リムスキ=コルサコフの作品 
Nicolai Rimsky-Korsakov
(1844〜1908)




☆ シェエラザード 作品35☆
Sheherazade after "Thousand and One Night"
作曲年代:1888
原曲:管弦楽曲
編曲:作曲者自編
参照楽譜:Belwin Mills/Kalmus
参考CD:Nouca Era 7205
Stefano Malferrari & Carlo Mazzoli (pf. duo)


 言わずと知れた、この作曲家の代表作です。普段は管弦楽で演奏するケースが殆どですが(当然ですね)、この連弾版も実に素晴らしい作品として出来上がっている点に、まず驚ろきを覚えます。まるで、最初からピヤノという楽器をねらいとして作曲されたかのように。リムスキ=コルサコフの作品と言えば、管弦楽で耳にする機会が圧倒的に多いのですが、連弾・シェエラザードを弾くと、ピヤニスティックな書法も決して不得意ではなかったことを十分に窺うことができましょう。

 譜面だけを見ると、それほど演奏効果が上がらないかのようにも受け止められます。ところが、どうして、どうして。想像以上に煌びやかな響きを鍵盤から引き出すことができます。

 ただし、技術面での難易度は、かなりの高さ。特に終楽章「バグダットの祭り。海。船は青銅の騎士のある岩で難破。終曲」では、両奏者の指がフル回転。
 魅力的な旋律と楽器の特性に、かなりよりかかったオーケストレーションをしている原曲に対して忠実に連弾曲に編曲してあるため、各声部のバランスと音色を相当検討した上で弾かないと、旋律が音の渦のなかに巻き込まれてしまい、せっかくの演奏が単なる「音の塊」になってしまいます。このあたり、交響曲や管弦楽の連弾版を弾くときには、必ず留意すべき点なのでしょうけれど、この曲は通常以上に気を配る必要があるようです。

 しかしながら、ピヤノで管弦楽を再現する、ということは止めた方が無難です。むしろ徹底的にピヤニスティックな表現を追求したほうが、弾き手も聴き手も幸せです。例えば、例のヴァイオリン・ソロで歌う部分など「ここは、ヴァイオリンが…」などと努々思わないこと。破滅への第1歩です。

 加えて、相当高い合奏技術が求められます。手の交差や接近も頻繁。楽譜に指定された音価で弾くと、もう一方の奏者のじゃまになってしまう、という場所が数知れず。手のぶつかり合いで、わたしたちも何度言い争いになったことか! 交差と言う面では、例えば第3楽章「若い王子と若い王女」では、手が交差したまま延々と引き続ける場面も。このあたりを上手に解決しないと、演奏は終楽章に行き着く前に「難破」してしまいます。難破しても、誰も救助に来ません。もっとも、あなたが「かなりの弾き手」ならば、「ねえ、この曲やらない?」と、ナンパに使う、という手段もありますが。

 でも、人に聴かせるのでないならば、ちょっと楽しむのに良い曲ですよ。その点ではお勧めです。