リゲティの作品
Gyorgy Ligeti
(b.1923)

 

 言わずと知れた現代音楽の巨匠。作風は年代ごとに少しづつ異なりますが、どの作品を聴いても、深い感動に襲われます。某事典によると「前衛音楽を推進」する方なんだそうですが、正直言って、全然「前衛」ではありません。過去の一時期には、確かにそうした作風をしていたこともありましたが。ちなみに音楽に於いて「前衛」という言葉は1980年代以降「死語」であります。「××時点における前衛」という表現はできますが、もはや「前衛音楽」などというものは存在し得ません。

 なお、このリゲティというお方、その作品が数々の映画で使用されていることでも有名ですね。最も有名な映画音楽への適用例は、「2001年宇宙の旅」で使用された「永遠の光(Lux aeterna)」です。映画を鑑賞していて、知らず知らずのうちに、リゲティ氏の作品を聴いていらっしゃる方も多いことでしょう。



☆ 5つの小品 ☆
Funf Stucke
作曲年代:1942〜1950
連弾オリジナル
演奏形態:れんだん
参照楽譜:Schott (ED 7955)
参考CD:Sony SK 62307:Irina Kataeva & Pierre-Laurent Aimard

表紙 「5つの小品」というタイトルがついていますが、各曲の作曲年代はバラバラです。後年になって、1942年から1950年までに書かれたオリジナル連弾作品を取りまとめ、この名称をつけたようです。1曲を除いて、完全な調性の範囲で書かれており、非常に親しみやすいのが特徴です。

 この作品群が、あまり知られていないのは実に残念。もっともっと、弾かれてもよい作品です。
はっきり申し上げて、この曲をご存じない方は、「大損」をされていらっしゃいます(特に連弾関係者の方)どの曲も非常に連弾曲として模範的な書法をとっており、演奏会用の小品として演奏効果は抜群です。演奏に必要な技術レヴェルは「ソナチネアルバム学習中」から「ソナタアルバム学習中」。非常に弾きやすく、後年のリゲティ氏の作品を知る人には、拍子抜けかも知れません。各曲とも、伝統的な定量記法で記述。楽譜は容易に入手可能。

 なお、書く曲ともに「おおよそ×分×秒で弾くように」との「目安」が記述してあります。以下、各曲の概略です。

【第1曲:行進曲(Marsch)】 1942年の作品。ダイナミクスと叙情性を兼ね備えた見事な行進曲。イ長調を軸とします。プリモ/セコンダともに旋律を弾く機会があります。弾いて楽しい、聴いて楽しい作品。演奏時間は2分強。

【第2曲:対位法的練習曲(Polyphone Etude)】 作曲は1943年。ウネウネした感じの曲で多調。セコンダの左手から始まりますが、カタツムリがノロノロと歩く感触です。その後、セコンダ右手、プリモ左手、プリモ右手と声部が増え、最終的には4声の対位法となります。それぞれの手が弾く音は、最後の1音を除いて、ひとつの音のみ。演奏時間は2分強。

【第3曲:3つのウエディング・ダンス(Drei Hochzeitstanze)】 この曲自体が、3曲の小品で構成されています。煌めくような躍動感を備えた第1曲と第3曲、清純な叙情が支配する第2曲。いずれも魅力的な小品です。演奏時間は順に、約30秒/1分強/約1分。作曲は1950年。

【第4曲:ソナチネ(Sonatina)】 3楽章形式の実に見事な連弾ソナチネ。明るく軽快な第1楽章(変ロ長調)、深い静寂を湛えた第2楽章(ヘ長調)、緊迫感と夕陽が輝くようなロマン性を備えた第3楽章で構成します。作曲は1950年。演奏時間は順に、1分強/2分弱/1分半弱です。

【第5曲:アレグロ(Allergo)】 非常にピヤニスティックな逸品。変ロ長調。わずか26小節で、演奏時間も40秒強。連弾演奏会のアンコールにぴったりです。作曲は1943年。