ゴドフスキの作品
Leopold Godowsky
(1870〜1938)

 

 19世紀末から20世紀前半にかけて活躍した大ピヤニスト。ピヤニストとしての活動に加えて、「超絶技巧」を駆使した作曲、編曲でも著名。現在もっとも有名なのは「ショパンの練習曲による53の練習曲(全5巻)」(53 Studies on Chopins etudes:1893〜1914)でしょう。このあたりの「超絶曲」に関しては、「超絶技巧ピヤノ医師・夏井さんのページ」で、詳しく紹介されています。

 しかし、その大ピヤニストが、とても可愛い連弾曲を、ごっそりまとめて作曲していることは、現在ほとんど知られておりません。わたくしたちも文献では知っていたものの、実際にゴドフスキの連弾曲に出会って弾いてみて、その魅力に驚いた次第です。



 

☆ ガヴォット -- ピヤノ連弾のためのミニアテュールから ☆
Gavotte from Seven Ancient Dance : Miniatures for piano, four-hands
作曲年代:1918
連弾オリジナル
演奏形態:れんだん
参照楽譜:Carl Fischer

 連作ピヤノ連弾曲集中の1曲。連作集「ピヤノ連弾のためのミニアテュール」は、(1)第1組曲、(2)第2組曲、(3)第3組曲、(4)古代の舞曲、(5)現代の舞曲、(6)さまざまな小品——の全6集46曲で構成します。この「ガヴォット」は、「古代の舞曲」の第4曲です。ちなみにこの曲集は、(1)第1メヌエット、(2)第2メヌエット、(3)リゴードン、(4)ガヴォット、(5)ブーレ、(6)、シチリアナ、(7)アイリッシュ・ジーグ——といった陣容です。

 他の曲は譜面を見ていないのでわかりませんが、この「ガヴォット」はプリモがひとつのポジションで弾けるように設定してあります。そう、右手/左手ともに5つの音で弾けるようにしてあるのですね。それをセコンダのかなり複雑な和声が彩ります。結果的に、非常に“深みのある”曲になっています。フランスのガヴォットというよりは、ポーランド宮廷のガヴォットです。しかも素朴な味わいが魅力的。プリモだけ見ると「これがゴドフスキか!」と驚くほどの単純な譜面(ふづら)なのですが、セコンダと合わせると実にエレガントで可愛い。これは一度手がけてみて、損はありませんね。

 要求される技術レヴェルは、プリモがバイエル50番程度、セコンダがソナタ・アルバム終了程度。ただし、プリモは、楽譜の指定を忠実に守った上で、多少オーヴァー気味の表情付けをしないと、曲は死んでしまいます。テンポもかなり揺れます。また、プリモの左手とセコンダの右手はかなり接近するため、プリモが上手に譲らないと、たちまち「鍵盤上の喧嘩」が発生します。このあたり、要注意です。

 プリモ側には例によってペダリングの指示があります。ところが奇妙なことに、1ページ目にはまったく指示がなく、2ページ目(セコンダ/プリモともに2ページづつで全部)だけ、「これでもかぁ!」というくらいの詳細なペダリング指示が続々と。かといって、1ページ目がペダルなしでいいか、というとそうでもなし。かなり複雑なペダル操作をしないと音が濁り、めちゃめちゃになってしまいます。このペダル指定を譜面に示すとなると、かなり厄介。要は「勝手にやってくれ」ということなのでしょうね(手を抜きましたね、ゴドフスキ先生)。

 …それはともかく、この曲を弾いてみて、ゴドフスキの他の作品も弾いてみたくなった、わたくしたちです。