の変化は、なかなか面白く聴くことができます。Op.17の「主題と変奏」は10分半の中に、主題と11の変奏曲を詰め込んだもの。各変奏曲の演奏時間は第6変奏と第11変奏を除くと30秒程度の短いもの。非常に短い時間の中で、主題を凝縮して変奏しています。・・・と書くと、ピヤノ・デュオ愛好家の皆さんにはLutslawskiの「パガニーニの主題による変奏曲」を思い出させてしまうかも知れませんが、全然違います。ずっと穏やかな変奏曲です。それにBrahmsやRegerのような「ガチゴチ感」はありません。ごくごく自然に主題を展開します。だんだんピヤニスティックになっていくところなど、なかなか面白いです。あるときは細やかに、そして壮大に盛り上がりつつも、最後は静かに終わります。浪漫派変奏曲の1つの表れでしょう。刻一刻と変化する表情に、興味は尽きません。

最後に収録されている「ワルツ集」は、評者にとってあまり面白いものではありませんでした。美しい一瞬はあるのですが、どうにも平板な曲ばかりです。

この曲たちを演奏しているのは、以前このコーナーでもご紹介したGriegやMoszkowskiの連弾曲をCDにしている、Kolner Klavier-Duo(Michael Krucker & Elzbieta Kalvelage)。この「埋もれた作曲家」の作品を再評価させようとするような、意欲的で面白い演奏を聴かせてくれています。

さて、これらの楽譜。どこから出版されていたものか、皆目見当もつきませんでした。詳細をもってなるMcGrawの「Piano Duet Repertorire」にも、1行の記述もありません。いろいろなデータベースなどを参照しましたが、まったく分かりませんでした。御存知の方がいらっしゃいましたら、どうぞご一報下さい。もちろん現在は全て絶版で、通常ルートでの入手は困難です。評者は「幼き日より」の第1曲やOp.16の終曲、それに主題と変奏の楽譜を是非参照して見たかったのですが、どうにも難かしいようです。

このCDは2002年11月18日時点で現役。オンラインですと「amazon.de」で入手出来ます。
(2002年11月18日記)

過日、「楽譜の出版元が分からない」と記載しましたが、作品4の「幼き日々より」のみ、出版社が判明しました。出版元は「Breitkopf & Hartel」です。ただし残念ながら現在絶版。国内の大学・短大の図書館にも見あたりません。ちなみに、このCDで収録されている作品4は、全部で14曲。楽譜は「Heft1」「Heft2」に分かれています。CDの解説には何も書いてなかったので、これで全曲かと思いましたら、さにあらず。実は「Heft3」があったのですね。それでこの小品集は、CDに収録されていないものも含めると、20曲以上で構成することが分かりました。

何故、判明したかと申しますと、先頃ある方から進呈されたこの曲の楽譜(Heft1)の表紙にHeft3まで出ていることが明記されていたのです。さらに出版元は不明ですが、Heft3の一部(第17曲)の楽譜も同時に入手し、少なくとも17曲以上はあることも、新たに分かりました。

なお、Breitkopf & Hartelは、現在でもRoentogenの楽譜をいくつか出しています。してみると、このCDに録音された他の曲も、こちらから出ていた可能性が極めて高いです。絶版ですが、中古市場や海外の図書館で探されるときのご参考になれば幸いです。(2002年12月28日・追記)

CDタイトル Ravel:Music for four hands
曲目 M.Ravel: マ・メール・ロア
           スペイン狂詩曲(1台4手による演奏)
           序奏とアレグロ(作曲者自編による2台版)
           ボレロ(同上)
           ラ・ヴァルス(同上)
演奏 Louis Lortie & Helene Mercier
CD番号 CANDOS CHAN8905


M.Ravelのピヤノ・デュオをまとめて聴くことができる、スグレモノの1枚。Ravelのオリジナル・ピヤノ・デュオは、2台ピヤノのための「耳で聞く風景」と連弾のための「マ・メール・ロア」だけですが、御存知のように管弦楽曲をRavel自身が、あるいはL.Garbanなどが数多く、ピヤノ・デュオに編曲しています。このCDは、そうした作品に触れるという意味では、大変に良い物と言えましょう。

演奏は、非常にクリア。生き生きとした音の流れで満ちあふれています。そして繊細さとダイナミズムを兼ね合わせているところなど、高く評価できるでしょう。アンサンブルも言うことなし。録音もかなりの高水準です。

選曲上で評価できるのは、現在ほとんど演奏も録音もされる機会のなくなった「序奏とアレグロ」を含んでいる点です。原曲はハープ、フルート、クラリネット、そして弦楽四重奏による室内楽です。でも、原曲を知らなくても、この演奏だけで、Ravel自身による編曲を「優れた2台ピヤノ曲」として聴くことができます。実は評者は、原曲のことはよく知りません。楽譜を見たこともなくて。それでも、この演奏で存分に楽しめました。

繊細さと抒情に溢れた、この曲。それを全面に出したのが、この演奏。非常に華麗であると同時に、2台のピヤノによる対話が実に面白い。幻想味を保ちながらも、精鋭さと抜群の楽曲構成力を備えた、極めて優れた演奏です。特にアルペジオの処理が素晴らしい! 何はともあれ、お薦めの演奏でしょう。これを聴くだけでも、このCDを入手しただけの価値はありますよ。Ravel自身による何かの2台用編曲ですと、こちらにも収録している「ラ・ヴァルス」が飛び抜けて有名ですが、この「序奏とアレグロ」も、それに匹敵する素晴らしい編曲であることがこの録音から把握できます。こんなに素敵な曲なのに、どうしてなかなか演奏されないのでしょう? やはり知名度からでしょうか?

意外と面白かったのが、「2台版ボレロ」。とにかく早いんですよ、テンポが。切れがよくて、グイグイと曲を押し進めます。全体で12分32秒しかかかっていません。これは「ボレロ」としては、かなり早いテンポですね。しかもフレーズ(コーラスか?)ごとに、ダイナミックに表情を変化させているので、聴いていても飽きません。原曲は完全にオーケストレーションの力に寄りかかったものですから、本来ならば、こうした単一の音色の楽器による演奏には向かないはずです。それが、実によくメリハリがついているため、大変に面白く聴けるのですね。いくつかの演奏で、この「2台版ボレロ」を聴いていますが、出来映えとしては、これがイチオシですね。

その他の曲の演奏も、大変に高水準で、楽しく聴けます。通常ですと2台ピヤノで演奏する「スペイン狂詩曲」も、わざわざ1台の連弾でやっているところなど、良い意味でのこだわりが感じられる1枚です。

さて、楽譜。全部Durandから出ており現役です。このCDも2002年11月3日時点で現役。オンラインですと、「amazon.com」あるいは「amazon.de」で入手可能です。(2002年11月3日記)

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(c) Yumiko & Kazumi 2002