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曲目 J.S.Bach: アリアと30の変奏(ゴルトベルク変奏曲) BWV.988
           J.Rheinbergerによる2台ピヤノ版(M.Reger校訂)
演奏 Gerard Fallour & Stephen Paulello
CD番号 Assai 222062


ピヤノ・デュオの世界に身を置いておりますと、時折・・・というか頻繁に「妙なもの」に出会います。「あれま、こんなものがあったのか」というような、妙なものに。今日、ご紹介するのも、そうした「妙なもの」のひとつです。

数年前、某楽譜店の店頭で、新刊楽譜を物色していたときのこと。その頃は今と違って、2〜3週間に1度は、楽譜店めぐりをしていました。昨今のように、インターネットで楽譜の情報を仕入れ、オンラインで発注するという習慣がなかったものですから。

そして毎回のように「妙なもの」を見つけていたわたしたちですが、この曲の楽譜に出会った時には、さすがに驚きました。「2台用ゴルトベルク変奏曲」。こんなもの弾く人、いるのかしら・・・というのが、まずは第一印象。立ち読み程度でしたが、伊達や酔狂の類としか思えませんでした。それきり、この楽譜のことは忘れていたのです。ところがある日、「ピアノ・デュオ作品事典」の著者である松永晴紀先生からメールが。「ドイツのamazonで、ゴルトベルクの2台版のCDが出ていますよ」。そう、わたしたちが「誰がこんなもの弾くのかしら」と思っていたような変な編曲がCDとして出ていたのですね。半分は「コワイモノ見たさ」で購入したわたしたちです。

「変」と言えども、この楽譜に関わっている連中は、かなりの豪華陣。作曲は、かのJ.S.Bach、2台ピヤノへの編曲はJ.Rheinberger、そして校訂はM.Regerです。編曲の時期は1883年、その後1903年にRegerが校訂をしています。確かに「変なモノ」ではありますが、楽譜をよく見ると、ちゃんとした「2台ピヤノ曲」になっているのですね。原曲の各声部を2台のピヤノに振り分け、さらに音を少しだけ厚くしているだけでなく、第1と第2を交互にソロで弾かせる箇所もあり、それなりに面白く仕上がっています。でも「変なモノ」には変わりありません。

そんな曲をCDにしたのは、Gerard FallourとStephen Paulelloという人たち。どちらがどちらのパートを弾いているのか分かりませんが、第一が第二を煽って、グイグイと曲を進めていくような演奏です。2台のピヤノの対話が実に面白いのも、この演奏の特徴でしょう。もちろん、楽譜はそのように書いてあるのですが、それを極端にまで追求しているのが、この演奏です。

面白いことは面白いのですが---特に楽譜を参照しながら聴くと---、楽譜で指定された反復をすべて実行しているので、演奏時間が70分を越えます。これをじっくり聴こうとすると、時間と精神的余裕が必要ですね。演奏自体がいかにスリリングで面白いと言えども。

なお、最初の「アリア」のところで、通常演奏されるような装飾音がバッサリとないのには、かなりぎょっとさせられます。しかし、これは楽譜どおりに演奏した結果です。

何はともあれ、「ゴルトベルクを2台で弾くと、こんなに面白いよ」と語りかけてくるような演奏です。

楽譜はKistner & Siegelから出ており現役。このCDも2002年10月28日時点で現役。オンラインですと「amazon.de」で入手できます。(2002年10月28日記)

CDタイトル:British Music for Piano Duet
曲目 P.Warlock: キャプリオール組曲
    Y.Bowen: 組曲 Op.52
            3つの小品(組曲第2番) Op.71
    W.Walton: ファザード組曲(Lambert編曲)
    T.Musgrave: 小旅行
    L.Berkeley: パーム・コート・ワルツ
    P.Lane: おどけたスケルツオ
演奏 Peter Lawson & Alan MacLean
CD番号 Chmpion RRCD 1353


20世紀・英国の渋い連弾曲を集めた1枚。・・・と書くと、何やら小難しい曲の固まりのように感じてしまう方がいらっしゃるかもしれませんが、さにあらず。どれも浪漫的で可愛い連弾曲ばかりです。

特に最初に収録しているWarlockの「キャプリオール組曲」など、楽譜を立ち読みして(高かったので買いませんでしたけど)「こりゃ、素敵な音が出るはずだ」と、全曲を録音したCDを探し続けていました。ところが一部を取り出して演奏したCDは何枚か見つかりましたが、全曲録音はなかなか見あたらなかったのです。つい最近になってこのCDを見つけ、即座に捕獲、聴いてみました。タイトルの「キャプリオール」(注:ダンスで飛び跳ねること)どおり、音が弾ける演奏。とても秀逸で、何回も何回も聴き返しました。6曲からなる組曲で、どれも音は薄いのですが、何とも言えない渋い浪漫性に満ちています。そして6曲の1つ1つで、上手に表情を変えての演奏。もちろん、アンサンブルや個々のテクニックもしっかりしています。曲の良さを十分に伝えていますよ、この演奏。ちなみにこの曲は、連弾版のほか、弦楽合奏版とフル・オーケストラ版があります。何でもCDの解説によれば、連弾版と弦楽合奏版は、ほぼ同時に出版された、とのことです。とにかく、この曲を聴くためだけでも、手元に置いて損はないCDです。

Waltonの管弦楽曲「ファザード」をLanbertという人が連弾版に編曲したものも、なかなかの優れ物。この中で「ポピュラー・ソング」だけは楽譜を持っていたので知っていましたが、他の曲も編曲されているなど、このCDを入手するまで知りませんでした。やはりこの曲も音は厚くないのですが、なかなか演奏効果の上がる、素敵な曲です。原曲は5曲の「第一組曲」と6曲の「第二組曲」がありますが、この11曲をバラバラに組み合わせ、全曲を演奏しています。

残りの曲は、すべてこのCDで初めてその存在を認識したものばかり。いずれも胸を打つような浪漫性たっぷりで、「知って得をした」の部類です。どれも、弾いてみたくなりました。・・・と、満足に指も動かないくせに・・・。とりわけBowenの「組曲」は、早速楽譜を参照したくなってしまいました。それほどにピヤニスティックで素敵な曲ですよ。知らないと損かもしれません。

なおBowenの曲でCDには「3つの小品」と記載されているのは、C.McGrawによれば正式には「組曲第2番」というのだそうです。

収録されている作品は、技術的にさほど難しいものではありません。平板に弾いてしまえば、面白くなくなってしまうことでしょう(弾くには楽しいでしょうけれどね)。それを、とても素敵に聴かせてくれる、Peter LawsonとAlan MacLeanは、なかなかの“やり手”です。

さて、楽譜。WarlockはJ. Curwen & Sonsから出ており現役。Bowenの2曲はStainer & Bellから出ていましたが、現役かどうか確認できず。WaltonはOxford University Pressから出ており現役。Musgrave、Berkeley、Laneの3曲はChesterから出ていましたが、これも現役かどうか確認できませんでした。このCDは2002年10月21日時点で現役。オンラインですと「amazon.co.uk」で入手できます。(2002年10月21日記)

CDタイトル:Works by Auric,Busoni,Casella,Hindemith,
        Ravel,Schoenberg
曲目 G.Auric: 5つのバガテル
    P.Hindemith: 連弾のためのソナタ
    A.Schoenberg: 連弾のための6つの小品
    F.Busoni: フィンランド民謡 Op.27
    A.Casella: プパッツェティ Op.27
            戦争の記録 Op.25
            フォックス・トロット
    M.Ravel: ラ・ヴァルス(L.Garbanによる連弾版)
演奏 Dana Muller & Gary Steigerwalt
CD番号 Centaur CDC 2127


連弾曲の小品ばかりを集めた1枚です。連弾曲としては、そこそこ有名なものばかりですが、何故か他に録音の少ないものを集めています。

例えば、いちばん最初に収録されている、G.Auricの「5つのバガテル」。とても品の良い、楽しい連弾曲。発表会ではもちろん、大ホールでの演奏会でも取り上げられておかしくない傑作です。それなのに現役のCDは、この1枚しか見あたりません。こんな素敵な曲が、ほとんど録音されていないというのが、何とも不思議なことです。

同じく3曲目に収録の、A.Schoenberg「連弾のための6つの小品」。作品番号が付けられる前の、ごく初期の浪漫的な小品。J.Brahmsのピヤノ曲を、ちょっとひねくれさせたような、若々しさに満ちた素敵な曲です。後に調性から離脱してしまう、作曲者の姿が、ほとんど思い浮かばないような、それは可愛い作品です。もっともっと録音されて、弾かれても聴かれても良い作品なのに、これも現役CDは、この1枚しか捕捉できませんでした。

残りのP.Hindemith、F.Busoni、A.Casella、M.Ravelも、作品はそこそこ知られていながら、録音はほとんどありません。あっても2〜3種類です。Ravelの「ラ・ヴァルス」など2台版の録音は、たくさん出ていますが、Garban編曲の連弾版は、ほとんどありません。

そうした意味で、非常に価値ある1枚と言えましょう。演奏そのものは、可もなく不可もなくで、それぞれ丁寧に弾かれておりますが、いずれもこじんまりとまとまっております。作品のアウトラインと魅力を把握する分には、十分ではないでしょうか。なかなか可愛く弾いていますよ。プロ/アマテュア問わず連弾愛好家や、生徒を指導する立場の方に、是非とも聴いていただきたい1枚です。レパートリを広げる上で、大変に参考になるCDです。

録音は稀なのに、楽譜は全部現役。AuricはHeugel、HindemithはSchott、SchoenbergはBelmontまたはUniversal(両版は同一)、BusoniはPeters、Casellaの「プパッツェッティ」と「戦争の記録」はRicordi、同じく「フォックス・トロット」はUniversal、RavelはDurandから、それぞれ出ています。

このCDも、2002年10月15日現在、一応現役らしいです。オンラインですと「amazon.com」で入手できます。ただし「Specal Order」のマークがついていたので、確実に入手できるか保証の限りではありません。(2002年10月15日記)

曲目 P.Boulez: 構造 第1巻
           構造 第2巻
演奏 Alfons & Aloys Kontarsky
CD番号 Wergo WER 6011-2


Boulez様・・・というと、いまの若い世代の方々には「作曲もする指揮者」との印象が強いことと思います。・・・が、元々は作曲家で、O.Messiaenの高弟です。それが段々と「指揮もする作曲家」になってきて、今では「作曲もする指揮者」になりました。

 彼の演奏は、もう30年近く前から録音で聴いておりましたが、ライヴで聴いたのは1995年5月になってから。わたしたちが聴いたのは、Ravel「マ・メール・ロア」、Messiaen「クロノクロミー」、Stravinsky「春の祭典」というプログラム。それは目の覚めるような演奏でした。演奏が終わって、会場中歓声の嵐。オーケストラが引き上げた後も、何度も舞台に呼び出されて。決して美男子ではないけれど、本当に格好良かったなぁ。この10月、7年ぶりに彼の演奏に接することができます。今から楽しみ!

閑話休題。そのBoulez様の若い頃の作品群に、このCDに収められた2曲の2台ピヤノのための「構造」があります。Boulez様がお作りになられた2台ピヤノ曲は、1952年作曲の「構造・第1巻」、1961年の「構造・第2巻」、この2つだけです。両方とも、ポスト・ウエーベルンの姿勢を徹底的に追及した作品。音の強弱や音色のダイナミクスな変化と2台ピヤノの絶妙な会話が聴き物です。ある意味で、「2台ピヤノ曲の北極点」とも言える曲です。非常な難曲で、何故か皆さんあまり手を出したがりません。名曲なのですけどね。

その難曲に挑んでいるのが古典から現代までピヤノ・デュオならなんでもござれの、AlfonsとAloys Kontarsky。このCDは、もう30年以上まえの、LP時代からある懐かしい録音です。しかし、その鮮烈な演奏は、いま聴いても曲の魅力を十分に伝え、色褪せることはありません。LPだった頃、友人の自宅で聴かせてもらったことがあります。しかしCDになってからの方が、音がクリアになり、この曲の魅力である強弱と音色の変化が、より一層よく伝わって来るような気がいたします。とても大昔の演奏/録音とは思えません。

楽譜を見ながら聴くと、Kontarskyのお二人は、よくぞまあ、これだけ鮮明に楽譜を音にしている・・・単に音にしているだけでなく、面白く聴かせようとしているところに驚きと感動を覚えます。非常に複雑な楽譜から、曲の持つ魅力を実にうまく引き出しているのです。決して無味乾燥になることはありません。そして、2台のピヤノの対話が、実に面白い。頻繁に聴くCDではありませんが、聴き出すと、ついつい引き込まれてしまいます。本稿を書くに当たって改めてじっくり聴き直してみたのですが、「構造・第1巻」「構造・第2巻」を連続で、あっという間に聴き通してしまいました。ダイナミクスと表情付け、Kontarsky、実に巧いなぁ。「名演」というほかはありませんね。

聴いて幸せな気分になるかどうかは分かりませんが、2台ピヤノ愛好家や演奏家、ゲンダイオンガクがお好きな方には、ぜひ聴いて頂きたい1枚です。

楽譜は2曲ともUniversalから出ており現役。スコア形式で、演奏には2冊購入することが必要です。また第2巻は、第1章と第2章で構成されており、うち第2章は「本編」のほか、2つの小品、6つのテキスト、4つの挿入部で構成しています。これらの楽譜がバラバラで「外皮」の中に入ってくるので、大きなクリップで留めておかないと後々面倒なことになります。購入したら、これらが全部そろっているかどうか、確認して下さい。このCDは2002年10月7日時点で現役。オンラインですと「amazon.com」で入手できます。(2002年10月7日記)

曲目 D.Milhaud: スカラムーシュ Op.165b
            ケンタッキアーナ Op.287
            マルティニック島の舞踏会 Op.249
            夢 Op.237
            ニューオーリンズの謝肉祭 Op.275
            リベルタドーラ Op.236a
            屋根の上の牛 Op.58a
演奏 Stephen Coombs & Artur Pizarro
CD番号 hyperion CDA67014

ラテン・アメリカの雰囲気にどっぷりと浸かれる、それは楽しい1枚。青く澄んだ空。噎せ返るような熱気。明るいリズム。そんな、Milhaudの2台ピヤノ曲をまとめて聴ける、なかなか得難いCDです。

Milhaudの2台ピヤノ曲、というと、まず「スカラムーシュ」が頭に浮かびますね。確かにこれは名曲で、2台ピヤノ曲としても秀逸であり、人気の高い曲です。Milhaudの作品の中ではダントツに有名なのは当然と言えば当然でしょう。でも、Milhaudには、「スカラムーシュ」以外にもオリジナル/編曲物の両方で、2台ピヤノ曲の名曲がたくさんあるのです。ところが残念なことに、それらをまとめて収録したCDは、ほとんどないのが現状です。今回取り上げたのは、そうした数少ないディスクのひとつです。

このCD、Stephen CoombsとArtur Pizarroという人たちが弾いています。「スカラムーシュ」で言えば、Labequeほどの衝撃度はありませんが、曲の楽しさが十分に伝わってくる演奏と言えましょう。その他の曲も優秀な演奏ですが、もうちょっと、良い意味での「遊び」があった方が、面白く聴けたかも知れません。誤解のないように言えば、これはこれで楽しい演奏ですよ。欲を言えば、の話です。逆に言えば、聴いていて疲れない、飽きの来ない演奏です。

収録曲の中で、「ケンタッキアーナ」「ニューオーリンズの謝肉祭」は、米国をテーマにした曲ですが、これですら、ラテン・アメリカの雰囲気になっています。残りの「スカラムーシュ」「マルティニック島の舞踏会」「夢」「リベルタドーラ」そして「屋根の上の牛」は、もう完全に「ラテン・テイスト」ですね。やや楽しい気分のときはもちろん、やや落ち込み気味のときに元気をつけるのに、もってこいの曲であり、演奏です。これらを聴くとMilhaudの2台ピヤノ曲は「スカラムーシュ」だけではないことが、如実に把握できるでしょう。いずれも明るい、ピヤニスティックな魅力に溢れています。このCDを聴いて、「自分たちでもやってみたい」と思われる演奏者の方も多いと思います。

収録曲のうち、2台用編曲は「リベルタドーラ」と「屋根の上の牛」の2曲。あとは、すべて2台ピヤノ・オリジナル曲です。厳密に言うと、「屋根の上の牛」は連弾用編曲なのですが、連弾でやると両奏者の手が絡み合うなどかなり不自由であること、2台ピヤノにしたほうが音の広がりが出ること、などの理由で2台ピヤノで演奏されることが多く、このCDでも2台で弾いています。もちろん連弾用なので1台でも、きちんと弾けますが。また「スカラムーシュ」の原曲は劇付随音楽「空飛ぶ医者」なので、ある意味では編曲物かも知れません。ただし第2楽章は2台ピヤノ・オリジナルですし、曲も素材を原曲に求めているだけなので、2台ピヤノ・オリジナルと言って良いでしょう。

何はともあれ、気軽に聴けて、とても楽しいディスクです。

各曲の楽譜の出版状況は以下の通り。「スカラムーシュ」と「夢」はSalabert、「ケンタッキアーナ」はElkan-Vogel、「リベルタドーラ」はAhn und Simrock、「屋根の上の牛」は御存知・貧者の見方Doverから出ており、いずれも現役。「マルティニック島の舞踏会」と「ニューオーリンズの謝肉祭」はMCAから出ていましたが、現役かどうか確認できませんでした。御存知の方がいらっしゃいましたらご一報下さい。

このCDは2002年9月29日時点で現役。オンラインですと「amazon.com」「amazon.co.uk」「amazon.de」で購入できます。(2002年9月29日記)

曲目 G.Gershwin: ラプソディ・イン・ブルー(2台ピヤノ版)
             ヘ調の協奏曲(同上)
             「アイ・ゴット・リズム」変奏曲(2台ピヤノ・オリジナル)
             パリのアメリカ人(2台ピヤノ版)
演奏 Prague Piano Duo (Zdenka & Martin Hrsel)
CD番号 Praga Digitals PRD 250 163

意欲的なピヤノ・デュオ活動を展開している「Prague Piano Duo」による、非常に上品なGershwin。良い意味で適度にヂャズのフィーリングを持たせながら、それが過剰に出ることはありません。とても均整が取れた演奏で、スマートなGershwinがお好きな方には、うってつけの1枚です。Gershwin自身の手による「2台ピヤノ曲」をほぼ網羅している、と言う点でも評価できるCDと言えましょう。

全体を通じて、録音がとても良く、音の粒立ちも美しい。残響は適度。どこまでも上品です。左右の分離もとても良く、2台ピヤノの録音としては秀逸です。かといって、「教科書的な演奏・録音」というわけではありません。Gershwinを聴く楽しみに溢れたCDですよ。これまで何枚ものこのデュオによる演奏を聴いてきた評者は、「どんなGershwinになるのかしら」、と期待半分、不安半分でした。このデュオの演奏は、いつも高度なアンサンブルを聴かせながらも、真面目一徹みたいなところがありましたらから。

確かに「真面目」なGershwinです。でも、「このデュオも、こんな楽しい演奏もするのだな」という新しい発見がありました。羽目を外すことはありませんが、「上品」という制約の中で、たっぷりと楽しいGershwinを聴かせてくれます。ひとつひとつのフレーズの歌い方が実に丁寧。叙情性もたっぷりです。

これと対局にあるのが、Labequeの演奏。Labequeの演奏は聴いていてとても楽しいのですが、真剣に聴きすぎると疲労感が残ってしまうことが、ままあります。とても好きな演奏家であるにも関わらず。「面白すぎる」というところに原因があるのかも知れません。誤解がないように申し上げておきますが、Labequeの演奏が決して上品ではない、という意味ではありませんよ。

それに対してPrague Piano Duoの演奏は、Gershwinを2台ピヤノで聴く、という行為に対して、常に安定的な「楽しみ」を与えてくれます。これ以上、シックにGershwinをやってしまったら、面白みがなくなってしまう・・・というその限界を突いているのです。良い意味でヂャズとクラシックのフィーリングのバランスがとれているのですね。

いずれの演奏も、比較的フレーズをゆったりととっています。ただ、タッチはこのデュオとしてはかなり鋭い方ですね。それが、良い結果を生んでいます。気楽に聴いてもよし、真剣になって聴いてもよし。なかなか優れものの演奏でしょう。

なお、Gershwinの曲の場合、楽譜を改変して弾くケースが非常に多いのですが、このデュオは、かなり真面目(?)に、ほとんど楽譜そのままに弾いています。

ここに納められた曲の楽譜は、すべて米Warner Bros.から出ており現役。容易に入手可能です。このCDは、2002年9月16日時点で現役。オンラインですと「amazon.de」で入手できます。(2002年9月16日)

曲目 E.Grieg: ノルウエイ舞曲 Op.35 (連弾オリジナル)
           古いノルウエイのロマンスと変奏曲 Op.51 (2台ピヤノ・オリジナル)
演奏 Kjell Baekkelund & Robert Levin
CD番号 ETCETERA KTC1004

とても清冽なGrieg。あくの強さはありませんが、作品の魅力が十分に伝わってくる演奏です。編曲物まで含めると多くのピヤノ・デュオがありながら、こんにち、それが録音物となって現れることの少ないGriegの曲たち。その一端をかいま見せてくれるのが、このCDです。

このCDの魅力的なところは、大変に優れた2台ピヤノ曲でありながら、ほとんど演奏されることがなくなってしまった、「古いノルウエイのロマンスと変奏曲 作品51」を含んでいる点でしょう。「心底から北欧」といった大変に叙情的で浪漫的、そして素朴な主題が、14の変奏曲となって展開されます。古典派ほどではありませんが、かなりがっちりとした構造の変奏曲です。その展開ぶりはGriegならではのピヤニズムが溢れています。様々で変化に富んだ変奏の連続は、聴く者の心を北欧の原野に解き放ちます。

曲のあちこちで、2台のピヤノが「お喋り」をしながら曲を進めて行くのですが、この演奏、そうした「対話」を実にうまくこなしているところが見事。変奏の最後にある行進曲風のフレーズでは、2台のピヤノが堂々と歌います。Kjell BaekkelundとRobert Levinというピヤニストが弾いていますが、彼らはピヤノ・デュオにかなりの経験があるのでしょう。2台のピヤノの競演を、とても面白く聴くことができます。曲の魅力を単に伝える以上の演奏になっています。変奏ごとに、表情をうまく切り替えて聴かせるなど、なかなか見事な演奏と言えましょう。決して巨匠的な演奏ではありませんが、ひとつひとつのフレーズの息づかいを大きく取った、スケール感のある演奏で、聴き応え十分です。

この曲の楽譜、以前はC.F.Petersから単独で出ていましたが、現在は残念ながら絶版。同社に依頼すれば、コピー譜の作成が可能です。なお、PetersのGrieg全集(Edvard Grieg Gesamtausgabe)の第7巻に「Origialkomp u. Bearb. fur 2 Klavier」というのがあるのですが、ここに含まれているかどうかは確認できませんでした。日本国内ですと、桐朋学園大学 音楽学部附属図書館(東京都調布市)と相愛大学・相愛女子短期大学 図書館(大阪市住之江区)に、Peters版の蔵書があります。楽譜を参照なさりたい方は、こちらに相談してみては如何でしょう?

同時収録されている「ノルウエイ舞曲 作品35」は水準の出来。楽しく聴くことができます。この楽譜はC.F.Petersから出ており現役です。

このCDは、2002年9月9日時点で現役。オンラインですと「amazon.de」で入手できます。なお、CDの解説では演奏者に関して一切触れていません。不親切。(2002年9月9日記)

曲目 G.Donizett: 連弾のためのソナタ ニ長調
    C.Czerny: 連弾のための「グランド・ソナタ ヘ短調
    田中利光: 古塔五景
演奏 Duo Takezawa-Sischaka (竹沢絵里子+Christoph Sichka)
CD番号 Ars Produktion FCD 368 358

リアル世界のCDショップももちろんですが、ネット上にある世界中のオンラインショップを探訪していての楽しみのひとつに、自分にとって未知の演奏家と出会う、というものがあります。中にはあまり日本で名前は知られていなくても、目の覚めるような演奏を聴かせてくれる演奏家に出会うこともあり、そうした巡り会いには至福を感じます。今回取り上げた1枚も、そうした未知の演奏家との幸せな出会いのひとつです。

過日、ピヤノ・デュオ研究家の松永晴紀先生とお喋りをしていたときのこと。C.Czernyの連弾曲の話が出ました。C.Czerny。かのF.Beyerと並んで、幼かった評者を苛めて下さった作曲家のひとりです。ところが松永先生曰く、「Czernyの練習曲は、彼の膨大な作品の、ごく一部に過ぎないのですよ。なかなか素敵なピヤノ曲があり、連弾にも優れた作品を残していますね」。この話を伺った評者、これは何が何でも聴かねば、と思いました。

Czernyの連弾曲は、有名なピヤノ・デュオである「Yaara Tal & Andreas Groethuysen」がSonyに纏まった録音を残しています。ところが誠に残念なことに、廃盤同様のため現在入手は極めて困難。そこで「他に録音はないかしら」とネットサーフィンを始めた評者です。

いくつかCDは見つかりましたが、その中で、Duo Takezawa-Sischakaという方が録音しているものが見つかりました。カップリングが実に興味深い。松永先生が「Czernyの傑作ですよ」と仰ったOp.178の「グランド・ソナタ」に加えて、G.Donizettが残した数少ない多楽章形式の連弾ソナタ、それに田中利光先生の傑作「古塔五景」が収録されています。まったく未知のデュオでしたが、これは入手せずにはいられません。早速、このCDを見つけた「amazon.de」に発注しました。

CDが届くと早速プレイ。「水準の演奏が聴ければ御の字だな」と思って聴き始めたのですが、最初のDonizettで、すぐさま演奏に引きずり込まれました。明瞭できらびやか、そして芯のあるタッチ、そして絶妙のアンサンブル。録音の良さも手伝って、約67分のCDを一気に聴き通してしまいました。本当に「見つけもの」の大変に優れた演奏です。前進気勢がありながら、非常に安定してしっかりした演奏。湿り気がなくて、さわやかに響く音の流れ。加えて、構成感も抜群。連弾の「楽しみ」が、聴き手にダイレクトに伝わってくるような演奏です。

収録曲は、すべて1台4手の連弾。

1819年に作曲されながら初期ロマン派というより完全な古典派的な構成を備えたDonizettのニ長調ソナタ。がっしりと曲をとらえながらも、流麗感を失いません。1829年作曲のCzernyによるグランド・ソナタ。あたかもF.Mendelssohnの作品のようなロマン性を全面に押し出しながらも、「情」に流されることなく、しっかりと地に足のついた堅牢な演奏。

そして圧巻は田中利光先生の古塔五景。この曲の持つ抒情と激情を、実に鮮やかに弾き分けています。この作品は「間」の取り方が非常に微妙で難しいのですが、それをものの見事に打ち出して、聴き手を圧倒してくれます。もちろん、古風で日本的な香りが全曲を通じて聞こえてくるのは、言うまでもありません。この曲が、これほど優れた演奏でCDになっているなど、ほんの最近まで知りませんでした。

しかも、これだけ作風が違う曲を並べたのに、1枚のCDを通しで聴いても、何の違和感もありません。それだけ演奏が優れているのでしょう。いずれの曲も、その魅力を存分に表現している演奏です。是非、連弾愛好家に聴いて頂きたい1枚です。

楽譜の出版状況は以下の通り。DonizettはBoccaccini & Spadaから出ていましたが、現役かどうか確認できませんでした。CzernyはKunzelmannから出ており現役。この楽譜は、Yaara Talの校訂です。田中先生の作品は音楽之友社から出ていましたが、現在絶版。ただし、同社に依頼すれば、コピー譜の作成が可能です。

CDは2001年9月2日現在現役。「amazon.de」で入手できます。独・英・日本語での解説がついていますが、曲のことについて、ほとんど何も言及していない、邪悪系解説です。(2002年9月2日記)

曲目 F.Schubert: 劇音楽「キプロスの女王ロザムンデ」 D.797
            (A.Shonbergによる連弾用編曲)
            デュオ「人生の嵐」 D.947
演奏 Evelinde Trenkner & Sontraud Speidel
CD番号 Musikproduktion Dabringhaus und Grimm MDG 330 0763-2

録音物としては「珍品」に属するものを含めて収録した1枚。音楽そのものは有名曲ですが、この編曲は残念ながらあまり知られておりません。F.Schubertの劇音楽「キプロスの女王ロザムンデ」。全11曲の中から6曲を抜き出してA.Schonbergが連弾用に編曲した代物です。全曲の中から、(1)序曲、(2)間奏曲1、(3)間奏曲2、(4)間奏曲3、(5)バレエ音楽1、(6)バレエ音楽2が編曲されています。つまり声楽を含まない曲ばかりを選んだ訳ですね。

Schonberg編曲の連弾・・・というと一見奇異な感じもします。彼自身、あまりピヤノがお上手ではなかったそうですが・・・もっとも評者よりはましでしょうけれど・・・、自分自身の「第一室内交響曲」を連弾に、「第二室内交響曲」を2台ピヤノ用に、それぞれ編曲しています。またG.Rossiniの「セビリヤの理髪師」、それもご丁寧に全曲を、やはり連弾用に編曲したりもしています。何のためにこのような編曲を残したのか存じ上げませんが、ピヤノ・デュオという分野に強い関心を持っていたことが伺えます。ちなみに現在出版されているSchonbergのピヤノ曲のうち、いちばん最初に作曲したものは「連弾のための6つの小品」という、とても素敵な曲であることを付け加えておきます。

さて、このSchubert。変に原曲をいじらず、実に素直な編曲になっていることに、まず驚かされます。実際に弾いてみると、ちゃんと「Schubertの音楽」になっているのですね。プリモとセコンダの音の配分や音型の構造など、完全にSchubertのものになっております。この楽譜、連弾愛好者なら一見の価値はあります。編曲者がSchonbergだといって、決して特殊な編曲でも、おっかない曲でもありません。

こうした優れた編曲ながら、長らく絶版になっていたためか、一般に広く知られていないのが何とも残念なことです。もちろん録音もほとんどありません。そのほとんどない録音の一つが、ここで取り上げたEvelinde TrenknerとSontraud Speidelの演奏です。これがなかなか優れた演奏で、この編曲の魅力を十分に伝えてくれます。Schubert特有の「愉悦感」も溢れています。決して派手ではありませんが、非常にクリアなタッチと、完璧なアンサンブルが聴き物。バランスのとれた演奏です。かといって、単なる「模範演奏」にあらず。なかなか面白く聴けるよう、絶妙な配慮をしている点も、この演奏の良さと言えましょう。

このTrenknerとSpeidelは、この欄でも取り上げたJ.S.Bach作曲=M.Reger編曲「ブランデンブルク協奏曲」のほか、同じ作曲者/編曲者の「管弦楽組曲」、A.Brukner作曲=G.Mahler編曲「交響曲第3番」など、ちょっと変わった連弾用編曲物を録音しています。いずれも優れた演奏ですね。またTrenknerはZenkerという人と組んでMahlerの6番と7番の交響曲(連弾版)を録音しています。よほど編曲物がお好きな方なのでしょう。これらは録音物の資料として、第一級の存在と言えましょう。

このCDに同時収録のSchubert「人生の嵐」も、スケールの大きな素敵な演奏。この曲の録音として、お奨めです。

「ロザムンデ」の楽譜は、Universalから出ており現役。容易に入手できます。「人生の嵐」は、あちこちの出版社から出ているので版元紹介は省略いたします。このCDは2002年8月19日時点で現役。オンラインですと「amazon.de」で入手できます。(2002年8月19日記)

曲目 W.A.Mozart: 2台のピヤノのためのソナタ ニ長調 Kv.448
             アンダンテと変奏 Kv.501
             連弾のためのソナタ ハ長調 Kv.521
             連弾のためのソナタ ニ長調 Kv.381
演奏 Martha Argerich & Alexandre Rabinovitch
CD番号 TELDEC 4509-91378-2

「脳天直撃コンビ」による鮮烈なMozart。ひとつひとつの音に、生き生きした生命感が宿り、それが束となり大きな流れとなって押し寄せてくる・・・そんなスケールの大きなMozartのピヤノ・デュオです。どの曲も表現の幅が非常に広く、それでいて大仰にならず実に自然。華やかに展開されているかと思えば、時折姿を見せる微妙な陰影。とてもバランスの取れた演奏です。ある意味で、究極のMozartデュオの姿と言えましょう。でも、そこらの町のピヤノ教室あたりで、こんな「面白い」演奏をやったら、センセイにこっぴどく叱られるにちがいありませんが・・・。

収録されているのは、2台用が1曲、連弾用が3曲。どれを聴いても、とても新鮮。繰り返し聴いてもまったく飽きることがありません。聴くたびに新しい発見がある・・・そんな演奏です。

2台のピヤノのためのソナタ ニ長調 Kv.448」は、言わずと知れた、Mozartが残した、たった1つの2台用ピヤノ・ソナタ。もともと2台のピヤノによる対話が面白い曲ですが、この演奏ではその「対話性」を極限まで追求しています。両奏者は非常に緊密な連携を取りながらも、それぞれちょっとづつ「遊んで」います。その「遊びぶり」が何とも愉快。そう、2人は2台のピヤノを使って「お喋り」をしているのです。それも、とっても楽しいお喋りを。この曲には、いくつかの名演がありますが、この演奏は、あらゆる意味で他を圧しております。演奏には好きずきがありますが、評者にとっては、これを越える演奏は、恐らく現れることはないことでしょう。

連弾のうちの1曲、「アンダンテと5つの変奏 Kv.501」は、評者にとってMozartのあらゆる曲のなかで最も好きな曲。安堵感を含んだアンダンテの暖かい表現、そして驚くほど表情を変えての5つの変奏曲の表現。この可愛い小品が、巨大な構造物のように感じられる演奏です。特に表情の変化の付け方が見事! かつてArgerichさまはS.Bishop-Kowacevichと組んで、この曲を録音していました。それはそれで優れた演奏であり、評者も大変に評価していたのですが、このRabinovitchとの演奏には、表情の変化と構築感において、とてもかないません。この再録音の方が圧倒的に素晴らしい。旧録音が完全に色あせて聞こえます。

Kv.501もそうですが、Kv.521とKv.381は、2台ソナタの緊密性を一層増したような演奏。一部の隙もありません。それでいて良い意味での「遊び」があちこちに満ちています。連弾の楽しさを全面に出した演奏と言えましょう。この2つの連弾ソナタを聴くに当たって、評者はPeters版の楽譜を参照したのですが、この演奏にはPeters版にない音が、何カ所か加えられております。他の版を保有していないので、演奏でどの版を使用したのかは不明です。

なお、録音全体を通じて、どちらがどのパートを弾いているのか、CDの解説書には明記されておりません。評者の耳では、とてもではありませんが、判別できませんでした。まあ、これだけ素敵な演奏なら、どちらがどちらを弾いていても、さして問題となるところではありませんが。

楽譜はあちこちから現役で出ておりますので、紹介は省略いたします。このCDは2002年8月12日時点で現役。オンラインですと「amazon.com」で入手できます。(2002年8月12日記)

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(c) Yumiko & Kazumi 2002