アンダソンの作品
Leroy Anderson
(1908〜1975)

 ハーバード大学(Harvard Univresity)出身の作曲家。橇滑り(Sleigh ride:1948)、シンコペーテッド・クロック(The syncopated clock:1945)、タイプライタ(The typewriter:1950)、ブルー・タンゴ(Blue tango:1951)など、楽しい管弦楽小品が有名です。こうした楽しい作品ばかりが表に出ていると「セミ・クラシックの作曲家」などと称して、軽視する手合いがおります。こうした方々は、実に愚かです。気の毒な人たちです。著名な小品群が、構造・管弦楽法ともに、かなり厳格な作りになっている点を、どう理解しているのでしょう? ハーバード大学の委嘱で書いた壮麗な「Harvard Fantasy」(1936)や、曲のそこここで対位法を駆使した「Irish Suite」(1947)を書いた作曲者を軽視するなど、愚者の行為そのものであります。



☆ 橇滑り ☆
Sleigh ride
作曲年代:1948
原曲:管弦楽曲
演奏形態:れんだん
参照楽譜:Waner Bros. Publcations

 実に楽しく、かつエレガントな連弾曲。管弦楽の動きを、ほぼ忠実に連弾用に編曲しており、かなり「ゴージャス」に響きます。音の省略は、ほとんどありません。トランスクリプションの要素は皆無に近いですが、弾いても聴いても、無条件で楽しめる1曲です。ただし、旋律の大半はプリモが担当、セコンダは伴奏に徹します。原曲が比較的高音部に旋律を、低音部は伴奏という単純な構造をとっており、それを素直に連弾に移したため、セコンダは「縁の下の力持ち」になってしまったのです。編曲が、ちょっと「素直すぎる」きらいもありますね。

 原曲は、主題を繰り返すたびに音が厚くなり、リズムが崩れて行きます。連弾版でも、当然それを踏襲します。最初に主題が登場する1コーラス目(13小節から:譜例1)は、プリモが左右オクターヴで旋律を弾きます。


 2コーラス目。プリモ右手の音が厚くなりだします(45小節目から:譜例2)。48小節目右手の上昇、ちょっと工夫しないと「橇滑りの滑らか感」が出ません。


 トリオを経て主題が回帰する箇所、旋律にシンコペーションがかかります(103小節目以降:譜例3)。そして、上方への進行で、プリモ右手の音が、さらに厚くなります。ここで音とリズムが重くなると「もっちゃり」してしまって、演奏から生気が失せます。


 以上プリモに着目してコメントしましたが、セコンダも同様。曲が進むに従って、音が厚くなります。で、両奏者とも、音が厚くなったからといって、「軽快感」を保たないと、聴いていてちっとも面白くなくなってしまうので要注意。また、両奏者で「縦の音」が軽快にきっちり揃わないと、即座に無様な演奏になります。

 この編曲のままでも充分に演奏効果が上がり楽しめますが、打楽器奏者を1名チャーターする、あるいは譜めくり担当者−−この楽譜は「めくり」を全然考慮していないので、譜めくりが必須です−−に鈴と鞭を持たせて、原曲と同じように鳴らしたら、演奏効果がいっそう上がります。聴衆が鈴や鞭を鳴らしても、楽しいでしょうね。

 なお、とても楽しい曲なのに、楽譜の表紙は実にそっけない。工夫もなにも、あったものではありません(左図:Copyright by Mills Music Inc. 1957)。