ホルストの作品 
Gustav Holst
(1874〜1934)


☆ 惑星 作品32 ☆
The Planets
作曲年代:1916
演奏形態:2台ピヤノ
原曲:管弦楽曲
編曲者:作曲者自編
参照楽譜:J. Curwen & Sons
参考CD:Richard R. Bennett & Susan Bradshaw
FACET 8002


 驚くほど見事なピヤノ曲。いくつかの「問題点」はありますが、素晴らしく演奏効果の上がる“編曲”です。この2台版は、管弦楽版をオーケストレーションする前に書いた、いわばスケッチ的存在。管弦楽のフルスコアと並べて比較すると「骸骨」みたいなものであることが、実によく把握できます。壮麗な管弦楽曲の骨格のみが、鮮やかに浮かび上がるのです。しかしながら、その「骸骨」が実に美しい! 2台ピヤノ演奏を手がけられる方、是非とも一度は弾いてみることをお勧めします。また愛好家の方、一度は聴いて、損はないでしょう。ただし、極めて“冴えた”演奏でなければ、満足できないでしょうけれど。何はともあれ、素敵なピヤノ曲です。

 では、問題点。1つは音の持続。作曲者は運指上の無理は強いていません。ところが持続に関しては滅茶苦茶。ピアノシモで「白い音符」の和音を弾いて、延々10数秒(あるいはそれ以上)「何もせず」持続させなければならない箇所が続出。どんなに工夫しても、音は途中で消えてしまいます。いかにも「管弦楽を2台ピヤノに、そのまま移しましたっ!」という感覚。もっとも、表現上は消えてしまっても、さほど支障のある音ではないのですけれど。しかしながら、そうした問題は枝葉末節。全体を通して見れば、素晴らしい2台ピヤノ曲であることは否定できません。

 もう1点は、最後の「海王星」。さすがにこの曲となると、ピヤノでRavelの「Bolero」を弾くほどではありませんが、ピヤノ曲として、かなり無理があります。

 なお、要求している演奏/合奏レベルは、全曲を通じて相当に高度。全曲を演奏会のステージに上げようとすると、かなりの負荷がかかります。ちなみに、わたくしたちは、はっきり言って万歳状態。

 さて、各曲寸評。自分たちでは手が出ないので、ちょこちょこ弾いてみた経験に加えて、R. R. Bennett氏とS. Bradshaw氏の演奏(FACET 8002)を参考にしました。第1曲「火星」は、例によって突進型。非常に華やかな編曲ですが、演奏/合奏技術に加え体力が必須です。一転して清楚な第2曲「金星」と、軽快な第3曲「水星」。ピヤノでの演奏が、これほど似合うとは予想外。豪快な第4曲「木星」。この1曲だけ取り出して、演奏会のアンコールに持ってきたら、大受け間違いなし。もっとも、この曲の持つ躍動感と重量感を全面に押し出すことができれば、ですが。渋い第5曲「土星」は、普段聴く管弦楽の演奏より、若干早めに弾いた方が“締まって”聞こえます。第6曲「天王星」は、思い切り跳ねた演奏だと聴き応えがありますよ。さて、問題は最後の「海王星」。確かにアルペジオの非常に美しい曲ですが、ただそれだけ。技術的にとても難しい割に、この曲だけ演奏効果を上げるのが難 しい。もし、全曲やるのであれば、この曲だけ落とすわけには行かないし・・・。問題児です。

 そう、問題点がもうひとつ。楽譜がやたらと高価なこと。日本国内の場合、管弦楽の大型フルスコアよりも高い! 貧者の味方・米Doverが出している大きなフルスコアは3000円ちょっとで購入できます。ところがこの2台版は、スコア形式で1冊5000円以上する。しかも、連弾曲なら最悪1冊で済むけれど、スコア形式の楽譜だったら2台ピヤノは2冊用意しなければなりません。そう言った意味では、余程2台ピヤノが好きな方、あるいは「絶対に2台ピヤノで惑星をやるんだ!」という強い決意のある方、または「お金持ち」の方以外には、なかなかお勧めできない楽譜であります。