このD.E.Inghelbrechtという方。作曲家というより、指揮者としての方が有名ですね。フランス歌劇、特にDebussy「ペレアス」の演奏では定評があるようです。「・・・あるようです」としたのは、同じ「ペレアス」でも個人的には、Karajan+Berlin
po.の演奏が、圧倒的に気に入っているから。Karajanの演奏を聞いてしまうとInghelbrecht版は、どうしても「もやもや感」が残ってしまいます。まあ、これは、好きずきでしょうけれど。
子供部屋。弾いていて、聴いていて、実に楽しい! 大ホールでの演奏会はもとより、発表会やホームパーティ、子供向けの演奏会、高齢者在住施設の慰問など、さまざまなところで使える「名曲」です。もちろん連弾のレッスンにも最適!
6巻各6曲、計36曲の小品で構成しています。すべて主題は、フランスに17〜19世紀から伝わる子供の歌。どれも可愛く、親しみやすい旋律です。その可愛い旋律を、原曲の持つ微妙な愉悦を完全に残しながら、素敵なコンサート・ピースにしたのが、この曲です。驚くほどエレガントで、叙情性もたっぷり。素朴な旋律を、G.Faureを多少M.Ravel側に拡張した和声とピヤニズムで彩って、時に清純に、あるいは華麗に展開します。そしてすべてのシーンで、繊細さと上品さが失われることはありません。連弾の演奏会で、プログラムに彩りを添えるには、もってこいの曲集です。
6曲づつ束になっています。この6曲をひとまとまりにして、続けて弾くと、あれ不思議。起承転結のある、素敵な組曲になります。また、任意の曲を任意の順序で選択しても良し。あるいは、計36曲の中から、任意の曲を任意の順序で弾いても良し。1曲だけ取り出して弾いても良し。実に使い出のある小品集です。
ただし、曲本来の持つ繊細さと典雅さを上手に出そうとしたら、かなりの考察が必要です。また、リズムの変化--4分の3/4分の4/8分の6/4分の2・・・のように、1小節ごとに拍数が変わる箇所もしばしばと。拍が次々と変化しながらも旋律は滑らかに続く・・・。ある程度のリズム感覚と、複雑な和声の中から旋律を上手に浮かび上がらせるテクニックが要求されます。各奏者に要求される技術レヴェルは、ソナタ・アルバム修得中〜修了程度でしょう。合奏のレヴェルとしては、Faureの「ドリー」をちょっと難しくした程度です。大きな交差はほとんどありませんが、手が異常接近したり旋律の受け渡しが頻繁なので、両奏者の緊密な連携が必要です。また、あまり突き詰めて「外科手術」的に、精密に演奏しても、面白くありません。ある程度、「こころのゆとり」が必要です。このあたりの兼ね合いが、演奏上で最も難しい点かも知れません。
楽譜は6分冊。第3巻のみLeduc。その他5冊はSalabertです。なおSalabert版は、何カ所か不鮮明な印刷と、不適切と見られる記述があるため、演奏に当たっては詳細な検討が必要です。時には致命的な欠陥も。例えば第5巻の終曲「Malbrough」--この曲のテーマはBeethovenの交響曲「ウェリントンの勝利」に出てくるので、聴けば一発で「ああ、これかぁ!」と分かります--で、練習番号「I」、プリモの1小節目/1拍目のG音。本来なら「#」が付くはずなのに、見事に#が抜け落ちています。「楽譜通り」に弾くと雰囲気をぶち壊すくらい、汚い音になります。こうした箇所があるので、要注意です。
ちなみに最近、全音楽譜出版社は2巻に分けて、この曲を出版しました。歓迎すべきことです。また、原著で気になった記載も、ある程度「直して」いるようです。全音が出版した分は、第3巻を除く30曲です。実はこの第3巻の中に、36曲の中では最も有名な「Sur
le pont d'Svignon(アヴィニオンの橋で)」が含まれています。穏やかな叙情と舞い上がるような煌めきを兼ね備えた逸品が。版権の関係で、第3巻が組み込めなかったことは仕方がないかも知れません。しかしながら、日本でもとても親しまれている旋律を素材とした作品が、一連の曲中には含まれていることに言及すべきでしょう。