アルゲリッチ様
ピヤノ協奏曲を、お弾きになられる!
わたくしどもが大変に尊敬し敬愛するピヤニストであられます、「マルタ・アルゲリッチ様」。このところ、「ピヤノ協奏曲」を積極的に録音していらっしゃいます。そこで、「複数回録音なさった協奏曲演奏」を、ちょっと取りまとめてみた次第でございます。
下記にまとめた録音は、いわゆるプライヴェート版を含まず、「一般の方が、どなたでも購入できる(あるいはできた)」CDでございます。いずれも、わたくしどもの「CD溜」から、引っぱり出したものです。
この他にも、「うっかり購入しそびれた」「購入しようとしたとき資金不足で、後から行ったらなくなってた」「出たのを知らずに購入しなかった」---等々、こちらに挙げられなかった録音が、多数存在いたします。
さらに「曲が面白くなかったので、何となく購入していない」という録音もございます。例えば3種以上の録音がある「Beethoven
Piano Concerto No2」などが、その1例。ああ、信奉者としてアルゲリッチ様の録音盤を「曲がつまらないから」などという不埒な理由で手にしないのは、神をも恐れぬ行為でございましょう。
ですから、下記が「複数録音の完全版」ではないことにご留意下さいませ。
● F.F.Chopin Piano Concerto No.1
1 | W.Rowicki | Warsow National Philharmonic | Mar/65 Live | Delta 23-028 |
2 | C.Abbado | LSO | 67 | DG 415 061-2 |
3 | A.Orizio | Gasparo da Salo | June/67 Live | Fone 91 F03 |
4 | C.Dutoit | Orchestre Symphonique de Montreal | Oct/98 | EMI 5 56798 2 |
録音(1)は、アルゲリッチ様が「ショパンコンクール」でご優勝なされた際の、本選演奏でございます。ああ、伝説の名演! 空前絶後! 情熱迸る名演は、他の同曲演奏を圧倒します。確かに録音状態はあまり良くありませぬ。聴衆の咳ごみ、何かが倒れる大きな音などが、多数混入してございます。多少のミスタッチも聞こえます。しかしながら、これを超える名演は、恐らく今後も存在し得ないでありましょう。ただし、あまりにも凄まじすぎて、気楽に聴くことができませぬ。
(2)は、とにかく録音が悪うございます。そして、管弦楽団の反応が実に鈍い。アルゲリッチさまが、浮いていらっしゃいます。あまりお勧めの録音ではございませぬ。
さて、(1)をさらに端正したのが(3)。これまで気楽に聴きながら演奏にのめり込みたい場合に聴く、この曲としては定番の演奏でございました。それをさらに上回るのが(4)でございます。ピヤノ/管弦楽/録音の、3拍子揃った、実に素敵なCDです。迫力は(1)に劣りますが、恐ろしい「色気」を感じさせます。
● F.F.Chopin Piano Concerto No.2
1 | M.Rostropovich | National Symphony Orchestra of Washington D.C. | Jan/78 | DG 419 859-2 |
2 | C.Tennstedt | NDR SO | ??? Live | GALILEO GL 8 |
3 | C.Dutoit | Orchestre Symphonique de Montreal | Oct/98 | EMI 5 56798 2 |
いずれも甲乙付けがたい名演でございます。均整の取れた演奏なら(1)、渋い管弦楽をお好みなら(2)、上品で流麗な演奏ならば(3)でありましょう。なお、テンポの揺れが一番大きいのは(2)。管弦楽に「色気」があるのは(3)でございましょう。ピヤノの解釈は、さほど大きな相違はございません。
● R.Schumann Piano Concerto
1 | S.Celibidache | Orchestre National de France | 74 Live | ARTISTS FED 012 |
2 | M.Rostropovich | National Symphony Orchestra of Washington D.C. | Jan/78 | POCG-9701 |
3 | N.Harnoncourt | Chember Orchestra of Europe | July/92 Live | TELDEC 4509-90696-2 |
(1)は、ピヤノと管弦楽がバラバラの「怪演」。最初から全然呼吸が合っておりません。とにかく「前に進もう」というアルゲリッチ様。対するチェリビダッケ氏は、のろのろと管弦楽をコントロールいたします。アルゲリッチ様も、何とかして管弦楽とうまくやろう、ととまどっていらっしゃいます。ところが、第3楽章になって、とうとう我慢ができなくなったようでございます。いきなり飛び出し、暴走をお始めになられるのです。突っ走るアルゲリッチ様、それを何とか追いかけようとするチェリビダッケ氏の管弦楽。ああ、何とスリリングな瞬間でございましょう! 聴いていて実に楽しい録音ですが、どなた様にもお勧めできるものではございません。
それに比べて(2)は、均整の取れた演奏でございます。それをさらに「精鋭化」したのが(3)。管弦楽が「若鮎」のように飛び跳ねます。それに呼応するアルゲリッチ様。ただし、あまり「あくの強さ」はございません。
● M.Ravel Piano Concerto
1 | C.Abbado | Berlin PO | 67 | DG 419 062-2 |
2 | C.Abbado | London SO | Feb/84 | DG 423 665-2 |
どちらも、似たような演奏。違いは録音の差くらいなものでございましょうか。どちらかと言えば、(1)の方が、線の細い録音でございます。もちろん、どちらも名演に違いございません。ただし前進気勢が強いため、「ミケランジェリ御大」の録音のような「強烈な色気」は、感じられませぬ。
● S.Prokovieff Piano Concerto No.3
1 | C.Abbado | Berlin PO | 67 | DG 415 062-2 |
2 | R.Chailly | Berlin PO | 83 Live | ARTISTS FED 049 |
3 | C.Dutoit | Orchestre Symphonique de Montreal | Oct/97 | EMI 5 56654 2 |
録音条件は悪いのですが、(2)が絶対のお勧めです。シャイーとアルゲリッチ様の駆け引きが、手に取るように感じられます。迫力満点、叙情も満点、色気も満点。特に第3楽章において、ピヤノ内声部の浮き立たせ方や、間合いの取り方は絶品でございます。
(3)のピヤノは、(2)とほぼ同じ解釈ながら、やや上品になった感がございます。管弦楽との対峙も、実に均整がとれております。聴き手によって、(2)と(3)の好き嫌いが分かれるところでございましょう。なお(1)は名演ながら、(2)(3)がある以上、もはや存在価値がございません。もっとも(1)も、他ピヤニストの演奏を、すべて凌駕する名演であることには変わりませぬ。
● B.Bartok Piano Conerto No.3
1 | A.Jordan | Orchestre de la Suisse Romande | ??? Live | GALILEO GL 11 |
2 | C.Dutoit | Orchestre Symphonique de Montrea | Oct/97 | EMI 5 56654 2 |
甲乙付けがたい名演でございます。ただし、テンポの揺れは(1)の方が大きい。録音の良さであれば、(2)が格段に良好です。「色気」の出方は(1)が、やや優勢でございます。
● P.I.Tchaikovsky Piano Concerto No.1
1 | C.Dutoit | Royal PO | 71 | DG 415 062-2 |
2 | K.Kondrashin | Symphonie Orchester des Bayerischen Rundfunks | Feb/80 Live | Philips 446 673-2 |
3 | K.Kord | Warsaw National Philharmonic | ???/80 Live | ARTISTS FED 012 |
4 | C.Abbado | Berlin PO | Dec/94 Live | DG 449 816-2 |
もっとも素晴らしいのは(2)。まさに「火を噴く」演奏でございます。第壱楽章を19分とちょっとで弾く、凄まじさ! アーティクレーションやダイナミクスの付け方も、(2)がもっとも激しゅうございます。ぐいぐいと前へ進むアルゲリッチ様。それを受けて管弦楽を存分に鳴らすコンドラシン氏。ああ、この演奏会場にいたならば、演奏終了後に驚喜の悲鳴を上げて失神状態になったことでありましょう。
(1)と(4)も、それは目の覚めるような演奏ですが、(2)の前には霞んでしまいます。(3)は(2)の片鱗が見られますが、管弦楽が弱いのが「難」でございます。