オリジナルはダイナミックな管弦楽曲。それを作曲者自身(と楽譜に書いてある)が見事なまでに連弾に編曲してあります。そのピヤニスティックな魅力は、単なる編曲の域をはるかに脱しています。そして作品自体、浪漫的で幻想的な魅力に溢れています。ピヤノ協奏曲第2番および3番や、交響曲第2番、2台のピヤノのための組曲第2番、チェロ・ソナタ、といった作品に見られる完成度には一歩譲ってしまいますが、伸びやかさと奔放な息吹が聞こえます。手がけて損はない曲でしょう。
主要な旋律は、プリモが受け持ちます。ただし、上から降りてきた旋律を自然に引き取って低音部に流す、という、2奏者の完全連携が随所に要求されます。各奏者に要求されるテクニックは、さほど難しいものではありません。ラフマニノフの作品の中では、むしろ易しいものと言って差し支えないでしょう。「ご家庭で管弦楽曲を楽しむ」という用途ならば、即座に応えられ、十分に楽しめる作品です。両者の手の接近・交差もそれほど多くなく、うまく相談すれば容易に回避できるものばかりです。ペダリングにさえ気を配れば、とても楽しく弾ける作品です。それに、手が大きくなくても弾ける点が、魅力です。わたしたちデュオの「ちゃんと弾ける方」は、手が比較的小さいのにも関わらず、この作曲家のプレリュードやエチュードに挑戦しました。その結果、手を完全に壊してしまったのです。この「幻想曲」は、そうした心配がない点も魅力です。
しかし演奏会や発表会に持ち出すためには、一工夫が必要です。演奏時間にして14分前後。気を抜くと、散漫な演奏になってしまいいます。曲全体にメリハリをつけることが不可欠でしょう。そして、何カ所か音が厚くなるところがあるので、各奏者の各指における力の配分を工夫することが重要になります。加えてパワーと集中力が必要とされます。2人だけで楽しむなら、これらの配慮はいりませんが、第3者に聴かせようとなると、両奏者にかなりな負担が要求されます。
わたしたちが愛聴しているCDは、永井幸枝さんとDag Achatsさんの演奏です。使用しているのは、わたしたちの手元にあるのと同じ1台用の楽譜ですが、2台に振り分けて弾いています。実に清冽かつダイナミックな演奏です。ただし、2台に分けて弾いているので、当然ペダリングは個別です。1台でこの演奏のような表現をするのは、かなり難しいでしょう。もちろん無理ではないでしょうけれど、相当に入念なアプローチが必要です。
実に壮麗な2台向け編曲。原曲の持つ重厚さ、そして華麗さがいっそう強調されています。ほぼ原曲通りですが、多少音を厚くしてあります。しかも手の小さい人には嬉しいことに、2台に振り分けてあるため、各奏者の弾く音は原曲から「間引き」されています。
また、本来なら1人で弾かなければならない箇所を2人で弾き分けるために、演奏の負担がかなり軽減されているところも。例えば15小節目からのAllegro
molto e agitatoでは、旋律を第一奏者の左手と第二奏者の両手が、装飾の3連符を第一の右手が弾くといった具合。また44小節目からのTempo
Iでは、旋律の低音部を主に第二が、高音部を主に第一が分担し、極端に大きな跳躍を避け、しかも全体で音が厚くなるように、かつ濁らないように工夫がなされております。
切れの良い演奏で聴いたら、気持ちがいいでしょうね。内輪で遊ぶにも、十分楽しい編曲ですよ。