バラキレフの作品 
Mily Balakirew
(1837〜1910)

☆ 交響詩「タマーラ」 ☆
Thamar : Poeme Symphonique
作曲年代:1905
原曲:管弦楽
演奏形態:れんだん
編曲者:Alexander Glazounow
参照楽譜:Forberg
参照CD:Dante PSG9640
Elena Winther & Vladimir Plehsakov
 

 おどろおどろしさ、軽快感、叙情性、清純さ。それらをすべて包含した、極めて優れた作品です。曲の主要な部分を構成する変ニ長調で8分の12拍子のフレーズは、完全に馬術で言うところの駆足(ギャロップ)のリズムが、生のまま出てきています。それも同じテンポでありながら歩度(歩幅)を延ばしたり収縮させたり。まるで、高度なドレッサージュ(馬場馬術)を目の当たりにするかのような作品です。いえ、洗練された馬場よりも、もっとワイルド。草原を駆け抜けながら自在に騎馬を——それもかなり高度なテクニックで——あやつるさまを見るような、そして自分自身が乾いた風を受けながら、空気の中を駆けめぐるような、そんな作品と表現した方が適切かも知れません(ある程度ドレッサージュのレッスンを受けた人なら、より直截的に理解できるでしょう)。

 原曲は管弦楽曲ですが、Alexander Glazounowが、あたかも「もとからピヤノ曲であったかのように」編曲し、ピヤニスティックな魅力に溢れています。しかも、Balakirewのピヤノ書法を、そのまま真似したかのように書いて。聴いた感じはBalakirewの代表作「イスラメイ」に非常によく似ています。それもその筈。イスラメイは最初、交響詩「タマーラ」(つまりこの原曲)のスケッチとして書かれたものなので。ただ、わたしたちはイスラメイの楽譜を持ち合わせていないので、その類似性について、今のところきちんと分析して言及することができないのが残念です。

 さて、この曲。さまざまな意味で非常な難曲です。両奏者が抜群のテクニックを備えていなければ、まず弾き通すことは無理でしょう。わたくし(下手な方)は、最初の5ページで早くも挫折。一応譜面を追って弾いてはみましたが、手に負えません。加えて合奏のテクニックにも、非常に高度なものが要求されます。おまけに両奏者の手の接近や交差は日常茶飯事。かなり譲り合って弾かないと無理な箇所が相当数あります。しかも相手にポジションを譲るために腕をどかしたり浮かせたりすると、そうした箇所に限って、ものすごく弾きにくくなります。ペダルの指示や運指は、いっさい表記されていません。演奏に当たっては、このあたりの相談も、相当に必要となるでしょう。

 なお、わたしたちは参考演奏として、Elena WintherとVladimir PlehsakovのCDを聴いております。非常に爽やかで優れた演奏です。CDの表面(ケースではありませんよ。盤面の記録部の裏です)に、この夫婦デュオの寄り添った写真が焼き付けてある、ほのぼのCDです(でも普通、そこまでやるかしら?)。