Duo T&M 二人だけのオーケストラ 華麗なるピアノ連弾編曲の世界 連続演奏会へのプロローグ 松永 晴紀(茨城女子短期大学教授) + たなか かずみ(ジャーナリスト) |
2002:a piano-duet odyssey (2002年ピアノ連弾の旅) 松永 晴紀=茨城女子短期大学教授 |
2002年2月、ピアノ連弾史上に例のない壮大な旅が始まる。否、映画の中の宇宙船ディスカバリー号が成し遂げたように、無限の彼方を目指す大旅行の序章は既に始まっていたのだ。 2000〜01年にかけての6回の連続演奏会がそれだ。日本の連弾作品を含む世界各国の主要な連弾作品による連続演奏会は今までにほとんど例がない。このシリーズには他では聴くことのできない珍しい作品が多く含まれていた。そしてのすべての作品に関して、単なる研究目的としての作品紹介の域を越えて、それぞれの作品の魅力を的確に表現した、質・量ともに極めて完成度の高い演奏が、これほどの短期間に、たった二人のピアニストによって成し遂げられたことは驚嘆に値する。 「連弾」は、その多様で幅広い魅力ゆえに、「家庭的」や「オーケストラの代用」といった側面のみが強調され、実に不幸なことに、不当な誤解や偏見を受け続けている。今、豊岡氏御夫妻による更なる試みは、「華麗なるピアノ連弾編曲の世界」と題され、再び聴衆を前人未到の音の世界に誘う。 我々は、お二人の御努力によって、多くの連弾のための編曲作品が、単に「オーケストラの代用品」に留まることなく、連弾作品としての固有の存在意義と、溢れるばかりの魅力を備えていることを実感できるだけでなく、お二人の優れた演奏は、連弾に対する誤解や偏見をものの見事に打ち砕くことになろう。 |
華麗なる「無謀」 たなか かずみ=ジャーナリスト |
ここに、ともすれば無謀とも言える試みに挑戦しようとする2人のピアニストがいる。何が無謀なのか? 一連のプログラムをご覧頂ければ、彼らが挑戦しようとしているハードルの高さがご理解いただけよう。 まず、「管弦楽曲のピアノ連弾用編曲」だけで6回ものリサイタルを組むなど、尋常ではない。取り上げられる連弾曲たちは不幸にして、「管弦楽の代用」という不当に低い位置づけをされている。2人のピアニストは、一連の演奏会を通じてこうした偏見を払拭し、曲たちの持つ真の魅力を聴衆に示さなければならない。しかもそれを、3〜4カ月という間隔で、連続演奏会に仕立てようというのだ。 1回ごとのプログラムも、並大抵ではない。あたかもオーケストラが演奏会を開くようなプログラミングとなっている。演奏者の集中力、そして体力ともに、ほぼ限界に達するようなプログラムだ。 こうした試みに挑もうとするピアノ・デュオは、世界中を見ても殆ど存在しない。常識的に考えてみれば当たり前だ。これだけのハードルがあるのだから。これにあえて立ち向かおうとする豊岡夫妻の行為は、無謀にも見える。しかしそれは、華麗なる無謀である。1台のピアノ、20本の指で、管弦楽曲を再現---いや、原曲とは違ったピアノ連弾ならではの魅力を聴衆に伝えようとするのだから。だが、このデュオ、必ずやこの高いハードルを乗り越えて、素晴らしい演奏を聴かせるに違いない。10年以上に及ぶ、彼らの地道で評価も高い演奏活動が、それを暗に証明してくれる。私は、彼らのこの連続演奏会が管弦楽曲の連弾編曲作品というジャンルに、新たな光を与えてくれると確信している一人である。 |
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(C) Harunori Matsunaga & Kazumi Tanaka