別宮 貞雄の作品 
Sadao Bekku
(b.1922)

わたくしたちデュオの片方(下手くそな方)が、大好きな作曲家。氏の作品に接すると、どこかにフォーレ、フランク、そしてラヴェルの香りを感じるのは気のせいでしょうか? しかし、それはあくまでも「香り」の範囲。わたくしを引きつけるのは、この作曲家自身の魅力です。初期の「フルートとピヤノのためのソナタ」「管弦楽のための2つの祈り」から始まって、抜群の魅力溢れる「ピヤノ協奏曲」「ヴィオラ協奏曲」「南日本民謡による3つのパラフレーズ」・・・。どれも、何度聴いても飽きません。


☆ 北国の祭り--ピアノ4手連弾のための「日本組曲第2番」☆
Festa in the North -- Japanise Suite No.2 for Piano by 4 hands
作曲年代:1989
演奏形態:れんだん
原曲:連弾オリジナル
参照楽譜:全音楽譜出版社
参考CD:残念ながらありません

 実にピヤノスティックな魅力に溢れたコンサート・ピース。3つの小品で構成。いずれも東北地方の民謡を主題として扱っています。第1楽章は「えんぶり」(陸奥三戸)と「酒盛唄」(羽前最上)、第2楽章はおよび第3楽章は「秋保田植踊」(陸前名取)の、それは素敵なパラフレーズ。3楽章連続の演奏はもとより、個別の楽章を気軽なアンコール・ピースとして取り出して弾いても、素晴らしい演奏効果があります。

 この作品、元々の民謡を「かなり生のまま」扱っているにも関わらず、素晴らしくピヤニスティック、かつ作曲者の醸し出す「独自性」に満ちあふれている点が何と言っても魅力。同じ作曲者のピヤノ独奏作品「南日本民謡による3つのパラフレーズ」(全音楽譜出版社・刊)と通じるところがあります。ただし、日本の民謡を主題に使った安易な管弦楽作品(どちらの方々の作品とは、あえて言及しません)などとは、明らかに一線を画します。一見「生」のように主題を扱いながら、ピヤノ(しかも連弾)の持つ表現の可能性を極限まで引き出しているのです。この作曲者の手腕を存分に発揮した逸品と言えましょう。

 ピヤノ曲としての完成度は非常に高く、弾きにくい点は全くありません。通常の後期ロマン派作品を弾く感覚で十分に弾くことができます。しかも、見事なまでに両奏者の交差がまったくありません。ただし、接近は頻繁で、演奏には綿密な打ち合わせが必要でしょう。ペダリングにも、相当な工夫が要求されます。

 ちなみにこの作品、あの「Duo Crommelynk」の委嘱作品。同デュオに献呈されています。わたくしたち、この作品をコトコトと弾いていて、いつも思うのです。この魅力的な作品を、あのDuo Crommelynkはどのように弾いたのか、と。残念ながら、わたくしたちはDuo Crommelynkの演奏するこの作品を聴くことができませんでした。CDも出版されていません。きっと、涙が零れるような、それは素敵な演奏だったことでしょうね。