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曲目 F.Chopin:(1) ロンド ハ長調 Op.1 (作曲者自編)
           (2) ムーアの民謡風の歌による変奏曲 ニ長調
           (3) ロンド ハ長調 Op.73
           (4) タランテラ 変イ長調 Op.43 (作曲者自編)
           (5) ソナタ 第2番 変ロ短調 Op.35 (C.Saint=Saens編曲)
演奏 Nonika Egri & Attila Pertis
CD番号 Hungaroton HCD 31917

F.Chopinのピヤノ・デュオ作品の全貌を俯瞰できる1枚。デュオのオリジナルあり、編曲物ありで、なかなか楽しめる1枚です。演奏はやや柔らかいタッチで流麗。とても若々しく、爽やかな演奏です。Chopinのピヤノ・デュオを知る上では、絶好のCDではないでしょうか。

ここに収められた曲のうち、オリジナルのデュオは(2)と(3)。このうち(2)は連弾、(3)は2台です。前者は1826年の、後者は1828年の作曲で、いずれも作曲者10代の作品です。10代とは言え、そこは「天才」の作品。瑞々しさに溢れた、それは素敵な曲です。それをNonika EgriとAttila Pertisの二人が、実に生き生きと弾いております。まるで春の柔らかな風が、全身をふっと包んで通りすぎて行くような・・・。Chopinが残したオリジナルのピヤノ・デュオは、この2曲だけです。その魅力を知る上で、大変に価値のある演奏と言えましょう。Chopinがお好きな方、この演奏を聞かないと損ですよ。

その他の3曲は編曲物です。(1)と(4)は、Chopin自身による、ピヤノ・ソロ曲からの編曲。評者自身は原曲を良く知らないのですが、このデュオを聴いていて、とても楽しめました。これを聴くと、Chopinも、決してピヤノ・デュオには無関心ではなかったのだな、ということが、それとなく分かります。原曲がソロであることを知らない方には、「Chopinに、こんな素敵なデュオ曲があったのかしら」と思わせることでしょう。

(5)は、ご愛敬。確かに聴いていて面白いのですが、この曲を2台用に編曲する必要があったのかしら・・・と思わせる、一種の「お笑い」編曲です。どういう意図でSaint=Saensがこの曲を2台用に編曲したのかは分かりませんが、それこそ「ご愛敬」以外の何物でもありません。

なお、このCDの録音で使用しているピヤノは、以前にもご紹介したPleyelのダブル・コンサート・グランド・ピヤノ。1台のピヤノの両端に鍵盤が付いていて、1台で2台ピヤノ曲の演奏ができるという代物です。この録音では、なかなか良い音を出しておりますよ。

楽譜ですが、(2)と(3)は現役。(2)はPolskie Wydawnictwo Muzyczne、(3)はC.F.Petersから出ております。(1)、(4)、(5)は、散々調べましたが出版社不明。現役かどうかも確認出来ませんでした。ご存じの方がいらっしゃいましたら、ご一報下さい。

CDは2002年3月3日時点で現役。ただし、オンラインで販売しているところはなさそうです。お近くのCDショップにご注文なさるか、発売元の「Hungaroton」にメールで発注してみて下さい。(2002年3月4日記)

曲目 N.Rorem:6つの変奏曲--2台ピヤノのための(1995)
          シチリア舞曲--2台ピヤノのための(1950)
          ダンス組曲--2台ピヤノのための(1949)
    J.Corigliano:ガゼボ・ダンス--連弾のための(1972)
            万華鏡--2台ピヤノのための(1959)
演奏 Arianna Goldina & Remy Loumbrozo
CD番号 Phoenix USA PHCD 138

現代米国作曲界の大御所2人の手によるピヤノ・デュオを1枚に収録したCD。「ケンダイオンガク」などと恐れないで下さい。多調や無調の部分はあるというものの、いずれの曲も明確な調性を持ち、よく聴けばどれもピヤニスティックで素敵な曲ばかり。そうした曲たちをラトヴィア出身の米国人Arianna Goldinaとフランス人Remy Loumbrozoの2人が、実に爽やかに纏めています。一般に演奏される機会の少ない現代曲が、こうした優れた演奏家の手で紹介されるのは、とても素敵なことです。

演奏は非常に安定しており、タッチも明確。曲の全貌と、その魅力を余すところなく伝える秀演です。あたかもロマン派の作品を弾くように、さりげなく、それでいて生き生きした演奏になっております。演奏を聴く限り、なかなかの実力派デュオのよう。後でCDの解説を読んだところ、Murray Dranoffをはじめとする5つの国際ピヤノ・デュオ・コンクールでの優勝経験を持つデュオ、とのことでした。

N.Roremの「6つの変奏曲」は、Murray Dranoff International Two Piano Competitionの審査用に作曲された約12分の小品。叙情的な主題がさまざまに変奏され、聴いていてとても面白いですよ。「シチリア舞曲」は、全曲を叙情が覆う4分強の小品。2台ピヤノ演奏会のアンコールにもってこいの1曲です。「ダンス組曲」は、文字通り2台ピヤノによる楽しいダンス音楽。「序曲」と「終曲」の間に3種類のダンスが演奏されます。「序曲」と「終曲」も一貫してダンス調。これは楽しめますね。

J.Coriglianoの作品は、ピヤノ・デュオ業界(?)では、比較的知られた2つ。「ガゼボ・ダンス」は、これまた文字通りダンスの音楽。「万華鏡」はリズミックな部分と叙情的な部分が交錯する魅力的な1作です。特に中間部におけるロ長調の旋律は、一度聴いたら忘れられないような浪漫的で素敵な一節でしょう。

ちなみに、このアルバムではCoriglianoの「ガゼボ・ダンス」のみ連弾。後はすべて2台ピヤノ曲です。これらの曲をまだご存じない方に、是非とも聴いて頂きたい1枚です。

楽譜はRoremの「6つの変奏曲」、Coriglianoの2作が現役です。Rorem作品はBoosy & Hawkesから、Corigliano作品は、G.Schirmerから出ています。つい最近までRoremの「シチリア舞曲」と「ダンス組曲」も現役でした。シチリア舞曲はSouthern Musicから、ダンス組曲はBoosy & Hawkesから、それぞれ出ていました。ところが、これを書くに当たって改めて確認したのですが、どうやらこの2曲は絶版になってしまったようです。残念・・・。このCDは本文執筆時点で現役。オンラインですと「amazon.com」で入手できます。(2002年2月26日記)

曲目 F.Liszt:悲愴協奏曲---2台ピヤノのための
          その他、Prokofieffの「5重奏曲」、Bartokの「コントラスツ」を収録
演奏 Martha Argerich & Nelson Freire
CD番号 EMI CDC 7243 5 56816 2 1

激情と叙情、そしてヒロイズムが交錯するこの大曲の持つ真価を目の当たりにさせてくれる快演。Argerich様とFreireが、この曲に真正面から体当たりし、2人で激しい火花を散らせております。評者にとって、初めて納得でき、そして感動したこの曲の演奏でした。

「悲愴協奏曲」は、実に不幸な曲です。大作曲家が書いた比較的有名な曲でありながら、これまで録音に恵まれてきませんでした。凡作が録音されないなら仕方ありません。しかしこの曲、2台ピヤノ曲としては名作に入る部類でしょう。演奏効果も抜群です。それなのに、何故か録音の絶対数が非常に少ないのです。摩訶不思議なことです。そして録音されたものも、ごく1部を除いて、納得できる出来のものがありませんでした。加えて、実演そのものの機会も非常に少ないのです。日本の舞台で取り上げられたのは、ここ5年間で(評者の記憶によれば)1〜2回、あったかなかったかです。

そんな状況の中で、Argerich様とFreireによる演奏が登場した、と聞いたとき、驚喜しましたね。そしてCDによる演奏は、期待を裏切らなかったどころではなく、心の底から感動しました。

この録音は1998年夏、サラトガ音楽祭(Music from Saratoga)のライヴ。98年のこの音楽祭では、Argerich様とその仲間が、比較的小規模なホールで室内楽の様々な演奏を行いました。この録音は、その一部を収録したものです。ライヴでありながら、ピヤノの音像が非常にクリアに捉えられており、微妙なタッチの変化も手に取るように把握できます。個々の音の粒立ちの良さに、驚かされます。

演奏そのものは、迫力満点。アンサンブルも完璧です。Argerich様とFreireによる「駆け引き」が実に面白い。正に2台ピヤノ演奏の妙味です。この曲は大きく分けて4つの部分、細かく分けると8つの部分で構成しますが、それぞれの部分に絶妙な表情の変化を与え、切れ目なしで18分超という大曲を、聴き手を飽きさせずに聴かせてくれます。そして演奏の背後にあるのは、Liszt特有のむせ返るような浪漫性。しかもそれがしつこくなく、実に爽快に響きます。ある意味で作品の持つ魅力を最大限に引き出し、作品の限界を突いた演奏と言えましょう。これ以上の演奏が出現するのはちょっと難しいのでは・・・と愚考する評者であります。それにしても、サラトガ音楽祭でこの演奏を生で聴いた人たちが羨ましい・・・。

「悲愴協奏曲」の楽譜は「G.Schirmer」から出ており現役。このCDも2002年2月19日現在で現役です。オンラインでは「cdnow.com」で入手できます。(2002年2月19日記)

曲目 G.Holst:組曲「惑星」(作曲者自身およびV.Lasker、N.Dayによる連弾版)
          その他Holstのピヤノ独奏曲を収録
演奏 York2 (Fiona and John York)
CD番号 black box BBM1041

このCDを入手するまで、この曲の連弾用編曲が存在するなど、まったく知りませんでした。先週取り上げた作曲者自身による2台用編曲は有名ですが、まさか連弾版まで存在するとは。しかも作曲者自身の手によるものです。恐らく多くの方が、連弾版の存在についてご存じないことでしょう。このCDの演奏は、この連弾版に資料的価値があるだけでなく、「隠れた連弾の名曲」であることを明らかにしてくれています。とても優れた演奏です。

この演奏を聴いていると、この連弾用編曲が2台用編曲と比較して、勝るとも劣らない編曲であることが手に取るように把握できます。ある意味で、管弦楽曲のピヤノ連弾用編曲の世界を極限まで追求した作品と言えるでしょう。演奏を聴く限り、取り立ててトランスクリプションのようなものは施しておりません。極めて素直な編曲です。それでいて演奏効果が十分に上がっているのです。楽譜を参照していないので確実なことは言えませんが、とても自然な連弾曲に仕上がっているのです。あたかも最初から連弾曲であったかのように、ピヤノという楽器、連弾という演奏形態を実に良く把握し、その演奏効果を最大限まで狙った編曲になっております。1台のピヤノでできることの限界をついております。これを耳にして、そのことに大変に驚かされました。と、同時に、こうした優れた「連弾・惑星」があることが、知られていない・・・そう、どの文献にも出てこないのです・・・ことが不思議に思えてしまうくらいです。

演奏は、終止歯切れの良いタッチで、聴き手をぐいぐいと惹き付けます。明るくやや硬い音質。粒立ちの良い音像。そして、表現の幅が非常に広い。もちろんアンサンブルは完璧です。聴いていて本当に楽しめる演奏です。曲中では2台版同様、「火星」と「木星」がダントツで面白いのですが、「水星」と「金星」をとてもチャーミングに弾いている点も魅力的。「土星」「天王星」「海王星」も、実に表情豊かに聴かせてくれています。そう、何より2人のピヤニストがこの曲を楽しんで弾いている(であろう)姿が伝わってくる、素敵な演奏です。

評者はこれを聴いて、何とか楽譜が入手できないか、と考えました。このCDをお聴きになった方の大半は、「自分でもやってみたい」とお考えになることでしょう。CD記載のデータによると、「F&B Goodwin」という出版社から出ているそうです。ところがこの出版社のことが全然分からないのです。この楽譜が現役かどうか、これを執筆している時点では確認できませんでした。本郷の某輸入楽譜店に行けば、何らかの手がかりが掴めるのかもしれませんが、このところ多忙で出向くことができません。何か新しい情報がありましたら、改めてご報告いたします。また読者の方で、この編曲/出版社に関して情報がおありでしたら、どうぞ評者までお寄せ下さい。CDは2002年2月12日現在、現役。オンラインですと「amazon.com」で入手可能です。

とにかく、埋もれさせておくには非常に惜しい編曲です。このCDもできるだけ多くの方に聴いて頂きたいですね。(2002年2月12日記)

曲目 G.Holst:組曲「惑星」(作曲者自身による2台ピヤノ版)
演奏 Richard Rodney Bennett & Susan Bradshaw
CD番号 Delos FACET 8002

堂々としていながら、とてもピヤニスティックで細部まで配慮が行き届いた「2台版・惑星」の演奏。単なる資料的価値を超え、このオーケストレーション前に完成された版を、とても面白く聴くことができるCDです。確かにピヤノ向きでない曲もありますが、それはそれでご愛敬。全曲を通して聴くと、管弦楽とはまた違った、この曲の魅力に触れることができるでしょう。

この演奏だったかどうか忘れましたが、2台版の惑星が日本で初めてLPで出たとき、それに対するいくつかの批評は散々なものでした。いずれも演奏そのものには触れず、2台版の存在そのものを否定するようなものばかりでした。曰く「管弦楽に比べて、色彩感に欠ける」「管弦楽に比べて、迫力も遠近感もない」「管弦楽に比べ、平板で物足りない」・・・・。結論は総じて「こんなもの、聴く価値なし」。

これには頭に来ましたね。演奏が悪いのなら、それなりの批評をすれば良いでしょう。しかし演奏に言及せず、管弦楽と比べて云々・・・というのは、批評として失格です。そもそも管弦楽と2台ピヤノでは、まったく別ジャンルの音楽なのですから。それを単純に比較するなどナンセンス。そして、それらの批評から透けて見えたのは、批評家連中が管弦楽の2台ピヤノ用編曲に対して「低次元のもの」という固定観念を持って接している、ということでした。管弦楽曲のピヤノ連弾用編曲に対しても同様です。この曲だけでなく、管弦楽曲のピヤノ・デュオ編曲に対する批評は、それは酷いものがありました。いずれも演奏そのものに、きちんと触れていないのです。頭に来ると同時に、こうした批評家の態度には、非常に悲しいものを覚えました。最近はどうなのでしょうね? ピヤノ曲に限らず、雑誌による日本の録音批評があまりにも貧弱で低次元だったもので、ここ10年以上、そうした批評を読んでいないのため、現在の批評状況は把握しかねますが。

閑話休題。「惑星」の2台ピヤノ用楽譜を入手したのは、かなり前。自分で弾ける所だけ、ちょこちょこ弾いていたのですが、どうも全貌が分かりません。楽譜を参照して、一応、頭の中では「こんな
ふうになるだろう」と、鳴ってはいたのですが。このCDを入手して、やっと2台版が、どのような「音」になるのかが完全に把握できました。予想した以上に面白いですね。非常にピヤニスティックで、とても楽しめます。加えて、楽曲の構造がかなり生のまま出ている編曲ですので、これを把握するのにはもってこい。

とりわけ楽しめるのが「火星」と「木星」。「火星」、かなり迫力がありますよ。2台ピヤノで、こんなに面白く聴けるとは思いませんでした。「木星」は実にピヤニスティック。あの有名な変ホ長調の旋律は、素朴に、かつ堂々と響きます。やろうと思えば「ド演歌調」に歌えるこの旋律ですが、この演奏はかなりすっきりと弾いています。その他の曲も、楽しく聴ける演奏ですよ。この演奏を聴いて、ご自身でもやりたくなる演奏者の方も多いのではないでしょうか。是非、多くの方に聴いて頂きたい演奏です。

楽譜はJ.Curwen & Sonsから出ており現役。以前はFaber Musicからも出ていたようです。このCDは2002年2月4日時点で現役。オンラインでは「amazon.com」で入手できます。なお、2台版惑星は、この演奏以外にも現在複数種の録音がある模様です。
(2002年2月4日記)

曲目 Felix Mendelssohn Bartholdy
          ピヤノ三重奏曲 Op.66(連弾版:作曲者自編?)
          アンダンテと変奏曲 変ロ長調 Op.83a
          アンダンテと華麗なアレグロ Op.92
    Fanny Mendelssohn Hensel
          ピヤノ連弾のための3つの小品
演奏 Yaara Tal & Andreas Groethuysen
CD番号 SONY SK48494

流麗でありながら立ち上がりの鋭いタッチで、強烈な推進力を宿した、それは素敵なMendelssohnです。この作曲家の持つ「甘さ」を必要最小限に押さえた湿り気のない爽やかな演奏。それでいて、適度の浪漫性を含んだ、バランスのとれた演奏です。・・・と書くと、何となく「教科書模範的」な演奏であることを想像させられますが、さにあらず。このデュオならではの個性と生命力があふれています。

Mendelssohnといっても、このCDではFelix Mendelssohn Bartholdy(有名な方ですね)と、その姉のFanny Mendelssohn Henselの作品を収録しています。CDを連続して聴くと、Fannyの作品は、ここでは補遺的存在ですね。

このCDの特筆すべき点は、「華麗なアレグロ」の原典版を収録していること。すなわち、これまで作品92として世に出ていた「華麗なアレグロ」に加えて、Felix Mendelssohn Bartholdyが最初にこの曲を書いたときに存在した、アレグロの前に演奏されるアンダンテを含んでいることです。ですからこのCDに収録された曲名を正確に言うと「アンダンテとアレグロ・アッサイ・ヴィヴァーチェ」になります。

この「アレグロ」の部分は著名な連弾曲であるばかりでなく、松永晴紀先生の言葉を拝借すると「連弾曲中、最難曲のひとつ」であります。Tal & Groethouysenは、アレグロの部分を題名通り、実に華麗で鮮やかに弾ききっております。これはこれで最上級の演奏なのですが、聴き物は「アンダンテ」。何故、この部分が切り捨てられて出版されてきたのかに大きな疑問を抱かせるような、それは素敵な曲。前期ロマン派の持つ浪漫性を極限まで追求した音楽。同じ作曲家の「無言歌」の一節を聴くような雰囲気です。

CDの解説によれば「アンダンテ」の録音は、これが初めてとのこと。それをこのデュオは、流れるようなフレーズ作りで聴かせてくれています。この録音を聴くと、「せっかくこの曲を演奏するのだったら、アンダンテから通しで弾きたいね」と思われる演奏家も少なくないことでしょう。評者もこのCDを手に取るまでは、「華麗なアレグロ」の前に、こんな素敵な「アンダンテ」がついていたなんて、存じ上げませんでした。実に勿体ないことです。この「アンダンテ」、もっともっと知られても良いですね。

ちなみに、この「アンダンテ」を含む作品92の全曲は、ちゃんと現役で楽譜が出ているのですね。G.Henle VerlagのUrtext-Editionから「Mendelssohn Bartholdy:Werke fur Klavier zu vier Handen」の名称で出ている楽譜に収録されております。さあ、「アレグロ」を舞台に乗せようとされていらっしゃる演奏家の方、そして腕に自信があってチャレンジ精神旺盛な方、是非とも手がけてみてはいかがでしょうか?

CDで同時に収録している「ピヤノ三重奏曲作品66」(連弾版)や、「アンダンテと変奏曲作品83a」も、実に立派な演奏で、聴いていてとても楽しめます。

 Fanny Mendelssohnの「ピヤノ連弾のための3つの小品」は、演奏は素晴らしいのですがFelix作品に比べると、一段落ちますね。あくまで、ここでは「オマケ」です。もっとも、詳細をもってなるCameron McGrawの「Piano Duet Repertoire」や「The New Grove」にも一切の記述がないので「秘曲」と言えば秘曲なのですが・・・。

「ピヤノ三重奏曲」(連弾版)の楽譜は、かつてBreitkopf & Hartelから出ていましたが、現在では絶版。「アンダンテと変奏曲」は、前出「Mendelssohn Bartholdy:Werke fur Klavier zu vier Handen」に収録されているほか、C.F.PetersやInternationalからも出ており、容易に入手可能です。Fannyの作品に関しては、出版社不明。ご存じの方がいらっしゃいましたらご一報下さい。

CDは2002年1月28日時点で現役。オンラインでは「amazon.de」で入手できます。
(2002年1月28日記)

曲目 J.Brahms:ハイドンの主題による変奏曲 Op.56b
          2台のピヤノのためのソナタ ヘ短調 Op.34b
          5つのワルツ集(Op.39から)
演奏 Martha Argerich & Alexandre Rabinovitch
CD番号 TELDEC 4509-92257-2

実に爽快なBrahms! スピード感、叙情性、陰影、構築性、アンサンブル・・・どれをとっても抜群な、4拍子も5拍子も揃ったBrahms演奏を収めた1枚です。大曲をグイグイを弾き進め、聴衆を引っ張っていく力は、並大抵のものではありません。もっとも、演奏には好き嫌いがありまして、こうしたシャープなBrahmsをお認めにならない方もいらっしゃるかも知れません。そうした例えば「重厚だけが取り柄のBrahms」をお好みの方は、このCDを聴くのを止めましょう。しかしそうした方でも、ひょっとしたらこの演奏で、Brahmsのピヤノ・デュオに対する認識が変わるかも知れませんね。

まず驚かされるのが、「ハイドンの主題による変奏曲」。この主題の提示部を実にさり気なく、しかもかなり速いテンポで弾いています。この主題の「弾き方」が全曲を構築する雰囲気を暗示しているのです。全体に早めのテンポでありながら、思わぬところで、時に大きく、時にさり気なくテンポを揺らし、曲に素敵な明暗をつけております。

ただしタッチは一貫して硬めで明瞭。この硬質で終止明瞭なアクセントづけが、演奏全体を支配し、この曲にスピード感---しかも安定して前のめりにならない---を与えていると言えましょう。一般的な演奏ですと叙情性たっぷりに歌われる第7変奏が、非常にさり気なく早めのテンポで弾かれているのには、違和感を覚えられる向きもあるかもしれません。しかし何度も繰り返し聴いているうちに「洗脳」され、今では「こうでなければならない」と、他の演奏が何とも間延びして聞こえるまでになりました。そしてフィナーレの素晴らしい構築性。小さな基礎から巨大な建築物が出来上がっていくのを見ているような印象さえ与えてくれます。

続く「2台のピヤノのためのソナタ」。正直言って、評者はこの演奏を聴くまで、何とも退屈で五月蠅い曲だ、という印象しか持ちませんでした。とにかく聴いていると、途中で飽きてしまうのですね。「飽きる」と言うよりかは「草臥れてしまう」といった方が適切かも知れません(この曲が好きな方、ごめんなさい)。それがこの演奏、聴いて吃驚。最初から最後まで、聴き手の心を掴んで離しません。最後まで強烈な推進力でもって、一気に聴き通させてしまうのです。ちなみにこの曲、このデュオの実演で聴きましたが、CDの演奏を凌駕する素晴らしい出来でした。「Brahmsの2台ピヤノ・ソナタ、ちょっと苦手だな」とお考えの方に、是非とも聴いて頂きたい1枚です。

最後の「ワルツ集」は、ご愛敬。元々は連弾のための16曲の曲集ですが、ここから、第1、2、11、15番を2台ピヤノ用に書き直したものです。11番(4曲目)と15番(5曲目)は、原曲と調が異なります。4曲目は原調がイ短調で、2台版が嬰ト短調、5曲目はイ長調を変イ長調にしています。

ご愛敬とは言え、最後まで引き締まった演奏です。大曲が続いた後の、それは素敵なアンコール。もちろんこの曲だけ個別に聴いても大変に楽しめます。大きなテンポの揺れと清純な叙情性に溢れた演奏です。こんなふうに爽やかな演奏ができたら、どんなに素敵だろう・・・と愚考する評者であります。

各曲の楽譜については、あちこちから出版されているため紹介は省略します。CDは2002年1月21日時点で現役。オンラインですと「amazon.com」などで入手できます。(2002年1月21日記)

曲目 A.Vivaldi:四季 A.T.Sabanによる2台ピヤノ用編曲
    G.Nottebohm:バッハの主題による変奏曲 Op.17(連弾のための)
演奏 Ferhan & Ferzan Onder
CD番号 EMI 7243 5 57244 2 7

Vivaldi「四季」の2台ピヤノによる演奏が出た---そう聞いて、早速取り寄せた評者です。編曲そのものは2台用として「平均点」なのですが、何せ演奏が素晴らしい! 実に歯切れ良く、リズム感も抜群です。録音の状態が非常に良好なせいもあるのでしょうが、透明感のある明るいタッチ。明るいだけでなく、明暗がとてもくっきり示された演奏です。もちろんアンサンブルは抜群に良好。素敵なCDが現れたものです。

演奏しているのは、トルコ出身の若い双子姉妹のデュオ。恐らくこれがCDデビュー(間違っていたらご免なさい)になると推測されるのですが、これから先、なかなか期待できるデュオ演奏家です。

演奏そのものは、一般に聴かれる原曲よりも、やや早めのテンポ。それでいてまったく荒さを感じさせません。ここで示されているのは、心地よいスピード感です。現代のフルコンサート・グランドの能力と、それを2台合わせた効果を最大限に発揮した、実にモダンなVivaldi。聴衆に媚びたところがまったくない爽やかな演奏ですが、曲のそこここに「健康な色気」が感じられます。聴き手を飽きさせず、全曲を一気に聴かせてしまうところなど、なかなかのもの。ちなみに演奏に使われた楽譜は未出版の模様です。

加えてこのCDでは、Gustav Nottebohmというマイナー作曲家の書いた連弾のための作品「J.S.Bachの主題による変奏曲」というのを収録しております。作品そのものは、ありきたりの変奏曲。それを実に表情豊か、かつ重厚に演奏しております。アンサンブルやタッチは、Vivaldi同様に完璧。9つの変奏をそれは鮮やかに表情を変えながら弾ききっています。なおこの曲の楽譜はBreitkopf & Hartelから出版されていましたが、現在では絶版です。

このCD、2002年1月14日時点で現役。オンラインでは「amazon.de」で購入できます。
(2002年1月14日記)

曲目 (1) M.Ravel:マ・メール・ロア
    (2) G.Bizet:子供の遊び Op.22
    (3) G.Faure:ドリー Op.56
    (4) A.Messager:3つのワルツ
    (5) G.Auric:5つのバガテル
    (6) F.Poulenc:連弾のためのソナタ
    (7) D.Milhaud:子供たち
演奏 Patrick & Taeko Crommelynch
CD番号 Claces CD 50-9214

フランス連弾曲の魅力をたっぷりと味わえる1枚。決して派手ではありませんが、連弾特有の「愉悦」に満ちた演奏です。個々の曲で見ると、これより優れた演奏や面白い演奏はいくつかあります。しかし、1枚のCDを通じてこれだけ高度な演奏をまとめて聴くことができる点で、非常に高く評価できる1枚です。

あくの強さこそありませんが、どれも高度に完成させられた演奏です。かといって単なる「模範的」あるいは「教科書的」な演奏ではありません。どの曲から聴きだしても、このデュオ特有の愉悦感溢れる演奏が楽しめます。

あえてこの演奏の特徴を示すならば、連弾特有の「暖かさ」に「上品なアクセント」を加えて、どの曲も楽しく幸せな気分で聴けるように工夫されている、と言えましょう。良い意味で、「連弾演奏のお手本」と言える1枚です。

しかも、滅多に聴くことができない、Messagerの「3つのワルツ」やMilhaudの「子供たち」が収録されている点でも、高く評価できましょう。

いずれの曲も、実に息の合った、素敵な演奏です。評者自身、「こんなふうに弾けたらいいな」と感じました。非常にエレガントでもあります。聴いて楽しく、参考にもなり、耳に心地よく響きます。

楽譜ですが、(1)〜(3)は、あちこちから出ているので省略。(4)は、どの文献やデータベースを見ても、ついにどこから出ているか分かりませんでした。ご存じの方、ご一報下さい。(5)はHeugelから、(6)はChesterから、(7)はEschigから出ており、いずれも現役です。

このCDは、2001年12月31日時点で現役。「Claves」のWebサイトで発注ができます。クレジットカード番号を伝えるためにファクシミリを併用することが必須となります。サイトの注意書きを良くお読みになって発注して下さい。(2001年12月31日記)

曲目 J.S.Bach : ブランデンブルク協奏曲(連弾版:M.Reger編曲)
演奏  Sontraud Speidel & Evelinde Trenkner
CD番号 Musikproduktion Dabringhaus und Grimm MDG 330 0653-2 MDG 330 0635-2

この曲の楽譜を最初に見て、そして弾いてみたとき、まさかこんな編曲をCDにして下さる方など、いらっしゃらないだろう・・・との感想を持ちました。何百曲もの連弾楽譜を見ているわたくしたちですが、これほど壮麗でかつ弾きにくい編曲は、そうそう見当たるものではありませんでしたから。「恐怖のReger編曲:連弾ブランデンブルク協奏曲」。

この恐ろしい編曲のCDが出たとき、一瞬信じられませんでした。そして演奏を聴いて2度びっくり。この超難曲・・・「難曲」には、様々な意味がありますが、ここでは所謂「ヴィルトーソ的難曲」を指しているのではありません。あくまでも「技術的に弾きにくい曲」の意味です(この違い、お分かりいただけますでしょうか?)・・・を、いとも楽々と、しかも曲の魅力を存分に伝える鮮やかな演奏に展開していたからです。本当に驚きました。

このCD、聴いている分には、「素敵なバッハ」としてしか耳に残らないでしょう。そして「どこがそんなに難しいの?」と思われる方も多いことでしょう。それほど、SpeidelとTremknerの2人は、この難曲を易しい曲でも聴かせるように、いとも楽々と弾ききっているのです。演奏からは、この曲の備える難曲度がまったく感じられません。聴き手の耳に、心地よく響くくらい、爽快で楽しい演奏です。しかも、ちっとも厳めしくない。表現の幅の大きな、表情の変化に富んだ素晴らしい演奏が、このCDから聞こえてきます。

しかし、その裏にある楽譜の難しさと言ったら。天下一品です。ちょっとでもご興味のある方、楽譜店の店頭で結構です。ちょっと眺めてみては如何でしょうか? このCDの演奏とは裏腹の、真っ黒けの譜面が目に飛び込んで来るはずです。J.S.Bachの連弾用編曲に興味をお持ちの方、あるいは連弾の難曲に挑戦してみたい方、是非ともこのCDを聴いて頂きたいです。そして、楽譜にも目を通して頂きたいですね。

何はともあれ、このCD、恐ろしい編曲に新たな光を与え、世に紹介した点で、非常に評価できると言えましょう。

この曲の楽譜は、C.F.Peters、International、Kalmus、そして「貧者の味方Dover」から出ていて現役です。楽譜の内容は3つとも同じです。PetersとInternational、Kalmusは、上下2巻に分かれています。Doverは6曲が1冊に収められていており、圧倒的にお得です。Doverの楽譜はPeters版の完全レプリント。お得ですが、ちょっと開きにくい製本が難点です。でも安いですから、その点は我慢いたしましょう。

CDは2001年12月25日時点で現役。オンラインでは「Amazon.de」で入手できます。
(2001年12月25日記)

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