フローラン・シュミットの作品
Florent Schmitt
(1870〜1958)

わたしたちデュオの片割れ(下手な方)が大好きな作曲家です。作品の色彩感と、ラヴェルを「拡張」したような和声の扱い、緊張感、そして流れるような旋律が、どの曲でも魅力です。「サロメの悲劇作品50」(La Tragedie de Salome, Op.50)が最も有名(なよう)ですが、他にも魅力的な作品がいっぱい。こちらに挙げた連弾曲はもとより、交響的協奏曲やピヤノ5重奏曲なども素敵です。でも、いつも、楽譜とCDの入手に時間がかかるのですよね。

結構たくさんの連弾曲とピヤノ2重奏曲を残しています。レパートリーとしては「穴」ですね。楽譜の入手も時間はかかりますが、結構確実に取り寄せることができます。自作の管弦楽曲などを連弾曲に編曲している点も魅力です。


☆ 旅のページ 作品26 ☆
Feuillets de Voyage
作曲年代:1913
連弾オリジナル
演奏形態:れんだん
参照楽譜:Kalmus
参照CD:残念ながら全曲のCDは出ていません

ちょっと地味ですが、演奏効果は上がります。10曲ある小品を全部引き通しても、弾く側も聴く側も、飽きないでしょう。もちろん、中から1曲だけ、あるいは数曲を取り出して演奏しても、まったく差し支えありません。

1つの曲の中で、かなり頻繁に転調があります。それが実に爽やかに響くのです。しかもダイナミック・レンジが非常に広い。

ただし、初心者向けの曲はありません。おまけに、連弾によほど慣れていないと、あちこちでボロが出そうです。交差はあまりありませんが、両奏者の手が頻繁に接近します。フローラン・シュミットの曲は、どれもそうですが、この曲も両奏者がべったり寄り添わないと、弾きづらいですよ。合奏のテクニックがかなり要求されます。わたしたちは、片方に技術的な無理があるので、しばらくは「お預け」状態です。




☆ ドイツの思い出 作品28 ☆
Rrflets d'Allemagne
作曲年代:1905
連弾オリジナル
演奏形態:れんだん
参照楽譜:Kalmus
参照CD:一部がCDに収録されていますが未試聴

楽譜をご覧になればすぐにわかりますが、8曲の全部が3拍子系。ワルツかレントラーです。それでも各曲で表情が異なるので、通しで弾いても/聴いても楽しめます。上記「旅のページ」と同様に、何曲か取り出しても、楽しいプログラムが組めるでしょう。どの曲もドイツまたはオーストリアの都市名が表題としてついていますが、「リューベック」「ヴェルダー」「ドレスデン」の3曲は、素人にも楽しんで弾ける曲です。それでも、やはり、2人の手がしょっちゅう接触するのですよね。これ。他の曲を弾くために必要な技術レベルは、ソナタアルバム終了程度でしょうか。加えて、かなりの合奏技術が要求されます。「連弾」と言う面で見ると、中/上級者向けですね。それから、表題は「ドイツの思い出」ですが、ちっともドイツぽくない。他国の人が、無理してワルツを書いたような雰囲気です。各曲の構成は、以下の通りです。

1 ハイデルベルク Heidelberg ロ短調 Anime
2 コブレンツ Coblentz 変イ長調 Un peu lent
3 リューベック Lubeck イ短調 Moderement
4 ヴェルダー Werder ホ長調 Un peu attarde
5 ウイーン Vienne ト短調 Avec violence et agitation
6 ドレスデン Dresde 変ロ長調 Simplement et sans lenteur
7 ニュルンベルク Nuremberg 変ニ短調 Pas vite
8 ミュンヘン Munich ト長調 Tres vif

楽譜の出来は、いまひとつ。印刷があまりよくないし、めくりずらい。何度かめくっていたら、半分からぱっくり2つに裂けました。わたしたちの手にしている楽譜は、同じ作曲者の「眠りの精の1週間(ヤルマールの夢)」と合本です。

 



☆ サロメの悲劇 作品50 ☆
La Tragedie de Salome
作曲年代:1907〜1910
原曲:管弦楽と女声合唱
演奏形態:れんだん
編曲者:作曲者
参照楽譜:Durand
参照CD:連弾版はありません
(参考:管弦楽版)「La Tragedie de Salome/ Psaume 47」
Marek Janowsky,Orchestre Philharmonique & Choeurs de Radio France
MusiFrance 2292-45029-2

この作曲者の作品中、最も有名な曲でしょう。原曲の管弦楽と女声合唱による演奏は、生ならもちろんCDなどでも、一度聴いたら忘れられない、印象深い曲です。流れるような旋律と、目眩く展開されるオーケストレーション。作品の完成度は非常に高く、密度も高い曲。個人的にも、本当に好きな曲です。

その管弦楽曲を連弾化したのが、この編曲。編曲としては、単に管弦楽を連弾に直したレベルをはるかに超えて、立派な連弾作品に仕上がっています。

全曲を通じて弾くには個々の奏者に、かなり高度なテクニックが必要です。単に指が動くだけでなく、相当高度な表現力も要求されます。合奏のテクニックも、併せて必要です。

試しにわたしたちは、もっとも平易な「プレリュード」から手がけてみたのですが、まず「下手くそな方」がノックアウト。弾けないことはないのですが、合奏がきわめて難しい。旋律が2人/4本の手の間で、頻繁に受け渡されます。接近はもとより、交差も頻繁。

それ以前に管弦楽を耳にした色彩感が、わたくしたちの頭の中に残っております。それをピヤノで再現するのは無理なので、逆に徹底的にピヤニスティックな表情付けが必要だと分かりました。

…と言うわけで、わたくしたちは折角楽譜を入手したのに、練習を中断してしまいました。でも、楽譜は無駄になっていません。管弦楽版を聴きながら参照して、ああでもない、こうでもない、と楽しむことができますから。それに、誰に聴かせるわけでもなく、個人的に遊ぶ分には、ずっこけながらも、とても楽しんで弾いています。そうした面では、十分に楽しめますよ。

もちろん、わたくしたちも両方が「きちんと弾ける方」並のテクニックがあれば、あきらめずにきちんと挑戦するのですが。わたくしたちにとってこの曲は、今後の課題となりました。

腕に自信のある連弾コンビの方、挑戦してみては如何でしょう?




☆ 5つの音で 作品34 ☆
Sur cinq notes
作曲年代:1906
演奏形態:れんだん(オリジナル)
参照楽譜:Eschig
参照CD:残念ながらありません

実に繊細で洗練された小品集です。8曲で構成しておりますが、どの曲も流麗な旋律が特徴。各曲の内容も、非常に充実しています。旋律を十分に歌わすことができれば、弾き手も聴き手も、楽しむことができるでしょう。大ホールでのコンサートに持ち出しても、立派に鑑賞に耐えられる作品です。

ただし、セコンダが不満を持たなければ、という条件付きですが。

タイトル「5つの音で」(Sur cinq notes)にあるように、プリモは右手・左手ともに1つのポジションから動かさず弾くように出来ています。単に技術面で見ると、バイエル修了程度でも十分に弾きこなすことができるでしょう。しかも、魅惑的な旋律はみな、プリモが受け持ちます。

一方のセコンダは・・・これが結構難しい。超絶技巧ではありません。あくまでもプリモと比較してのことですが。かなり大きな跳躍(第1曲「ロンド」、第5曲「ピレネーの踊り」)や、こまかい16分/32分音符の連続で「流麗な伴奏」だけをつける(第4曲「ゆりかご」、第7曲「パストラール」)、まことに音を掴みづらいワーグナー張りの半音階進行(第3曲「マヅルカ」、第6曲「メロディー」の後半、第8曲「ファランドール」の後半)、だるい伴奏だけが続いたり(第2曲「舟歌」)。おまけにプリモの左手とセコンダの右手が頻繁に接近し、弾きづらいことおびただしい。ペダルもかなり踏み換えをうまく処理しないと、あっという間に音も和声も濁ります。「澄んだ水には魚は住みづらい」とも言いますが、この曲が濁ったら聴くに耐えません。

すなわち、「美味しい」ところは全部プリモ、セコンダは裏方で苦労するだけ。演奏負担の比率は、プリモを1とするとセコンダは4くらい。よほど仲良しのデュオ、師弟連弾など「片方をもう一方が明らかに支えなければならない」という意識のあるデュオ、あるいは「この曲を演奏する」と割り切って各自のパートに専念したうえでアンサンブルを作り上げようとするデュオでないかぎりは、あまりお勧めできません。途中で争いを起こしたり、練習がもとで感情的な対立が生じても、責任は持ちません。

なお、この楽譜。丈夫でめくりやすいのは良いのですが、印刷が極めて悪い。あちこちかすれたり、不鮮明だったり。最初に版を作った1907年から、一度も作り直さず、そのまま印刷しているのか、と疑ってしまいます。そのため、読みにくいと言ったらありません。そのくせ、1冊4000円もする。曲は素敵ですが、楽譜は極悪非道です。



☆ 眠りの精の一週間 --ヤルマールの夢-- 作品58 ☆
Une semaine du petit elfe ferme-i'oeile -- Les songes de Hialmar-- OP.58
作曲年代:1913
演奏形態:れんだん(オリジナル)
参照楽譜:Kalmus
参照CD:残念ながらありません

 この作曲者のオリジナル連弾曲としては、最高傑作とも言うべき逸品。非常にピヤニスティックで、陰影に富んだ響きが魅力的です。曲のタイトルはアンデルセンの童話をもとにしています。

 同じ作曲者の「5つの音で」と同様に、プリモは両手とも、1ポジションで弾けるようになっています。ただし、プリモは左右の手が完全に独立して動くため、必ずしも易しくはありません。さらに連弾研究の第一人者である
松永晴紀氏が指摘するように「1ポジションという指定に従うと、急速な連打の場面で、かえって不自由になる」箇所があるなど、なかなか手強い難曲です。

 フィナーレを除くと、プリモはそれほど難しくはないのですが、音の粒立ちを綺麗に出そうとしたり、ダイナミクスやポリフォーニーの響きに工夫を凝らそうとすると、結構厄介です。フィナーレは、文字通り難曲です。楽譜の指定通りの運指で弾いてみましょう。そうすると、これは完全に「体育会系」の世界であります。苦行・苦難、修行以外の何物でもありません。腕に自信のある方、あえて指定通りの運指で弾いてみては如何でしょう?

 一方のセコンダは、大きな跳躍やオクターヴのパッセージが続出。ペダルの操作も、相当至難なものが要求されます。かなり上手に踏み変えないと、音が濁って、とても汚く聞こえます。「思った通りのテンポで弾こうとすると、このセコンダは相当に厄介。一筋縄では行かない」(ピヤニスト・豊岡正幸氏)。

 大変に華麗で素敵な曲ですが、全曲を完全に弾き通そうとしたら、両奏者ともショパンのエチュードが完全に弾きこなせるくらいのテクニックが必要です。加えて、「連弾演奏」に関する「慣れ」も必要です。わたくしたち夫婦も「挑戦」してみましたが、豊岡氏の指摘通り「一筋縄」では弾きこなすことができず、現在ペンディング状態です。楽曲の構成は以下の通り。

1 ハツカネズミの婚礼 La noce des sourie イ長調 Anime
2 疲労したコウノトリ Le cigogne lasse ニ長調 Lento
3 眠りの精の馬 Le cheval de Ferme-o'eil イ短調 Assez anime
4 人形「ベルテ」の結婚式 Le mariage de la poupee Berthe ト長調 Paisible
5 不揃いな文字のロンド La ronde des lettres boiteuses ニ長調 Anime, sans exageration
6 絵画の中の散歩道 La promenade a travers le tableau (フリギア旋法) Tres lent
7 中国の傘 Laparapluie chinois 嬰ヘ長調 Assez anime