不幸なお方です。親しみやすい素敵な作品をたくさん書きながら、その作品群が演奏されることは殆どありません。演奏される曲も「森のスケッチ 作品51」、そして壮麗な「ピヤノ協奏曲第2番 作品23」など、ごく少数に限られています。しかも前者の「野薔薇に寄す」だけが飛び抜けて有名で。あまりに偏っています。現在演奏される彼の作品は。でも、もっともっと演奏されて良い作品がたくさんあります。その一端を、少しでもこちらで紹介できたら、と考えております。
次の作品番号がついている作品21「月の絵・・・ハンス・クリスチャン・アンデルセン:絵の無い絵本による」と並び、マグドウエルの傑作連弾曲です。叙情性とダイナミクスを兼ね備えたこの曲は、コンサートにおける第1曲目を飾るに相応しい曲です。この曲をダイナミックに弾ききったら、大受けすること間違いなしでしょう。
連弾曲というと目立つのはたいていプリモ。ところがこの曲、第1曲「海の夜」では、一貫してセコンダが旋律を受け持ちます。その旋律の上でプリモがさざ波のような音型を奏でます。第2曲「騎士の時代の物語」、第3曲「バラード」では、輝くプリモが活躍しますが、セコンダも必ず旋律を受け持ちます。非常に民主主義的な曲です。
両奏者の手が接近するところはありますが、連弾に慣れていれば、さほど弾きにくくはありません。各パートともに、非常に素直に書かれております。ただし、プリモの右手は10度が楽に届くことが必須。加えて、意外と音が厚いので、各声部の音量配分がかなり厄介。ペダリングも相当考慮しないと、音が濁って澱んだ演奏になってしまいます。特にプリモの右手が歯切れ良くないと、腐った梨のような曲になってしまうのが要注意です。
なお、Belwin版楽譜の校訂は、連弾教布教者上級使徒である、あのMaurice Hinson大先生であります。