其の弐:手っ取り早く仲良くなれる!?
連弾には、「手っ取り早く仲良くなれる」、という「効用」があります。連弾するには何はともあれ、ひとつの楽器を共有しなければならない、と言う状況が出来上がってしまいます。こうした状況、洋の東西を問わず、音楽演奏としてはかなり特殊な形態です。自然と仲良しにならざるを得ませんね。もちろん、「喧嘩別れ」という結果もあるわけですが・・・。
余程の曲でない限り、連弾するには、肩が触れ合う位置に座ることになります。まずこれが、仲良しさんへの第一歩。逆の意味で言うと、連弾への第1関門ですね。「気にくわない」、あるいは「生理的にダメ」な相手とは、この時点でおさらばです。「おさらば」でなければ、さあ曲の選択をいたしましょう。
選択といっても、要素/観点はさまざまです。上級者の方同士ならあまり問題はありません。双方のレヴェルに差がある場合、要求される演奏レヴェルをよく見て選ぶ必要がありますね。でも、世の中には様々な連弾曲があるので、心配は無用です。片方が上級者で片方が初心者といったケースでも、例えばプリモが初心者用、セコンダが上級者用--といった作品はたくさんあります。ああでもない、こうでもない・・・これがいいや・・・、と、曲を選ぶ過程も連弾まつわる楽しみのひとつです。何しろ、1冊の楽譜を2人でのぞき込んで相談するのですから、「距離」はぐっと近づきます。
好みも多少は問題になります。例えば、片方が古典派までが大好き、もう片方が現代大好き、といった場合。でも、こうした極端なケースですら、心配ご無用。要はそれぞれが好きな分野の曲を1曲づつ選んでしまえば良いのです。
・・・と第1関門を突破した後、ここまでなら一般の室内楽演奏/練習でも生じる過程ですね。でも、連弾の場合、もうひとつ検討しなければならないことがあるのです。「どの程度まで相手との接触を許容できるか」です。曲によっては、2人の手と手がべったりくっついた状態が発生することがあります。さらに2人の手が交差するケースも。交差の場合、顔と顔をくっつけないと弾けない---なんてことも。これは、相手との親しさによって決めるしかないでしょうね。
あるいは「目的」によって。・・・えっ? 「目的ってなによ?」って? おほほほほ、ご自分でお考えになって見てくださいな。おほほほほ・・・。
かのFranz Schubert先生(1797〜1828)だって、どこぞのお嬢様と「仲良く」なりたいがばっかりに、手が接近したり、大きく交差する「えっちな連弾曲」を、たくさん作ったそうではありませんか。そもそも殿方の考えることなど、洋の東西を問わず似たり寄ったりなのです。Frederic
Chopin先生(1810〜1849)や、Franz Liszt先生(1811〜1886)が連弾曲をあまり作らなかったのは、わざわざそんな面倒くさいことをしなくても御婦人方が寄ってきたからでございます。
閑話休題。
接近や交差の場合はもちろんですが、たとえそれらがない曲の場合でも、ひとりで弾くときとは勝手が違います。まず、鍵盤に対する位置が違いますからね。それに肩が触れ合うような位置に相手がいるから自由に動けない。そして「ある音を弾き終えたら手のポジションをすぐに変える」ことをしないと、相手の演奏に支障をきたすというケースが、ほとんどの連弾曲で発生します。
これに対処する方法はひとつだけ。相手との「おはなし」と「譲り合い」です。場合によっては駆け引きも必要となります。この過程が楽しいのですね。逆に、本当の意味で気の合わない相手とは、この時点で「おさらば」となります。これをクリアした時点で、あなたは演奏相手と「相当な仲良し」になっておりますよ。もっともどんな仲良しだって、喧嘩することはありますが。いっぺん仲良くなったら、そんな喧嘩は一過性のものになることでしょう。そして喧嘩のあとには、もっと仲良くなっている---これが、いいんですね、連弾は。
*べったりくっついての演奏お勧め曲
【初級編】
●Percy Aldrige Grainger
カントリー・ガーデンズ Country Gardens(連弾版:Schott)
●Edward Elgar
愛の挨拶 Salut d'amour(連弾版:Schott)
【中上級編】
●Peter Tchaikovsky
くるみ割り人形 The Nutcracker Suite(連弾版:Schirmer)
●Franz Schubert
大ソナタ 変ロ長調 D.617 Grande Sonate
B dur(あちこちから出版)
その他、たくさん
【超上級編】
●Arnold Schoenberg
第1室内交響曲 Erste Kammersymphonie(連弾版:Belmont)
●Igor Stravinsky
春の祭典 The rite of spring(連弾版:DoverあるいはBoosey)
●Johan Sebastian Bach
ブランデンブルグ協奏曲 Brandenburgishes
Konzert(連弾版:Belwin)
<注> 上記、ChopinとLisztの話は、ホントかウソか、保証の限りではありません。
目次へ
(c) Kazumi & Yumiko TANAKA 1999