言わずと知れた、この作曲家の代表作。交響曲という分野で見ても、大概の場合「ベスト10」に入る超有名曲です。ところが、この曲に連弾版があるということは、意外と知られていないようです。原曲の初演から1年数ヶ月後にSimrockから出版された、恐ろしくエレガンスでピヤニスティックな連弾版が存在することが。これは、非常に残念なことであります。かく言うわたくし(デュオの下手な方)も、連弾版の存在こそ知っておりましたが、実際に耳にしたのは、あの「Duo
Crommelync」のCDが初めてでした。異様な緊迫感に満ちた演奏を聴いて---何度も何度も繰り返し聴いて---何とかして楽譜を参照したいものだと切望しておりました。
その楽譜。譜面(ふづら)を見るだけで、実にピヤノスティックに書かれたものであるのであることが、一見して分かります。譜面を見ても、実際に弾いてみても--かなり高度な演奏技術を要求しているので、全部を弾いたわけではありません(”上手な方”はともかく、”下手くそな方”の指が言うことを聴きませんので。ただし譜面は詳細に参照してみました)--連弾曲としてまったく無理のない構成です。アーティクレーションの付け方も、完全に「ピヤノ曲」となっております。弾いた感じ、同じ作曲者の「Slavonic
dances op.46/72」や「Aus dem Bohmerwalde op.68」と、非常に良く似ています。通常耳にする管弦楽版を聴いた経験から「ここ、本当にピヤノで表現できるの?」と言う感覚を持つところも、実に自然な「ピヤノ曲」となっている点に驚嘆いたします。
例えば、あの有名な第2楽章。「弦楽に支えられたイングリッシュホルン」でなくとも、指定を守れば音が完全に持続するように書かれています。これは、実に見事。わたしたちは弾いていて「こんなに素敵な曲だったっけ?」と、顔を見合わせたくらい。しかも、管弦楽の動きを完全に鍵盤上で再現しています。
完璧に弾ければ、素晴らしい演奏効果があります。ちなみに「Duo Crommelync」は、楽譜の指定を忠実に守って弾いて、目の覚めるような演奏に仕上げています。技術的には、各パートともに、かなり高度な演奏力が要求されます。大きな交差こそありませんが両奏者の手は頻繁に接近。きちんとした演奏会に持ち出すなら相当綿密な検討が必要となります。また、ペダリングや各声部の浮き立たせ方も、かなり至難なものを要求しています。楽譜にはペダリングの指定が全くないため、かなり詳細に打ち合わせて弾くことが必要となります。
もっとも、家族や友人と楽しむには、最適な「連弾曲」の1つかも知れませんね。弾けるところをちょっと弾いても実に楽しい!
残念ながら、この楽譜は現在(98年5月時点)絶版。再版が待たれます。なお、わたくしたちが参照した楽譜は、ピヤノ愛好家「くぼさん」のご好意とご尽力により入手いたしました。この場を借りて深謝いたします。