リストの作品 
Franz Liszt
18111886


 ☆ クリスマスツリー ☆
Weihnachtsbaum
作曲年代:1876
原曲:ピヤノ独奏曲
演奏形態:れんだん
編曲者:作曲者
参照楽譜:Editio Musica Bdapest
参照CD:GALLO CD-817
「The Christmas Tree and other works for piano duet」
Pinuccia Giarmana & Alessandro Lucchetti pf. Duo


 原曲はリスト後期の傑作小品集。清楚な響きに満ちあふれています。それを連弾化したのが、この作品。その連弾化手法が、何と言っても見事!

 普通、独奏曲を連弾化すると、ろくなことになりません。響きがやたら分厚くなって濁ってしまったり、けばけばしい装飾で無様になったり、アンサンブルだけが妙に難しくなったり・・・。奇跡的なことに、この編曲は、これら無様な世界とは無縁です。

 僅かに音が厚くなったり、微妙な装飾音が付いたりはしていますが、実に見事な連弾曲となって、我々の前に現れます。オリジナルの独奏曲が持つ魅力を完全に残したまま、表現の幅を広げています。両奏者とも弾きにくい箇所は全くなく、アンサンブルとしても実に合わせ易い。しかも、独奏で弾くときよりも、演奏者の負担を軽減しています。

 加えて、演奏上も聴衆の視覚的にも、楽しい工夫がそこここに。例えば第1曲「小聖歌(昔のクリスマスの歌)」(Psallite:Altes Weihnachtslied)では、29小節目までは原曲(独奏曲)を、そのままひとりでセコンダが、続く19小節分は同じようにプリモがひとりで弾いて。そして49小節目から、ようやく連弾が始まる。また、第3曲「飼い葉桶のまわりの羊飼いたち」(Die Hirten an der Krippe)では、セコンダが右手1本(左手でも差し支えなし)で楽しいリズムを刻みます。

 なお、弾いてみて分かったのですが、1曲1曲、プリモとセコンダの座る位置を変えた方が、スムーズに弾けます。両方の奏者が上手ならば別でしょうが、片方が上手でも、もう片方がヘタな場合、座る位置はけっこう重要です。わたしたちは、練習中に大喧嘩をしてしまいました。ひとえに、へたくそな方の責任なのですが。

 これは、クリスマス・シーズン向けの曲集ですね。特に第4曲「誠実な人々よ、来たれ(東方の3博士の行進)」(Adeste Fideles:Gleichsam als Marsch der heilligen drei Konige)は、あの「賛美歌:神の御子は」をテーマにした、完全にクリスマス向け! ただ、最初の方の曲(Psalliteなど)は楽しいのですが、後半に行くに従って、だんだん暗くなるのが、ちょっと問題(?)かも知れません。


楽曲構成

小聖歌(昔のクリスマスの歌) Psallite:Altes Weihnachtslied
おお、聖なる夜!(古風なクリスマスの歌) O heilige Nacht !:Welihnachtslied nach einer alten Weise
飼い葉桶のまわりの羊飼いたち Die Hirten an der Krippe
誠実な人々よ、来たれ(東方の3博士の行進) Adeste Fideles:Gleichsam als Marsch der heilligen drei Konige
スケルツオソ(ツリーの蝋燭に火を灯して) Scherzoso:Man zundet die Kerzen des Baumes an
カリヨン(グロッケンシュピール) Carillon:Glokenspile
子守歌 Schlummerrlied
プロヴァンスの古いクリスマスの歌 Altes provenzalisches Weihnachtslied
夕べの鐘 Abendglocken
10 その昔 Ehemals
11 ハンガリ風に Ungarisch
12 ポーランド風に Polnisch




☆ 祝典ポロネーズ ☆
Festpplonaise
作曲年代:1876
演奏形態:れんだん
参照楽譜:G. Ricordi & C.s.p.a.
参照CD:GALLO CD-817
「The Christmas Tree and other works for piano duet」
Pinuccia Giarmana & Alessandro Lucchetti pf.Duo

 

 この曲は、演奏効果が上がりますよ。結婚式や発表会で弾くには、最適ではないでしょうか。プリモとセコンダの手の交差はありませんし、演奏の支障となるような接近もほとんどありません。華やかな曲で、弾く方も聴く方も、楽しめそうです。

 この曲は、リストのただひとつのオリジナル連弾曲とされてきましたが、どうもそうではないようです。もっともテーマからなにから、全部が全部オリジナル…となったら、この曲しか見あたりませんが…。

 入手したCDは、とても「速い」演奏でした。わたしたちが、3分40秒程度で弾くところを3分弱で弾いています。そして、35小節目以降の前打音を、楽譜に記載されている小節ではなく、その前の小節の最後の拍にくっつけて弾いています。

 




☆ 前奏曲 ☆
Le Preludes
作曲年代:1848
原曲:管弦楽曲
演奏形態:れんだん
編曲者:作曲者
参照楽譜:G. Schirmer,Inc.
参照CD:LC 5680 ,Europa Musica
Adriano Bassi & Maurizio Carnelli (pf. duo)


 言わずと知れた超名曲。管弦楽の遠近感を補強して余りあるピヤニスティックな編曲になっています。演奏会や発表会で弾いたら、大受けすること間違いなしです。だからといって、原曲をまったく無視した編曲ではなく、むしろその構造をくっきりと浮かび上がらせるような、編曲処理が施されています。

 ただし、2人の奏者が、かなり近寄らないと弾きづらいところは否定できません。演奏には、譲り合いの「こころ」が必要でしょう。ペダリングの打ち合わせも、けっこう大変そうです。それから、体力に自信のない方には、お勧めできない曲ですね。わたしたちなんか、最初から「挫折」しています。2台のピヤノに振り分けて演奏する形態も考えられますが、試したことはないので、どんな風に聞こえるか、保証の限りではありません。

 入手したCDは、イタリー人のお兄さんたちが弾いています。なかなか均整のとれた演奏で、一聴の価値があります。特にペダリングを決める上では、とても参考になります。ちなみに、このCDのジャケット、マリー・ローランサン風の、すてきな絵で飾られているのも魅力です。著作権の関係もあり、こちらに収録できないのが残念です。

 




☆ ラ・カンパネッラ ☆
La Campanella
作曲年代:1838/1851
原曲:ピヤノ独奏曲
演奏形態:れんだん
編曲者:Alessandro Longo
参照楽譜:Edizioni Curci
参照CD:れんだんはありません

 はっきり言って、詐欺です。編曲がどうの、という以前の問題。楽譜の表紙にも譜面の冒頭にも「Paganini - Liszt : La Campanella」と明記されています。しかし中身は、Paganiniのヴァイオリン協奏曲第2番・第3楽章の「鐘のロンド」のテーマだけを一通り流すのみ。わずか60小節しかありません。つまり原曲(Liszt)の原曲(Paganini)を、Lisztの作品を参考にして連弾化しただけ。これで「Paganini - Lisztの連弾版です」と言って売るのは詐欺以外の何物でもありません。
 
 その昔、見せ物小屋で「8尺の“おおいたち”」というのがありました。約2メートル50センチの大きな鼬(いたち)がいるぞ、と人を誘います。で、その正体は、と言うと、長さ8尺の大きな板に、赤い染料がぶちまけてあるだけ。「大板血(おおいたち)」と言うわです。このLongo編曲は、「さあ、Paganini -Lisztベースの連弾だよ!」と言って置いて、テーマはPaganiniから、ピヤノ書法(の一部)をリストから、それぞれ拝借しただけ。それをあたかも「Liszt : La Campanella:連弾版」みたいにして売っているのです。「おおいたち」と同一の次元ですね、これは。
 
 しかも、楽譜をよく見ると「パガニーニ大練習曲」を示す文字が一つもありません。まさに「おおいたち的詐欺」です。

 それでも弾いて楽しければ、あるいは独自の魅力を持った編曲なら、まだ許せます。ところが「これは、酷い」のひとこと。プリモは旋律を弾くだけ。特に非道いのは冒頭で、Paganiniの旋律を右手の単音でなぞるだけ。そして、ときおりLisztの作品から盗用した装飾音(それも非常に単純化してある)を付けている。一方のセコンダは、和声とリズムの伴奏を付けるだけ。そして最後は、Lisztの「ラ・カンパネッラ」の末尾(コーダ)を恐ろしく単純化したフレーズが出てきておしまい。何の工夫もありません。演奏効果も上がりません。「どこがLisztじゃ!」と思わず叫ばずにはいられません。

 ちなみに、演奏に必要な技術レヴェルは、バイエル修了程度か、わずか上くらい。両奏者間の手の交差や極端な接近はありません。



☆ 十字架への道 ☆
Via Crucis
作曲年代:1878〜79
原曲:教会音楽・バリトン・ソロ、混声合唱、オルガン(またはピヤノ)
演奏形態:れんだん
編曲者:作曲者
参照楽譜:Editio Musica Bdapest
参照CD:れんだんはありません

 何故、リストは、この曲を「連弾化」しなければならなかったのだろう??? そうした疑問を誰にでも抱かせる「迷編曲」です。

 「リスト最悪のピヤノ曲」(妻・ゆみこ)と言うくらい、弾いても、そして恐らく聴いても、実につまらない連弾曲です。もっとも、ちょっと工夫した演奏なら別でしょうけれど。

 原曲はリスト最晩年の教会音楽。バリトン・ソロ、混声合唱、オルガン(またはピヤノ)で演奏します。原曲自体は、とても清楚で澄み切った音色の、それは素敵な声楽曲。聴いた限りは(録音ですが)、ピヤノよりオルガンの方が圧倒的に似合います。どうやらオルガンで声楽を支えることを前提としているようです。

 声楽が主体、それをオルガンが支える・・・こうした曲をピヤノ曲にするには、相当の工夫が必要でしょう。しかも14曲で構成するこの曲は、いずれの曲もAndante以下の、極めてゆるやかな演奏速度を設定しています。これをピヤノに置き換えると、まず問題となるのが、壮絶なる「間延び」との戦い。残念ながら、いかにリストと言えども、この曲の連弾化には失敗しています

 なお譜面には、連弾化に際して音域などの関係で「省かざるを得なかった音」が補助的に記載してあります。もし演奏されるのであれば、上手に工夫して、これらの音を組み込むべきでしょう。また、若干の「声楽補助」をつけるとか。ともかく楽譜のまま演奏したのでは、聴いている側の間が持ちません。響きそのものは、とても綺麗なのですが、連弾曲はもとより、ピヤノ曲としてみると、「かなり難あり」・・・の作品です。

 ただし、リスト後期の和声用法を研究する上では、良い資料となることでしょう。

 ちなみに連弾版の初演は、20世紀後半に入ってから。1986年6月7日、ミュンヒェンにて。初演者は、あの名連弾コンビ「Yaara Tal & Andress Groethuysen」です。彼らですら、テキストの朗読者を加えて初演しています。やっぱり、間が持たなかったのかなぁ・・・



☆ ハンガリー狂詩曲 第2番 ☆
Hungarian Rhapsody No.2
作曲年代:1847
原曲:ピヤノ独奏
演奏形態:れんだん
編曲者:Lothar Windsperger
参照楽譜:Schott
参照CD:GALLO CD-817
「The Christmas Tree and other works for piano duet」
Pinuccia Giarmana & Alessandro Lucchetti pf.Duo

 ピヤノ独奏曲を連弾用に編曲する「効用」は、いくつか挙げられます。さまざまな捉え方が可能でしょうが、しばしば狙いとされる点は2つ。(1)本来ならば1人で弾かなければならない音を2人に振り分けて、1人あたりの演奏者の負荷を軽減する。(2)独奏と比較し、より広い音域/ダイナミック・レンジを奏者に供給し、表現の幅を広げる--の2点でしょう。もちろん上記2点の片方を狙った編曲もありますし、両方の要素を取り入れたケースも存在します。

 このHungarian Rhapsody No.2の連弾用編曲は、主として(1)を狙いながら、若干(2)の要素も考慮した編曲となっております。演奏効果も相当に上がり、連弾コンサートのフィナーレに持ってくるには良い曲でしょう。
編曲の出来は、「松竹梅」の「竹の下」レベルです。

 冒頭を弾くだけで、(1)の効果が充分に認められます(譜例1)

譜例1−1: 原曲冒頭
譜例1−2: 連弾版冒頭プリモ
譜例1−3: 連弾版冒頭セコンダ

 それだけではありません。
原譜の装飾音を簡略化し、「取っつき易く」してあります(譜例2)。この当たりの編曲処理、原曲の魅力のひとつに前打音の多用が挙げられることを考慮すると、やや疑問を覚えます。まあ、「邪悪だっ!」と、目くじらを立てる程ではありませんが。また、セコンダ(原曲では主として左手が担当する音)は、原曲の音をかなりバッサリと簡略化している点も特徴です。

譜例2−1: 原曲35小節目
譜例2−2: 連弾版プリモ35小節目。前打音を、かなり簡略化している

 なお、「簡略化しただけでは面白くない」と仰る方のために、後半部にカデンツア風のパッセージが用意されております(連弾譜:303〜365小節目)

 おっと、大切なことを忘れておりました。この編曲、
原曲比ですべて半音低く書いてあります。冒頭部分で言えば、原曲は嬰ハ短調、連弾版はハ短調です。ですから、原曲を聞き慣れた耳には、けっこう奇妙に響くかも知れません。何故あえて、半音低く設定したのかは疑問です。取り立てて「利点」があるようにも見えないのですが・・・。何でかな?

 演奏に必要な技術は、プリモ/セコンダともに、ソナタアルバム修了程度です。

【付記】この曲には「2台ピヤノ用編曲」(Kleinmichel編:Schirmer刊)も存在します。こちらの譜面は未参照です。