アレンスキの作品

Anton Arensky
(1861-1906)

 

このお方、親しみやすい素敵な曲をたくさん書いているにも関わらず、音楽史の裏方に回ってしまっています。時代背景を考えれば、いたしかたのないことかも知れません。しかしながら、連弾やデュオという側面からは、もっともっと光が当たって良い作曲者でしょう。


 
☆ 子供のための6つの小品 作品34 ☆
6 Pieses Enfantines
作曲年代:1894
連弾オリジナル
参照楽譜:Forberg,全音

 

 この作品、タイトルで損をしています。「子供のための〜」としていますが、聴いていて聴き応えはあるし、弾いて演奏効果も上がります。決して「子供だけの」作品ではありません。逆に、旋律や表情の作り方を考えると、ガキどもがこの作品の真価に迫る演奏をできるとは、ちょっと考えられません。仮に指が回ったとしても。

 日本の出版社が出す「子供の××」で、一般の演奏会に乗せられるような楽譜がありますか? ただ単に「子供が弾ければいいや」というレヴェルの楽譜がほとんどです。そうしたいい加減な作品とタイトルだけ似ているところで、この美しい小品集を捉えてしまったら、作曲者にたいして失礼極まりない行為です。

 プリモとセコンダの交差は皆無です。とりわけ弾き辛い接近もありません。その意味で、連弾の入門曲としても最適でしょう。そして、作品としても充実しています。なお、第3曲の「涙」が、4分の5拍子であるため「弾きにくい」との意見もあるようですが、それは「慣れ」の問題でしょう。変拍子と言うほど大げさなものではありません。

 なお、アレンスキの曲としては、複数の出版社から出ている曲です。わたしたちは大昔からあるForberg版(Jurgenson版)を参照しています。最近国内でも全音が出しました。全音版は巻頭言で、オリジナルに対する校訂のポイントを書いています。そこには「・・・作曲者の書き落としや彫版作成上の明らかな誤りと断定できるものは、特記することなく補足修正を行った」とあります。

 そこで校訂者の一人である角野裕・先生に「折角だったら、もっと詳細に校訂したポイントを明記されれば良かったのに」とお話ししました。角野先生は「1種類の初版本を詳細に検討しての校訂は、どこからどこまでを校訂し、さらに校訂した箇所に関して“ここを、このような理由で、このように直した”と楽譜に記載するかは、悩みどころ」とのことでした。それこそ、校訂の細部まで理由を記述しようとすると、膨大な“論文”ができあがってしまうからです。そこで校訂ポイントに関する記述を、楽譜の出版目的に添って必要最小限にしたとのことです。なお角野先生による校訂版のページ割は、Forberg版と、ほぼ同一です。

 楽曲構成は以下の通り。

おとぎ話 Conte ト短調 Andantino
かっこう Le Coucou ニ長調 Allegro
Les Larmes ヘ音を主音とするフリギア調 Andante con Moto
ワルツ Valse ヘ長調 Allegro non troppo
子守歌 Berceuse ハ長調 Andante Sostenuto
ロシヤの主題によるフーガ Fugue sur un Theme Russe ニ長調 Allegro Moderato

 不思議と録音も少なく、演奏される機会も少ないこの名曲。少しでも「ロシヤ・モノ連弾」「ロマン派連弾」にご興味のあるかた、演奏会や発表会で取り上げてみては如何でしょうか?


 
☆ ピヤノの為の組曲 第2番 「シルエット」 作品23☆
Suite No.2 Silhouetten Op.23
作曲年代:1892
2台ピヤノ・オリジナル
参照楽譜:Forberg

 

 ロシヤ音楽界としては、Rachmaninoffに先駆けて「2台ピヤノのための組曲」を、何と5曲も残したアレンスキ。ところが「絶版の嵐」で、現在容易に入手可能なのは、第1番と第2番のみ。残念なことに、第1番がかなり著名で演奏の機会も多いのですが、負けず劣らずの魅力に溢れた第2番が、圧倒的に演奏回数が少ないのは、残念な次第です。こじんまりとまとまった第1番より、遙かに表現の幅が広い、それは素敵な第2番なのに。

 もっとも、この第2番の楽譜も、最近まで入手困難でした。出版元の「Forberg」がしばしば「品切れ」を起こし、実質上の絶版状態にあったことも、この素敵な曲の普及を妨げる要因の1つとなっておりました。98年に「全音楽譜出版社」が、この曲を日本国内で出版致しました(注:我々は中身を詳細に見ておりません)。

楽曲構成

学者 Le savant ハ短調 Moderato assai
コケット La coquette ハ長調 Allegretto
道化 Polichinelle ホ長調 Vivace
夢見る人 Le reveur 変イ長調 Moderato assai
バレリーナ La danseuse ハ短調 Allegro non troppo


 さて、曲のどこをとってみても、非常に魅力的です。でも1曲だけ取り上げて見るとなると、第4曲「夢見る人:Le reveur」が、圧倒的に素晴らしい。第1ピヤノの変イ長調による静かなモノローグで開始。11小節目から第2ピヤノが模倣して追従します。


 圧巻は36−37小節目以降。第1ピヤノが奏でるアルペジオの上に、第2ピヤノの旋律が覆い被さり、クライマックスを迎えます。数ある2台ピヤノ曲の中でも、非常に印象に残る一瞬です。



 非常に高度なアンサンブル能力が要求される箇所ですが、楽譜を見るだけでも「そそられて」しまいますね。