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曲目 W.A.Mozart: 2台のピヤノのためのソナタ Kv.448
    S.V.Rachmaninoff: 前奏曲 Op.3-2(作曲者自編の2台版)
                 6つの小品 Op.11
                 イタリアン・ポルカ
                 ワルツ(6手連弾)
                 ロマンス(6手連弾)
演奏 Anna & Ines Walachowski (6手のみAlfons Kontarskyが参加)
CD番号 Berlin Classics 00173328C

このCD、あの現代音楽の名手・Alfons Kontarskyが、何とRachmaninoffの6手演奏に参加している…というので大変に興味を惹かれ入手したものです。このRachmaninoffも面白かったのですが、同時に収録されている(というか、こちらがメインです)Mozartの「2台のピヤノのためのソナタ Kv.448」がとても秀逸な演奏でした。

非常に透明感とスピード感がある爽やかなMozart。非常に線の細い演奏…というと弱々しいように感じられてしまいますが、その逆。鋭利な刃物でスパッと斬りつけたような演奏です。ひとつひとつの音が大変にクリア。全体の印象を例えれば、ガラスの彫刻といった具合でしょうか。爽やかさを通り越して、冷たい表情すら見せます。それでいて一本調子にならず、表情の変化も豊か。所々で、ふわりと柔らかい微妙な表情を見せるのも魅力。そして、2台のピヤノのお喋りがとても楽しい。これは良い演奏を見つけたものです。

Anna & Ines Walachowski、女性デュオですが、一般の女性デュオ、いや、従来型のMozartのように「お優しいところ」や「ほんのり楽しい雰囲気」は、ほとんど感じられません。もう、作品を一刀両断です。まるで20世紀後半のピヤノ・デュオ曲にでも接するような雰囲気。ですから「ほんのり楽しい旧態依然のMozart」をお求めの方には向きません。場合によっては拒絶反応を起こしてしまう方もいらっしゃるかも知れません。それほどまでに良い意味で現代感覚に溢れたMozartなのです。

評者としては、ある意味でこの曲を完璧に表現したGuher & Suher Pekinelバックナンバー Vol.2で紹介)や、脳天直撃物のArgerich & Rabinovitch(同 Vol.7)の演奏がベストだと思っているのですが、この新しい録音もなかなか聴き応えがあります。評者、このような演奏も大変に評価できました。

さて、Rachmaninoffですが、演奏の傾向はMozartと同じ。濃厚なロシヤの香りは、ほとんど感じられません。確かに素晴らしいダイナミクスと作品の構築力があるのですが、これほど線の細いRachmaninoffも珍しいでしょう。このRachmaninoffも「鋭利な刃物でバッサリ系」です。よく女性奏者のRachmaninoffは叙情性が特徴…と言われることがありますが、この演奏にはそうした点は、まったくといっていいほど感じられません。ここまでRachmaninoffを冷徹にやるかな…といった印象です。2台版の「前奏曲 Op.3-2」の強烈なフォルテシモでさえ、聴き手を一気に突き放すような一撃を与える表現です。評者にとってはその冷徹感が何とも心地よかったのですが。ただ、やはり表情の付け方は大変に面白く、聴き手を飽きさせることはありません。そして、どれも大変にスケールの大きな演奏。

このCDを購入したきっかけとなったKontarskyとの6手連弾ですが、これが恐ろしくあっさりしています。これまで耳にした演奏ですと、ワルツにしてもロマンスにしても抒情たっぷりのものがほとんどでした。はっきりいって、この演奏からはそうしたものは一切感じられません。ひたすら冷徹に6手連弾を遂行しています。ここまでくると「ああ、こうした演奏もあるのだ」と、はっとさせられます。

これらの演奏Mozartと同様に、従来型Rachmaninoffをお好きな方には向かないでしょう。逆に、新しい演奏、新しい表現を求めていらっしゃる方には、是非とも耳にしていただきたいRachmaninoffです。

MozartにしてもRachmaninoffにしても、ある意味で「伝統破壊型」と言って良いかも知れません。その点では、大変に興味深い、お薦めの1枚です。

演奏している曲の楽譜は、あちこちから出ているので記述は省略します。このCDは2004年6月15日時点で現役。オンラインですと「amazon.de」で購入できます。ずばり「これ」です。
(2004年6月15日記)

CDタイトル: Koechlin The Music for 2 Pianists
曲目 C.Koechlin: 連弾のための組曲 Op.19
             デイジー・ハミルトンの肖像 Op.140(R.Orledigによる2台用編曲)
             連弾のための4つのソナチネ op.60
             ジンジャーのためのダンス op.163(O.Niesによる2台用編曲)
             2台のピヤノのための組曲 op.6
演奏 Yaara Tal & Andreas Groethuysen
CD番号 SONY SMK 89618

今回のお題は、Koechlinです。Koechlin、名前は良く聞きますが、作品をまとめてしっかり聴いたのは、このCDが初めてです。とても親しみやすいので、ちょっとびっくりしました。

Koechlinと言えば、作曲だけでなく理論家としても知られていますね。対位法や和声の教科書も書いています。一部は国内で邦訳が出ていたので、ご覧になられた方もいらっしゃるのではないでしょうか。残念ながら今は絶版で邦訳の入手は困難ですが。

そのKoechlin、作曲面ではFaureの直系の弟子になります。作品を聴くと、当然Faureの影響は感じられるのですが、和声進行にしても構造にしても、もっとがっちりとした印象を受けました。曲によってはFaureより親しみやすいものもあるのではないでしょうか。

聴いていて「ほっと」したのは、初期の2曲。「2台ピヤノのための組曲」と「連弾のための組曲」。前者は1896年、後者は1901年の完成です。時期的なものもあるのでしょうけれど、聴いていて耳に心地よいです。Faureよりも、ずっと古典的な和声を使っています。そしてとても浪漫的。それにデュオとしての完成度も非常に高い。とりわけ「2台ピヤノ…」での対話は絶妙です。これは「是非、弾いてみたい」と思われる方、多いでしょう。しかし残念ながら、楽譜は絶版。出版元も分かりませんでした。

このCDには1919年に作曲した「連弾のための4つのソナチネ」という曲が収録されています。それぞれ3〜5楽章で構成するソナチネなのですが、古典的形式をがっちり踏まえながら、浪漫的な旋律と和声が展開されます。曲の印象は全然違いますが、位置づけ的にには、Ravelの「ソナチネ」に近いような感じを持ちました。

その他の曲も、とっても親しみやすい。何故これらの作品が「なかなか聴かれたり弾かれたりする存在」でないのか、かなり疑問を感じます。ピヤノ・デュオ関連の楽譜は、ことごとく絶版ですし。日本国内の図書館でも見当たりません。

古い作品ですと、「さあ、みんなで楽譜を掘り出して、PDFにしてネットでばらまきましょう!」ということになるのですが、Koechlinの作品の著作権は、これを執筆時点では、まだ“生きて”います。そうした呼びかけもできないのが、残念です。

閑話休題。こうしたKoechlinの曲を、素晴らしい語り口で演奏しているのが、Yaara Tal & Andreas Groethuysen。現在、常設のデュオとしては世界の最先端を行っている2人です。この2人にかかると、曲が魔法のように生き生きするのです。このCDでも、相変わらず冴えきった演奏を聴かせてくれます。このデュオ、こうした音楽史、あるいは演奏史の中で埋もれかかった(あるいは埋もれてしまった)作品でも、彼らが「いいよ!」と思う曲に命を吹き込んで蘇らせるのです。このCDでも、そうした彼らの意欲的な素晴らしさが存分に発揮されています。

それに、このCDでは“特異”なことが。Tal & Groethuysenは、連弾のチームです。これまで出してきたCD、そして演奏は、評者が知る限り1台4手に限られていました。それが、このCDでは2台4手に挑んでいます。1台4手と2台4手は、まったく異なる演奏形態。どちらかでうまく行っても、もう片方で成功するとは限りません。

ところが、このチームはどうでしょう。1台4手はもとより、2台4手でも、非常に緊密感のある完成度の高い演奏を聴かせてくれています。これには感服。やはり“出来る人”は違いますね。

先ほども申し上げたように、楽譜は全て絶版。入手は極めて困難です。中古市場でも見たことはありません。

CDは現役。オンラインですと「amazon.de」(紹介するサイトは、こちらが多いのですが、ピヤノ・デュオのCDの品揃えがいちばん凄いのがここなので、どうしてもこちらになってしまいます)で取り扱っています。ずばり「これ」です。

このすてきなCD、たくさんの方に聴いて頂きたいですね。(2004年6月8日記)

CDタイトル: Russian & Armenian Music For 2 pianos
曲目 A.Khachaturian: スパルタクスから(4曲)
                ガイーヌから(6曲)
                3つの舞曲
    A.Tcherepnin: 2台のピヤノのための幻想曲
    A.Arutjunjan+A.Babadschanjan: アルメニア狂詩曲
演奏 Rolf Plagge & Wolfgang Manz
CD番号 Sojuz SOCD0003

大変に鋭く、そして説得力のある演奏です。2台のピヤノが、それは面白く会話をしています。時に豪快に、時に繊細に。ある意味で2台ピヤノ音楽の楽しさを存分に伝えている録音と言えましょう。個々の奏者のテクニックも冴えていますし、アンサンブルも高度な水準です。それに選曲も良いし…。

とても素敵なCDだったので、すぐにも紹介したいと考えたのですが、これがアウト。CDの解説は十分ではなく、また曲も(というより編曲に関しても)分からないことが多すぎて、こちらで紹介するのは如何なものか…と思ったからです。

このところ、折あるごとに、このCDに収録された曲について調べていましたが、既知のことしか情報が集められませんでした。そうした状態で紹介するのはどうかとも思ったのですが、折角よい演奏なので、情報不足のご批判を覚悟で、あえて取り上げてみました。

ここに収録されているのは、いずれも旧ソヴィエト連邦(今となっては懐かしい響きですね「ソ連」。お若い方には今ひとつ、ピンとこないかも知れません。それから「鉄のカーテン」という言葉も)、あるいはソ連から亡命した音楽家の作った作品ばかりを集めています。

5つの作品を収録していますが、2台ピヤノのオリジナル(またはそれと推測されるもの)は、2つ。他は管弦楽からの編曲物です。オリジナル(またはそれと推測されるもの)は、Arutjunjan+Babadschanjan「アルメニア狂詩曲」、そしてKhachaturian「3つの舞曲」。一方、編曲物はKhachaturian「スパルタクス」から、「ガイーヌ」から、それとTcherepnin「幻想曲」です。

アルメニア狂詩曲全音楽譜出版社から楽譜が出ているため、日本でもよく演奏される曲です。このCDでの演奏、どちらかというと民族色を排しており、ピヤニスティックな面を強調しています。確かに旋律は綺麗に歌うのですが、アルメニヤの香りは微かです。それよりも素晴らしく切れ味の良いタッチと絶妙のアンサンブルが魅力的。実はこのCDの演奏、すべてがこの傾向なのです。土臭さはほとんど感じられません。都会的で、きびきびした動きに満ちあふれています。これについては賛否両論があることでしょう。評者は、大変に好ましく、この演奏を聴いた次第です。

同じく現在一般にはオリジナルとされている(これについては諸説あります)Khachaturianの3つの舞曲も爽やかな演奏。これもChant du mondeから楽譜が出ており比較的容易に入手できるので演奏される機会も多い曲です。この演奏は、かなり「さっぱり」としていて、爽やか感があります。

ここまでは、何とか分かったのですが、他の情報がどうにも入手できませんでした。評者が初めて聴いたTcherepninの幻想曲は、ロシヤ的味わいと東洋、特に中国の香りが絶妙に混ざった、それはピヤニスティックな作品。CDの解説によれば、1947年に作曲した管弦楽曲「中国の民族的旋律による幻想曲」を作曲者自身が2台ピヤノに編曲したものだそうです。手持ちの文献を総動員した上に「google」でも調べてみましたが、それ以上のことはまったく分かりませんでした。2台ピヤノに加えて、若干の打楽器も加わるとても素敵な作品。演奏も生き生きしていて、とても優れています。ところが、出版社も分からず、若干加わった打楽器に関する記載がどこにもないので、これ以上は言及できません。

やはり編曲物でKhachaturianのガイーヌとスパルタクス。大変に優れた編曲で、2台ピヤノという演奏形態を最大限に生かしています。もちろん演奏も素晴らしい! しかし、誰の編曲なのか、どこから出版されているものなのかは全く分かりませんでした。これだけ立派な編曲と演奏です。せめてCDの解説でそのあたりのことを示してくれたらば…と残念に思った次第です。これでは、この素敵なCDを聴いて「弾きたい」と思っても、手がかりすらないのでアウトです。そうした意味で、このCDの解説書は大変に不十分であり、邪悪系とまでも言えましょう。演奏が素晴らしいだけに、CD全体の作りとしてはお粗末極まりなく残念です。

この演奏は素晴らしいけど、付属品が邪悪なCD、現役です。オンラインですと「amazon.de」で購入できます。「これ」です。せめて編曲物であれば、編曲者を明示してあれば、と本当に残念に思います。(2004年5月24日記)

【訂正】 昨日これを書いた時点まで、CDのタイトルを「Russian & Americam…」だとばかり思いこんでいました。正しくは「Russian & Armenian…」です。訂正してお詫び致します。ご指摘下さいました読者の「斉諧生」さんに感謝いたします。(2004年5月25日記)

曲目 A.Bax: 2台のピヤノのためのソナタ
          赤い秋
          ハーダンジャー
          毒を入れられた泉
          聖アントニーを誘惑した悪魔
          メイ・モル
演奏 Jeremy Brown & Seta Tanyel
CD番号 Chandos CHAN 8603

ある意味で、とても“渋い”曲を集めたCD。あえて“渋い”と言いましたが、ちょっと当たっていない面もあるでしょう。別の表現をすれば、晩秋から初冬にかけての欧州・・・それも英国あたりがいいですね・・・夕闇が迫るときの「ひやり」とした空気を浴びたような曲と言えるでしょう。そして深い心の襞が表れています。本当に独特のピヤノ・デュオですね。

ここに集められたのは、すべてオリジナルの2台ピヤノ曲。もちろん曲ごとに表情は異なりますが、いずれも上記の印象が当てはまる曲たちです。どれも最初は取っつきにくいのですが・・・Baxの曲は大抵そうです・・・一度填ると、この味わいから抜け出ることは難しいです。清楚で控えめで、ちょっと冷たそうで、芯の強さがあって・・・人に例えるとこんなふうになるかも知れません。そしてどの曲も大変にピヤニスティック。非常に優れた2台ピヤノ曲です。掛け合いもあれば、融合もある。実に興味深い曲たちでしょう。

ただ、曲が曲だけに、ただ上手な平凡な演奏では、ちょっと聴いていられません。しかしJeremy BrownとSeta Tanyelの演奏が大変に素晴らしく、曲の持つ魅力を存分に引き出しています。Baxのピヤノ曲の演奏ですと、デュオではありませんがMargaret Fingerhutによる繊細さと優しさ、そして鋭敏さを兼ね備えた演奏が印象に残っている方もいらっしゃるかも知れません(注:ピヤノと管弦楽のための「冬の伝説」、同「交響的変奏曲」の録音)。録音の違いがあるのかも知れませんが、このデュオのCDでは、もう少し線が太くて堅めのがっちりした音色が聞こえてきます。

「取っつきにくい」と書きましたが、この中では「メイ・モル」がとても浪漫的で、比較的受け入れられ易いかも知れません。また「毒を入れられた泉」は、松永晴紀先生が「ピアノ・デュオ作品事典(増補・改訂版)」の中でご指摘されていらっしゃるように、完全に印象派的な作風です。

最もBaxしているのは、やはり「2台のピヤノのためのソナタ」でしょう。これは交響曲第3番と「冬の伝説」を作曲する間に書かれた作品なのですが、聴いた限り「冬の伝説」の小型版のような感じです。もっとも「冬の伝説」ほど強烈なケルト趣味は出ていませんが。これは素晴らしい2台ピヤノ・ソナタですよ。2台ピヤノのリサイタルで陰影を付けたり、ちょっと変化に富んだ曲作りをする際には有用かも知れません。とても魅力的な曲ですよ。「赤い秋」は、タイトルそのものの印象の曲です。タイトルを伏せて、この曲を御存知ない方に聴かせて「さて、どんな季節を表していると思いますか?」と聞いたら、10人中9人までが、まず「秋」と答えることでしょう。

さて、楽譜。残念ながら現在入手が容易なのは浪漫的な「メイ・モル」のみ。これはChesterから出ており、オンラインでは「sheetmusicplus.com」で入手できます。ずばり「これ」。その他は絶版のようです。ちなみにその他はすべてChappellから出ていました。図書館か中古市場を丹念に見れば、入手できる可能性もあります。

CDはChandosのカタログからは消えていますが、ドイツ国内に在庫があるらしく「amazon.de」で入手可能。「これ」です。(2004年5月17日記)

曲目 J.McGuire: 48の変奏曲
演奏 Hergert Henck & Deborah Richards
CD番号 Largo 5108

このCDをご紹介しようかどうか、ずいぶん迷いました。大変に興味深い曲で、ある種の趣味の方には、もってこいのCDなのですが、万人向きではないからです。でも、これまでも独断と偏見で「万人向きではないCD」をこちらで紹介してきました。ですから、この録音も、「こんな面白い物があるよ」という意味でご紹介します。

では、どんな方にお薦めなのでしょう? ずばり「ミニマル・ミュージック」です。しかも、かなり調性的で、全然現代音楽していません。ある意味で、静かに流れているには心地よい響きかも知れません。演奏も大変に素晴らしく、ある種の「恍惚感」を抱かせます。ただ、それが万人向きかどうかは疑問なところです。

曲は48の変奏で構成しています。変奏なのに「主題」がありません。いきなり第1変奏から始まります。何だか、夕焼けの海を見ているような幻想的な第1変奏。そこから徐々に音型と音域を変えての変奏が始まります。

「変奏曲」といっても、古典派やロマン派のそれを想像していると、完全に裏切られます。変奏が繰り返されるごとに、微妙に、少しづつ曲想が変わって行って。その微妙な変化を、延々56分に渡ってしっかりと展開している、演奏者のHergert HenckとDeborah Richardsは、なかなかのスグレモノのピヤノデュオです。両方とも現代音楽を得意としているようですが、その良さが十分に出た演奏でしょう。ちなみにこの曲は、この2人からの依頼によって書かれています。

聴いていて、どんな効果があるかって? まずは瞑想的な雰囲気に浸れることでしょう。ただ、ぼーっと聴いていれば、の話ですが。以前(連弾庵ができる前)、1人暮らしをしていた評者のところに、部下のM君が泊まりにきました。たまたま「最近入手したCDだよ」と言ってM君に聴かせたところ、大変に気に入って、このCDを持ち帰りました。このM君、眠る前にコーランを聴くなどちょっと変わった趣味の持ち主です(別にイスラム教徒というわけではありません。単に好きなだけです)。こうした趣味の方には、ぴったりかも知れませんね。そうでない方には、はっきり言って苦痛かも知れません。賛否両論はあるでしょうけれど、「こんなユニークなピヤノ・デュオもあるんだよ」という意味では、ちょっと聴いてみるには良いかも知れません。

楽譜ですが、ちゃんと現役で出ています。Breitkopf & Hartelから。スコア形式で1冊36ユーロです。ただ、このCDを聴いてみると分かるのですが、聴くのはともかく、弾くのにはかなりの忍耐を必要とします。2台のピヤノが、延々1時間近く鳴りっぱなしになるのですから。休んでいる暇はありません。おまけに、2台が綺麗に合わないと全然面白くないので、ずーっと神経を使います。これだけの曲をやろう・・・と思われるかたは、ちょっといらっしゃらないでしょう。もし、いらっしゃったら、その演奏会に評者を呼んで下さい。最後までお付き合いいたしますので。

このCDも現役。「amazon.de」で入手出来ます。ずばり「これ」です。・・・しかし、ピヤノ・デュオでは名曲名盤が続々と廃盤になっているのに、このCD、よく頑張っていると思います。(2004年5月10日記)

CDタイトル: Oeuvres pour deux pianos
曲目 R.Hahn: アイルランドの歌による3つの前奏曲
          アリアと牧歌の形式による小品
          7つの子守歌
          メランコリックなカプリース
          回復期の病人を慰めるために
          リボンを解く
演奏 Huseyin Sermet & Kun Woo Paik
CD番号 Valois V4658(旧番号:ジャケット写真も旧版)

ずっと以前に見つけ、あっという間に廃盤になってしまったCDが、突然復活しました。Reynaldo Hahnによる4手作品集です。Hahnというと、今では甘美な歌曲---それもあまり数は多くない---で人々の記憶に残っている作曲家ですが、ピヤノ曲や室内楽曲も結構たくさん残しているのです。そして、ピヤノ・デュオも。このCDは、今では埋もれてしまったHahnのピヤノ・デュオを集めています。

聴けば聴くほどに流麗で美しい曲たち。甘美で洗練されたなかにも、どこか素朴なものが感じられます。そして、懐かしさや心の安らぎも。強烈な個性はないものの、実に充実した完成度の高いピヤノ・デュオと言えましょう。

これらの埋もれた作品を掘り出したのは、トルコ出身のHuseyin Sermetと韓国のKun Woo Paik。いずれもソロだけではなく、室内楽の名手としても知られています。この2人がしっかりと組んで、それは高度な演奏を聴かせてくれます。珍品系(?)の録音ですと、「演奏がちょっと…」というものも多いのですが、このCDはピヤノ・デュオの楽しさを満喫させてくれるスグレモノ。Hahnの魅力をたっぷり聴かせてくれます。

このCDのオリジナルのタイトルは「Integrale de l'oeuvre pour deux pianos(Vol.1)」。ところがこれが大ウソ。収録されているうち2台ピヤノの作品は、「メランコリックなカプリース」「回復期の病人を慰めるために」「リボンを解く」の3曲で、他は1台4手の連弾。しかも「Vol.1」と銘打ちながら「Vol.2」が出る前に廃盤になってしまった曰く付きのCDです。復活したCDも相変わらず「Oeuvres pour deux pianos」とインチキ表記になっています。

そうした意味でタイトルからは誤解を与えるCDですが、これほどまでに素晴らしい曲を掘り出していること、そして演奏が実に高度であることを考えると、まあ許せるでしょう。ちなみに復活したCDのジャケットは、オリジナルとまったく違うので、元のCDを購入された方、誤って購入しないように。筆者も一瞬、復活CDを買いそうになりました。

もしこのCDをお聴きになったら、「是非、弾いてみたい!」と思われる方がたくさんいらっしゃることでしょう。でも残念ながら、楽譜は全て絶版です。上記の曲はすべてHeugel社から出ていました。古書店市場にもほとんど出て来ない上に、Heugel社にメールを書いて「コピー譜を作って下さいませんか?」とお願いしたところ「当社に楽譜は残っていない。ついてはフランス国立図書館を紹介するから、そちらにコピーを頼んでくれ」とのこと。で、わたしはフランス国立図書館にお願いメールを書いたところ、最初は「図書館の検索システムに障害が発生している。このため向こう数カ月は依頼に応じられない」との返事。で、数ヶ月経ってもう一度メールしたところ、今度は「こちらまで取りに来い」。うーん、こうなると楽譜の入手はほぼ絶望的。筆者の手元にある「7つの子守歌」の終曲は、たまたまパリへ仕事で出向いた方が古本屋で見つけて下さり、「お土産」として下さったもの。その方も、まさかHahnの連弾譜などに出会うとは思ってもみなかったそうです。

しかし、自分のところの出版物も残していないなんて、何とも無責任な出版社ですね。ドイツの出版社など、かなりマイナーな楽譜までしっかり書庫に残してあって、大抵の場合、コピー譜作成に応じて下さるというのに。フランス国立図書館も、何ともケチンボな対応です。

このCDは言うまでもなく現役。オンラインですと「amazon.fr」で入手できます。ずばり「これ」です。もしかすると日本のサイトでも輸入CDとして入手できるかも知れません。都内ではCDショップの店頭で見かけましたから。楽譜の入手は困難ですが、一聴の価値はあるCDです。(2004年5月4日記)

曲目 C.Debussy: 交響詩「海」(連弾版)
            民謡を主題としたスコットランド風行進曲
            小組曲
            古代のエピグラフ
演奏 Duo Crommelynck
CD番号 Claves CD 8508

Debussyの連弾曲ばかりを集めたCDとしては最高の1枚。そして、このデュオ最盛期の録音です。アットホームで柔らかな雰囲気を保ちながら、完璧なアンサンブルをベースに非常に切れ味のよい演奏を展開しています。すべてにおいて過不足のない、そしてエキサイティングな演奏と言えましょう。

「海」の作曲者自身による連弾版。これは現在となってはいくつかの録音がありますが、その先駆けとなったのが、Duo Crommelynckによる演奏。これがなければ、連弾・海が、ここまで広まったか(別の言い方をすれば認知度が高まったか)どうかは疑問・・・とも言えるべき、記念碑的な演奏です。

これは周知のことですが、Debussyは管弦楽のスケッチとして、この連弾版を書きました。しかしこの演奏を聴けばお分かりいただけるように、Debussyの連弾譜は管弦楽のスケッチといった範疇をはるかに超えて、これだけで大変に立派な連弾曲になっているのです。ただ、演奏が大変に困難なだけでなく、一般の聴衆には、とても色彩的な管弦楽版(最終作品)の方が耳に馴染んでいるため、どうしても、この優れた連弾版は陰に隠れた形になってしまっていました。それを日の当たる世界に引っぱり出したのが、この録音なのです。

この演奏を聴くと、「海」の楽曲構成がストレートに分かるだけでなく、この連弾版だけでも大変に優れた楽曲であることが理解できるでしょう。まさに連弾演奏の頂点にあるといっても過言ではない演奏です。これを聴くことで、スケッチとなった「海」の連弾版の重要性が、それは衝撃的に把握できることでしょう。この曲で、ここまでの演奏をするには、恐ろしく大変で綿密な分析力と表現力が必要です。それをCrommelynckは、何事もなかったかのように、鮮やかなテクニックで、この難曲を楽しく素晴らしいものとして提示しています。真の意味で、後世に残る素晴らしい演奏ですね。これを聴くと、連弾版が単なるスケッチではないことが実によく把握できます。

「民謡を主題としたスコットランド風行進曲」も出色の出来。非常に説得力のある演奏です。この曲には初版と改訂版があるのですが、この演奏では初版を用いています。この演奏も大変にバランス感覚がよく、良い意味でのお手本ですね。アットホームな雰囲気でいっぱいなのですが、その中に深い洞察力が見え隠れする深遠な演奏です。同じことが「小組曲」と「古代のエピグラフ」にも当てはまります。何はともあれ、Debussyの連弾をやろう・・・と思われる方には、絶対に聴いていただきたい演奏です。

楽譜は全部現役。Doverからこれらを含めた4手作品のアルバムが2巻で出ているのですが、これを購入するのがいちばん手っ取り早いです。ただし、ここには「スコットランド行進曲」に関しては改訂版しか収録されていません。初版が必要ならばC.F.Peterの版をご参照下さい。「海」「小組曲」「古代のエピグラフ」はDurandからも出ていますが、Dover版は、これらのレプリントなので内容は同じです(そして格段に安い!)。

このCDも現役。オンラインですと「amazon.de」か「Claves」のWebサイトで購入できます。前者の注文画面は「これ」です。何はともあれ、たくさんの方に聴いていただきたい録音です。(2004年4月26日記)

CDタイトル Grainger--Piano Music for four hands Vol.I
曲目 P.A.Grainger: ナットシェルにて(早わかり)組曲
              スプーン・リヴァー
              世界が若かった頃
              渚のモーリー
              丘の歌 第2番
              カントリー・ガーデンズ
              民衆に対するモーグルの歌
              イングリッシュ・ワルツ
              オーディンの亡霊
              いつも陽気で輝かしく
              マルボロ侯爵(ファンファーレ)
              リンカンシャーの花束
演奏 Penelope Thwaites & John Lavender
CD番号 Pearl SHE CD 9611

P.A.Graingerによるピヤノ・デュオの魅力がたっぷり詰まった1枚。Graingerというと、最近でこそ広く知られるようになってきましたが、かつてはその多くの傑作が埋もれたままになっていました。1990年代後半〜2000年代になって、SchottBardicなどから、主要作品の楽譜が出るようになり、多くの人がGraingerのピヤノ・デュオに接することが容易となりました。それまでは、ごく一部の曲を除き、ほとんどが入手困難だったのです。

このCDは、まだ楽譜の大半が絶版状態だったときに録音されたものです。これだけまとまってGraingerのピヤノ・デュオが録音されたのは、それまでなかったこと。Graingerのピヤノ・デュオが好きな人たちは、このCDの出現に狂喜したものです。それが10年以上経っても、一部ですが入手できるのは嬉しいことです。

このCDは全部で3枚。Graingerのピヤノ・デュオをほぼ網羅したものでした。現在入手できるのは、この第1巻と後に述べる第3巻。残念ながら第2巻は入手困難なようです。

この第1巻には有名な「カントリー・ガーデンズ」のほか全部で13曲が収録されています。いずれの演奏も派手ではありませんが、しっかりとしたテクニックでGraingerのピヤノ・デュオの本質に迫っている点が素晴らしい。楽譜の指示にかなり忠実な演奏ですが、若干の良い意味での“遊び”もあって、聴いていて疲れません。しかも楽譜に忠実なだけあって、豪快なシーン---Graingerのピヤノ曲は、ソロもそうですがデュオもかなり(結果的な意味で)派手なところが出てきます---では、かなりゴージャスにピヤノを響かせていて、思わずワクワクしてしまいます。Penelope Thwaites & John Lavenderの演奏は、良い意味でGraingerデュオ曲のお手本と言って良いでしょう。それに、ピヤノ・デュオと言う演奏形態が持つ「楽しさ」がいっぱいの録音です。これは聴いて損はないでしょう。そして、聴いたら弾きたくなること請け合いです。

楽譜ですが、「ナットシェルにて(早わかり)組曲」はSchottの「Grainger, Music for Two Pianos」の第4巻に、「スプーン・リヴァー」は同第5巻に、「世界が若かった頃」はBradicから単体で、「渚のモーリー」はSchottの第1巻、「丘の歌 第2番」は同第3巻、「カントリー・ガーデンズ」はSchottから単体のほか同第1巻に、「東洋風間奏曲」は同第5巻、「イングリッシュ・ワルツ」は同じく5巻、「リンカンシャーの花束」は第2巻に、それぞれ収録されています。

なお、ここで演奏されているのは、すべて2台用ヴァージョン。「カントリー・ガーデンズ」や「イングリッシュ・ワルツ」(他人が編曲)には連弾版もありますので、楽譜を購入するときにはご注意下さい。その他の収録曲に関しては、絶版で出版社も不明です。御存知の方がいらっしゃったら、ご一報下さい。

ちなみに、このシリーズの第2巻には、「子供の行進曲」や「収穫の賛歌」、「緑の草原で楽しく踊ろう」などが、第3巻にはS.Scottの「シンフォニック・ダンス」やR.Addinsell「フェスティバル」などの、それは素晴らしい2台用編曲が含まれています。

で、読者の皆様にお願い。Addinsell作曲・Grainger編曲「フェスティバル」の2台ピヤノ用楽譜を探しています。もう10年以上探し回っていますが、どこにも見当たりません。中古市場にもまったく出てきておりません。出版社すら不明です。どんな小さなことでも結構です。情報がありましたらお寄せいただければ幸いです。

さて、これらのCD。第1巻は「amazon.com」または「amazon.de」で購入できます。「….com」の場合は「これ」、「….de」の場合は「これ」です。第2巻は残念ながら廃盤(または品切れ)で入手不可。第3巻は「amazon.co.uk」で入手できます。「これ」です。(2004年4月12日記)

曲目 C.Czerny: 性格的で華麗な序曲 ロ短調 Op.54
            華麗な大ソナタ Op.10
            幻想曲ヘ短調 Op.226
            大ソナタ Op.178
演奏 Yaarl Tal & Andreas Groethouysen
CD番号 Sony SK 45936

C.Czerny。この名前を聞いてワクワクする人が、どのくらいいらっしゃるでしょうか? おそらく、ほとんどいらっしゃらないでしょう。なぜ? ピヤノを弾く方であれば大抵は練習曲を弾かされて苦い想い出を持っていらっしゃるでしょう。ピヤノを弾かない方は、「ただの練習曲の作曲家でしょう?」。まあ、それが一般的な認識かも知れません。

かく言うわたしも、Czernyのいくつかの連弾曲を聴くまでは、そうした認識しか持っていませんでした。しかし、ふとしたきっかけでCzernyの連弾曲を聴いて、それが大変に誤った見方であることを認識した、わたしです。それから何回、気を付けてCzernyの曲を聴いたことでしょうか。CDではいろいろ聴けるようになりましたが、ライヴでは2003年11月23日の「中井恒仁氏+武田美和子氏」による、作品10のソナタを聴いてCzernyの素晴らしさに改めて触れました。

そんなCzernyの魅力を思い切り詰め込んだのが、このCDです。どれも初期ロマン派の語り口に満ちていて、浪漫的であり、そして劇的です。Czernyの作品ばかりを集めて、これほど素敵なディスクができるなんて、誰が想像できたことでしょう。

たとえば、最初に収録されている「性格的で華麗な序曲」を聴いてみましょう。作曲者名を伏せたら絶対に誰の作品か分かりませんよ。まさかCzernyだなんて! 暗い情熱を含んだテーマが低音から静かに語られて、それが高音部に移行し、いきなり激しい感情のほとばしりが。どうしてこんなに素敵な曲が埋もれているのでしょう。これを聴くと、埋もれている連弾曲の層の厚さを思わず感じさせられてしまいます。本当に浪漫的で、息の長い旋律と華麗なピヤニズムに溢れた曲。素晴らしく輝かしい曲です。

続けて収録されているのは、比較的有名な作品10のソナタYaarl Tal & Andreas Groethouysenの演奏は、この難曲を実に爽快に弾いています。4楽章形式で30分近くにもなる大曲。その長さをまったく感じさせない充実した演奏。途中、繰り返しを省略しているところもありますが、これは冗長性を避けるためのものでしょう。爽快ながら、このデュオ特有の熱気を感じさせるところは言うまでもありません。浪漫的で旋律を大きな息づかいで歌いながらも、湿り気のない爽やかな演奏。こぼれるような音の粒立ち。そして完璧なアンサンブル。堂々たる初期ロマン派の、大ソナタの、それはスケール感溢れる素晴らしい演奏です。

同時に収録されてる他の2曲もまったく同じ傾向。この演奏を聴いたならば、Czernyという人の作品を、絶対に見直すことになるでしょう。そして、「あ、これなら、わたしたちも弾いてみたい」と思われる方もあるのではないでしょうか。

確かに、これらの曲を鑑賞用の素晴らしい録音にしているのはTal & Groethouysenの力が大きいでしょう。でも、作品そのものも、本当に素敵ですよ。ウソだと思ったら、是非、このCDを聴いてみて下さい。あなたの知らない、Czernyの浪漫的でピヤニスティックな世界が、目の前に広がります。

さて楽譜。「性格的で華麗な序曲」と「ソナタ作品10」は、Carischから、作品178の「大ソナタ」はKunzelmannから出ており現役。申し訳ありませんが「幻想曲」に関しては本稿執筆時点では出版社と現役か否かは分かりませんでした。

このCDは2004年3月29日時点で現役。オンラインですと「amazon.de」で入手できます。ずばり「これ」。是非、多くの方に聴いて頂きたいCDですね。(2004年3月29日記)

CDタイトル:水野修孝「ミューズの時」バーバー「思い出」
曲目 F.Schubert: 軍隊行進曲第1番ニ長調 D.733-1
             序奏と自作主題による4つの変奏曲とフィナーレ D.603
   C.Debussy: 小組曲
   水野修孝: ピアノ連弾組曲「ミューズの時」
   S.Barber: 想い出
   A.Tansman: ピヤノを弾く若者 第3巻「アルバムのページ」から「ハバネラ」
演奏 笠原純子&友田恭子
CD番号 コジマ録音 LMCD-1743

思わず、はっとさせられた録音です。

冒頭に収録してある、F.Schubert「軍隊行進曲第1番」を聴いて、まず惹きつけられました。通常耳にするものから、かなり離れたところにあるアーティクレーションとダイナミクス。そして、(特にトリオを中心として)大きく揺らされるリズム。それらの表現が、この勇壮な行進曲に見事な陰影を与えているのです。この演奏をあえて例えてみれば、「ほの暗い、間接照明の柔らかな光の下で交わされる、大人の会話」でしょうか。明るく朗らかな歌の中に、曲に秘められた“心の襞”が表れているのです。そう、それは、長年付き合って、お互いを知り尽くした相手の中に、今までまったく気付かなかった別の姿を見たような思い。いつも凛々しく朗らかな人が見せた、憂愁に満ちた表情。「軍隊行進曲第1番」をこのように扱うことについては、賛否両論があるでしょう。しかしわたしたちは、深い陰影を持つこの演奏に思わず惹かれてしまいました。これは絶妙のSchubert!

Debussy「小組曲」や、Barber「想い出」も清楚ながら、どこかに陰影を含んだ素敵な演奏。もちろん切れ味の良いタッチや高度なアンサンブルが光り、煌びやかでピヤニスティックではあるのですが、それを超えた「大人の会話」がここにあります。特にBarberは、この曲の録音としては最上級ではないでしょうか。

わたしたちにとっての新たな“出会い”は、水野修孝氏が演奏者の依頼で書いた「ミューズの時」。これは傑作ですね。水野氏の良い面がストレートに出ています。ジャズやポップスのイディオムを、縦横無尽に散りばめたそれはお洒落で楽しい曲! 「ゲンダイオンガク」のかけらもありません。5曲の小品で構成する組曲なのですが、各曲がそれぞれ違った魅力的な表情を持っています。それを笠原・友田組、実にうまく弾き分けて「ほら、こんなに素敵な曲なのよ!」って聴き手に対して強烈にアタックしてきます。

特に素晴らしいのは1曲目の「いつか君と」と終曲の「ラグタイム“愛の夢”」。これは素敵な連弾曲です。この演奏からは、ワクワク感とドキドキ感が。「いつか君と」では、憧れと希望に満ちた旋律が、それは爽やかに流れます。これには作曲者のセンスの良さがきらりと光っていますね。それを絶妙な語り口で聴かせてくれる笠原・友田組。思わず唸らされました。「ラグタイム“愛の夢”」は、F.Lisztの有名な歌曲「愛しうる限り愛せ(ピヤノ曲では愛の夢第3番)」をモティーフにした、ラグタイム風の華麗なパラフレーズ。これは文句なく面白い! 松永晴紀先生は、この曲を「ピエロが、面白くて、やがて悲しい“愛の夢”を演じるのにふさわしい作品」と表現されていらっしゃいますが、まさに的を射た解釈。テーマになっている「愛の夢」の旋律、よーく聴いていないとどこで出てくるのか分かりません。とてもさりげなく現れるので。なお録音を聴いただけでは分からないのですが、この曲の途中でプリモが席を立ち、セコンダの後ろを回って左側に座り、ベースの音域を担当する箇所があるそうです。視覚的にも面白い演出ですね。

この「ミューズの時」、ある程度ピアノが弾けて連弾がお好きな方なら、10組中8組は「絶対にレパートリにしてみたい」と思われることでしょう。それほど素敵でお洒落な曲ですよ。「大人の魅力」に溢れた連弾曲です。聴いていて、とにかくワクワク、ドキドキ。さあ、あなたもこの演奏を聴いて、そしてこの曲を演奏してみませんか? この曲知らないと、きっと損しますよ。

さて、楽譜。幸いなことに全部現役です。SchubertとDebussyはあちこちから出ているので省略。BarberはSchimerから、TansmanはEschigからそれぞれ出ていますので、どこでも購入可能です。水野修孝は「B.C.A.」というところから出ており、オンラインまたは電話での発注が可能です。ただしクレジットカードは使えません。日本国外の方は、直接B.C.A.にメールなどでご相談下さい。

CDですが、2004年3月15日時点で現役。日本国内ですとお近くのCDショップで注文できるほか、オンラインでは「コジマ録音」のWebサイトから発注できます。ただし日本国外への発送ができるかは要相談。(2004年3月15日記)


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(c) Yumiko & Kazumi 2003