ごく最近まで生存していらっしゃったお方です。しかし、残念ながらお目にかかったことはありません。どちらかというと、管弦楽曲や室内楽曲が有名ですが、素敵な連弾/2台ピヤノのための作品も残していらっしゃいます。
とてもエレガントな小品集。Renoirが子供を題材にして描いた作品を連弾曲として表現した15曲で構成します。ただし、安手の描写音楽ではありません。あくまでも絵画から受ける印象を音としただけ。S.Rachmaninoffの「死の島」(Die
Toteninsel)や、M.Regerの「ベックリーンの絵による4つの音画」(4 Tondichtungen
nach Arnold Bokline)と同系列の作品と言えましょう。その意味で、作品の質は高いですね。
流麗な曲でピヤノ書法上も、まったく無理はありません。連弾曲としても、非常に弾きやすい部類に入るでしょう。演奏会で取り上げても、すてきなステージを作ることができるでしょう。技術レヴェルで見ると、両奏者ともに、ソナチネ・アルバム修了程度で十分に弾きこなせます。プリモは、バイエル50番程度の技術でも、初見で弾ける曲もあり、初心者の発表会でも活用できそうです。弾いていて、とても楽しいですよ。
・・・でもね・・・どこか“毒々しい”のですね。具体的にそれを指摘するのは難しいのですが、題材となったRenoir作品の持つ、ある意味での“どぎつさと毒”を、如実に曲へと反映させているのです。ある友人がこの作品を「毒のある花」と表現していましたが、言い得て妙です。強いて言えば、和声面で“毒”を感じます。
ちなみに、この曲、旋律はほとんどプリモが担当します。セコンダは伴奏一辺倒。セコンダにとって、はっきり言って苦労ばかり多い、損な作品です。
なお、表紙にはRenoirの「Au piano」(ピヤノに向かって)が印刷してあるのですが、粗悪な刷りのため、不気味さが拡張されています。あの「シェーンベルクの表紙」ほどではありませんが、あまり心地よい表紙ではありません。はっきり言って、センスなし。
また、各曲の冒頭には題材とした絵画が印刷してあるのですが、粗悪なモノクロ印刷のため、単に不気味なだけです。楽譜の印刷自体は丁寧で綺麗なのですが、この「絵」は、ちょっと頂けません。せっかくの作品が台無し。そう、楽譜全体から“毒々しさ”を周囲に発散しているのです。
全体の構成は、以下の通りです。
1 | スプーンを持つ赤ん坊 | Le bebe a la cuiller | ハ長調 Andantino |
2 | ブルターニュの娘 | Jeune Bretonne | ハ短調 Moderato |
3 | 梳る娘 | Adolescente se peignant | ト長調 Andantino con moto |
4 | 読書をする少女 | Fillette lisant | ニ長調 Andante misterioso |
5 | 2人の姉妹 | Les deux soeurs | 変ロ長調 Allegro |
6 | ルクサンブール公園にて | Au jardin du Luxembourg | ヘ長調 Tempo di Marcia |
7 | 青い帽子の少女 | Fillette au chapeau bleu | ハ長調 Andantino |
8 | 花束を持つ少女 | Fillette a la gerbe | ト長調 Presto |
9 | カーン・ダンヴェル嬢 | Mademoiselle Cahne D'anvers | ト短調 Andantino mesto |
10 | 小さな漁師 | La petite pecheuse | 変ロ長調 Vivo assai |
11 | 青いリボンのグランベル嬢 | Mademoiselle Grinpreil au duban bleu | ニ長調 Allegro gracioso |
12 | ピヤノに向かって | Au piano | イ長調 Moderato di Valse |
13 | バラ色の羽根飾りの帽子をかぶった少女 | Fillette au chapeau a plume rose | ト長調 Andantino |
14 | シャルパンティエ夫人の子供達 | Les enfantes de Madame Charpentier | ハ長調 Allegretto simplice |
15 | 下級生 | Le petit collegine | ヘ長調 Vivacissimo |