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曲目 O.Messiaen :アーメンの幻影
            (ピヤノ独奏曲:カンテヨージャーヤーを同時収録)
演奏  Yvonne Loriod & Olivier Messiaen
CD番号 Ades 13.233-2

この曲の原典とも言える、作曲者自身と被献呈者による歴史的録音です。現在、この曲は頻繁に演奏され、また録音も増えてきました。それらと比べると表現上、やや異なった感のある演奏ですが、名演に相違ありません。

ひとことで言えば、爛熟した浪漫性を全面に打ち出した演奏です。過剰の一歩手前まで大胆に使ったペダルの効果。これがこの曲の持つ浪漫性、あるいは宗教性を醸し出しているのです。もちろん演奏の切れ味は抜群で、その意味で、演奏として「博物館入りした代物的」な位置づけであるとは言えません。演奏そのものは、十分に楽しむことができます。

 全曲を通じて、フレーズの「息」が非常に大きく捉えられております。それが結果的に、この演奏に大きなスケールを与えているのです。現在、この曲の演奏において、「息の長さ」が、やや失われつつある、と感じるのは筆者だけでありましょうか? もっとも、解釈の上では、それはそれで面白いのですが。

特に第1曲「創造のアーメン」、第4曲「願望のアーメン」、そして終曲「成就のアーメン」におけるペダリングは、まず現代の演奏ではみられないものです。とりわけ「成就のアーメン」の最後、徹底的にペダルを効かせ、最後の音が消えるまでペダルを踏み続けている(ように聞こえる)は、あたかも教会の大きなホールの残響を表現するように、深遠に響きます。また「願望のアーメン」では、楽譜から現れる以上に、ベッタリとした浪漫性が聞こえてきます。非常に「甘い響き」ですね。最近耳にした演奏では、ここまでペダルを大胆に使用(多用)したものはありません。

またこの録音、作曲者自身が優れたピヤニストであり、ピヤノ・デュオの名手であったことを証明する1枚でもあります。

この録音ではLoriodが第1ピヤノで向かって左、Messiaenが第2ピヤノで向かって右で弾いております。ただし「願望のアーメン」で、楽譜がミスプリントでない限り、途中から第1と第2を交代して弾いている場面があります。100小節目以降が、それに該当します。

なお、このCD2001年12月16日時点で、現役かどうか不明です。この8月頃までは、現役であることが確認できていたのですが。今回改めて調査したのですが、とうとう分かりませんでした。済みません。楽譜は仏Drandから現役で出ており、容易に入手可能。ただし、とっても高いです。スコア形式の1冊(つまり演奏には2冊必要)が65USDもしました。
(2001年12月16日記)

曲目 M.Ravel :スペイン狂詩曲
          ラ・ヴァルス
    M.Infante :アンダルシア舞曲
    E.Granados :「嘆き、またはマハとナイチンゲール」(コイェスカスから)
演奏  Guher & Suher Pekinel
CD番号 TELDEC 2292-44931-2

スペインを題材とした2台ピヤノ曲を集めた1枚。1曲だけスペインと関係ない曲が入っておりますが、これはご愛敬。もともと、あまりスペイン系の曲が好きでない筆者の1人・かずみでありますが、この演奏は実に楽しく聴くことができました。スペイン特有の「こってり感」を全く排除し、ひたすらピヤニスティックで快速な演奏。実に爽快であります。

どの演奏も秀逸ですが、かずみが気に入ったのはRavelのスペイン狂詩曲。ともすればスペイン臭さムンムンになるか、逆に醒めきった透徹な演奏になりがちなこの曲を、冴え切った技巧、繊細かつ芯のあるしっかりとした音色、そして抜群のリズム感で聴かせてくれます。あらゆる意味で、非常にバランスのとれた演奏です。「バランスのとれた演奏」というと、ともすれば「教科書的演奏」ととらえられてしまいがちですが、これは違います。バランスがとれた上で、他と比較して突出しているのです。同曲の演奏では、1、2を争う素晴らしい演奏と言えましょう。特に終曲「祭りの日」の音象処理は、実に見事! 一聴の価値はあります。

Infanteの「アンダルシア舞曲」も、スペインの香を極端に押さえた演奏。こうした演奏には賛否があるかと存じますが、少なくとも筆者にとっては、これまで聴いた「アンダルシア」のどれよりも素敵でした。ここでも演奏者の切れ味の良いタッチが光ります。「スペイン」という「大樹」にあえて寄りかからず、テクニックと表現力によって、このデュオ固有の「アンダルシア」を弾ききっている点が秀逸です。

一方、もう1人の筆者・ゆみこは、「ラ・ヴァルス」を大変に評価しております。かずみはMartha Argerich様 & Alexandre Rabinovitch組の演奏に軍配を上げているのですが、ゆみこはこのPekinel組の演奏を推しております。確かにリズム感、アンサンブル、テクニック、そして過度にウイーン調にならない冷静な表現力・・・模範的でありながら、聴いて大変に楽しめる演奏であることは疑いありません。ただしArgerich様 & Rabinovitch組のような、あくの強さはありませんが。

Granadosの「嘆き、またはマハとナイチンゲール」(コイェスカスから)も、楽しく聴ける演奏です。元々はピヤノ独奏曲ですが、BartlettとRobertsonという人が2台ピヤノに編曲した作品です。

楽譜の出版状況は以下の通り。「スペイン狂詩曲」は、DurandとWarner Bros.、およびヤマハ・ミュージック・メディアから出ており現役。いずれもWarnerとヤマハはDrand版のレプリントです。Durand版はとても高いので、Warner版かヤマハを購入するのがお得です。ヤマハ版には、「スペイン狂詩曲」と「ボレロ」(2台版)も収録されております。楽譜のタイトルは「ラヴェル ピアノ作品集 第5巻 <作曲者自身による2台ピアノ>」です

「アンダルシア舞曲」はSalabertから出ていて、これも現役。ただし3曲で構成するこの曲、楽譜は各曲バラバラに別売りです。高いです。

「ラ・ヴァルス」はDurandから出ており現役。これは高いので、日本にお住いの方には、前出のヤマハ版がお勧めです。Granadosの「嘆き、またはマハとナイチンゲール」の出版元は分かりませんでした。ご存じの方、ご一報下さい。

なお、このCDは2001年12月10日時点で現役。「amazon.de」で入手できるほか、日本では国内盤もあるようです。(2001年12月10日記)

曲CDタイトル: Duettino
曲目 C.Saint-Saens
    (1)軍隊行進曲「ナイル川のほとり」Op.125 
      (管弦楽曲:作曲者自編:連弾)
    (2)交響詩「オンファールの糸車」Op.31 
      (管弦楽曲:作曲者自編:2台)
    (3)交響詩「ファエトン」Op.39 (管弦楽曲:作曲者自編:2台)
    (4)ハイネの詩による「ハーラル・アルファガル王」Op.59 
      (連弾オリジナル)
    (5)子守歌 Op.105 (連弾オリジナル)
    (6)メヌエットとガヴォット Op.65
      (ピヤノ7重奏曲:作曲者自編:2台)
    (7)小2重奏曲 Op.11 (連弾オリジナル)
    (8)アラビヤ奇想曲 Op.96 (2台ピヤノ・オリジナル)
    (9)ベートーヴェンの主題による変奏曲 Op.35
      (2台ピヤノ・オリジナル)
演奏  Duo Egri & Pertis (Monika Egri & Attila Pertis)
CD番号 Hungaroton HCD31928

Saint-Saensの連弾および2台ピヤノ曲を一気に集めた注目の1枚。大半が「世界初録音」で、それがいずれも楽しく聴くことができます。とても優れた演奏です。しかも「デュオ・ヲタク」にとっては、興味津々の録音。

この録音に使われたピヤノは「1台で2台の箱形ピヤノ」。その昔、フランスのPleyelというピヤノ・メーカーが、「2台のピヤノを用意するなんて、面倒臭いじゃん。1台のピヤノに両側に鍵盤を付ければ、それでOKよ」・・・と作った「Double Grand piano」があるのです。この録音では、まさにその「特殊ピヤノ」を使用しております。ちょっと小さくて分かりにくいかも知れませんが、左側の「ジャケット写真」にあるピヤノです。

この特殊ピヤノを使い、録音としては珍しいSaint-Saensのデュオを集めている点、非常に評価できる1枚です。ただ残念なことに、こうした構造をしたピヤノなので、連弾曲の場合、並んで弾いているのか、向かい合って弾いているのかが、全く判別できませんでした。

筆者らは、このピヤノの存在は知っておりましたが、現物の録音を聴くのは初めてです。どんな音になるのか・・・と大変に興味がありました。柔らかい音質ながら意外と芯があって、なかなかの聞き物です。どの曲も、楽しく聴くことができました。演奏そのものも、なかなか見事です。管弦楽からの編曲物も、オリジナル曲に負けない、素敵な出来映えでありました。

Saint-Saensという人は、ピヤノ・デュオに相当の興味を持っていたようです。オリジナルの連弾曲/2台用作品を書く一方、自分自身の管弦楽作品などをけっこうたくさんピヤノ・デュオに編曲しているのですね。残念ながら現在では、これらの作品を聴く機会は非常に少ないのが現状です。このCDは、こうした現状の中でSaint-Saensのデュオを、優れた演奏で聴けると言う点で、高く評価できましょう。

さて、楽譜ですが、(4)はBote & Bockから、(6)はInternationalから、(7)はHamelleから出版されていましたが、現役かどうか不明。その他はDurandから出ていて、いずれも現役のはずです。もし絶版になっていたら、ごめんなさい。

このCDは、2001年12月3日時点で現役。「amazon.com」または「amazon.de」で入手できます。また日本では「キングインターナショナル」が輸入盤を出しているので、容易に入手可能です。(2001年12月3日記)

曲CDタイトル: Richard Wagner Piano Transcriptions for Four Hands
曲目 (1) R.Wagner:楽劇「ニュルンベルグのマイスタージンガー」
       第1幕前奏曲 C.Tausig編曲
    (2) F.Halevy:喜歌劇「ギター弾き」序曲 R.Wagner編曲
    (3) H.Herz:「ラ・ロマネスカ」による大幻想曲 R.Wagner編曲
    (4) R.Wagner:序曲「ファウスト」 H.v.Bulow編曲
    (5) R.Wagner:舞台神聖祝典劇「パルジファル」第一幕前奏曲
       E.Hunperdink編曲
    (6) R.Wagner:楽劇「ワルキューレ」第3幕から「ワルキューレの騎行」
       C.Tausig編曲
    (7) R.Wagner:歌劇「タンホイザー」序曲 作曲者自編(?)
演奏  Yaara Tal & Andreas Groethuysen
CD番号 Sony SRCR 2166(国内盤)
ASINコード: B0000262YZ(海外盤)

Wagnerの名曲を連弾化した編曲と、Wagnerが他人の作品を連弾化した作品を集めた、大変に興味深い1枚。しかも演奏・録音ともに非常に秀逸。特にWagner作品の連弾用トランスクリプションには、いかに素晴らしいものがあるのかを徹底的に再認識させられます。

ここに収録されているうち、Wagnerが他人の曲を連弾にした編曲も、なかなか楽しめます。しかし聴いてみての面白さから言ったら、Wagnerの作品を他人が編曲したものの方が圧倒的に優勢です。連弾面白さを存分に味わうことができましょう。

特に(1)マイスタージンガー前奏曲や(6)ワルキューレの騎行などは、「これが1台のピヤノで実現できているのか!」と驚くばかりの出来映え。編曲が素晴らしいことは言うまでもありませんが、それを極めて鮮やかに弾ききっている演奏者も素晴らしい。ピヤノ連弾という演奏形態の出せる効果を最大限に出し切った編曲、そして演奏です。(4)のファウストに至っては、ピヤノの音が好きな方は、原曲よりもこちらの方がかえって楽しめるのではないでしょうか? 

(1)と(6)の編曲は、大ピヤニストだったC.Tausigの手によるもの。(4)は、やはり大ピヤニストで指揮者であったH.v.Bulowの編曲。いずれにしても、「名人の編曲」がいかに効果的になされているかを知る上で、絶好の演奏です。ここまで来ると、原曲と編曲が別の創作物であることが、いやがおうにも強烈に認識させられます。

原曲は、およそピヤノ向きでない(と思われる)、(5)のパルジファルも素敵な演奏。管弦楽の原曲だけを聴いてスコアを見て、「これを連弾で演奏する」と想像しても、なかなか音像が頭に浮かびません。ピヤノで弾いたら、何だか間延びしそうな曲ですね。ところがこのE.Humperdinkによる編曲、「間延び」を何とか回避しようと、さまざまな編曲上の工夫を凝らしております。と言っても、大幅にトランスクリプトするのではなく、原曲に忠実にやりながら、その中で何とかうまくやろう、と工夫しているのです。ただ筆者はこの楽譜を見ていないので、ひょっとしたら演奏者の側が相当入念に楽譜を分析し、聴き手を飽きさせないようなアプローチをしているのかも知れません。

さて(7)のタンホイザー序曲ですが、これはオーソドックスな編曲。管弦楽を上手に連弾に移して、かなり効果的に響くようにした代物です。CDのジャケットには「作曲者自編」とあるのですが、これはちょっと疑問。「タンホイザー序曲の作曲者自身による編曲」という存在は筆者、これまでどの文献でも確認したことはありません。この曲で有名な編曲はH.v.Bulowによるものですが、楽譜が手元にないため演奏と照らし合わせることができません。後日の宿題とさせて下さい。

さて、ここに収録された曲の楽譜です。2001年11月26日時点で、物の見事に全て絶版。ちなみに(1)、(5)、(6)は、Schottから出ていました。(4)はBreitkopf & Hartelから。(7)は本当に作曲者編曲だと不明ですが、有名なBulow編は、最近までDurandのカタログにありました。今は絶版です。(1)、(4)、(5)、(6)は、各出版社に問い合わせてみると、ひょっとするとコピー譜が入手できるかも知れません。(2)と(3)は出版社不明。ご存じの方はご一報下さい。

なおこのCD、国内盤は現役かどうか不明ですが、海外盤は11月26日時点で現役。「amazon.de」で入手できます。
(2001年11月26日記)

曲CDタイトル: Marchenmusik
曲目 (1) G.Ranki : Ket bors okrocske (2頭の不思議な雄牛)
    (2) C.Reinecke : くるみ割り人形とネズミの王様 Op.46
    (3) F.Schmitt : 眠りの精の一週間---ヤルマールの夢 Op.58
    (4) M.Ravel : マ・メール・ロワ
演奏  Adelheid Lechler & Martin Smith
CD番号 Ars Produktion FCD 368 333

タイトルにあるように、「メルヒェン」に題材を求めた連弾曲を集めた1枚です。楽しい曲たちが秀逸な演奏で録音されております。1つを除いてちょっと珍しい曲ですが、資料的価値はもちろんのこと、演奏そのものが十分に楽しめる点も、このCDの特徴と言えましょう。大変に浪漫的な曲を集めた、それは素敵なCDです。

トピックスとなるのは、(2)(3)。大変に素敵な連弾曲でありながら、現時点で録音はこの1枚のみ。しかも演奏は聴き手を十分に楽しませてくれるレヴェルに達しています。アンサンブル、表現力ともに、かなりの高水準ですよ。

こうした珍しい曲の録音---曲そのものは連弾関係者の中では有名ですが、何せ演奏/録音される機会に、とにかく恵まれていません---ですと、つい「資料的価値」を評価しがちですが、このCDは全然そうしたことはありません。「こんな楽しい曲なんだよ」、ということを演奏者が聴き手に直接語りかけてくれているのです。

(2)の「くるみ割り人形とネズミの王様」。出だしの序奏から、聴き手をメルヒェンの世界へと、一気に引き込みます。淡々と演奏を進めながらも、ここぞ、というところでのアクセント。キラリと光る高音部。全体としてちょっと「大人し目」の演奏ですが、この曲の素晴らしさを再認識させてくれるには十分です。とにかくアンサンブルと音の粒立ちが美しい! ドイツ・ロマン派の真髄を突いた演奏です。通常の演奏会でも、もちろんプログラムに載せられますが、クリスマス・シーズン、この曲に物語を添えて演奏するのも素敵でしょう。・・・そんなことを、様々頭に思い浮かばせてくれる。素敵な演奏です。この演奏をお聴きになったら、ご自分達のレパートリにされたいと思われるデュオの方も、きっと多いと存じます。

一方の(3)。こちらは曲の持つダイナミズムを前面に出した演奏です。この曲も(2)に劣らず不幸な曲で、大変に充実した作品でありながら、録音や演奏の機会に殆ど恵まれません。このCDの演奏は、こうした不幸な現状に置かれたこの曲を、大勢の方に再認識していただくのに、非常に適切な演奏と言えましょう。この曲はプリモの両手が1ポジションで弾けることで知られていますが、この演奏を聴いただけでは、それとは分かりません。大変にピヤニスティックで素敵な連弾曲です。LechlerとSmithのコンビは、この「不幸な曲」を、胸のすくようなアンサンブルで弾ききっております。聴いて損はありません。

(4)も水準を超える素敵な演奏です。お聴きになって十分に楽しめるでしょう。(1)に関してですが、副題の「2頭の不思議な雄牛」ということしか分かりません。楽しい曲なのですがタイトルはハンガリ語で判読不明。音楽物語でナレーションも入った連弾曲なのですが、ナレーションがハンガリ語(らしい)ので、どんな物語か、全然分かりません。一応英文の解説はついているのですが、肝心の物語の内容についてひとことも触れていないため、詳細は不明であります。これをお読みでハンガリ語がお分かりになる方、原題は何というのか、ご教授頂けたら幸いです。

各曲の楽譜です。(2)はBreitkopf & Hartelから、(3)はKalmusから、それぞれ出ていて現役。(4)はあちこちから出ていますので、これは省略。(1)の出版元は不明です。

CDは、2001年11月19日時点で現役。「amazon.de」で入手可能です。(2001年11月19日記)

曲目 S.V.Rachmaninoff:(1) 組曲第1番「幻想的絵画」 Op.5
                (2) 組曲第2番 Op.17
                (3) 交響的舞曲 Op.45 (2台ピヤノ版)
演奏 Martha Argerich & Alexandre Rabinovitch
CD番号 Teldec 9031-74717-2

「2台ピヤノ曲用の最高峰とも言える、Rachmaninoffの組曲第1番と第2番、そして交響的舞曲の演奏を1枚だけ推薦しろ。さあ、お前なら何を選ぶ?」と、言われたら、文句なく、この1枚を推薦いたします。素晴らしいアンサンブル力はもちろんですが、「合わせよう」とするなかでも、「何とか自分を主張しよう」という、相反する要素を完全に盛り込んだ、圧倒的な録音です。このCDが出てから9年が経ちましたが、筆者にとって、これを超える録音は未だ存在いたしません。

この両名、持っている音楽性は全然違います。このCDからも伺えますが、ライヴで聴くとそれが一層良く把握できます。片や圧倒的なテクニックを持ちながらも、かなり神経質で徹底的に曲の細部まで突きつけていくRabinocitch。片や豪放で楽天的ながら、いつも相手の出方を見守って、上手にアンサンブルを仕上げようとするArgerich様。そのまったく違った音楽性がぶつかり合って、目の覚めるような演奏に仕上げたのが、このCDです。まさに、ピヤノ・デュオの究極とも言える演奏でありましょう。極限とも言える演奏です。

確かに、「アンサンブルの精度」を指摘したらば、Argerich様が以前Nerson Freireと録音した「組曲第2番」の方に軍配が上がります。しかし、デュオの掛け合いの面白さ、駆け引きの妙味・・・という観点から見ると、この演奏の方が圧倒的に素晴らしい。表現の幅、音色の絶妙のコントロール、ダイナミクス・レンジの広さ・・・どれをとっても、この演奏を超えるものは、なかなか現れそうにありません。もっとも、あくまでも筆者の主観です。別の演奏をお好みの方も、大勢いらっしゃるでしょう。でも、そうした方でも、この演奏が他の多くの同曲演奏のなかでも、抜きん出て素晴らしいものであることは、なかなか否定できないことでしょう。何はともあれ、一聴に価する演奏であります。

楽譜の出版に関しては以下の通りです。(1)と(2)はBoosey & Hawkesから、それぞれ第1ピヤノ/第2ピヤノ分冊の形で、(1)〜(3)は、CPP/Belwin Millsからスコア形式で、出版されております。ちなみにCCP/Belwinの(1)と(2)は「Rachmaninoff Works for Tow Pianos/Four Hands」という冊子に、「前奏曲op.3-2(2台版)」、「イタリアン・ポルカ(2台版)」も一緒に収録されております。Booseyの楽譜は1組購入すれば済みますが、CCP/Belwinのはスコア形式で1冊づつ販売されているので演奏には2冊必要になります。いずれの楽譜も、入手は容易です。

なお、このCDは2001年11月13日時点で現役。「amazon.com」で入手できます。
(2001年11月13日記)

CDタイトル:Bradshaw & Buono Play Liszt
曲目 F.Liszt:(1) ハンガリー狂詩曲第2番(連弾版)
         (2) 祝典ポロネーズ
         (3) Wagnerの「タンホイザー」から「ワルトブルクへの入場」
         (4) Berliozの「ベンベヌート・チェルリーニ」から
            「ベネデュクションとサルモン」
         (5) Donizettiの「ランメルムーアのルチア」から
            「行進曲とカヴァティーナ」
         (6) Meyerbeerの「予言者」から
            コラール「Ad nos, ad salutarem undam」による幻想曲とフーガ
演奏 David Bradshaw & Cosmo Buono
CD番号 Albany Records TROY 039

Lisztのオリジナル連弾曲とトランスクリプションものを纏めて聴くことができる貴重な1枚。演奏は実に爽やかで、録音も優秀です。文献によるとLisztは、かなりの数の連弾/2台ピヤノ用の編曲を残しております。ところがその大半は、楽譜も絶版ですし、録音も極めて少数。そうした中で、この1枚は、リストの4手用トランスクリプションに触れる、絶好の1枚と言えましょう。

このCDに収録された曲のうち、(1)と(2)が連弾、その他は2台ピヤノ用作品です。CDの解説によると(1)はLiszt自身の編曲、となっておりますが、これは誤り。原調の嬰ハ短調を半音低くして編曲したL.Windspergerの手によるものです。(2)は、当ページでお馴染みの、Liszt唯一の完全オリジナル連弾曲です。(1)、(2)ともにかつて「今週の1枚」でご紹介した「Pinucia Giarmana & Alessandro Lucchetti組」(「バックナンバー Vol.1」ご参照)と比較すると、かなりゆったりと弾いています。ただ、「締めるところは締める」演奏なので、冗長感なく聴くことができます。甲乙つけがたい出来ですね。

連弾曲も良いのですが、このCDの特徴は、何と言っても他人の曲を2台ピヤノ用にトランスクリプションした作品群が、纏めて収められている点です。(3)〜(6)がこれに該当します。どれも素晴らしい演奏で、作品の持つ魅力を十分に引き出して、これらトランスクリプションがいかに優秀な2台ピヤノ曲であるかを存分に提示してくれております。

筆者の個人的興味から言えば、Wagnerの「タンホイザー」から「ワルトブルクへの入場」が、最も楽しく聴くことができました。最初は、ごく単純に、あの有名な行進曲のテーマを2台のピヤノで交互に奏でるのですが、それがだんだんと複雑になっていき、最後は圧倒的な超絶技巧によるクライマックスを迎えます。この過程は、実に感動的。世の中には「編曲物」を、さらにその2台ピヤノものを「1段低い音楽」と見なす、邪悪な輩がおりますが、そうした連中にこのCDを大音量で聴かせてねじ伏せてやりたくなってしまうような編曲、そして演奏であります。

さて楽譜ですが、(1)はSchottから、(2)はRicordiから出ていて誰でも容易に入手できるのですが、(3)〜(6)のトランスクリプションものに関しては、散々探したのですが、どこから出ているのか、まったく分かりませんでした。もちろんいずれも残念ながら絶版です。これは非常に残念なことですね。CDの解説を読んでも、楽譜の出所に関して、正確なことは何も書いてありませんでした。もし、これらトランスクリプションものに関して楽譜の情報をお持ちの方がいらっしゃいましたら、是非ともご一報下さい

ちなみにこのCDは、2001年11月4日時点で現役。「amazon.com」で入手できます。
(2001年11月4日記)

CDタイトル:Tailleferre・Works for 2 Pianos
曲目 G.Tailleferre:(1) 間奏曲
            (2) ラルゲット
            (3) 野外遊戯
            (4) トッカータ
            (5) 気まぐれな組曲
            (6) 2つのワルツ
            (7) ファンダンゴ
            (8) ヌーヴェル・シテーレ
            (9) 影像
            (10) ソナタ
演奏 Mark Clinton & Nicole Narboni
CD番号 ELAN Recordinqs CD 82278

淡い色調の絵画を見ているような、透明感溢れる音の流れを綴った1枚。「フランス6人組」の紅一点だった、Germaine Tailleferreの2台ピヤノ曲と連弾曲をまとめて収録した貴重なCDです。未出版の作品や、このCDで初めて録音されたという曲でいっぱいです。Tailleferreというと連弾曲「最初のお手柄」(注:このCDには収録されておりません)が飛び抜けて有名ですが、彼女のピヤノ・デュオ曲は、これだけではない、ということがこのCDを聴くことでよく把握できます。ピヤノ・デュオ作曲者としてのTailleferreという存在を、再認識させてくれるのに非常に適切なCDと言えましょう。演奏も実に爽やか、かつ立派で、作品の持つ魅力を存分に伝えております。

このCD、演奏や選曲の素晴らしさに反して、タイトルの付け方や解説がかなりお粗末です。CDのタイトルは「Tailleferre・Works for 2 Pianos」。ところが2台ピヤノ曲だけでなく連弾曲も収められております。解説もいい加減で、どれが2台ピヤノでどれが連弾かは、全く記載されておりません。連弾曲が収められているにも関わらず、解説のかなり頭の方で「ここではTailleferreの2台ピヤノ曲が収録されており・・云々・・」としてあるなど、かなり罰当たりなことをやっているのが何とも残念です。それなのにCDの表紙には「Music for two pianos & piano 4-hands」と書いてあるし。かなり杜撰な作りです。

批判はこの位にして、演奏についてひとこと。この種の曲を相手にすると、淡い水彩画を描くように、輪郭線のはっきりしない茫洋としたまとめかたをしてしまう演奏者がおります。筆者の聴いた限りでは、Debussyの演奏で、こうした傾向が時折見受けられます。でも、そんなことしたら、折角の作品が死んでしまう。幸いこのCDで演奏している夫婦デュオ---Mark ClintonとNicole Narboni---は、曲の輪郭線を、かなりかっちりと浮き立たせながら、Tailleferreの特徴である「淡い色調」を見事に描き出しているのです。しかも「ピヤノ・デュオの愉悦」を十分に引き出しながら。この、いくつもの相反する要素をすべて満たしている点、非常に評価できる演奏と言えましょう。このCD、どの曲から聴きだしても楽しめますよ。ちなみに(3)、(5)、(6)の他は、このCDが世界初録音です。

このCDに収録された曲のうち、(1)、(2)、(3)、(4)、(6)、(9)、(10)が2台ピヤノ曲、その他が連弾曲です。どれも素敵な曲ですが、楽譜の入手がかなり厄介。(3)はDurandのカタログに載っておりますが、現役かどうか心許ないです。(5)もLemoineのカタログにありますが、現役かどうか不明。(6)はLemoineから出ていて一応現役のようです。(9)はかつてChesterから出ていましたが、どうやら現在では絶版の可能性が高いです。その他の曲は、すべて未出版。これほど素敵なピヤノ・デュオ曲が未出版とは、なんとも残念なことであります。

このCDそのものは、2001年10月28日現在で現役。「amazon.com」で入手できます。

追記:(5)と(6)が現役であることが確認できました。情報を下さった川端さんに感謝いたします。

(2001年10月28日記。11月4日追記)

CDタイトル:Paul Hindemith werke fur zwei pianisten
曲目 P.Hindemith:(1) 交響曲「画家マチス」(作曲者自身による連弾版)
            (2) ラグタイム(連弾のための)
            (3) ピヤノ連弾のためのソナタ
            (4) ワルツ 作品6 (連弾のための)
            (5) 2台のピヤノのためのソナタ
演奏 Andreas Grau & Gotz Schumacher
CD番号 Wergo WER 6633-2

Paul Hindemithの主要なピヤノ・デュオ作品を集めた画期的な1枚。どの曲も素晴らしいテクニックとアンサンブル力でもって、鮮やかに弾き切っております。熱狂的になることなく、常に冷徹、そして楽曲の持つ構成力を強烈に前面へ出すことで、演奏に説得力を持たせた快演です。Hindemith作品の特徴である複雑な対位法を、ものの見事に処理している点が特徴と言えましょう。そして、いつでも「ピヤニスティック」であることを意識した演奏となっております。

聴き所は、(1)、(4)そして(5)。

(1)の「画家マチス」は、管弦楽版と比べると、物凄く冷たく、そして硬く響きます。この作曲者自身による編曲は、連弾という演奏形態をきちんと把握し、その利点を明確に出しながらも、原曲の持つ壮麗な魅力を保持しております。演奏技術的にはかなり複雑な要素を備えた編曲ですが、Andreas GrauとGotz Schumacherの2人は、それを苦もなくこなし、この曲の持つ魅力を最大限に引き出しているのです。この演奏を聴いていると、単なる編曲物の域を脱した、それは生き生きとした連弾ソナタとなっていることが如実に感じられるのです。下手くそなデュオにかかると対位法の処理だけで、糸がこんがらがってしまったようになってしまうこの曲。それを聴き手をグイグイと曲の中に引っ張り込んでしまう点、この演奏の評価できるところと言えましょう。楽譜を見ながら聴いていると、実に面白いですよ。

(4)の「ワルツ」は作曲者21歳のときの作品。まだ作曲者初期の表現主義までも至っていない、ロマンティックな小品集です。このCDを頭から連続して聴いて行くと、この曲が響いた瞬間、どこかほっとするものを感じさせます。ただ、ロマンティックと言えども、どこか後年の作品に通じるドライで醒めた何かが、曲の根底を支配しているワルツです。この演奏を聴いて、「ちょっと弾いてみようかな」と思われる方もいらっしゃるかも知れません。もちろんこのCDの演奏、ここでも冴え渡っております。可愛い連弾曲ですよ。最後はちょっと暗いけど。

(5)の「2台のピヤノのためのソナタ」は近代2台ピヤノ曲の名作。それをこのデュオは実に堂々と鳴らしています。まるでドイツのゴシック様式の建築物を見せるかのように。「Hindemithは、ちょっと・・・」と仰る方でも、「2台ピヤノ曲」という観点でじっくり聴き直してみると、この曲の魅力に取り憑かれてしまう方も、きっといらっしゃることでしょう。特に素晴らしいのは第5楽章(終楽章)のフーガ。4声の2重フーガ(一部3重フーガになっている)を徐々に盛り上げ、壮麗な終結に強烈な推進力で曲を弾き進めていくこの演奏は、非常に感動的です。

なお(2)と(3)は、演奏は素晴らしいのですが、筆者自身が曲そのものを好きでないため、解説は割愛しました。この曲がお好きな方には申し訳ないのですが、筆者にとってはつまらない曲としか聞こえてきません。どんなに演奏が素晴らしくとも。特に(2)の「ラグタイム」は、グロテスクな連弾曲以外の何物でもありません。

楽譜は(1)〜(5)ともに独B.Schott's Sohneから現役で出ており、容易に入手可能です。CDは2001年10月21日時点で現役。「amazon.com」で入手できます。(2001年10月21日記)

曲目 N.Medtner:騎士の遍歴 Op.58-2
            ロシヤの輪舞 Op.58-1
    S.Rachmaninoff:組曲第2番 Op.17
              ロシヤ狂詩曲
              交響的舞曲 Op.45
演奏 Dmitri Alexeev & Nikolai Demidenko
CD番号 Hyperion CDA66654

RachmaninoffとMedtnerの2台ピヤノ曲を集めた秀逸な1枚。中堅からそろそろ大家の域にさしかかったDmitri AlexeevとNikolai Deminenkoの二人が、鮮烈な演奏を聴かせてくれております。

もちろんRachmaninoffもなかなかの演奏ですが、このCDの聴き所はMetdner。録音も演奏される機会も少ないMedtnerの2台ピヤノ曲を、それは鮮やかに弾ききっております。一般にはあまり知られていない曲ですが、この演奏を聴くことで曲の持つ魅力は十分に伝わることでしょう。ロシア物がお好きな方には、絶対のお勧め品です。

Medtnerと言うと、非常にピヤニスティックでありながら、いつもどこかに陰影を抱えた点が魅力なピヤノ独奏曲で知られています。ここに収められた2曲---作品番号は58-1と58-2ですが、全く性格の異なった独立した曲です---も独奏曲と同様、煌めく音のパレードですが、奥底に暗さを秘めた逸品です。はっきり言って「根暗」。どちらの曲も暗い情熱---情念といった方が正確かも知れません---が全曲を覆っております。

確かに58-2「騎士の遍歴」は勇壮であり、輝かしい一面もあります。どんよりとした空の雲間から、一瞬、煌めくような冬の日差しを受けるような瞬間が。しかしそれは一瞬に過ぎません。あっと言う間に、元の暗い情念の渦に聴き手を引きずり込んでしまうのです。むしろ、一瞬の儚い明るさがあるからこそ、この曲の根底にある「根暗基調」が強調されるのかも知れません。ただし、どこまでもピヤニスティックで、2台ピヤノでなければ表現できない音色・音響を備えた曲であると言えましょう。

一方の58-1「ロシヤの輪舞」は、表面的な明るさを装った根暗な曲です。楽しい踊り、みんなで踊ろう。だけど心の中は真っ暗け。リズミックでピヤニスティック、素敵な曲ですが根底では58-2と同様の、暗い情念が支配しております。

この2曲をこのCDで聴いて、感動したり、自分で弾きたくなる方は、とてもたくさんいらっしゃると思います。アンサンブルもピヤノの鳴らし方も、録音も万全の1枚です。非常に切れの良いタッチは、聴いていて爽快感があります。でも、ワクワクしたり幸せな気分になる方は少ないのではないでしょうか? それほど「根暗」な曲であります。

もっとも、(1)この曲の楽譜が手に入り、(2)この曲を弾ききるだけの実力があり、(3)この曲を弾く機会に恵まれる---と言う3つの条件が全て揃ったら、筆者なら是非とも演奏してみたい曲です。演奏して、聴衆の皆様を、暗い情念の奥底にご招待するのです。

ちなみに(2)および(3)は夢物語。楽譜は以前、英国のAugenerから出版されておりましたが現在は絶版。古本市場でも、全然出回っておりません。ただし(1)の条件だけはクリアできそうです。日本では国立音楽大学付属図書館に2曲とも蔵書があります。筆者の怠慢でコピーを頂きに行っていないだけです。もしこのCDを聴いて「是非とも弾いてみたい」とお考えになった方は、国立音大図書館にアプローチして下さいませ。

このCDは2001年10月14日時点で現役。「amazon.com」で入手できます。
(2001年10月14日記)

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(c) Yumiko & Kazumi 2001