其の四:お家でやるぞ、交響曲
誰でも一度はやってみたい「商売」のひとつに、「指揮者」というのが挙げられるようです。現実には、指揮者になれるのはプロフェッショナル/アマチュアを問わず、ごくわずかで幸運な方だけです。でも「連弾」という手を活用すると、意外と容易に、その疑似体験ができるのです。一度試してみては如何でしょう? 実に楽しいですよ。
古今東西あまたある管弦楽曲。これらをピヤノで演奏できるようにした例は、数多くあります。ソロあり、連弾あり、2台ピヤノ用あり。作曲者自身の編曲もあれば、他人の編曲もあります。オーケストレーションの下書きとしたケースや、総譜作成と同時進行で執筆した例も。
出来不出来も様々です。ただただ総譜をピヤノ譜に置き換えた邪悪で凡庸な編曲もあれば、最初からピヤノ曲ではなかったのかしらと思わせるような秀作も。わたくしがこれまで見たり聴いたりしてきた経験で言えば、「邪悪で凡庸」が約7割、「まあまあ」が2割強、「秀作」が1割弱--といったところでしょうか。
こうした「編曲モノ」の楽しみ方は、大きく分けて2通り。ひとつは「管弦楽を鍵盤上に移し替えた」ことを意識して作品に向かうケース。もうひとつは「あくまでもピヤノ曲である」ことを重点に演奏を楽しむやりかたです。
前者の場合、「うむ、ここはオーボエ。ここから入る声部はフルートと第1ヴァイオリンじゃ!」と、あたかも管弦楽の演奏を擬似的に鍵盤上で再現することを想像しながら演奏する楽しみ方。後者は「こいつは、ピヤノ曲である」と割り切って(?)、あくまでもピヤノの響きを楽しむケースです。いずれにしても、管弦楽曲を自分のコントロール下に置いて、自由に制御できますね。つまり「擬似指揮者」というわけです。
また、通常の管弦楽演奏ですとあまりよく聞こえないような声部が、浮かび上がってきたりして、曲に関する「新たな発見」があったりします。全声部が「同じ音質」になるため、普段隠れていたものがいきなり表に出たりするのです。ある意味で管弦楽のピヤノ用編曲は「管弦楽曲の骸骨」と表現することができましょう。曲の構造を把握する上で、絶好の資料となります。もっとも徹底的にトランスクリプションした場合、「骸骨」ではなく「別物」になるケースもありますが。
さて、管弦楽曲をピヤノに移す場合、問題となるのは「音」の数です。人間の指の数は、通常10本です。しかも動かし方に制限があります。すると、1台のピヤノを使って1人で弾くように無理なく設定し、かつ演奏効果が上がるようにするには、そのまま管弦楽総譜をピヤノ譜に置き換えてもダメです。相当なトランスクリプションを施さなければ、タダのクズになってしまいます。すると当然、優れた編曲になると演奏も難しくなります。もっとも、難しくても凡庸で邪悪な編曲は、当然存在しますが。こうなると、本当のクズですがね。
では、ピヤノを2台用意して、2人で弾いたらどうでしょう? 編曲の善し悪しは別として、元の音を落とさずに、ピヤノで再現することが比較的容易に可能となります。ここで編曲が秀逸だったら、言うまでもありません。もちろん難易度は様々ですが。それにソロと同様、凡庸で邪悪な編曲が存在することを忘れてはいけません。2台だから良い、というものでもありませんね。ただし、一般家庭で2台ピアノの演奏ができる環境を整えている方は少ないでしょう。練習場を探すのも、厄介です。
そこで折衷案(?)として提案できるのが「連弾」です。これならピヤノ1台、奏者2人いれば、楽しむことが可能です。これなら管弦楽の動きをある程度「素直」に鍵盤上で再現できますし、広い音域とダイナミック・レンジを楽しむこともできます。ただし問題点もあります。ひとつの鍵盤を使うという制限から、完全に原曲を再現できるとは限りません。また両奏者間で声部の受け渡しや、手の接近/交差が多発します。必ずしも弾きやすい作品ばかりとは限りません。それでも、お家で気軽に「管弦楽曲」を演奏することが可能になりますね。
世の中「管弦楽曲」といっても、無数にありますね。それではここで、いわゆる「交響曲」という名前のついた作品のリストを挙げておくことにいたしましょう。あくまでも1台のピヤノで演奏できる作品/編曲に限定してみました。あくまでも「主なもの」なので、この他にもたくさんの作品/編曲が存在することにご留意下さい。
なお「ソロ作品」に関しては、Web友人である「超絶技巧外科医・夏井さん」が作成されていらっしゃる「超絶技巧ピアノ編曲の世界」に、様々な例が出ております。どうぞ、こちらをご参照下さい。わたしたちの「お勧めページ」です。
■超絶技巧ピアノ編曲の世界 「http://www.ne.jp/asahi/piano/natsui/」
■古今東西の「連弾」(1台4手)で全曲が弾ける主な「交響曲」 (注:絶版もありますから、即座に入手可能とは限りません)
Composer | Title | Arranger | Publisher | Evaluations for arr. |
J.Haydn | Sym. 98,94,99,101,103,104 | unknown | C.F.Peters | Passable |
Sym. 86,96,97,98,100,102 | unknown | C.F.Peters | Passable | |
W.A.Mozart | Sym. Kv.385,425,504,543,550,551 | unknown | C.F.Peters | Passable |
L.v.Beethoven | Sym. 1-5 | unknown | C.F.Peters | Passable |
Sym 6-9 | unknown | C.F.Peters | Passable | |
Fchubet | Sym. 8 | L.Garban | Durand | good |
H.Berlioz | Symphonie fantastique Op.14 | Ch. Banneliner | Ph. Maouet | good |
R.Schumann | Sym. 1,2,4 | composer | Durand | very good |
Sym. 3 | C.Reinecke | Durand | very good | |
F.Mendelsson Bartholdy | Sym. 1-3 | composer | Durand | good |
Sym. 4-5 | composer | Durand | good | |
J.Brahms | Sym 1-4 | composer | C.F.Peters/Simrock | good |
A.Dvorak | Sym. 9 | composer | Simrock | very good |
P.I.Tschaikowsky | Sym. 4 | unknown | C.F.Peters | unknown |
Sym..5 | unknown | C.F.Peters | unknown | |
Sym.6 | composer | Kalmus | Excellence | |
Sym. Manfred | composer | Kalmus | good | |
G.Mahler | Sym.1 | unknown | Kalmus | Fail |
Sym.2 | unknown | Kalmus | Fail | |
Sym.6 | A.Zemlinsky | unknown | Excellence | |
Sym.7 | A.Casella | unknown | Excellence | |
Sym.8 | A.Berg | Universal | unknown | |
Sym.10 | unknown | Universal | Passable | |
C.Frank | Sym d-moll | composer | Hamelle | very good |
A.Bruckner | Sym. 3 | G.Mahler | unknown | very good |
Sym.4 | unknown | Kalmus | Fail | |
Sym.7 | unknown | Kalmus | Fail | |
E.Chausson | Sym b-flat-minor | composer | Salabert | very good |
V. d'Indy | Sym. 3 | composer | Salabert | good |
A.Magnard | Sym. 1,2,4 | composer | Salabert | very good |
A.Loussel | Sym. 2 | L.Garban | Druand | good |
P.Hindemith | Sym. Mathis der Maler | composer | Schott | good |
A.Schoenberg | Sym. chember 1 | composer | Belmont | very good |
S.Stravinsky | Sym. in three movements | composer | ???? | very good |
D.Shostakovich | Sym.1 | composer | International | good |
目次へ
(c) Kazumi & Yumiko TANAKA 1999