其の壱:「室内楽」、恐るに足らず!

先生と一緒、あるいは家族や友人同士で、もっともっとピヤノを楽しんでみては如何でしょう。初心者だって、ピヤノを使ったアンサンブルが楽しめるのです。極端な話、一方の奏者は、片手だけだって、アンサンブルに参加できるのです。



 「室内楽」--という言葉を聞いて、あなたは、どんなイメージを頭に思い浮かべますか? きっと、人それぞれ、千差万別。ただ、恐らく共通する点があるでしょう。弦楽器をやっている人を別として。そう、「自分とは縁遠い」。特にピヤノを演奏する人にとっては。もちろん音楽学校へ行くような方は別でしょう−−音楽大学や音楽短期大学、専門学校へ進んだ方で「室内楽なんか、全くの無縁だ」などと仰る方がいらしたら、それはそれで恐ろしい問題です。「お前、まともに勉強していたのかよ、馬鹿!」と言われても、仕方ないでしょうね−−。でも「その他大勢」の「ピヤノ弾き」にとっては、一般にとっつきにくい分野です。中でも、ピヤノの初心者には、遙か手の届かない存在に感じられてしまうケースが多いようです。

 確かにピヤノ弾きにとって自分が参加することを考えると、一見、ピヤノを含む室内楽は「難しいもの」と、受け止められてしまうかも知れません。だって、「ピヤノを含む室内楽」と聞いて頭に浮かぶのは、ピヤノと弦楽器あるいは管楽器との2重奏、ピヤノ3重奏、ピヤノ4重奏・・・。これらは、ある程度のテクニックとアンサンブル能力がなければできません。素人の手に届くものではないことは、事実です。

 でもね。ピヤノ弾きにとって「室内楽」とは、別に他の楽器や声と合わせることばかりではないのです。ピヤノ同士が合わせても、それで立派な室内楽。2台ピヤノはもちろんですが、もっとも「プリミティブ」な形は「連弾」。ピヤノ1台と、奏者2人が揃えば、そこですぐさま「室内楽」が始まります。

 もちろん連弾には、各奏者に対して非常に高度なテクニックとアンサンブル能力を要求する曲が、たくさんあります。しかし、片方が、あるいは両方が、バイエル修得中という段階でも、立派に成立する連弾曲は、たくさんあります。しかも、コンサート・ホールのステージに乗せても通用する曲が。曲さえ選べば、ピヤノを始めたばかりの小さな子供さんでも、50歳を過ぎて初めてピヤノを習った方でも、それは簡単に室内楽−−ピヤノを使ったアンサンブル−−が楽しめるのです。

 なにより楽しいのは、相手と一緒に音楽を作ること。ピヤノを始めたばかりの人でも、相手が先生のように「かなり弾ける人」だったら、レパートリは恐ろしく広がります。相当高度なコンサート・ピースにも挑戦できます。何と言っても、劇的な演奏効果を備えながら、片方が「両手ユニゾン」だけで弾ける曲が、あるのですから。両手ユニゾンとまでは行かなくとも、片方の奏者が1ポジションで弾けるようにした曲も、たくさんあります。これなら初心者だって、大丈夫。先生と一緒に弾くのもよし、家族や友人と弾くのもよし−−です。別に、クラシックだけとは限りません。現代音楽もあれば、ポピュラー、歌謡曲、アニメ・ソングだって、レパートリとなる曲は、たくさん出版されております。

 もちろん、両方が初心者だって、弾くことができる連弾曲は、たくさんあります。あるいは、片方の奏者が片手だけでアンサンブルに参加することができるのです。自分ひとりではできないような音楽が、2人そろえば気軽に実現することが可能です。一緒に合わせたときの気分、実に不思議で感動的ですよ。

 こうした曲たち。別に、クラシックだけとは限りません。現代音楽もあれば、ポピュラー、歌謡曲、アニメ・ソングだって、レパートリとなる曲は、たくさん出版されております。これらを活用しない手は、ありません。

 かく言う、わたくしたち夫婦。妻・ゆみこは「ある程度、まともに」ピヤノを弾くことができますが、夫・かずみは初心者の域を出ません。それでも、1台あるいは2台のピヤノを使って、自宅でアンサンブルを楽しんでいます。年に1回、小さなホールでの演奏会に参加することを目標に。あるいは、休日の午後の、ちょっとした「お楽しみ」として。弾いていて、ずっこけてしまっても、いいじゃないですか。それはそれで、また楽しいものです。皆さんで、ピヤノを使ったアンサンブルを、気軽に楽しんでみては、いかがでしょう?



・片方が1ポジションで弾ける曲
 A.Caplet:Un tas de petites choses(小さなこと、いろいろ:Durand)
 L.Godowsky:Miniatures(ミニアテュール:Carl Fischer)
 F.Schumitt:Sur cinq notes(5つの音で:Eschig)
 F.Schumitt:Une semaine du petit elfe ferme l'oeil(眠りの精の一週間:Kalmus または Durand)
 L.F.M.Aubert:Feuille d'images(イマージュの一葉:Durand)

・片方が片手、あるいはそれに近い状態で弾ける曲
 A.Tcherepnin:Exploring the piano(ピヤノの探訪:New York Peters)
 A.Borodin他 6人合作:Paraphrase(パラフレーズ:M.P.Belaieff)

・比較的、出来の良いポピュラー/アニメ曲集
 (株)エー・ティー・エヌ:「たのしいポピュラー・ピアノ連弾」(1〜3巻)
 (株)エー・ティー・エヌ:「たのしいアニメ・ピアノ連弾」(1〜3巻)
 その他、海外物では、ウエッバーなどミュージカル/ポップスものがたくさんあり。

・バイエルのお供
 三枝成章:バイエルで遊ぼう(音楽之友社)



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(c) Kazumi & Yumiko TANAKA 1999