コリリアーノの作品
John Corigliano
(b.1938)

 現代米国作曲界の巨匠。出身はニューヨーク。1950年代から現在に至るまで、意欲的な作曲活動を続けています。特に近年では、フルート奏者ジェームス・ゴールウェイ(James Galway)のために書いた「ハメルンの笛ふき男の幻想」(Pied Piper Fantasy,Concerto for Flute:1982)、シカゴ交響楽団委嘱作品・交響曲第1番(Symphony No.1:1988〜89)、そしてメトロポリタン歌劇場の委嘱で執筆したオペラ「ヴェルサイユの幽霊」(The Ghosts of Versailles:1991)といった音楽史上に残る傑作を生み出しています。

 このベルサイユの幽霊によって1991年、音楽界のノーベル賞とも言われる「Grawemeyer Award」を受賞するなど、多数の栄誉を受けていますね。作曲活動の傍ら、ジュリアード音楽院などで教鞭をとっていらっしゃいます。なお、略歴および全作品に関して「G.Schirmer:Corigliano」のページで参照できます。





☆ 明暗 ☆
Chiaroscuro
for two pianos tuned a quarter tone apart
作曲年代:1997
演奏形態:2台ピヤノ・オリジナル
参照楽譜:G.Schirmer

 この作曲家にとって1959年の「万華鏡」(Kaleidoscope)以来、実に38年ぶりに作曲した、2曲目の2台ピアノ作品となります。第1ピアノは通常ピッチ、第2ピアノは4分の1音下げたピッチに設定し演奏することが特徴。両者による「ずれ」が微妙な陰影と「響き」の創出を狙っています。

 2台ピヤノ用作品で片方の調律を変える、という作曲/演奏手法をとる曲は、この曲が最初ではありません
元祖はCarls Ives(1874-1954)の、その名もズバリ「Three Quarter-Tone Piano Piece」(1903-04/1923-24)。「Chiaroscuro」とは逆で、第1ピヤノを通常のピッチ(注:「調律」と「ピッチ」という用語を使い分けていますので要注意)、第2ピヤノを4分の1音上げたピッチに設定して演奏します。出版はPetersです。

 もっとも、これら「片方の調律を変えた2台ピヤノ用作品」は、なかなか演奏される機会がありません。通常の2台ピヤノ・コンサートで、これらの作品を演奏しようとすると、他のプログラムとの関係で、ピヤノを少なくとも3台用意する必要が出てきます。つまり通常ピッチの楽器を2台、そしてピッチを4分の1音下げた(あるいは上げた)ピヤノを1台。その結果、準備に時間がかかり、経費も嵩みます。

 あまり良い解決策ではありませんが、ここで「妥協案」(?)を提案致します。最近の電子ピヤノでは、上下半音の範囲で簡単にピッチを変えられる楽器がありますね。これを「ピッチ変更ピヤノ」として使うのです。これならご家庭でも、気軽に楽しめます(演奏の技術は別として)。ただし、双方が醸し出す「微妙な共鳴効果」は、まったく期待できず、作曲者の意図を損なうことも充分に考えられます。この「
杜撰な解決策」は、あくまでも練習やお遊びの範囲にとどめて置くべきかも知れません。

 さて「Chiaroscuro」。そもそもは、97年度Murray Dranoff国際ピアノ・デュオ・コンクール最終審査用に作曲。ところが作品の完成度は、単なる「コンクール課題曲」の範疇を完全に超えています。90年代に作曲された2台ピヤノ用作品の代表作ともなりうる傑作です。
(1)光(Light)(2)影(Shadows)(3)ストロボ(Strobe)の3部で構成し、連続して演奏するように指定されております。楽譜は定量記法で記述。演奏時間は約10分です。

 まず
「光(Light)」は、第1ピアノによるフォルテシモの煌めくようなアルペジオで始まります(譜例1)。これに第2ピアノが4小節目から極めて繊細に呼応(譜例2)。一度聴いたら/弾いたら忘れられない印象的なシーンです。

譜例 1

譜例 2


 
「影(Shadows)」は、緩徐楽章に相当する部分。Largoで始まる神秘的な楽想。どちらかというと「モノトーン」ですね。曲の大半は「mf」以下。ただし時折「ff」の断片的に叩き付けられます。

 最後の
「ストロボ(Strobe)」は、3つの部分で構成。主要部は「常動曲」。8分の6あるいは8分の3拍子を基調とします(譜例3)

譜例 3


 中間部(98〜146小節目)は、一転して清冽な叙情が支配。ここで第2ピヤノ奏者(4分の1音低くピッチを設定したピヤノを弾いていた奏者)は、自分の「持ち場」を離れ、第1ピヤノ奏者の所へ出向き、左側−−つまり連弾のセコンダの位置−−に座ります。第2奏者が移動している間、第1奏者は第2奏者が座りやすいように、ズルズルと右側に腰をずらしながら演奏を続けます。第2奏者が指定位置に着くと、連弾が始まります。響きは完全に後期ロマン派風(譜例4)

譜例 4


 139小節目にさしかかると、今度は第1奏者が席を立ち、第2ピヤノに移動。そして147小節目からリズミックな楽想が復活、ふたたび4分の1音ずれた2重奏が始まります。最後は熱狂的なトーン・クラスタが炸裂して曲を閉じます。