グレィンジャーの作品
Percy Aldrige Grainger
(1882〜1961)

 

連弾と2台ピヤノのための作品がたくさんありますね。わたしたちが把握しているだけでも,30曲以上あります。多くは絶版となってしまっていたのですが,97年8月にアカデミア・ミュージック(東京都文京区)で取材したところ,分散していた版権を英Schottが可能な限りとりまとめて出版を開始したとのこと。国内でも入手しやすくなりそうです。




☆ カントリー・ガーデンズ ☆
Country Gardens
作曲年代:1918
原曲:ピヤノ独奏
演奏形態:れんだん、2台4手、その他
参照楽譜:Schott(連弾,2台版)
参考CD:「Grainger - Piano Music for Four Hands Vol.1」
SHE CD 9611
Penelope Thwaites & John Lavender

 

 英国に古くから伝わる民謡(モリス・ダンスのための曲)を主題とする、華やかで非常にピヤニスティックな名曲です。若干の渋みを含んだ夕映えのような旋律は、一度聴いたら忘れることはできません。主題となった民謡が独特の素朴性と親しみやすさを備えている上、グレインジャーのピヤノ書法が冴え渡ります。弾かなければ損、聴かなければ損、といった素晴らしい曲です。

 グレインジャーによる原曲はピヤノ独奏曲です。「原典版」とちょっと易しくした「簡易版」、もっと易しくした「超簡易版」もあります。管弦楽版も存在します。いずれも出版はSchottです。

 「連弾版」は,プリモとセコンダの手が常に接近し,きわめて大胆な交差もあります。弾く・聴く・見る,3拍子そろって楽しい曲ですが,それほど仲良しでないデュオは,やめておいたほうが無難です。

 奏者の座る位置も要注意。セコンダは中央に,プリモはかなり右よりに座らないとセコンダの邪魔になり演奏の妨げとなるばかりでなく,喧嘩のもとにもなります。喧嘩のもとと言えば,セコンダに比べてプリモが易しすぎる点も,指摘できます。難易度はセコンダの方が圧倒的に高く、見事なまでに両奏者の負担は不公平です。プリモはバイエル修了程度のレヴェルがあれば何とか弾けますが、セコンダはソナタ・アルバム修了程度。この「不公平感」を克服できなければ、弾くことはお勧めできません。またアンサンブルの面では、比較的高度なものが要求されます。両奏者の呼吸が完全に合わないと、即座に「乱雑な音楽」になってしまいます。。

 でもこの連弾版を2台に振り分けたら・・・弾く方も聴く方も,ぜんぜんおもしろくなくなってしまいます。

 ちなみにプリモの1ページ目は1段譜で記述されています。それほど見にくくありません。

 「2台4手版」は,交互に旋律を弾き,双方の負荷をほぼ同じくした版です。当然ながら,連弾版より多少音が厚くなっています。演奏効果も連弾版より華やかです。2台版には8手対応(Shott)もありますが,まだ楽譜を参照しておりません。



☆ 収穫の賛歌 ☆
Harvest Hymn
作曲年代:1932
参照楽譜:Schott
参考CD:「Grainger - Piano Music for Four Hands Vol.2」
SHE CD 9623
Penelope Thwaites & John Lavender

 

 素朴さと叙情性を兼ね備えた名曲。「祈り」にも似たゆったりとした旋律の中に、溢れんばかりの浪漫性が込められております。この曲が一般に知られていないのは、大きな損失でしょう。上記の「カントリー・ガーデンズ」で「夕映えのような渋みを含んだ旋律」と評しましたが、根底にある「美」は、この曲にも共通です。ただ、異なるのは「カントリー・ガーデンズ」を支配するのが「動」であれば、「収穫の賛歌」に一貫して流れるのは「穏やかさ」です。そして「穏やか」でありながら、大変にピヤニスティック! 聴いても弾いても、心が芯から温まる名曲です。

 これも原曲はピヤノ独奏曲。カントリー・ガーデンズと同様に,いろいろな演奏形態があります。

 曲としてはアンコールに最適ですね。音がものすごく厚くなる場所が何カ所かあり,きれいな響きを出そうとするとペダリングがけっこう鍵になります。うまくペダルを踏み変えないと、途端に音が濁ります。音が濁った途端、魅力的な旋律が厚い和音の中に埋没して、曲が持つ「美」を台無しにしてしまいます。そのあたりの工夫が難しいですね。ただし、「カントリー・ガーデンズ」と違って2人の手の接近は、あまり意識しなくても大丈夫。

 譜面は両パートともにすべて1段で書かれており,非常に読みずらいですよ。短い曲ながら、譜読みだけでかなりの負担があります。しかも,印刷があまり良くない! はっきり言って、ばっちいです。 もともとSchirmerが出版していたものを、97年にSchottが再版した楽譜です。Schirmerをそのまま写真製版したと見うけられます。





ガーシュウィン「ポーギーとベス」の主題による幻想曲
Fantasy on the Themes from George Gershwin's "Porgy & Bess "
作曲年代:1951
参照楽譜:Warner Brothers Publications
参考CD:「Grainger - Piano Music for Four Hands Vol.3」
SHE CD 9631
Penelope Thwaites & John Lavender
「An American in Parris & Porgy and Bess」
CDC 7-47044-2
Katia & Marielle Labeque

 実に壮麗な2重奏曲。個人的主観/好き嫌いはあるでしょうけれど、古今東西の2台ピヤノ用作品の中で、ベストテンに入る傑作です。ただしこの楽譜、しばしば絶版状態になるのが厄介です。そして絶版になったかと思うと、別の出版社からひょっこり出たりする。現在は米Warner Bros. Publicationから出ています。その前は米Chappellから出ていました。この楽譜を店頭で見つけたら、迷わず買いましょう。なお、楽譜はスコア形式で記述してあるため、演奏には2冊必要です。楽譜の表紙にも「Two copies required for performance」と、しっかり書いてあります。「1冊買って、コピーするなよぉ」ということですね。

 さて本題。G.Gershwinの歌劇「Porgy and Bess」(1935)から10のシーン(あるいは歌)を選択、
Grainger流の編曲技法を徹底的に駆使して1つの「幻想曲」として仕立てております。楽譜には「Arranged for two pianos/four hands by P.A.Grainger」と記述してありますが、いわゆる「arrange」の範囲を完全に超越しています。単なる2台ピヤノ用編曲(移植)の類とは全く別物。「transcript」という方が適切です。

 確かに原曲から旋律と和声は拝借しておりますが、Graingerはそれらをあくまでも素材として扱い、彼独自の音楽として完全に再構築しております。あえて再構築上の特徴を言えば、原曲の持つ「素朴感」(ある意味での泥臭さ。これはこれで大変な魅力なのですが)を徹底的に排し、いかにしてピヤノを壮麗に鳴らし演奏効果を上げるか--に注力していると指摘できます。

 Graingerが使用した原曲のシーン/歌を本曲の登場順に示すと以下の通りになります。

登場順 原曲シーン/歌
Introduction
My Man's Gone Now
It Ain't Necessarily So
Clara, Don't You Be Down-Hearted
Strawberry Call
Summertime
Oh, I Can't Sit Down
Bess, You Is My Woman Now
Oh, I Got Plenty O'Nuttin
10 Oh Lawd, I'm On My Way


 必要とする演奏技術は、両パートともL.v.Beethovenの「熱情ソナタ」と同程度。ただし「
弾くこと自体はそれほど難しくはないけれど、“弾きこなす”にはかなりの力量が必要」(妻・ゆみこ)。抜群のリズム感と切れ味、そして合奏能力が要求されます。そのまま、ただ音符通りに弾いたのでは、ちっとも面白くありません。曲の魅力を引き出そうとすると、相当の工夫が必要です。「いずれにしても、わしには、とてもではないが歯が立たんよ」(夫・かずみ)。でも、ほんの少しでも弾けるところを、ちょこっと弾いても楽しいですよ。

 なおCDは複数種類が出ております。ただし、最も魅力的なKatia & Marielle Labequeの演奏はIとIIを交互に弾いたり,楽譜を相当に「
無視」して弾いているところがあります。楽譜を見ると「ギョッ!」としますね。わたしたちは、このような楽しい演奏が好きですが、快く思わないひとたちもいるようです。

 さらにひとこと。原曲「Porgy and Bess」を「フォーク・オペラ」「ジャズ・オペラ」「ミュージカル」とする資料もありますが、これは明らかな誤り。形式としては、台詞部分をほとんど持たない、いわゆる「グランド・オペラ」です。