其の拾九:買ってはいけない! 〜 2001年ワーストCD

2001年も、結構な枚数のCDを購入してしまいました。「結構な枚数」といっても月に何十枚もご購入になる方に比べたら可愛いものですが・・・。ここ数年は、CDショップに出向かなくても、オンラインで何でも購入できてしまうのが便利と言えば便利、恐いと言えば恐いです。そんな中で、何枚もの素敵な演奏に出会った反面、ケースごと叩き割ってしまいかけた「邪悪なCD」もありました。「素敵な演奏」は普段「今週の1枚」で紹介させて頂いております。ここでは、今年入手した中で、飛び抜けて邪悪なCDをご披露いたします。題して「買ってはいけない! 〜 2001年ワーストCD」。



●主犯はプロデューサ--演奏者は被害者か?:American Mozaic

jaaku-1 近年、これほど邪悪なCDに出会ったことはありません。そりゃ、かなり酷い演奏はありましたし、酷い上にジャケットとCDの中身が違っていた粗悪品もありました。しかしこのCDに比べたら、それらなど取り上げるに足らない代物です。とにかく邪悪としか言いようのないCDでありました。本当言えばこのCD、とても期待して購入したのです。それなのに期待を見事に裏切って下さいました。一応3回は聴いたのですが、1回目に聴いたとき、金槌を持ってきて、バランバランにしてやろうか、と激怒した次第です。3度目に聴いて、もはや聴く価値なし、と棚の一番奥の暗い隅にほっぽり投げました。

 どこが邪悪なのか? このCDにはL.Bernsteinの「ウエスト・サイド・ストーリ(WSS)からのシンフォニック・ダンス」が含まれております。John Mustoという方が、純粋な2台ピヤノのために編曲した作品です。恐らくこの編曲では、世界初録音になるはずです。大変に期待して、楽譜を見ながら聴き出しました。すると・・・突然、強烈な省略が! 何で、ここでいきなり音楽がなくなるんだっ!???。楽譜で言うと、とんでもない先の所まで、いきなり飛んでしまうのです。聴き進むにつれて、こうした箇所があちこちに。結果、全体で見ると半分以上の音楽を端折って録音してあります。これでは「WWSのシンフォニック・ダンス」ではないっっっ!!

 この曲は、確かにいくつかのダンスシーンの音楽で構成しています。しかし、終止線が引かれているのは最後の小節だけ。全体でひとつの音楽です。それがズタズタにされ、曲の長さにして半分以下になっている。こうなるともう、省略の範囲を超えて、悪質な端折りです。音楽の体をなしておりません。あまり酷かったので、カットされた小節の数を勘定するのも嫌になりました。ここまでくると、「演奏が、どうのこうの」といったレヴェルではありません。曲に対する冒涜以外の何物でもない! こんなのを聴いたら作曲者は泣くでしょう。Bernstein先生、もしこの録音のことを知ったら、墓の中で泣くか激怒するでしょうね。きっと今頃、激怒していると思う、絶対に。こんな粗悪な代物を「WWSのシンフォニック・ダンス」として販売するなっ!

 これだけで、頭から湯気が出るほど激怒した、評者でありました。いつも柔和な笑みを浮かべ「仏のかずみ」と言われる評者を、ここまで怒らせた録音は、まずありません。

 さらに、同時収録されているP.A.Graingerの「ポーギーとベスによる幻想曲」を聴いて、評者の怒りは頂点に。ここでも、音楽がズタズタにカットされていて、曲の体をなしていません。この曲、Grainger自身が「ここはカットしてもいいよ」という指示を楽譜に加えてあるのですが、この演奏のカットは、そんな程度ではありません。ボコボコに穴が空いて、半分以上が破れてしまった障子みたいな代物です。ここでも怒りのあまりカットした箇所を楽譜にチェックしなかったのですが、音楽が全体の半分程度に縮められております。これは酷いですね。邪悪です。冒涜です。ある種の犯罪です。こんな演奏を聴かされた購入者はたまったものではありません。「こんなもの商品にするな」、というのが正直な感想です。これでも聴いてから数ヶ月経って、怒りが収まってから書いております。聴いた当初の怒りと言ったら・・・言葉では言い尽くせません。

 で、これ、演奏者の責任ではないでしょう。演奏自体は、そう悪いものではないのですよ。ややアンサンブルとタッチに荒さは見られるものの、「若々しい演奏」と割り切って聴けば、楽しく聴ける演奏です。問題は曲の収録の仕方。これ、プロデューサの責任でしょうね。演奏者がこんな粗悪な代物を商品にしたなどとは信じたくありませんから。ここまでくると、プロデューサの指示に従わざるを得なかった(であろう)演奏者が可哀想になりますね。で、プロデューサは誰かしら?・・・と添付資料を隅から隅まで読んだのだけど、名前がないっ! 実に卑怯です。もう2度とこの「Musicians Showcase」という会社のCDは買いません。皆さんも、この会社のCDを見かけたら、触れないようにいたしましょう。

【参考情報】演奏者:Yuki & Tomoko Mack、CD番号:Musicians Showcase MS 1038

●ここまでダレるかぁ?:Peggy Abbott & Patrice Williams, Music for Two Pianos

jaaku-2 邪悪な演奏は1枚だけにしておこうかな、と思ったのですが、折角ですのでもう1枚。こちらは演奏そのものに問題ありの代物です。

 ペットボトルに半分残ったコカコーラを思い切り振って、キャップを空けた上、半日日向に置いていおた代物を、ぐいっと飲んだような1枚です。あるいは、真夏の熱帯夜、東京・大手町の端っこのドブ川のほとりを歩くような雰囲気の。とにかく演奏がダレ切って腐っているっ! 正直言ってここまでダレた演奏は---実際のライヴではありますよ。同じくらい、あるいはもっと酷いのが---少なくとも録音レヴェルでは聴いたことがありません。収録曲は魅力的。B.Bartokの「ミクロコスモス」(2台版)や、R.R.Bennettの「4つの小品組曲」などが入っていて。S.Rachmaninoffの「組曲第2番」も入っています。

 これらが、「どうやったら、こんなダレダレの演奏になるのだろう」と不思議に思うくらいに澱んだ演奏になっているのです。中学校の学芸会以下です、これは。それとも、一種のパロディで、このCDを作ったのかしら? もしそうだとしたら、パロディにも達していない酷い代物です。これは、プロデューサと演奏者、両方とも犯人ですね。とにかく「3回聴いて、もう結構」。特に録音の少ないBennettの「4つの小品組曲」を、こんな酷い演奏で聴かされた日には、たまったものではありません。もし初めてこのCDでこの曲を耳にする人がいらしたら、それは大変に不幸な方です。こんなかたちで作品を紹介されるBennettも不幸な方ですね。本当は、こんな退屈でダレた曲ではないのに・・・。おい、演奏者。録音数の少ない曲を世に紹介するなら、もっとまともに演奏に取り組んで、録音に臨めや・・・こう言ってやりたい心境です。皆さん、このCDを買うのは、絶対に止めましょう。恐いもの見たさの方は別ですが。一応警告しておきます。

【参考情報】演奏者:Peggy Abbott & Patrice Williams、CD番号:何処にも書いてない(卑怯者!)

                                       (2001年12月27日記)



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(c) Kazumi & Yumiko TANAKA 2001