其の八:結婚式で弾く曲は?

最近、わたくしたちに「結婚式で連弾曲をやりたいのですが、お勧めはありませんか?」という問い合わせが、しばしば舞い込むようになりました。こうしたお問い合わせに答えるのは、何だかこちらまで嬉しい気分になるものです。新郎が友人と、新婦が友人と、あるいは新郎新婦で、さてまた祝福する側がペアで--と、組み合わせは様々です。


 さて、こうした問い合わせは嬉しいのですが、こちらの対応が不味くて、「是非、勧めたかったのに、うっかりリストから落としてしまった曲」や、「本来ならお勧めすべきでないのに、うっかり勧めてしまった」といった、ケースが発生し出しました。そこで、ひとつ冷静になって、「私たちからの、結婚式に於けるお勧め曲」を、あらためてリストアップしてみました。なお、楽譜は複数の出版社から出いているケースもありますが、あくまでもここでは、わたしたち自身で、出版が確認できた物にとどめておきます。また、「比較的楽譜が入手しやすい曲」に限定しておきます。そうでないと、実用的ではありませんから。以下、わたくしたちからのお勧め曲です。ここでは3分前後で演奏できる曲を集めてみました。

【1】エドワード・エルガー:愛の挨拶(Edward Elgar:Salut d'amour)

 まず、第一にお勧めするのが、この曲です。曲想から見ても、作曲の背景から見ても、これは結婚式に打ってつけでしょう。技術的にも、比較的易しい部類に入ります。先に挙げた4通りの組み合わせ、いずれにも適用できます。まあ、男性同士が組んだらちょっと異様な雰囲気にはなるかも知れませんが、それはそれでインパクトがあること請け合いです。

 プリモの左手とセコンダの右手が、しばしばぶつかりますが、これさえ注意すれば、合奏上の問題は、ほとんどありません。幸せな結婚式が演出できるでしょう。原曲はピヤノ独奏曲。ヴァイオリンとピヤノの2重奏が原曲と思われている方も多いでしょうが、それは「編曲物」です。この連弾版も独奏曲からのエルガー自身による編曲。とても良い編曲ですが、楽譜に記された強弱記号をそのまま守ると、セコンダの音にプリモがかき消されてしまう可能性があります。プリモが“がんばっちゃって”良い曲です。

 出版は英Schott。残念ながら絶版になってしまいましたので、わたしたちのWebサイトから楽譜をダウンロードできるようにいたしました。ご興味をもたれた方、「こちらのページ」から、どんどんダウンロードして下さい。
【2】パーシー・アルドリッジ・グレインジャー:カントリー・ガーデンズ
   (Percy Aldridge Grainger:Country Gardens)


 モリス・ダンス(スコットランドの古い舞曲)を原曲とする華麗な曲。原曲は「体育会系」のピヤノ独奏曲です。連弾のほかに、2台版、演奏を簡単にした独奏版、管弦楽版など、さまざまな版が存在します。

 とても明るくて陽気な舞曲です。幸せな門出を祝うには、ぴったりでしょう。両奏者の手が大きく交差する場面もあって、見栄えも抜群です。

 ただし、相当肩をつけないと弾きにくい場所があったり、大きな交差があるため、セコンダが振袖姿だと演奏に支障をきたします。この交差、セコンダ右手がプリモ左手の下から交差させるのは、至難の業であります。セコンダが留袖でも、ちょっと難しいでしょう。和服系の方は、プリモに回るのが無難です。もっとも「どんな“妨害”や“障害”があっても弾くことができる」という方がプリモでしたら、問題ないのですが。

 出版はドイツのSchott。発注する場合に「1台4手版」であることを強調しないと、2台版が到着してしまったりするので要注意です。出版番号は「ED 11198」。
【3】フランツ・リスト:祝典ポロネーズ(Franz Liszt:Festpolonase)

 この曲は、もともとイタリア王室の結婚式のために作曲したものです。まさに、結婚式向け。ところが何故か、この曲を「お勧めリスト」から漏らしてしまうのです。ごく最近も「推薦曲を」とのお問い合わせがありましたが、うっかりこの曲をリストアップしませんでした(済みません、Y.Kさん)。

 変ホ長調を基調とする勇壮な主題と、ホ長調を基調にする叙情的な主題が交錯します。特にホ長調の叙情的部分は、プリモとセコンダが、それは見事な「対話」を繰り広げます。そして最後は、荘重かつ華麗に曲を盛り上げて終わります。

 両奏者の手は、若干ぶつかりますが、大きな交差はありません。ただし、顔をくっつけるほど近づかないと弾き辛い箇所が何カ所か。余程の仲良しでなければ、あまりお勧めできません。服装に関しては、特に注意すべき点はないでしょう。

 出版はイタリアのRicordiです。出版番号は「131824」。

 以上3曲は、いずれの組み合わせでも、どんな場面で弾いても、結婚式に似合う曲です。いずれも演奏時間は2分〜3分ちょっと。式で弾くには丁度良い長さでしょう。その他にもポピュラー系で、素敵な連弾編曲がありますが、日本では入手しにくいので割愛させていただきます。


【4】アラム・ハチャトゥリアン:剣の舞 (Aram Il'ich Kachaturyan:Sabeltanz)

 ご臨席の皆様に「衝撃」を与えて、式の雰囲気を締める役割なら、この曲でしょう。作曲者自身による連弾版は、それは演奏効果が上がります。思い切り派手に弾くと、酔いが醒める方も現れるかも知れません。しかし、それは印象深い結婚式を演出できる曲と言えましょう。ただし、かなりのテクニックが必要とされる点が、唯一の問題です。振袖2人組が、この曲を演奏したら、拍手喝采請け合いです。
 出版は、ドイツのPeters。出版番号は「4740」。


【5】ジョルジュ・リゲティ:3つの結婚式舞曲 (Gyorgy Ligeti:Harom lakodalmi tanc)

 参加者の意表を突く、という点では、この曲も「剣の舞」に劣りません。多少の不協和音は響きますが、完全に調性の範囲で書かれています。これは面白い。ただし、演奏する方の「好き嫌い」が出るかも知れません。3曲全部演奏しても、3分弱です。ドイツのSchottから出版。リゲティの「Fruhe Stucke」(初期小品集:出版番号はED7955)に含まれています。

【6】フェリックス・メンデルスゾーン・バルトルディ:夜想曲と結婚行進曲
 (Felix Mendelssohn Bartholdy:Nocturne and Wedding March)


 ごくごく最近「出現」した連弾譜です。実は前からあったのかも知れませんが、カタログに復活(?)したのは、この99年11月以降。筆者自身も、2000年になって、存在を知りました。もちろん、あの「真夏の夜の夢」における結婚行進曲です。ごく最近出現したものなので、楽譜は未見。現時点(2000年1月)では、詳しいコメントができないのが残念です。出版はPeters、出版番号は「7464」です。

 以上が、どなたにでも、お勧めできる「結婚式用レパートリ」です。その他小品/大曲、これでは満足できないと仰る方、あるいはポピュラー系に関しては、別途ご相談下さい。

【番外編:弾いてはいけない?!】

 「要注意」ものの筆頭は、リヒャルト・ワーグナーの「ローエングリン:第3幕への前奏曲と結婚行進曲」でしょう。確かに豪壮華麗、演奏効果抜群の前奏曲に、壮麗かつ叙情的な、あの有名な結婚行進曲が続きます。一見、結婚式向けのようですが、お話の結末を考えると、どうもお勧めする気にはなれません。「ほうら、今はこうして、幸せだろう? だけどな、悲劇的な結末が待っているぞ」というメッセージと、受け取られない可能性も無きにしもあらず、だからです。こうした「皮肉」を込めたい方には、是非ともお勧めの曲ではあります。また、物語とは関係なく弾きたい、と仰る場合には、あえて止めません。出版は仏Drand、出版番号は「11231」です。これを弾いたが為に、対人関係が崩れても、当方は一切責任を負いません。あくまでも自己責任でどうぞ。



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