! 今週の1枚! ! バックナンバー ! ! Vol.10 ! |
CDタイトル: Music for Piano, Four Hands 曲目 M.Clementi: 連弾のためのソナタ 変ホ長調 Op.14-3 A.Dvorak: ボヘミアの森から Op.68 E.Chabrier: 道化た行進 J.Beckwith: ミュージック・フォー・ダンシング 演奏 Satoko Hojo & Miguel Sosa 青春の息吹と、瑞々しい感性が光る1枚。清冽な音の流れが、聴き手を惹きつけます。確かに「若い音」のするCDですが、それを超えた「何か」を感じたので、こちらで紹介することにしました。 曲は、かなりの連弾マニア向け。相当に凝った選曲です。中でも最も面白かったのは、カナダの作曲家、John Beckwothの「ミュージック・フォー・ダンシング」。様々な「舞曲」が表情を変えて、次々と現れます。CD添付の解説書でL.Kellyという人が言及しているのですが、この曲はラヴェル、プーランク、サティの影響をもろに受けています。でも作曲者自身の個性が十分に出ていて、とても面白く聴けました。優れた作品であり、それを適切に表現した優れた演奏でした。 この曲をはじめとして、ここで弾かれているClementiも、Dvorakも、Chabrierも、どれも明るいタッチで表現され、曲の魅力を存分に伝えています。アンサンブルも極めて高度です。聴いていて、何とも言えない爽やかさを感じます。とても楽しいですね。 もちろん、演奏者に“注文”を出したい点は、多々あります。例えばClementi。第1楽章と第3楽章における対位法の処理を、もっと明確に、くっきりと描けたなら、より完璧だったことでしょう。Dvorakに関して言えば、個々の小品について、もっと対比を付け、各曲もより深い陰影を持たせるべきではないでしょうか。あまりに明るい表情で弾かれているために、曲ごとの対比の表現にはやや甘い点があります。 Chabrier。実に均整の取れた演奏です。でもね。折角ここまでやるのでしたら、もっと羽目を外しても良いのではないでしょうか。特にトリオの後半、もっとハチャメチャに“ほら、この曲、こんなに楽しいんだよ!”と、鍵盤上で「どんちゃん騒ぎ」をやったもよかったと感じました。でも、そうしたことは枝葉末節。この録音の長所は、演奏の至る所に出ています。 聴くべきは、絶妙のアンサンブルと、爽やかな音の流れです。 ・・・と、評者の勝手な注文を付けましたが、演奏そのものはかなり高度な領域に達しており、とても楽しめます。これが録音されたの、演奏者2人とも20代の後半です。それから約10年を経た今、このお二人は、どのような演奏をされていらっしゃるのでしょうか。とても興味があります。 日本では、ちょっと名の知れたピヤノ演奏家がデュオを組んで演奏会やCD録音をやっているケースが増えてきました。ピアノ・デュオが大勢の人に親しまれるのは、それはそれで良いことでしょう。だけど、名が知れた演奏家同士が組んでも、それがデュオとして成立するかどうかは、また別問題です。単にピヤニストが2人集まれば、デュオが成立するわけではありません。中には失敗例も数多くあります。どなたとは、あえて申しませんがね。そうした中で、今回取り上げたような演奏者のような人たちが、地道にデュオの世界を深く探求していることに、もっと着目すべきではないでしょうか。 そんな思いを込めて、「こんな素敵なデュオがあるんだよ」と紹介したのが、今回の1枚です。日本のプロデューサやメディアも、もっとこうした演奏者に光を当てるべきではないかと思います。 さて、こちらで取り上げている曲の楽譜です。ClementiはSchirmer、C.F.Petersおよび全音から出ており現役。DvorakはSupraphonから出ており現役。ChabrierはGerard Billaudotから出ており現役。Beckwothに関しては、どこから出ているのか分かりませんでした。済みません。 このCDは現役。「DUO 北條&SOSA」のサイトから購入できます。(2003年6月17日記) |
曲目 J.Brahms: 2台のピヤノのためのソナタ
Op.34b 演奏 Martha Argerich & Lilya Zilberstein CD番号 EMI 5-57468-2 2002年6月24日、「ルガノ音楽祭2002」におけるライヴ。凄まじいまでの迫力と、強烈なコントラストがついた、それは激しいBrahms。Argerichさまにとって、(海賊版を除けば)2度目のとなる「Brahms:2台のピヤノのためのソナタ 作品34b」です。 前回のスタジオ録音(1993年4月)のときのお相手はA.Rabinovitch。今回はロシヤ出身の俊英、L.Zilbersteinです。Zilberstein、当初は、いわゆる「技巧派ピヤニスト」として売り出しましたが、最近では連弾のCDなども出し始めています。そして、今回は大Argerichさまと組んでの2台ピヤノの演奏です。 Zilbersteinは、どちらかと言えば冷静で、やや冷たいイメージがありました。ところがここではどうでしょう。Argerichさまの強烈な個性に触発されて、極めてダイナミックで熱い演奏を繰り広げています。何度も繰り返し聴いたのですが、どちらがどのパートを弾いているのか、聴き分けるのが極めて困難でした。それ程までに、両者が融合した、大変に高度なデュオ演奏です。演奏は恐ろしいまでの高みに達し、激しく燃焼しています。細部を比較すると前回の録音とはかなり異なるのですが、聴いた印象では完全にArgerichさまが演奏を引っ張っているようです。 前回の録音と比較すると、全楽章とも速めのテンポで、演奏を進めています。この曲としては、かなり速い部類に入るでしょう。それでも音楽は全然荒れた印象を聴き手に持たせず、むしろその推進力でもって聴き手を圧倒します。特に両端の楽章(第1および第4楽章)は、素晴らしい熱情に溢れています。激しい第1楽章に続く平穏な第2楽章では、一転して伸びやかな旋律が歌われますが、この対比も実に見事。第3楽章におけるスケルツオとトリオでの表情の変化も、とても面白く聴けます。前回の録音もこの曲の演奏として最高のものでしたが、今回の新録音もそれに勝るとも劣りません。ただ、テンポの取り方や細部の表現が2つの録音でかなり異なるので、好き嫌いが出るかも知れませんね。評者は両方とも、実に興味深く聴くことができましたが。 ちなみにこの録音、演奏会そのものズバリを録音したもののようです。1回こっきりの録音を、修正を加えることなく、ストレートに録音して。どこかのレーベルのように「ライヴ」と称して、ゲネプロと本番の間中、テープを回しっぱなしにしておいて、後で適当なところを継ぎ接ぎして1つの演奏にして出す---などという姑息なことはやっていないみたい。それでいて、演奏にほとんど「傷」ない。しかも「ピヤノ・デュオ」の迫力を生で伝えてくれる…そんな素晴らしい録音です。 ただ残念なことに収録曲のうちピヤノ・デュオの曲は、この1曲だけなこと。あとはMendelssohnのピヤノ・トリオが入っています。この音楽祭ではピヤノ・デュオの曲、これ1曲しかやらなかったのでしょうか? このCDは出たばかりで、本稿を書いている時点では当然現役。オンラインではまだ「amazon.com」には登録されておりません。そのうち出るでしょう。さすがに「amazon.de」は対応が早く、こちらはすでにオンラインで購入ができる状態になっています。 なお、楽譜はC.F.PetersやInternationalなどから出ており現役、容易に入手できます。(2003年6月9日記) |
CDタイトル:Four Hands Piano Music 曲目 R.Schumann: 東洋の絵(6つの即興曲) Op.66 H.Goetz: 連弾のためのソナタ ト短調 Op.17 J.Brahms: Schumannの主題による変奏曲 Op.23 A.Dietrich: 連弾のためのソナタ ト長調 Op.19 演奏 Patricia Verhgen & Paul Komen CD番号 Globe GLO 5188 1800年代中頃の典型的なドイツ浪漫派の連弾曲を集めた1枚。この1枚を初めから終わりまで連続して聴くと、ドイツ浪漫派の世界にどっぷりと浸かることができます。 もともとこのCDは、Schumannの「東洋の絵(6つの即興曲)」がお目当てで入手しました。Schumannと言う人は、完成度の高い連弾曲をいくつも残していながら、そのほとんどは現役録音にない、というかなり不幸な作曲家。評者もSchumannの連弾曲のCDが欲しくて、方々探したのですが、品切れになっていたり廃盤になっていたり。なかなか見つけることができなくて、やっとたどり着いたのが、このCDでした。もっとも、後になって、この曲で、さらに素晴らしい演奏が出たのですが・・・このお話は後日に譲ることにいたします。 聴いてみて、まずまず満足できる演奏でした。若々しくて、どこかに青春の息吹のようなものを感じさせる演奏です。あくの強さや強烈な個性はありませんが、Schumann特有の幻想性を十分に描き出しています。演奏しているPatricia Verhgen & Paul Komenというデュオは今回初めて聴きましたが、なかなな豊かな感受性を持ったデュオだと感じました。CDの解説書には年齢が書いていなかったのですが、経歴を見ると、まだ30歳台半ばくらいの演奏者のようです。その若々しい感性が、Schumannの作品では、とても良い結果を生んでいました。これで“彫り”---言い換えれば、作品の持つ陰影---がより濃く出ていれば、なお良かったのですが。まあ、これは聴き手の好き好きでしょう。他の作曲家の作品もそうですが、全体の構造を上手に捉え、作品の聴き所をうまく引き出しており、着眼点とそれを具現化する力は、なかなかのものだと感じました。とても爽やかで、好感の持てる演奏です。 同じ傾向がBrahmsの「Schumannの主題による変奏曲」にも当てはまります。作曲者、まだ20歳台の作品。その「若さ」を良い面で押し出した演奏です。Schumannがこの主題を天使に教えてもらった…というエピソードがある若き日のBrahmsの作品。それを爽やかなタッチで弾き進めています。変奏ごとの起伏がもう少しあれば…とも思うのですが、それはある意味で評者の贅沢というものでしょう。これは立派な演奏です。 このCDにはGoetsの連弾ソナタも含まれていました。評者は、この曲、あまり有名でないと思っていたのですが、結構CDが出ているのですね。評者のところだけでも、これで3枚目です。この作品の演奏には、賛否両論があることでしょう。あまりにも健康的に、爽やかに弾いてしまって---もちろん表情付けは豊かなのですが---いるので、この曲の持つ陰鬱な雰囲気や悲劇的な側面が、少しばかり不足しているような気もします。もっとも、これはこれで優れた演奏なので、そうした表現がお好きな方には向いていると思われます。 Dietrichという人の作品は、このCDで初めて聴きました。とても流麗で親しみやすい曲風なのですが、あまりにも音楽そのものが「綺麗に流れて行って」しまうので、ちょっと印象に残りづらい音楽です。これは演奏のせいではなく、曲そのものの責任だと思います。何の予備知識もなく聴いていたのですが、作風としてはSchumannとBrahmsを足して2で割ったような感じです。聴いた後からいろいろな資料を読んだのですが、このDietrichは、SchumannとBrahmsの共通する友人だったとのこと。その事実を知ると、あらためてそのことが認識される作品でした。ただ、とても綺麗な曲なので、「お、素敵だな。弾いてみたい」と思われる方も、意外と大勢いらっしゃるのではないでしょうか。ちなみにこの曲、4楽章で構成し、演奏時間は25分を超える大曲です。どなたか、挑戦してみては如何でしょう? 楽譜は全て現役。SchumannはC.F.PetersおよびInternationalから、GoetzはC.F.Petersから、BrahmsはC.F.PetersおよびDoverから、DietrichはWalter Wollenweberから、それぞれ出ており、入手は比較的容易です。なおSchumannにおけるPetersとInternationalの差、BrahmsにおけるPetersとDoverの差について、評者は比較しておりません。でもこれまでの経験から、お弾きになるのであれば、いずれもPetersを購入したほうが安全かも知れません。 このCDも2003年5月26日時点で現役。オンラインですと「amazon.de」で入手できます。(2003年5月26日記) |
CDタイトル:Bela Bartok, Complete Works for
Two Pianos 曲目 B.Bartok: 組曲 Op.4b(作曲者自編) ミクロコスモスからの7つの小品(作曲者自編) 2つの2台ピヤノのための小品 2台のピヤノと打楽器のためのソナタ 演奏 Ingryd Thorson & Julian Thurber CD番号 Olympia OCD 644 B.Bartokの2台用作品を纏めて聴くことができる、秀逸なCD。Bartokの2台用作品と言えば、ここにも収録している「2台のピヤノと打楽器の為のソナタ」が飛び抜けて有名で、この録音は数多くあります。評者のあまり多いとは言えないCDコレクションの中にも、分かっているだけでも6種類の演奏が。この名曲に多くの録音があるのは、それはそれで素晴らしいことですが、それ以外の作品には、あまり光が当たっていないような気がします。 特に「組曲 作品4b」など、原曲はもとより2台用編曲作品としても、大変に優れたものでありながら、なかなか演奏される機会に恵まれません。ステージはもとより、録音すらほとんどないのが現状です。そうした数少ない録音のひとつが、このCDです。 Ingryd Thorson & Julian ThurberによるこのCD。これまで滅多に録音で聴くことができなかった「組曲」や「ミクロコスモス」(2台用)などを、実に素晴らしい演奏で収録しています。「珍しいから」といっても演奏がダメでは何にもなりません。その点、このCDは、聴き手を十分に満足させてくれます。以前、このデュオの弾いたS.V.Rachmaninoffのピヤノ・デュオ全集(6手作品まで含んでいる:「バックナンバー Vol.1」で紹介)を聴いたとき、「なんてスケールの大きい演奏をするデュオだろう」という感想を持ちましたが、まったく同じことがこのCDにも当てはまりました。 「組曲」。これはBartokの初期の作品(1905〜07年作曲)で、後期ロマン派に片足を突っ込んでいる時代のもの。もちろんBartokらしさの片鱗はありますが、民族色や激しい不協和音などとは、かなり遠い世界にあります。そうした作品を、このデュオは鮮やかに弾き切っているのです。輝かしく明るい音色と切れの良いタッチ。そして、フレーズを非常に綺麗に歌い、スケールの大きい演奏を展開しています。実際この曲は非常な難曲なのですが、聴いていても「難しい曲に挑戦している」という空気は微塵も感じさせず、とても心地よく耳に響きます。全4楽章、全曲を演奏すると30分近い大曲ですが、この演奏は聴いていてあっという間でした。それ程までに、良くできた演奏です。アンサンブルも抜群。これまでほとんど録音がなかったこの曲ですが、当分の間は、このCDがあれば十分でしょう。このCDを聴いて「わたしたちもやりたい」というデュオが出ることを期待しています。なお、管弦楽曲から2台用への編曲は1941年になされました。 「ミクロコスモスからの7つの小品」は、Bartokのピヤノ音楽の集大成とも言える153曲(+33曲)の中から7曲を選んで2台ピヤノ用に編曲した作品です。「ピアノ・デュオ作品事典」の松永晴紀教授によれば「派手な演奏効果を狙った編曲ではなく、独自の魅力と多様な内容を持った“ミクロコスモス”の補遺とも言うべき作品」と指摘されていらっしゃいますが、まさにこの演奏はそれを具現化したもの。単なるソロから2台用への編曲という領域を超えて、実に多彩な世界を導き出している演奏です。それぞれ1〜3分という小さな作品ですが、そうした曲の大きさとは無関係に、フレーズの呼吸を幅広くとったスケールの大きな演奏を展開しています。評者はこの編曲をこのCDで初めて聴きましたが、これほど面白いものだとは思いませんでした。編曲であることを伏せたら、2台用オリジナルと思ってしまっても自然な、それ程までに充実した編曲であり、演奏でです。 同じことが「2台のピヤノのための2つの小品」(ミクロコスモス第2巻43および44)にも言えます。こちらはもともと2台用ですが、20秒程度のほんの短い作品。それなのにこの演奏は、2台ピヤノ演奏の非常に“深い領域”に達しているのです。実に見事。 最後に収録してある「2台のピヤノと打楽器の為のソナタ」も優れた演奏。鋭さと叙情性が微妙な感覚で融合し、とても“滑らか”な演奏になっています。フレーズの歌い方が、伸び伸びとしていて、爽やかです。名演の多いこの曲ですが、この演奏も評者からの「お薦め録音」に加えておきましょう。ただちょっと残念なのは、ピヤノと打楽器の録音のバランスが、わずかに悪いこと。打楽器が表に出過ぎています・・・といっても、微妙なところなのですが。あとわずか、ピヤノが前に出てくれたら完璧だったのに。もちろん、この曲が、録音する上で各楽器のバランスをとるのに非常に難しい曲であることは理解しています。でもせっかくここまでの名演ならば、あとわずか・・・と思わざるを得ません。 ちなみに、ここに収録した曲は、すべて作曲者が妻のDitta Bartokと2人で演奏するために書いたものばかりです。そんな愛情溢れたエピソードも、これを聴くと「なるほど」と聴き手に思わせてしまうのが、この演奏なのです。 なお、CDのタイトルが「Bera Bartok, Complete Works for Two Pianos」のなっておりますが、厳密に言うともう1曲あります。バレエ「不思議な宦官」をBartok自身が連弾(2台で演奏されることが多いですが)に編曲し、さらにそれをご子息のP.Bartokが完全な2台用に編曲し直したものです。これが出版されたのが2001年なので、この録音の当時(1997)にはそれがなかったので、こうした表記でも間違いはありません。 このCDで演奏に使われた楽譜は、すべて「Boosey & Hawkes」から出ており現役。容易に入手可能です。このCDも2003年5月19日時点で現役。オンラインですと「amazon.com」でも入手できることになっていますが、なかなか入荷せず何回かキャンセルをくらいました。確実なのは「amazon.de」です。評者もここから入手しました。最後に述べた「不思議な宦官」の2台用楽譜に関しては「Universal」から出ています。(2003年5月19日記) |
曲目 C.Saint-Saens: ポロネーズ Op.77 アラビア奇想曲 Op.96 スケルツオ Op.87 英雄的奇想曲 Op.106 ベートーヴェンの主題による変奏曲 Op.35 演奏 Noel Lee & Christian Ivaldi CD番号 Arion ARN 68011 爽やかなスピード感溢れる、Saint-Saens。だからといって、弾き飛ばしているわけではありません。確固たる構築性、きびきびしたタッチ、そして抜群のアンサンブルで、作品の魅力を伝えてくれます。Noel Lee & Christian Ivaldiの演奏は、どれもその傾向にあるのですが、このCDでも、このデュオの良いところが全面に出ています。聴いていて、疲れを感じさせません。 このディスク、Saint-Saensが書いた2台ピヤノ用のオリジナル作品、すべてを収めており、それらを一気に聴くことができる点が特徴です。Saint-Saensには、5曲の優れたピヤノ・デュオ作品があるのですが、それをまとめて聴く機会はもとより、1曲だけを聴くことも、最近稀になってしまいました。その意味でも、このCDは非常に貴重な存在と言えましょう。 ただ、これだけ高度で面白い演奏を聴いていても、聴いているときはそれなりの感動を持っているのですが、聴き終わってしばらくすると、「あれ、どんな曲だったけ」と、ふと記憶を辿り直してしまう評者です。これは、どうも演奏の問題ではなく、作品そのものに起因することのように思えます。聴いていて心地よいのだけど、何だか音楽が右から左へ流れていってしまう。Saint-Saensの音楽を聴いていると、こうした傾向の作品が多いような気がします。何だか、旋律と和声だけが、綺麗に流れて行ってしまう感じ。もちろん、くっきりとイメージが残る作品もありますが。これは評者だけの感想でしょうか? Saint-Saensの音楽がお好きな方、御免なさいね。でもこれが評者の正直な感想です。 そうした傾向はありますが、聴いていて心地よい演奏であることは、間違いありません。ピヤノ・デュオの魅力が存分に味わえます。演奏はどれも秀逸ですが、「ベートーヴェンの主題による変奏曲」が、とりわけ面白く聴けます。変奏ごとでの表情の変化の付け方が実に面白い。その他の作品も、非常に充実して迫力があります。心地よい・・・といった、単なる“模範演奏”になっていないところが、このデュオの素晴らしいところでしょう。一度ライヴで聴いてみたいのですが、残念ながら、その機会に恵めれていない評者です。 この録音、所々で小鳥の囀りが混じっています。いったいどんな所で録音したのでしょう? 収録曲の楽譜は、全部Durandから出ており現役。比較的容易に入手できます。このCDも2003年5月12日時点で現役。オンラインですと「amazon.de」で入手できます。(2003年5月12日記) |
曲目 J.Francaix: ルノワールによる15人の子供の肖像 O.Respighi: 6つの小品 W.Gieseking: 子供の歌をめぐる遊び G.Bizet: 子供の遊び J.Dichler: 3つの子供の“場” A.Casella: プパッツェッティ 演奏 Yaara Tal & Andreas Groethuysen CD番号 Sony SMK 89943 「子供」という題材をテーマとした作品を中心に構成した1枚。弾き手は、あのYaara Tal & Andreas Groethuysen。今や連弾演奏家としてもっとも注目できる演奏家です。この素晴らしい演奏家は、このところ年にほぼ1枚のペースでCDを発表しています。ただ、日本ではあまり宣伝もされませんし、普段評者たちが出入りするサイトでも--キーワード検索が多少難ありなので--なかなか録音の全貌を掴むことができません。このCDも偶然「彼らのサイト」を流し読みしていて見つけ、オンラインでも四苦八苦して検出して手に入れたものです。 かつてライヴでも聴き、何種類もの録音を聴いているTal & Groethuysen。このCDも相当に期待して聴き始めましたが、期待を裏切ることはありませんでした。この演奏者特有のキラキラした音色とガッチリした構成力、そして適度な即興性と爽やかなスピード感。またまた評者を虜にした録音でした。 出色なのは、Bizetの「子供の遊び」。現在聴くことのできるCDの中で、最高の演奏です。確かにこの曲には名演が、ずらりと控えています。即興性を全面に打ち出したLabeque、デュオの持つ愉悦感に浸れるDuo Crommelynck、精緻でスピード感いっぱいのIvaldi & Lee・・・。評者のCD棚にはこうした名演のほかにもいくつかこの曲の演奏があるのですが、Tal & Groethuysenの演奏は、これら全てを凌駕する目の覚めるような演奏と言えましょう。深い感情を込めながらも、決してそれに流されることなく、綿密に構成されたフレーズのつながり。生き生きとして清冽な音色、しかも重くも軽くもなりすぎない。冒頭「ぶらんこ」のアルペジオ処理とその上に乗る旋律の歌わせ方には眼を見張ります。続く「こま」における完璧なアンサンブル。そして最後の「舞踏会」に至るまで、どの曲もこのデュオは「連弾の面白さ」を聴き手に突きつけてくるのです。これを超える「子供の遊び」をやろうと思ったら、相当大変なのではないでしょうか。多くの演奏を聴いている評者ですが、これには脱帽です。 ピヤノ・デュオ・ファンにとって、とても嬉しいのが、Francaixの「ルノワールによる15人の子供の肖像」が、非常に高度な演奏で収録されていることでしょう。この曲、連弾関係者の間ではかなり有名ですが、録音はほとんどなく、このCDを見つけるまでは現役盤はひとつもありませんでした。このCDだって彼らのサイトを参照するまで、この曲が含まれていることなど知りませんでしたから。まるで現実の絵画を目の当たりにするかのような演奏です。しかも“甘さ”を適度に抑え、爽やかなタッチで弾いている点が素晴らしい。この手の曲となると、下手をすれば感情に溺れたべたつく演奏になってしまいます。そうしたことを一切排除し、清冽な音の流れを作って行くところなど、Tal & Groethuysenの面目躍如です。 さらに素敵なのは、Respighiの「6つの小品」が含まれていること。この、プリモが子供でも弾けるような小品集に対しても、Tal & Groethuysenは全力で立ち向かいます。その結果生まれてくるのは、非常にスケールの大きな音楽。この小品集を、ここまで立派な音楽として聴かせてしまうとは! その他の収録曲も、とても面白く聴くことができます。CD全体のテーマから言って「どうしてここに含まれたのかしら」とちょっとばかり疑問を持ったCasellaの「プパッツェッティ」もありますが、これですら聴いていて思わず引き込まれてしまいます。この作品、これまで弾いてみても、他の演奏で聴いてみても、ちっとも面白いとは思わなかったのですが、この演奏を聴いて見方が変わりました。Tal & Groethuysen、恐るべし、です。 楽譜の出版状況は以下の通り。FrancaixはEditions Musicals Transatlantiquesから出ており現役。RespighiはD.RahterまたはEliteから出ており現役。GiesekingはVerlag Johannesから出ておりましたが、どうやら絶版の模様。Bizetはあちこちから出ておりますので省略。ただしこの演奏ではC.Henleを使っています。DichlerはDoblingerから、CasellaはRicordiから出ており、いずれも現役です。 このCDも2003年5月5日時点で現役。オンラインですと「amazon.de」で入手できます。この場合、演奏者のキーワードをGroethuysenにすると、比較的容易に検出できます。(2003年5月5日記) |
曲目 F.Liszt: 2台のピヤノのための交響詩全集(作曲者自編) Vol.1:山上にて聞きしこと タッソー、嘆きと勝利 前奏曲 オルフェウス Vol.2:プロメテウス マゼッパ 祭典の響き 英雄の嘆き Vol.3:ハンガリー ハムレット フン族の戦い 理想 演奏 Georgia & Louise Mangos CD番号 Cedille Records Vol.1:CDR 90000 014 Vol.2:CDR 90000 024 Vol.3:CDR 90000 031 F.Lisztが書いた交響詩のうち、最後の「揺りかごから墓場まで」を除く12曲の、作曲者自身による2台用編曲を一気に聴くことができるCDです。ただ、いくら曲が揃っていても、演奏がダメだったらアウトです。このCDに収められた演奏の評価、2人の評者間で真っ二つに割れました。 「あまりにも明るすぎるLiszt」と評したのは、ゆみこ。「音が底抜けに明るいだけでなく、Liszt特有の強烈な浪漫性や濃密な陰影が、殆ど表れていない」。確かに、両奏者のテクニックは水準を保っているし、アンサンブルもそこそこ面白く仕上がっている。「だけどね」と、ゆみこ。「今ひとつ、ぴんと来ない演奏なのだ。別の言い方をすれば、あまりにも表面的すぎるのかな」。 一方のかずみは、「これは、これで面白いのでは」という意見。確かに、ゆみこの言い分にも一理あります(何だか、前週にP.Tchaikovskyの「交響曲第4番」で書いたような雰囲気になってきましたね)。あまりにも、あっけらかんとした演奏、と捉えることも十分に可能です。でも別の見方をすると「明るくて健康的なLiszt」として、楽しむこともできるでしょう。湿り気がなく、どこまでも明るい音色。妙な陰影付けのない、伸びやかな表現。まるで、ネバタ州の明るい太陽にさらされているようなLiszt。 さあ、どちらの意見を、こちらで採用しましょうか? ・・・散々議論しましたが、当然のことながら結論など出ません。後は、これをお読みの皆様が、じかにお聴きになってみるしかないでしょう。こちらで、こうしたことを述べるのはちょっと無責任かも知れませんが、この演奏は、もう好き好きですね。ただ、Liszt好きの方には、「こうした演奏もあるのだよ」ということで、試しに聴かれてみてもよろしいかも知れません。 先ほども申しましたように、個々のテクニックはしっかりしているし、アンサンブルの面でも過不足がありません。その点では、国際的にも通用する一定水準の演奏であることは間違いありません。またLisztの交響詩の2台ピヤノ編曲を俯瞰する上では、重要な演奏と言えましょう。 さて、これをお読みの皆さん、この演奏をどのようにお聴きになるのでしょうか? 楽譜です。これは以前「Breitkopf & Hartel」から出ておりましたが、現在絶版です。入手は比較的困難な部類です。ただし、Breitkopf & Hartelに依頼すれば、コピー譜の入手は可能かも知れません。編曲自体は、2台ピヤノ用として大変に素晴らしく、一般の演奏会でも十分に利用可能です。なお、日本国内の大学図書館のデータベースを検索してみましたが、うまく検出できませんでした。御存知の方がいらっしゃいましたら、ご一報下さい。 このCDは2003年4月21日時点で現役。オンラインですと「Cedille Records」のWebサイトで購入できます。以前は、3枚セットでも販売していたのですが、現在は1枚づつの販売だけになっているようです。(2003年4月21日記) |
曲目 P.Tchaikovsky: 交響曲第4番 ヘ短調
Op.36 (連弾版:S.Taneyev編曲) 幻想的序曲「ロメオとジュリエット」 (連弾版:N. Purgold編曲) 「50のロシヤ民謡」 演奏 Anthony Goldstone & Caroline Clemmow CD番号 The Divine Art 25020 連弾愛好者、そして編曲愛好家垂涎のアルバムが出ました。Tchaikovsky「交響曲第4番」と「幻想的序曲・ロメオとジュリエット」の連弾版を組み合わせたCDです。弾いているのはオリジナル・デュオ曲はもとより、管弦楽曲のデュオ用編曲を積極的に演奏・録音している、Anthony Goldstone & Caroline Clemmow。このディスクでも、冴え渡ったタッチと精密なアンサンブルで、見事な演奏を展開しています。 「交響曲第4番」は、複数の連弾用編曲がありますが、今回使用しているのはS.Taneyevの編曲です。この編曲に関して評者2人は、真っ向から対立しました。「非常にピヤニスティックで優れた編曲、そして演奏」としたのは、かずみ。一方のゆみこは「管弦楽の原曲に比べて、迫力がない。楽しんで聴けるのは第4楽章のみ」。まあ、どちらの言い分にも一理あるのですが。でもこれ、原曲と比較して迫力云々というのは、ちょっと・・・。それに比較に使っている録音が、L.Stkowski指揮American SymphonyのVanguard盤。こんな金管を滅茶苦茶強調した一種怪物みたいな演奏(かずみも、この演奏は大好きですが)と、ピヤノ連弾演奏とを比較するのはそもそも無茶でしょう。 評者2人が一致した点は、演奏として非常に高度で、しかも“面白く”弾いていること。特に第4楽章は一聴に値することです。かずみの方は、全楽章ともに、大変に興味深く聴きましたが。とにかくTaneyevの編曲が実に面白くできているばかりでなく、演奏者がその魅力を最大限に引き出しているのです。また、ごく一部ですが、音型の処理をO.Singerの編曲に準拠して弾いているところがあります。さらにTaneyev編の楽譜には記述の誤りがあって、特に目立つのが第4楽章。楽章末尾から数えて17小節目が楽譜上で完全に抜け落ちています。Goldstone & Clemmowはこれを補完して弾いていました。 この演奏の登場で、Tchaikovskyの所謂4大交響曲は、すべて連弾版で、それも相当に高度な演奏で聴くことができるようになりました。第5番はDag Achatz & 永井幸枝の組み合わせで(バックナンバー Vol.6ご参照)、交響曲第6番はDuo Crommelynckの演奏で(バックナンバー Vol.5ご参照)。なお交響曲第5番は2台で弾いていますが、使用している楽譜は連弾用です。これらはいずれも現役。何とも嬉しいことではありませんか。 第4番のTaneyev編曲の楽譜は、かつてJurgensonから出ておりましたが、長いこと絶版で、実質的には入手がほとんど不可能でした。ところがごく最近になって、米国のある出版社がオンデマンドで、このTaneyev編曲の楽譜を販売するようになったのです。これはJurgenson版の完全レプリント。ただ、この会社のオンデマンド出版行為が完全に合法かどうか議論が分かれております。そのため、こちらではあえて出版社名を出しません。もし、どうしても必要だとおっしゃる方がおりましたら、評者までご連絡下さい。 さて、もう1曲の「ロメオとジュリエット」。こちらは2人の評者で意見が完全に一致しました。「これは見事」の一言に尽きます。こちらは、原曲を知っている人も、知らない人も無条件で楽しめる演奏。非常にピヤニスティックであるだけでなく、巨大なスケール感を持って弾きこなしています。Goldstone & Clemmow、ただ者ではありません。ちなみに編曲者のNadezhda Purgoldという人は、かのN.Rimsky-Korwakovの夫人です。このCDの解説書の表紙に載っている肖像画は、彼女の姿。そして、この編曲も、実に素晴らしい。ピヤノ連弾というものの特性を完全に把握して、その効果が最大限に生かされるような編曲になっています。 それほどまでに素晴らしい編曲であるにも関わらず、演奏される機会は極めて稀。というのも楽譜が絶版になって久しく、現物がほとんど残っておらず入手は極めて困難だからです。東京では、これまで少なくとも2回演奏されています。Dag Achatz & 永井幸枝組と、豊岡正幸・智子組。いずれも楽譜の原本は、モスクワのレーニン図書館にあったもので、使用したのはそのコピー。そんな具合でしたので、CDが出るなんて、評者にとって夢みたいな話でした。Goldstone & Clemmow、よくぞこの楽譜を見つけたものです。それともプロデューサかディレクタが見つけてきたのでしょうか? いずれにしても、よくやってくれたと思います。こうしてCDが出ることで、この素晴らしい編曲を世界中の人が聴くことができるようになったのですから。なお、楽譜はどこから出ていたのか、よく分かりません。評者の手元にある楽譜を見ると、版の組み方などから推測して恐らくJurgensonだと思うのですが、表紙がないため、確実なことは言えません。残念ですが、この楽譜の入手は、ほとんど不可能と思って下さい。もし中古市場に出たのを見つけたら、どんなに高価でも、その場で迷わず購入してしまいましょう。 あと、このCDでは「おまけ」で、同じTchaikovskyの「50のロシヤ民謡」から16曲を選んで弾いて収録しています。こちらは交響曲第4番や「ロメオとジュリエット」から一転して、とても可愛い演奏です。このデュオ、大曲ばかりでなく小品も、とても素敵に弾いてくれるのですね。いつかライヴで聴きたいものです。 このCDは2003年4月14日時点で現役。オンラインですと「www.amazon.co.uk」のほか、このレーベルのサイト「www.divine-art.com」からも発注できます。(2003年4月14日記) |
曲目 I.Stravinsky: 春の祭典(2台演奏:作曲者自編) J.Cage: 3つの舞曲(2台のプリペアド・ピヤノのための) おまけ:S.Reich:4つのオルガン 演奏 Michael Tilson Thomas & Ralph Grierson CD番号 Angel Records 7243 5 67691 往年のピヤノ・デュオ愛好家には懐かしい録音の復活です。懐かしいだけでなく、「春の祭典」に着目すれば、手軽に入手できる数少ない録音になってしまいました。このCDが出た当初、日本の「音楽評論家」と称する人たちの間では、ずいぶんと物議をかもした記憶があります。恐らく日本で出た、この曲の最初の録音だと思います。それから30年が経ってしまいました。 今となっては様々な録音があり---Ashkenazy+Gavrilov、Pekinel、Ivaldi+Noel Lee。もっとも前2者は廃盤になってしまいましたが---この曲を2台ピヤノ、あるいは連弾で弾いても、誰も文句を言わない時代になりました。30年前とは雲泥の差です。 そうしたピヤノ・デュオによる「春の祭典」の先駆けとなったのが、このMichael Tilson ThomasとRalph Griersonの演奏です。評者が30年前に聴いたとき、心底驚きました。「春の祭典が、2台のピヤノで、ここまで表現できるのか!」と。その頃の評者、まだ中学生でした(年がバレるぜ)。その後、いくつもの、この曲の優れた演奏を聴いて、原曲はもとより、2台ピヤノによる演奏---楽譜は連弾でも演奏できるように書いてあるのですよ---が、心底好きになった評者でありました。 30年経って、改めてこの演奏を聴いてみると、やはり非常に優れたものであることが分かります。もっとも評者はPekinelの演奏を最も気に入っているばかりでなく、Ivaldi+Noel Leeという洒落た演奏にも大変に感銘を受けているので、今となっては、この演奏が「一押し」と言うわけではありません。それでも、これはピヤノ・デュオの歴史に残る素晴らしい演奏であることは間違いありません。録音から30年。でも演奏は、ちっとも古くなっていませんよ。まだ、2台ピヤノによる「春の祭典」を聴いたことがない方、手っ取り早く手に入る、このCDを聴いてみませんか? きっと「自分でもやってみたい」と思われることでしょう。この演奏は2台ですが、連弾でやってもできないことはありません。ピヤノが1台あればOK。楽譜は「Boosey & Hawkes」から出ており現役。容易に入手できます。 ただ、この曲のことを語るとき、Pekinelによる目の覚めるような演奏をご紹介できないのが残念。評者にとって最も気に入っている録音です。残念ながら廃盤になってしまい、入手は極めて困難です。何でこんな名演を廃盤にしたのだ「グラムフォン」(怒)。 同時収録の、J.Cage「3つの舞曲」は、なかなか面白い曲。2台ピヤノ用の作品ですが2台ともプリペアド。とてもピヤノで出しているとは思えないような音が、次々と沸き出してきます。そして2台のピヤノの対話が、とても愉快。一種、「癒し系」音楽ですね。これは一聴の価値があります。繰り返し聴いてみようと思うかどうかは、聴かれた方のご感想にもよりますが。ただし、これを聴いて「面白い」と思う方はいらしても、「やってみよう」という方は稀かも知れません。で、その稀な方にご紹介。この楽譜、生きています。C.F.Petersから出ていますよ。何故か2002年版のPetersカタログにはないのですが、オンラインで検索すると、ちゃんと出てきます。出版番号は「EP6760」。 このCDに「おまけ」で入っている、S.Reichの「4つのオルガン」は、典型的なミニマル・ミュージック。4台の電子オルガンとマラカスによる曲です。聴いていて、さすがに途中で飽きました。約25分にわたって、同じような旋律の繰り返しなのだもの。疲れる・・・。同じ作曲者の2台のピヤノ(あるいはマリンバ)のための「ピヤノ・フェーズ」なんかは、自分でもちょこちょこ弾いてみて、他人の優れた演奏を聴いてみたいと思いましたが、この「4つのオルガン」は、さすがに疲れます。まあ、「環境音楽」として聴けばいいのかもしれませんが。なお、この演奏にはS.Reich御大ご本人も参加されていらっしゃいます。 このCDは2003年4月7日時点で現役。オンラインですと「amazon.com」で入手できます。(2003年4月7日記) |
曲目 F.Liszt: 半音階的大ギャロップ(2台版:作曲者自編) 歌劇「夢遊病の女」の主題による幻想曲(同上) チェルケッセン行進曲(同上) 交響詩第6番「マゼッパ」(同上) 「クリスマス・ツリー」から(連弾版:作曲者自編) ハンガリー狂詩曲第2番(同上) 演奏 Richard & John Contiguglia CD番号 Gemini CD Classics GC101 会場の熱気がそのまま伝わってくる、素晴らしいライヴ録音。時には超絶技巧を駆使して、またある時には安息の音色を響かせて。デュオの呼吸はぴったりです。このCDは「Holland Liszt Festival」におけるライヴ。1984年と1986年の演奏会から一部を収録し取りまとめたもの。演奏会の名称通り、Lisztの曲ばかりを集めています。 Lisztは自分で書いたピヤノ曲を、かなりの数、連弾や2台ピヤノ用に編曲しています。その上、例えばBusoniといった他人もLisztの作品をデュオ用に編曲したり。結果、Lisztの作品によるかなりの数のピヤノ・デュオが存在するのです。ところが楽譜は、殆どが絶版状態。なかなか目にすることはできません。そして、演奏会で耳にする機会も、CD録音を手にするのも、今では稀になってしまいました。ソロの曲なら演奏会もCD録音も、山のようにあるのに、デュオは絶対数がとても少ない。そんな意味で、この録音は大変に貴重です。しかもライヴの雑音が入っているとは言え、演奏者の状態は絶好調。単なる資料的価値を遙かに超えて、演奏そのものもとても楽しむことができます。さらに、「デュオをする歓び」といった形にならない何かが、この録音からはひしひしと伝わって参ります。 さて演奏。まず冒頭に入っているLiszt自編の「半音階的大ギャロップ」(2台)の演奏が凄まじい! ソロ版を2台に振り分け、さらに音を厚くしたものなのですが、評者はソロ版とは全然異なった印象を受けました。ソロ版ですと(この曲をお好きな方には申し訳ありませんが)「単なる派手な超絶技巧曲」としか受け止めていなかったのですが、この2台版、両者の対話がとても面白く、一度で気に入ってしまいました。評者などにはとても弾けませんが、1度でいいから楽譜を参照してみたいです。連弾用の編曲は他人(すみません、現在楽譜を貸し出し中のようで、楽譜棚に見あたりませんので、どなたの編曲か記載できません。評者の「楽譜リスト」に「作曲者自編」とありますが、あれは誤りです)が手がけたものがBerbenという出版社から出ており容易に入手できるので、その存在を知っていましたが、2台用があるなんて、このCDを聴くまで存じ上げませんでした。2台ピヤノの演奏会でのアンコールなんかに持ってこいですね。いろいろ調べましたが、残念ながら出版社は分かりませんでした。 「歌劇“夢遊病の女”の主題による幻想曲」は、14分を超える大曲。これも原曲はピヤノ独奏曲。それをLiszt自身が2台用に編曲したものです。評者は「夢遊病の女」を全く知らないので、そこでの主題がどのようにトランスクリプションされているのか分かりませんが、楽しく聴ける曲であることは事実です。「チェルケッセン行進曲」は、Glinkaの歌劇「ルスランとリュドミラ」からテーマを拝借した曲。これも元々ピヤノ独奏曲だったものをLiszt自身が2台用にしたもの。---済みません、ドイツ語が訳し切れませんでした。「チェルケッセン」のスペルは「Tscherkessen」。中途半端な解説になってしまってごめんなさい。でも、曲は楽しいですよ。以上2曲も出版社は分からずじまい。 ここから先は、所謂「有名どころ」。Lisztは彼が書いた交響詩を、すべて2台ピヤノに(一部は連弾用に)編曲しています。ここで演奏されているのは「マゼッパ」です。とても切れの良いタッチで、スケール感の大きな演奏が展開されていて、とても面白い! この録音は複数種出ていて、聴き比べができます。評者は3種類聴いて、3種類とも高く評価できたのですが、「聴いて面白い」といったら、まずこの演奏を挙げます。非常に熱のこもった、激しい演奏です。交響詩の2台用編曲の楽譜は、以前はすべてBreitkopf & Hartelから出ておりましたが、残念ながら現在では絶版です。 2台ピヤノに混ざって、連弾の演奏もあります。作曲者晩年の傑作「クリスマスツリー」の連弾版です。ただ残念なことに全曲ではなく、「飼葉桶のそばの羊飼いたち」「ツリーの蝋燭に火をつけて」「昔のプロヴァンスのクリスマスの歌」「夕べの鐘」の4曲のみが収録されています。それまでの2台ピヤノによるトランスクリプションものとは打って変わっての清冽な演奏。連弾の妙味です。この楽譜はEdito Musica Budapestから現役で出ており、入手も比較的容易です。評者たちもこの曲集の中から何曲か弾きましたが、とても楽しい連弾曲ですよ。 最後に収録されている「ハンガリー狂詩曲第2番」も連弾用編曲。ただし、ソロ版からの編曲ではなく、管弦楽版を連弾用にトランスクリプトしたもの。これは作曲者自身による連弾編曲で、現在容易に入手できるSchott版(L.Windsperger編曲)とは異なった版です。以前この欄でご紹介した「Georgia & Louise Mangos」が演奏(「バックナンバー Vol.9ご参照)している楽譜と同じものを使っているようです。Georgia & Louise Mangosもなかなか良かったのですが、Contigugliaはライヴだけあって即興感も抜群。とても面白い演奏です。ちなみにこの編曲も出版社が不明。どなたか御存知でしたら、どうぞご一報下さい。 とにかくLisztのピヤノ・デュオはたくさんある---もっとも、完全なオリジナルは1曲、テーマを他人から借りたものも含めるとオリジナルは2曲---ですが、楽譜が「全滅」に近い状態で、それらを紹介した文献もほとんどなく、楽譜探しやご紹介には難航しているのが現状です。 このCD、2003年3月31日時点で現役。オンラインですと「amazon.com」で入手できます。(2003年3月31日記) |
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(c) Yumiko & Kazumi 2003